超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
「はぁ……はぁ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
久々に、本気で走ったぁ……
「2人とも足早すぎ! てか腕痛い〜! かぐやゲロ吐きそ〜!」
そこには全力で肩で息をする女子高生2人と、両手をぶんぶんする宇宙人1人。
電気代を気にする間もなく、私は本能のままに部屋のエアコンを全開にした。
「こんなんじゃあのすっごく美味しいパンケーキ戻しちゃうよ〜! てかあれが本物のパンケーキなら朝食わされたあれは何!? 食べる泥みたいなもんじゃん! 絶対パンケーキ名乗っちゃ駄目だって!」
「……かぐや」
まるで嵐の前のようなトーンで彩葉は口を開く。
「……お手柔らかに、ね?」
「分かってる、桜楽。分かってるけど……」
「あれ、彩葉──」
「……ねえ何!!? 何やってるのあんた!!? 正気の沙汰じゃない!! 正体バレたらどうするつもりだったのマジで!!? てかほぼバレかけてるし!! 勝手に出て勝手に着替えて勝手にパンケーキ食べて本当に何なの!!?」
「うぇ、桜楽ぁ……」
「……私も、同じようなこと思ってるけど」
「うう……だって、つまんなかったんだもん」
そんな非常に率直な感想を述べながら目をそらすかぐやの様子は、拗ねたりふてくされたりばかりの幼稚園児みたい。
そう考えると彩葉はわがままな子供を必死に躾ける母親といったところだろうか。
「っていうか、つまらないのは一億歩譲ったとして、わざわざ月出身とか言う必要あった!!? そんなの人外バレするに決まってるじゃん! 大体──」
そこまで言いかけて唐突に言葉を止める彩葉。
多分昔彩葉ママにされた説教と自分が言おうとしていることが丸被りでもしたんだろう。
気まずい沈黙が漂う中、私は彼女の話を引き継ぐように口を開いた。
「ねえ、かぐや。どうして我慢ってしないといけないんだと思う?」
「……わかんない。かぐやは楽しい方がいいし、つまんないのは嫌。みんなはそうじゃないの?」
「ううん、かぐやは間違ってない。みんなも心の中ではそう思ってる。私も彩葉も、別に勉強が楽しいからやってるわけじゃない。むしろ、つまらないって思ってる。それが許されるなら一日中ツクヨミで遊んで、一日中ヤチヨを追っかけてたいけど……」
「じゃあそうすればいいじゃん。 なんでわざわざつまらないことしてるの?」
「つまらないことをしないと、この先もっとつまらなくなるかもしれないから。どんなお話だって、最初から最後まで楽しいばっかじゃハッピーエンドには辿り着かないんだよ」
「そうなの? じゃあ……かぐや姫も、この先ハッピーエンドになるかもしれないってこと?」
「そう。お話はあくまで誰かが作っただけ。続きを書いたって、ちょっと違う話を新しく書いたっていい。だから、つまらないことっていうのは、みんな楽しいハッピーエンドのための準備だって思ってみない?」
「……うん、わかった!」
「いい子いい子」
そう言って頭を撫でてあげると「つまんないのもちょっと頑張る!」と機嫌を直したかぐやはぴょんぴょん跳ね回る。
「はあ……ありがと、桜楽」
「ううん。憎まれ役任せちゃってごめんね、彩葉」
「……あ、そうだ! ねー、これ、どうやって使うの?」
すっかり上機嫌に戻ったかぐやはポケットからホワイトのスマコンを取り出し、私達に尋ねてきた。
「あ、それは──」
私が答えかけたその瞬間、私も彩葉もグリィッなんて勢いで振り向き、とある一点を凝視する。
それは机の上の充電器に並べられた二台のスマコン。
ブラックが彩葉ので、グレーが私の。
つまり、この家この部屋この空間にホワイトなんて存在するはずがない。
今度は震えに震える声を抑え、こちらからかぐやの方へ質問した。
「えっとぉ、それぇ……どこから、持ってきたの……?」
「大丈夫、彩葉のパソコンで買ったよ!」
「ぇ──」
彩葉、絶句。
10秒そこらのフリーズを挟んだ後、今度は半狂乱の3倍速でスマートフォンの画面に指をすべらせる。
「……ぁ……ぁ……」
それから間もなく再度フリーズし、その場にノックダウン。
ピクピクと指先を動かすのに精一杯な彩葉の手からこぼれ落ちたスマートフォンを覗くと──
『ウォレット残高 ¥14933 前日比 ¥-124400』
「うわ……」
自分のものでもないにも関わらず一瞬呼吸が止まるような感覚。
そのグロさに思わずクラっと足先から力が抜けかける。
「わっ、彩葉も桜楽も大丈夫!?」
「大丈夫……大丈夫だけど……」
「わたしの……わたしのじゅうにまんえん……あせとちとがまんのけっしょうじゅうにまんえん……」
「……、……こ、こういう時って美味しいもの食べるといいんだよね! かぐや美味しそうなのいっぱい買ったから、今から晩ご飯作る!」
「あ、うん、よろし──」
……え、いっぱい?
待って、私のまな板あんな高そうなやつじゃない。
包丁あんなしっかりしたやつじゃない。
私のフライパンあんなコーティングみたいなやつじゃない。
私圧力鍋とか持ってない……!
……まさ、か……?
「……ちな、ちなみに……それは……どこで……?」
「彩葉のは使えなかったから、桜楽のタブレット使った!」
『ウォレット残高 ¥54229 前日比 ¥-103726』
「ヒュ」
「桜楽ー!?」
▽
ああ、この目が開いた時、全部夢だったらいいなぁ……
「──きて! おーきーて! 彩葉、桜楽、ご飯できたよ!」
身体を揺さぶられる感覚と、暴力的かつ支配的、それでいて限りなく魅力的な匂いで目を覚ます。
「何……?」
「わたしのじゅうにまんえん……」
「ほら見て! かぐやの自信作だよ!」
そして身体を起こすと、視界に入ってくるのは折りたたみテーブルを埋め尽くす久々に見るほどの豪華な品々。
思わず垂れるよだれを拭う中、かぐやは自慢げに一つずつ紹介し始めた。
「前菜はスモークサーモンとモッツァレラチーズのマリネ。スープは生のトウモロコシから作った冷製ポタージュ。こっちは新ゴボウとホワイトアスパラ、ベーコンをあえたカリカリサラダの温玉トッピング。メインは牛100%を手捏ねで仕立てたトマト煮込みハンバーグに、なんとデザートはバスク風チーズケーキまで! ほらほら、最高でしょ?」
「……桜楽、もしかしてそっちも──」
「だーいせーかーい」
夏真っ盛りの夕暮れというのに、2人を包むのは極寒の冷気。
あれだけ稼ぐのに、今度はどれだけ掛かるだろうという冷え切った想像。
彩葉は宙から注文を取り、私は指先が勝手に存在しないキーボードを叩き始める。
そんな私達を見かねたかぐやは──
「はい召し上がれぃー!」
ポタージュのスプーンを、私達の口に突っ込んだ。
「「んっ──」」
同時に声が漏れる。
何故だろう、冷製ポタージュがこんなにも温かいのは。
飲ませてくれた小さい手が、あんなに力強かったのは。
涙が、出てくるのは。
「あったかくて、味がして、自分のために作ってもらって……こんなご飯、久しぶり──」
「もう……ほんと、何なのよ……私達、お金がなくて、必死こいて学費稼いで、勝手に使われたのに──なんでこんなに、美味しいのよ……ちゃんとしたご飯が食べたかったって、身体が思い出しちゃうじゃない……あんたのせいで……鬼……!」
「悪魔……!」
「かーぐーや!」
涙の塩味が混ざってしまうことが勿体ないくらいに、極上の味がする。
まるで誕生日、ママが作ってくれた色んな手料理みたいな……
食べてる最中、たったの一度も涙が止まることはなかった。
そのせいで、3日分くらい作ったと思ってた麦茶が、一瞬で消し飛んだ。
「「ごちそうさまでした……」」
不本意な幸福、不本意な温もり、不本意な満腹を享受する私達。
改めて麦茶を作っていると、パソコンのキーボードを叩いていたかぐやは「出来たー!」と声を上げた。
「何、それ」
「携帯ゲームキット買ったの! これで「犬
「そう。良かったね」
嬉しそうに自作のゲームキャラを見せてくるかぐやに、私はそう微笑み返す。
彼女は晩ご飯から全くテンションを落とすことなく、「明日は何食べたい?」とキッチンの私や寝転んでいる彩葉に聞きまくっていた。
「……てか、ずっとここいる気? 私達も生活あるし、余裕一気に減ったし、流石に面倒見切れる自信ないんだけど……」
「じゃあどこ行けばいいの? この星って、宇宙人捕まえたら解剖するのがお決まりなんでしょ……? かぐや死にたくないよぉ……」
「……」
取んでくる彩葉からの目配せ。
私は視線に「私はいいよ。賑やかなのは嫌いじゃないし、彩葉に比べたらまだ頑張る余裕もあるし」とメッセージを込めて返信する。
それを受信して、しばらく考えて、それから彩葉は口を開いた。
「……迎えが来るまでなら、私達が面倒見てあげる」
「いいの!?」
「でも、ルールは守って」
「守る!」
「一つ、目立たない!」
「あっ」
「二つ、許可なく外出ない!」
「おっ」
「三つ、私達の邪魔しない!」
「うぇ〜」
「以上。何か質問は?」
「えっと……それってつまり、かぐやはどこにも行けないし遊べないしずっとこの狭苦しい部屋ってこと……?」
うっ、無邪気なディス……
「そう。ハッピーエンドにするのはいいけど、それはあんただけで勝手にやって」
「ええ……でも」
「どうしよっか、彩葉」
「お願い助けて〜! 一緒にハッピーエンドしようよ〜!」
「はい、2人とも麦茶」
「ありがと。ところで桜楽、明日の話なんだけど……」
「そこ! 知らない予定を生やして無視するな〜!」
「ああもうだったら──」
強硬手段らしきものを彩葉が選ぼうとした、その瞬間だった。
リンリンリーン、リンリンリーン
響くタブレットのアラーム音。
「今日もう予習できない……!?」と彩葉は慌ててそれを止める。
あ、そっか、この時間……
私は洗いかけていた鍋を投げ出し、シュバババと距離二歩のリビングへ帰還する。
「助けてよ〜! 彩葉〜! 桜楽〜! かぐや1人はやだよぉ〜!」
「分かった。少なくとも私はちゃんと面倒見るよ、かぐや。彩葉もそれでいいでしょ?」
「もうキリないし、用事もあるし、私もそれでいい。……あ、そうだ。四つ、食費は定額制!」
「わ増えた! ……で、結局今はかぐや置いてかれるの……!?」
「違う違う。ちょっとツクヨミ行ってくるだけ」
「どっか行くんじゃん! 置いてかないでよ〜!」
「そうは言われても、スマコンがないと──」
「あるよ」
「あそうだ」
「五つ! 買い物は全部事前申告!」
ソファに3人並び、瞳にスマコンをはめる。
初めてのかぐやを私と彩葉で挟むと、彼女がぎゅっと握ってくる手首がほんのり温かい。
そしてそれとは違った、機械的な熱をほんのりと纏うスマコン。
「行くよ」
「落ち着いてね、かぐや」
「「……せーのっ」」
そこのあなた!
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