超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
──今は昔……ではなくて。
「あ、あの! 洗濯機、こっちで回しておきました……!」
「え、私教えたっけ?」
「いえ、その……皆さんのログ見て……ご迷惑、でしたか?」
「ううん全然! 天才!」
──今とあんまり変わらない、少しだけ未来の世界……の、さらに少し先の世界。
「……はあ!? 新しいトーテムポールって……もう置き場ないんだけど!?」
「いいじゃんそこをなんとかぁ〜!」
「んぬぅ……分かった、考えとくから! 電話出させて!」
──賑やかに暮らす普通の女子研究員2人と新米社長1人、それと3体の電子生命体ありけり。
「ね〜え〜? また私のPCにブラクラ仕込んだ〜?」
「あっバレた」
「あっ逃げないで!!」
──名をば、綾紬芦花、綾紬なよ、酒寄彩葉、月見かぐや、花栄桜楽、そして月見ヤチヨとなむいいける。
──……まあ、好きに呼ぶべし♪
「ヤチヨ、正座」
「そ、その……セイザ?ってやつ、ヤッチョおばあちゃんだから分かんないかも〜……?」
「正座」
「ひゃい」
──それでヤッチョはこう言ったの。
「……桜楽、またおっきくなった?」
▽
2037年、7月12日。
あの日、ネットでは「竹取大決戦」なんてちゃちなあだ名がついてたりついてなかったりする、かぐや奪還からの復活ライブという一夜からもう5年の月日が流れていた。
芦花が「かぐや」の月時代の唯一の友達だった、姫ことなよちゃんを連れて帰ってきたり、その流れでもと光る竹も回収してきたり、桜楽が私より月語上手くなってて、交渉の結果ツクヨミに謎のNPCが大量に増えたりと色々あったけれど……取り敢えずは万事解決、まさにパーペキといったところ。
そしてかぐや復活ライブの余韻も引いた2032年11月、すっかり家電に入り込んで遊ぶのにも慣れて作業中の2人にちょっかいかけてたところ、とんでもないビッグニュースがもたらされた。
……あ、ちなみに芦花はスマホの中のなよちゃんを連れて近所の公園に遊びに行ってたタイミング。
彼女はもうすっかりママの顔している。
「いや〜、これでパンケーキ食べれたらかぐや最高なんだけどな〜」
「あれ、味覚実装は発表したじゃん。来年中には行けそうなんでしょ?」
「多分ね〜。……っていうか、月と合併してから桜楽おかしいんだけど。実は月人だったりする……? ヤッチョ怖い……」
「脈も体温も全部とってるのに? 着替えもこっそり撮ってるのに信じてくれないの?」
「待ってヤチヨ、盗撮?」
「あっやべ」
「かぐやまさかあんたも!?」
「ヨヨヨ〜、実はヤッチョ、かぐやに脅されてましてぇ……」
「違う共犯! 2人いっつもお風呂場にスマホほっとくからカメラ使えば余裕で撮れるってヤチヨが!」
「ヤチヨ、申し開きくらいなら聞いてもいいよ」
「……そのぉ……ほら、ヤッチョ達お風呂とか入れないわけでして……身体がないんだからそれくらいのラッキースケベくらいなら許されて然るべきじゃないかなぁ〜、なんて……」
「それでも駄目。身体の方は……後5年は待って」
「……、……待って彩葉、今なんて言ったの?」
「だから、5年待ってって。それくらいあれば作れそうだから」
「……え、……え? え、マジで? 桜楽もそういう見解?」
「うん。もと光る竹から良いデータも取れたし、月の技術はあんま参考にならなかったけど……インスピレーションはもらえたし。かぐやに、ヤチヨに、なよちゃんの分も合わせても、お金さえどうにかなれば、卒業までには」
「てかさ、修士でも良さそうじゃない?」
「確かに。博士卒業するよりも、辞めて研究所作る?」
ねえ、おかしいんじゃないかな。
超かぐや姫の超の部分すぎるし、スーパーフォルテッシモすぎない? この2人。
いや、なんとなく「身体作るために頑張ってくれてるのかな〜」なんて思ってはいたけれど、想像の倍早い。
10年後くらいにアラサー葉桜が完成させるパターンじゃないのこれ?
……なんてヤッチョは処理落ちしかけたのを覚えてる。
後から聞いた話だけど、なよちゃんの分は提案する前に芦花の方から「お金なら用意するからお願い!!」って頼み込んできたらしい。
そんな彼女も2年前に東大経済学部を卒業し、バーチャルな私の代わりに、今更ながらちゃんと作ったツクヨミ改めアマテラスの管理会社の社長としてバリバリやっているところ。
やっぱりちゃんとした交渉とかは現実の人間に任せるのが一番だと、ヤッチョは思うのです。
ま、稼ぎの大半がボディ開発に費やされてるから労力の割にはお給料は少ないんですけどね。
ごめんね芦花……
「あれ、また昔のこと思い出してるの?」
「ううん、そんな昔じゃないよ。かぐやが帰ってきた頃の話〜」
「もう5年前だよ。昔のこと。何もかものスピードが早いのがこの時代なんだから」
「うわ懐かし〜。それこそ7年前だぞ☆」
株式会社竹取研究所、起動実験の待機室。
ディスプレイの中の私を、24歳の桜楽が覗き込む。
今までもそうだったのに、私はいつにないほど強く「画面越し」であることを意識していた。
少し幼い顔立ちだった彩葉がこの数年で大人びたのとは対称的に、最初から少し大人びた雰囲気だった桜楽はかえって少し幼く見える。
身体の成長もそろそろ止まり……あ、これは慎重とかではなく、どっちかというとファンアート目線に近い感じの成長の話で……駄目だなぁ、私。
こんな時にまで品がなさすぎる。
パラメータを眺めながら「緊張してるね」と桜楽は笑った。
刻一刻と、画面の端のカウントダウンが進んでいた。
「2人ともちゃんと話せた? 言いたいこと、残してない?」
「ちゃんと話したよ。い〜っぱい話した。知ってる? 芦花、なよちゃんを小学校に行かせたいんだって〜。いや〜、月じゃずっと同い年って感じだったのにな〜」
「じゃあ通ってみる? 得られるものはあるんじゃないかな」
「……待って桜楽、今ヤッチョのこと小学生以下って言った?」
「……まあ、学歴的にはね」
「ヨヨヨ〜、前世から見守っていた女の子が学歴厨になってしまったのです〜」
「もう女の子って年でもないよ、私。それに……肉体的には、同い年になるんだから」
カウントダウンが、残り一分を切った。
「そろそろ行かないと」と桜楽は椅子から立ち上がる。
「じゃ、こっちで会おうね」
「うん。またね、桜楽」
「うん、またね」
少し残った時間で、ほんの少しだけ、電子の世界を名残惜しく思う気持ちと折り合いをつける。
住めば都、どんな場所にも郷愁というものは生まれるもので、それは悪いことじゃないって受け止めた上で、それを持って、次に行く。
どんな場所でも、住まないと都にはならないんだから。
うげー、なよ、もう行っちゃったんだけど。あいつ踏ん切り早くね?
なよちゃんはまだ、「身体」を知らないから。というか、かぐやこそ真っ先に飛び出すものだと思ってたけど。
いやさぁ、そうしたいのは山々なんだけど。でもテンション上がりすぎてミスったら怖いじゃん? 嬉ションとかしたらヤバくない? ほら、彩葉が買ってた本みたいな。
「えっヤッチョそれ知らないんだけど!? かぐや隠してた!?」
「あそっか。ヤチヨには言ってないや。ま、そっちだって桜楽のやつ隠してるじゃん? お互い様ってことで!」
「っ……!! ……桜楽、桜楽は自分のやつ買ってる。さくD受けのやつ。甘いのも鬼畜もあるから桜楽ドMっぽい。ほら、言ったからそっちのも教えて!!」
「んー、ま、仕方ない。彩葉はねー、純愛大好きだよ。基本あまあま、愛され総受け、学パロもあったかな。あっ、勝ちヒロインは大体かぐやだよ!!」
「これだからいろかぐは!! ……いやいや、落ち着きなさいな月見ヤチヨ。R-18件数はいろヤチ、さらにはヤチさくの圧勝。世間の支持はもう決まりなんですわぁ」
「あっYachi! Yachi8000の方出しやがって!! 大体桜楽絡めばR-18増えるじゃん!!」
「知りません〜! ヤッチョの大人びたSexyさを市場は求めてるんです〜!」
「そのSexyさが桜楽由来じゃん!! ってかかぐさくカウントしてないのズルいし!!」
「かぐやはおこちゃまだからな〜」
「くっそぉ……!!」
勝利宣言をキメようとしたところで、私は気がついた。
身体が重い。
それも健康的に重いのだ。
というかなんだこれ、喉が震えてる。
てか寒いかも。
お腹も減ってる。
あれ、いつの間にか空腹モード実装したんだっけ。
ずっと後回しにしてたんだけど。
というか、どこだろここ。
第弐話 見知らぬ、天井。
天井と同じくらいベッドの感触も知らない。
てかベッドってもっと硬かったような……いやこれせんべい布団か、彩葉の。
じゃあこれ何?
「……あのさ、かぐや」
「……うん、もしかしてさ、ヤチヨ」
私達は恐る恐る、もう色んな意味で恐る恐る身体を起こした。
「……っ、……あんた達……」
「……実験は成功、みたいだね。……それ以外は、知らない。知らないから……」
「あ、あのっ! 芦花さん、見えないしよく聞こえないんですが……!!」
「うんうん、聞こえなくていいからね〜」
随分とクリアに見える3人と、先に目を覚ましていたなよちゃんの表情。
凄い。
特に嬉しさとブチギレが混ざった彩葉の顔、めちゃくちゃ赤面して俯いてる桜楽の顔なんてメチャクチャ鮮明に見える。
そっか、帰ってきたんだ。
ううん、あるいは、『月見ヤチヨ』としては、初めての景色。
これが、『現実』なんだ。
ほんのりと熱を纏う、柔らかくて細い肉が、思ったとおりに動く。
随分久々の重力というものを過度に恐れながら、私はゆっくり、生まれたての子鹿みたいにベッドを下りた。
「……か、かぐや……手、貸してくれない……?」
「ヨボヨボで草」
「かぐや煽らないの」
やっぱいくら物理演算頑張ったとはいえ、現実と仮想空間があまりにも勝手が違う。
せいぜい数年のブランクのかぐやがぴょんぴょんと飛び跳ねる中、桜楽がゆっくりと私の手を握った。
「どう? 今度はあったかいかな? 私の手」
「……、……うん、……うん……!!」
「……あえて、こう言うね。「はじめまして、ヤチヨ」」
「……「はじめまして」……!!」
こうしてこの日、綾紬なよ、月見かぐや、そして月見ヤチヨという『人間』が生まれたのでした。
▽
そして、それから数カ月後のちょっとしたおまけみたいな話。
ようやく慣れてきた人間の身体で、頑張っておしゃれして。
なんてったって、この身体での初めてのお出かけ。
「おじいちゃんが会いたがっててさ。ヤチヨさえよければどう?」
しかもよりによって桜楽の親戚。
これはもう実質両家顔合わせみたいなもの。
だって月見家は私とかぐやだけだし。
実質というかもはや本質両家顔合わせだ。
「駅前集合ってことは……電車?」
「ううん、タクシーだって」
「わざわざ?」
「おじいちゃんちょっと変わってるから。そこが好きなんだけどね」
「でも、会うの久々だな〜」と髪を耳にかける桜楽。
ヤッチョ(人間の方)が短くしたのもあって、結構しっかり逆転している程度には長くて綺麗な、結構白っぽくなった銀髪。
もうこれ以上は色落ちしないかな、なんて考えていると、私達の前でタクシーが止まった。
「ぁ……」
桜楽が小さく、何かに気付いたように呟くと同時に、降りてくる老紳士と目が合った。
見慣れた、というよりは、忘れようもない黒縁メガネ越しの優しい瞳。
すっかり色の抜けた金髪はオールバックになっていて、けれども仕立てのいいスーツも、彼自身も全く色褪せてはいない。
その顔には深い皺が刻まれていたが、それでも彼は歯を見せ、伊達男のようにウインクしながら、
「良いワインを持ってきたんだ。……もちろん、君ほどではないけどね」
癖のある、爽やかな笑顔を向けた。
「久しぶり、僕のもっとも小さい友人」