超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
目を閉じればいつものように見る、けれども決して飽きが来ることはない仮想空間「ツクヨミ」のエントリー。
モーショングラフィックスの天球は現実を上回る速度で回り、それが歯車のように連動して波しぶきと共に真っ赤な鳥居が姿を現す。
果てしなく続く浅い湖には灯籠が揺れ、広がる夕焼けの下、鳥居の奥には無限の星空。
そして、その次にはお待ちかねの──
「──太陽が沈んで、夜がやってきます」
我らが推し、月見ヤチヨの登場。
ああ、何度見ても完璧としかいいようがないアルティメットデザイン。
言わずもがなの圧倒的フルパワー顔面偏差値に、様々な海洋生物がミックスされた和風ドレス、キュートな胸元のメンダコに加えて、露出した肩に乗っかったウミウシ型マスコット・FUSHIもちょこんと出迎えてくれる。
まさにその姿は永遠の女神、電子の歌姫、ツクヨミの母、尊さという概念の象徴……褒め称えるにはこの世の国語辞典の語彙の方が足りなくなるだろう。
私や桜楽は残念ながらヘビーユーザーのためここからツクヨミ直行便だが、新規ログインのかぐやにはなんとヤチヨが手取り足取りでキャラメやらチュートリアルやらを教えてくれる超絶神仕様。
どれだけツクヨミを楽しもうとも、それを考えるだけでちょっとだけ「垢リセ」ということについて考えてしまう。
ま、考えるだけ無駄なこと。
私はいつものように鳥居の中へ飛び込んだ。
▽
「またチュートリアルのこと考えてた? ちょっと遅かったね」
「そりゃそうでしょ! だってヤチヨが、ヤチヨが手を握ってくれるんだよ!?」
「それは……確かに」
苦笑いというべきか、なんとも言えない笑顔を浮かべる桜楽。
整えられた銀髪ウルフカットに冠のように伸びる龍の角と、上はカッコよく仕立てながらも衣装は大正浪漫系和装メイド、アクセントにロングブーツとメカニカルな長い尻尾を添えた彼女のアバターは、自分でデザインなんかやってるだけあって流石の出来、小物類なんかもそりゃ売れるわというクオリティである。
それに対し私はストリート御狐様風。
耳に尻尾、ミニスカの着物にはパーカーを組み合わせ、そこにベルトとブーツでアクセントを加え、配色は寒色系でまとめてカッコいい系にひとまとめ。
正直この姿になった自分を見るだけでテンションブチ上がるし、初めて見た時に至っては興奮のまましばらくその場で小躍りしていた、なんて記憶さえ残っている。
にしてもやっぱ私達のデザインめちゃくちゃいいよなこれ。
ツクヨミ最高。
「で、かぐやは?」
「まあ気長に待とうよ。ほら、初めてのキャラメイクってどっぷり数時間かける人もいるらしいし」
「それもそ──」
「うわぁっ!?」
言いかけたところで開くツクヨミのワープゲート。
空間にきらりと光が瞬き、飛び出してきたのは──
「金髪……」
「ギャルい……」
「「かぐや姫……」」
思考が揃う。
そりゃそうだ、そうとしか表現しようがない。
ミニスカノースリな朱色の着物は裏地に若草色が彩られ、金ピカお月様髪飾りやら背中の巨大水引やらはそれはもう景気よく、足元のスニーカーはうさぎのぬいぐるみが添えられてなんでもアリな彼女らしい。
そして仕上げになだらかで滑らかなストレートロングヘアには2本の長いうさ耳が添えられて完成。
ほら、金髪ギャルいかぐや姫でしょ?
「わんわん!」
「わ、犬DOGEも来れるんだ!」
いやそれは知らない。
流石ツクヨミ以上のコメントは出せないね、私も。
「それでそれで、ここがツクヨミなんだよね!!?」
キンキラキンに目を輝かせながら、仮想空間ツクヨミの街並みをたっぷりと、隅から隅まで目に収めようとするかぐや。
「ねね、行こう行こう!! おもしろそうなのめちゃくちゃ山盛りだよ!!」
「はいはい」
「焦って転ばないようにね」
テンションに駆られるまま大急ぎで橋を渡り、ツクヨミの街を目指すかぐや。
平安京と大都会のビル群、それにファンタジーを足して1/2で割ったようなこの場所はどこもかしこも見どころで溢れていて、かぐやの底なしの好奇心も充分に満たせてしまうほど。
実際私と桜楽、それどころか芦花と真実を合わせてもまだ行ったことのない場所も数え切れないくらいある。
「見て見て! 空に魚泳ぎまくってる! まじですげー!」
「ツクヨミのモチーフには海も入ってるって言うしね」
「……あ、そろそろ──」
「──初ログインおめでとう!」
かぐやに教えようとしたところで、その前に現れるFUSHI。
FUSHIは風船のように膨むとぱんっと弾け、中からは金ピカの和同開珎のような、四角い穴の空いた仮想通貨「ふじゅ〜」が飛び出してきた。
「ツクヨミではみんなが表現者! 君も何かをして人の心を動かしたら、運営から「ふじゅ〜」がもらえるよ☆」
そして恒例の初ログインイベントが終了すると、かぐやは「なにこれ!」と目を輝かせる。
「「ふじゅ〜」。ここで使える仮想通貨。アバター用の服とかアクセとか買ったり、誰かに仕事を頼んだり、好きなライバーを応援したり、なんなら現実でも使える最強通貨」
「え、てことはツクヨミでお金稼いで、それで現実で暮らす、みたいなことも出来るわけ!?」
「出来るんじゃない? 人気ライバーとかそれだけで普通に暮らせるらしいし」
「へ〜! ふじゅ〜夢ある〜!」
もちろんそう。
ふじゅ〜はメチャクチャ便利だし、あって困るもんじゃない。
でもなくても全く楽しみ切れないのがこのツクヨミの良いところ。
「あれ落ちない〜! 桜楽やって〜!」
「はいはい──っと」
射的やくじ引きなどの縁日に、
「ひゃっほーい!!」
「彩葉絶対目瞑ってたでしょ」
「いやバッチリ開いてるから!」
ジェットコースターやら観覧車やら山盛りの遊園地、
「これ全部食べ放題!?」
「うん。でも──」
「いや味しないんだけど!?」
「……味覚とか嗅覚の実装はだいぶ時間掛かりそうって」
「いつかの天才科学者にでも期待しましょ」
あっちゃこっちゃに鎮座するムード最強なレストラン。
どれでも全部、無料で楽しみ放題。
基本無料を歌っているだけで重課金ゲー、Pay to Winなオンラインゲームとは違い、この空間は全てが無料で楽しめる。
似たようなことを何度も繰り返すけど、私達のような貧乏苦学生には無料でいくらでも遊べる空間というのは限りなく貴重なのだ。
「ツクヨミさいこーー!!」
錦鯉のような影の泳ぐ足湯水槽で脚を揺らし、水面を騒がせるのは何ともご満悦そうなかぐや。
流石にあの底なしの好奇心もツクヨミの前には敵わなかったらしい。
「ねーねー、ここのやつさー、ちょっとくらい持って帰れたりしない?」
「持って帰れるやつは現実より高いんだよね……そこは世知辛い。デザインだって、やっとまとまったお金になってきたくらいだし」
「私もゲームで小遣い稼ぎが関の山──」
ヤチヨーン
ヤチヨーン
世間はそんなに楽じゃない、なんて考えていたところで待ちに待ったアラーム音。
私のチケットと、桜楽のチケット。
私は何とかニヤケ顔を堪え、「行くよ」とかぐやに手を差し出す。
「行く……って、どこに?」
「すっごいいいとこ」
「!! かぐやも行く!!」
そしてかぐやは右手に私の、左手に桜楽の手を掴み、ルンルンで揺らしながら歩き出した。
『月見ヤチヨ ツクヨミ沿岸部ミニライブ(握手券付き) 酒寄 彩葉様』
うへへ、うえへへへ……とうとう、とうとうこの日が来た……!!
毎日更新、何時がいい?
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