超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
「分かったかも」
桜楽がそう呟いたのは、夏も迫る5月半ば、月が隠れた曇りの夜。
サークルの飲み会でまさにお持ち帰りされかけていた彼女を連れ帰っていた時のことだった。
「だから言ったでしょ……女の人だろうが油断しちゃ駄目だって」
「……あ、うん、ごめん」
「それで、何が分かったの? 自分の魅力?」
「月の、場所」
「……、……は?」
私は思わず聞き返す。
当然だ。
だってそれは、月攻略の最後のピースなのだから。
「すいません立川駅まで!」
私は慌ててタクシーを拾い、考え事で反応の遅れる桜楽を後部座席に押し込めるようにして車内に乗り込む。
「詳しく、簡潔に、マシン語抜きで」
「月、入口、ツクヨミのバックアップサーバー」
「……マジで?」
「ツクヨミだけど、ツクヨミじゃない場所。月人はどうしても移動に現実を挟めなくて、あの日信号はツクヨミから出る前に消えてるから……ほら」
そう言ってツクヨミのバックアップサーバーから2年前のログを引っ張り出してくる桜楽。
パラメーターが棒グラフで不規則なジグザグを描く中、一瞬だけ不自然に平坦な区間が挟まっている。
間違えもしなければ忘れるはずもない、かぐやの連れて行かれた時間のものだった。
「月には何の変化もない、1秒前も1秒後も、昨日も明日も変わらない……そりゃ常時変わるような痕跡誤魔化すのは下手なわけか……」
「そういうこと。今ヤチヨに送ったから、今頃あのサーバールームフル稼働させてるんじゃないかな。帰る頃には結果出てると思う」
もう十中八九そうだろうけど、ヤチヨがそれを確認さえしてくれれば、このかぐや姫奪還作戦は最終フェーズに突入する。
それすなわちツクヨミ史上初の全プレイヤー参加型のレイドバトル、そしてかぐやの復活ライブである。
「……ありがと、桜楽」
「こっからが本番、でしょ?」
そう、桜楽は笑った。
▽
「ビンゴビンゴビンゴーー!!!!」
ドアを開けるなり、響いてきたのはそんなけたたましいヤチヨの声だった。
「どうしたの?」と最近ショートボブにした結果男女問わずにますますモテモテになった芦花がそれにつられてひょいとキッチンから顔を出し、続けて私達にも気がつく。
大学進学を機に正式に同居し始めた彼女は今やファン数250万人を抱える超大物インフルエンサー、顔よし頭脳よしネットよし──って、今はそんなこと考えてる場合じゃなくて、
「ヤチヨ、どうだった!?」
「大当たりも大当たり!! 管理者権限で逆探知も完璧で入口発見、内部は分かんないけど後はファイアウォール的なの破れたら入れちゃう!!」
「これ……言語が違うだけでめちゃくちゃシンプルなやつだ。やっぱ攻撃は想定してないかな、今まで用意したので十分突破できる」
この2年間色々なことがあったけれど、それでも私達は牙を研いできた。
桜楽はヤチヨの手ほどきもあってネイティブさながらに月のマシン語を扱えるようになり、あれ以降も拡張を続けたツクヨミの三割ほどを管理するようになった。ついでにRANSE初の世界大会を荒らした。
私はヤチヨが歌う用のカバーやアレンジをしつつ、かぐやを迎えに行くための曲を創り上げた。
芦花はインフルエンサーとしての活動の傍らでKASSENの腕を上げ、ソロ大会じゃ安定して入賞、とうとう念願の初優勝も果たすほどの強豪プレイヤーへと成長した。
真実はこの前両家顔合わせを完遂し、いよいよ将来が既定路線に。
ブラックオニキスは今が脂の乗り切った全盛期、前人未到の公式大会5連覇を成し遂げ、もう為すべきことはないと引退まで囁かれるほど。
……いや、1人別路線だったな。
ともかく、月までかぐやを迎えに行くことを決めた2年前の9月から、私達はここまで辿り着いた。
ヤチヨとの8000年は3日で埋めたんだ、月との格差が何万年あろうと私達なら絶対に埋められる。
「芦花、今度のコラボイベントだけど……」
「うん、そこで告知しよう。彩葉と桜楽もそれでいい?」
「異議なし」
「もちろん」
こうして5月23日、日付が変わった瞬間。
「みんな、今日はありがと〜!!」
「ヤッチョもすっごい楽しかったよ!! それと、ここで運営から大事な──
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あの日と同じ、あらゆる画面を埋め尽くす一つの日付。
今回はイレギュラーじゃない、私達からの宣戦布告。
最後に映し出したのは一つのカウントダウン、そして秘匿されたメッセージ。
……勝負だ、月。