超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
思い出した。
全部思い出した。
歌が聞こえた。
2人の声が聞こえた。
あの日の、続きが。
どこから?
2人はそこにいるの?
窓の外、遠く浮かぶ地球。
綺麗で、遠くて、もう届かない場所。
「月と地球との接続を切る」
それが月に戻った私に与えられた、最初の仕事だった。
駄目だなぁ、私。
結局、つまらないことから逃げて、もっとつまらないことになって。
でも、そんなつまらないラストでも、2人が歌ってくれた。
私のために声を届けてくれた。
それだけで、少しだけ救われる気がした。
そっか。
こうやって、つまらないことの中に少しだけ良いことを探していけば良いんだ。
終わりがない、変わらない日々にそんなものがいくつあるかは分からないけど、それでも、良いことはきっとあるだろうから。
──そう、思っていた。
思って、しまっていた。
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「ウソ、これ……!?」
けれど、現実はそうじゃなかった。
そんな諦めを、許してはくれなかった。
まるであの日の意趣返しのように月のモニターというモニターを埋め尽くす日付、メッセージ、カウントダウン。
それは紛れもない、ツクヨミから月への宣戦布告。
自分の目を疑った。
そりゃそうだ、月と地球じゃテクノロジーの桁が違う。
でも、それ以上にみんなを信じた。
ヤチヨなら、桜楽なら、彩葉なら。
もしかしたら、本当に月に手が届くかも。
ううん、月がジャックされたっていうことは、もう──
「……彩葉達、来てくれる……?」
「わんわんっ!」
抱き締めた犬DOGEがいつになく大きな声で鳴いた。
月の時間の流れは地球とは違う。
薄くて、浅くて、あっという間に過ぎていく。
期限まで
それは月が何かを選ぶにはあまりにも短い時間で、宣戦布告はファーストコンタクトとしてはあまりにも感情的で。
月の存在は「混乱」のやり方も分からない。
それをする必要が一度もなかったから。
それでも決してありふれた日常の延長線上ではあり得ない異常事態に、あっちもこっちもざわめき立つ。
そんな中、誰かが私の24時間バリバリ社畜用オフィス兼反省部屋の扉を開けた。
「かぐやちゃん……? 大丈夫、ですか……?」
「……あ、姫」
そこにはすごく不安そうな顔をした姫が立っていた。
月で唯一の、そして地球に行く前に出来た、私の生まれて初めての友達。
死にそうな退屈も、つまんない毎日の愚痴も、嫌な顔せず聞いてくれた、そんな友達だった。
「……こ、これ……かぐやちゃんのいた、地球からの、ですよね……?」
「うん、そうだと思う」
「じゃあ……また、月からいなくなっちゃうんですか……?」
「……ごめんね。でも大丈夫! きっとまた会えるから!」
私の答えに、彼女は静かに目を瞑る。
「そう、ですよね」と頷いた彼女は数秒の間をおいて、何か決意したように駆け出した。
それを尋ねる暇はなかった。
「またね、姫」
小さく呟いて、私は再び机に向かう。
引き継ぎ……じゃなくて、リモートワークの準備。
つまらないことから逃げちゃ駄目なら、つまらないことも楽しいこともまとめてやっちゃえばいい。
これが、わがままで欲張りなかぐや姫の出せる、精一杯の結論だった。
▽
一段落して顔を上げると、カウントダウンは間もなくだった。
外へ出ると一周回って吹っ切れでもしたのか、みんないつもの決められた仕事をいつものようにこなしている。
よくも悪くも……いや、悪くも悪くも月らしい。
近くのジャックされたモニターを見ると、カウントダウンは残り15分。
でも月のド真ん中のメインオフィス、さらにそのド真ん中の反省部屋からじゃ考えなしの脱出は無理ゲーもいいところ。
私はもう一回辺りを見回し、見つけた物見櫓を駆け上った。
「わん……?」
「そろそろだね、犬DOGE。でも、どこから──」
そう呟いた瞬間、ドッカーン!と月の都が面した広い海が爆発し、巨大な鳥居が現れて、海面を無数の灯籠が漂い始める。
そして現れたのは傘を差した人影、その隣にはそれぞれ翼とモフい尻尾のシルエット。
そうだ。
そうだ!
絶対そうだ!!
「ヤチヨ!! 桜楽!! 彩葉!!」
「わんわんっ、わんわんわんっ!!」
『あー、あー、テステス。月のみんなも聞こえてるかな? ヤオヨロ〜☆ 仮想空間「ツクヨミ」管理人、月出身の月見ヤチヨで〜す!』
ヤチヨは傘を閉じるといつもと変わらない適当なノリで、ジャックした回線を使って月のあちこちへ呼びかけた。
月の兵士達や七福神なんかの戦闘要員が彼女を止めるべく海岸へと向かうが、それは海流を模した壁で無理矢理止められる。
『こらこら〜、まだ始まってないよ〜。まあ、そんなに始めたいんだったら──』
ヤチヨの合図で、桜楽がプログラムを奔らせる。
あの時とは比べ物にならないくらい綺麗で、効率的で、そんでぶっ飛んだコードがデータそのものな月の世界を呑み込んでいく。
彩葉がキーボードに指を添える。
聞き慣れた旋律、あの時はお別れの歌で、今はまた会うための歌が無音だった月を満たす。
ヤチヨが指揮棒のように指を揺らす。
月の権限が一部奪われ、アクセスを許可された一億人のツクヨミユーザーが月の各地へ雪崩込む。
『──かぐやは、返してもらうね』
ツクヨミ対月。
正真正銘の最終決戦。
その火蓋が、切って落とされた。