超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!!   作:あるふぁせんとーり

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主人公のスペックが彩葉の後追いなのは、すごく重要な意味があります


第六帖 私と彩葉、あとかぐや

「「……痛っ」」

 

 

 もうここ最近のルーティーンと化してきた、朝イチでの現実かどうかの確認。

 

 残念ながら痛みは引き続きで、否応なくここが現実だと思い知らせてくる。

 

 

「あ、起きた〜?」

 

 

 ヤチヨの朝配信が響く中数日ぶりの登校準備をしているとふとトイレのドアが開いて、隠れていたつもりだったのか、姿を現すかぐや。

 

 私は蓋の閉まった便座の上で手を降る彼女に「おはよう」と挨拶を返し、特製パンケーキを焼いている彩葉の髪を梳かしていた。

 

 

「ところでさー、2人ともいっつもこの人見てるよね。誰?」

 

 

 トイレから出てきたかぐやはタブレット片手にとてとてと、キッチンの私達の方へ歩いてくる。

 

 というか、昨日よりもデカい……彩葉の背、抜いた?

 

 そんなことを考えつつ、一通り彩葉の髪を結い終え、パンケーキ焼き係と髪梳かし係を交代しながら私は答えた。

 

 

「「月見(るなみ) ヤチヨ」、っていうAIライバー。私と彩葉の推しで、「ツクヨミ」って仮想空間の管理人もやってる。歌えるし踊れるし分身だって出来ちゃうし、おまけに自称八千歳。割とマジで、私達のメンタル、ヤチヨに支えられてるし」

 

「ゔぇへ〜、おもろ〜! ねね、私もこういうのやりたいな〜!」

 

「うーん、どうだろ。頑張れば出来るかも?」

 

 

 そして私がパンケーキを焼き終えたのと、彩葉がアッシュグレーを梳かし終わったのがほぼ同時。

 

 焼き上げたパンケーキをまとめて積み上げ、私は通学用のナップサックを背負い上げた。

 

 

「んじゃ、いってきます」

 

「いってきまーす。お留守番よろしく」

 

「……え、私置いてかれるの!? なんでなんで!?」

 

 

 部屋を出ようとした瞬間、大慌てで駆け寄ってくるかぐや。

 

 右手に私の、左手に彩葉の手をがっちりホールドし、彼女は涙目で訴えかけてくる。

 

 

「一緒いて! 本当は2人がいいけど……片方でも我慢するから! 1人はいやあ〜!!」

 

 

 わ、もう譲歩を覚えてる……じゃなくて。

 

 

「いいじゃんいいじゃん! 昨日も一緒にいたんだし、今日だって変わんないって!」

 

「それは……昨日までは三連休だったから」

 

「うち進学校なの。1日休んだら取り返すのに3日かかるし、2日も休めばあっという間に置いてかれる。今すぐ出てけとは言わないけど、家から出ないこと。大人しく月に帰る方法でも考えてて」

 

「うえ〜……」

 

「お昼はそこのパンケーキ、適当に食べてて」

 

 

 そう彩葉が指差すのは、先程焼き上げたパンケーキ……のような何か。

 

 簡単に言えば小麦粉を水で溶いて、それを水で薄めてさっと焼いたやつ。

 

 腹持ちは良いし結構安いし、慣れると割と便利だったりする。

 

 まあ肝心の味は──

 

 

「んぐっ……うぐぐっ……」

 

「どう?」

 

「……ぅぇ、クッソマズいんだけど……?」

 

「まあ、慣れるまではね」

 

「てか学校ってそんなに大事なわけ? こんなに美味しくないもの食べさせられて、置いてかれないといけないくらい大事なの?」

 

「大事。私達これから1年もすれば受験だってあるんだから。あんたにやりたいことがあるみたいに、こっちだってそういうのがあんの。それじゃ、もう行くから」

 

「ごめんね」

 

 

 そして半ば突き放すように、私達は部屋を出る。

 

 ぶーたれるかぐやの声が、扉越しに聞こえた気がした。

 

 

 

 

「おお、やっぱり花栄もその路線か」

 

「まあ、そんな感じです。追いかけられるところまで、彩葉を追いかけたいし」

 

「大丈夫、花栄なら充分現実的な選択肢だよ。……そうだな、正直こっちとしても助かってる部分がある。酒寄に張り合えるのは今じゃ花栄くらいだ。やっぱり、ライバルがいる方が伸びるっていうのは勉強においても間違いないし」

 

「万年2位、ですけどね」

 

「でもそれに腐るでもなく胡座をかくでもなく、ちゃんと努力を続けてる。その点において偉さを比べられるもんじゃないよ。2人とも立派さ」

 

 

 担任の立花先生はすごく優しい。

 

 パッと見は全然若いんだけど、豊富な人生経験から一人一人の良さをちゃんと見極めて、その上で直すべき点、参考にすべきアドバイスをくれる。

 

 授業も分かりやすいし、この学校でも1,2を争うくらい評判の人だ。

 

 

「本当なら、誰かの後をなぞるだけっていうのはすごく危険なんだが……花栄はすごく楽しそうだな。アパートも隣なんだろう? 最近の調子はどうだ」

 

「おかげさまで。プログラミングも結構上がってきて、彩葉ともご飯行ったり、最近はちょこっとだけ贅沢も出来そうな感じです。……あ、たまには、ですけど」

 

「そうか、それはいいじゃないか。もし困ったらすぐに相談するんだぞ。力になれることもあるかもしれないからな」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 「それじゃ、失礼します」と進路相談を終え、外で待っていた彩葉と合流する。

 

 しかし彼女からナップサックを受け取ったところで、背中にどっと衝撃が。

 

 振り向くと、今日もバッチリメイクの決まった芦花が「よっ」と手を上げ、相変わらずふわふわな真実がその背後からひょっこり姿を現した。

 

 

「2人ともお疲れ〜」

 

「エリート2人の進路、聞かせてもらおうじゃん?」

 

「わっ、ちょっ」

 

「キツいキツい!」

 

 

 まるで押しくら饅頭でもするかのように私達を左右から挟み込む2人。

 

 流石の彩葉も、この2人がいる時ばかりは普段に比べて感情5割マシ、だいぶ表情が豊かになる。

 

 というか、もしかしたら私もそうなのかも。

 

 

「連休どうだった? ちゃんと休めた?」

 

「……どうだろ」

 

「彩葉は?」

 

「……黙秘権を、行使します……」

 

「死ぬよ? マジで」

 

 

 こうしていつものように4人揃って帰り道に。

 

 夏休みも迫る昼下がりの風は心地よく、差し込む光は勢い良く身体を温める。

 

 その暑さに、私はノートでぱたぱたと首元を仰いでいた。

 

 

「で、早速だけど……」

 

「ふふふ、お揃いのパンフレットをお持ちですねぇ」

 

 

 いつの間にか手元から抜き取られていたそれには堂々と「東京大学」の4文字。

 

 「やっぱトップ層は違いますわー」とページを捲る真実と、それを覗き込む芦花。

 

 

「ま、うちの親、東大でも行かないと認めてくれないだろうしねー」

 

「マジ? 超厳しー。教育ママLv.99じゃん」

 

「てか、桜楽もよくこんなバケモン追っかけるよねー」

 

「私は、その……彩葉と頑張るの、楽しいから……」

 

「うひゃあ、純愛だぁ」

 

「これが強者の世界……」

 

「そんなんじゃないよ。やれることをやってるだけ」

 

「てかさ、2人とも進学一択なんだ?」

 

「それ思ったー。桜楽はプログラミングでも行けそうだし、彩葉はeスポーツとかもあるっしょ?」

 

「どの業界にも上には上がいるから、私なんて学校ですら1位になれないのに」

 

「……あ、じゃあ音楽は? 彩葉めちゃくちゃピアノ上手いし、桜楽もギター弾けるって聞いたし!」

 

「え、どこからそれを……!?」

 

「ネットに落ちてた〜」

 

「いやいや、あんなのまだアマチュアにすら──」

 

 

 戯れのような会話をしつつ、僅かに普段の通学路を逸れた道を進む。

 

 背後に何か覚えがあるような気配を感じたり感じなかったりするが、芦花と真実にかかれば振り向く暇すら与えられない。

 

 そうしてどんどん目的地へと近づいているらしい雰囲気の中、ようやく私は彼女達の目的を悟り、そっと彩葉へ耳打ちした。

 

 

「彩葉、お金大丈夫?」

 

「へ、いや大丈夫じゃないよ。この三連休でいくら使ったと──」

 

 

 そう言いかけて何かを悟ったのか、あるいは徐々に高級感を増していく街並みに焦り始めたのか、僅かに彩葉の目が揺らぎ、口があわあわと輪郭を曖昧にする。

 

 

「……えっとぉ、そのぉ……お二方、今日の目的地って……?」

 

「えー、この前約束したじゃん。新しいカフェだって」

 

「そーそー、パンケーキが評判なんですよー」

 

「いや、その、今日はヤバいっていうか、連休のせいでやばくなったというか……」

 

「言い訳無用! れっちごー!」

 

「てか桜楽は!? 桜楽は大丈夫なの!?」

 

「私は積み立ててたし、今日用に」

 

「出し抜かれたぁ〜……」

 

 

 

 

「え、好きなの頼んでいいの……?」

 

「マジ……で?」

 

 

 耳を疑うような、あらゆる意味で甘い提案に1割くらい疑いつつ、残りの9割の集中力を費やして眺めるメニュー表。

 

 パラパラと捲る手が止まらないし、キッチンから漂う甘い匂いも堪らない。

 

 

「いろさくテストありがとうきねーん」

 

「どーぞお好きなものをお選び下さーい」

 

「どうする? どうする彩葉?」

 

「そ、そりゃ、こんなところで遠慮するのは逆に失礼だし……」

 

 

 そうして逡巡の末に彩葉はクリームといちごのたっぷり乗った三段重ねのふわふわパンケーキを選び、私はマンゴーとカスタードをこれでもかと詰め込んだカステラ風でかでかパンケーキ。

 

 店員さんに伝える時はテンションも爆上がり、声が裏返らないように必死にしながら注文したのを覚えてる。

 

 それから数分後、シックなお皿に盛られた宝石の山は無事にテーブルに到着した。

 

 

「それではこちらー」

 

「お礼の品で〜す」

 

「「ご査収くださ〜い」」

 

 

 「い、いいんだよね……?」「そ、そうじゃないかな……?」と顔を見合わせアイコンタクトする私と彩葉。

 

 そうして意を決し、フォークを突き刺そうとした、まさにその瞬間だった。

 

 

「いただきま──」

 

「──いただきっ」

 

 

 視界を横断する銀色の三叉。

 

 突き出されたそれは熟練漁師の銛のように的確に彩葉のパンケーキの二段目を捉え、これまた一瞬の隙を突いて引っ込められる。

 

 その動作の主は驚くほど白い左手、さらに言えばその手の持ち主。

 

 私は漠然と、切り分けた一切れを口に運びながらその景色を目の当たりにしていた。

 

 

「んむっ、もぐもぐ……、……うっま、うんんっっまああああああっっっっ!!!!」

 

 

 二段目を一口で消し飛ばした犯人は今にも天に上りそうな心地で頬を抑え、その両目を星屑のごとく煌めかせる。

 

 その笑顔はまさしく一番星、おとぎ話のヒロインと比べても遜色ないレベル……どころかそれさえ越しているかもしれない。

 

 もちろん、これは第三者目線だからこんなことをほざけるわけで、利害関係の存在する彼女にとっては──

 

 

「は、は、はあああ───っ!!?」

 

「いきなりすごい顔だね、彩葉!」

 

「えー、何この美少女。彩葉達の知り合い?」

 

「てかこれ桜楽の服じゃん。ブカブカだ〜」

 

「桜楽デカいもんね〜、色々」

 

 

 なんだこの……適応能力。

 

 親友2人の才能に驚愕しつつ、私はもう一度彩葉と目を合わせる。

 

 数秒のやり取りの後、私達はパンケーキを頬張りながらひどく頭を抱えた。

 

 

「パンケーキ好きなの? これも食べる?」

 

「食べる食べる!」

 

 

 芦花にチョコパンケーキを差し出された彼女はそれを口に運ぶと「彩葉達のと全然違う! 甘くて美味しい!」と目を輝かせる。

 

 そして何口かパンケーキを頬張ってようやく現実を受け入れた私は、一呼吸置いてから口を開いた。

 

 

「えっと、その子……彩葉の親戚の子、なんだよね。出張とかなんかで、預かることになったみたいで……」

 

「そ、そう! 世間知らずだから困っちゃってて〜!」

 

「私、月から来たんだよ!」

 

「え、月?」

 

「月って、あの……」

 

「つーきーじ! 築地から来たの!」

 

「わー、築地のお寿司美味しいよね〜」

 

 

 よし、まずは立川一のグルメガールこと真実は突破。

 

 立川一の美容ガールこと芦花は──

 

 

「えー、かわい。今度お洋服とか買ってあげるよ」

 

 

 よかった、こっちも一旦セーフ。

 

 あとの問題は──

 

 

「お名前、何て言うの?」

 

「かぐや。かぐやちゃんっていうの、その子」

 

 

 彩葉が口を開く前に、私は言った。

 

 

「かぐや……かぐや……!!」

 

「えー、それもうかぐや姫じゃんかわいー」

 

「ぴったりだね〜」

 

「えっへへ、かっぐや! かっぐや!」

 

 

 かぐや自身も随分と気に入ったようで、満面の笑みを浮かべながら自分の名前を繰り返している。

 

 やっぱり、この子がヤチヨの言ってたかぐやなんだろう。

 

 ……てか、もしそうじゃなかったらこれ本当に最悪の選択をしたことになっちゃうから、そうあって……

 

 そんなことを考えていると、彩葉の目からメッセージ。

 

 

「これ以上はヤバい、今すぐ撤退」

 

 

 それに頷き、私はパンケーキの残りを口に詰め込む。

 

 

「ごめんね、ちょっとヤバい用事出来ちゃった」

 

「今度埋め合わせするから、これにて失敬!!」

 

 

 かぐやを抱えて大脱出する彩葉の後を追い、私はかまいたちのようにカフェを後にした。

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