超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
「ンフッ、ンフフッ」
「うぇへへ……」
「ねーねー、2人とも変な笑い方してるね。尻尾もブンブンしてるし。なんで?」
開始まで10分を切った桁橋の上。
そんな分かりきったことを聞いてくるかぐやに私は一枚のチケットを見せつける。
「ヤチヨミニライブ、ペアチケット……? ライブってあれ? 彩葉達がいつも見てるやつ?」
「あれは配信で、今回のはステージ。今からあの舞台で、ヤチヨが歌って踊るの」
「歌って踊る? なにそれ超楽しそうじゃん! てか私、さっきヤチヨと話したよ」
「あれは案内用のAIだよ。今から出てくるのが本物のヤチヨ」
「感謝してね。たまたまグループチケット当てたおかげであんたも観覧席入れたんだから」
ヤチヨのステージはミニライブと言えど大盛況。
ちゃんとチケット抽選を突破しないと、生で見れる観覧席には入れない。
ましてや握手券付きなんてなおさら。
こうして冷静にかぐやに教えている間にも、生身の心臓は弾け飛びそうなくらいに高鳴ってるんだから。
「来た来た、キタキタキタキター!!」
そしてモニターに明かりが灯るとともに、響くはヤチヨファンダム系ライバーでおなじみの担当MC、忠犬オタ公の大興奮。
「ツクヨミの幕開けには何がいる!? 月か!? 仕事終わりか!? 楽しむ気万全のお前らか!? ──そう、ヤチヨだ!! 本日の夜を告げるヤチヨミニライブ、間もなく開幕だー!!」
威勢のいいカウントダウンと詰め寄せた観客の熱狂とともに減っていく巨大モニターの数字。
それぞれの高まる感情は光のようにステージの中央に集結し、巨大な鳥居を作り上げる。
「わー! すごいすごい!」
「すごいのはこれからだよ、かぐや」
各地のスピーカーから響くアナウンスと会場のボルテージ、生中継を見守る声が一つにシンクロする。
そしてツクヨミにいるあらゆるユーザーが同時に発した「0」に応え──
「──おまたせっ」
彼女は、月見ヤチヨは今宵も降臨した。
「みんなー、ヤオヨロ〜〜☆ 神々のみんな〜、今日も最高だった〜?」
「さーいこー! ね、彩葉! 桜、楽……?」
かぐやが隣で何か言っているようだったが、あふれるヤチヨの尊さで私の思考回路はオーバーヒート。
残念ながら彼女からの干渉に応える余力はこれっぽっちも残ってない。
「うんうん、いい返事。よ〜し、今宵もみんなを誘っちゃうよ〜☆ Let's go on a trip!!」
彼女の掛け声と共に、一斉に落ちる会場の照明。
それに代わって、彼女を包み込むような仄かな明かりだけがステージを飾り立てるように照らす。
「──幾千の時を巡って今、僕ら出会えたの──ほら、見失わないように──手を離さないで──」
それから安らかな流れのような旋律と、透き通った海。
そして溢れんばかりの温かい熱が、ツクヨミを包みこんだ。
▽
うぅ……ヤチヨ、ヤチヨぉ……
筆舌に尽くしがたいよヤチヨぉ……
「──ねえ! ねえ2人とも! 聞こえてないの!?」
「……ぁ、えっと……ごめん、何が……?」
「……え?」
私は耳元で発せられる大声と、それに応える涙混じりの声で我に返った。
まるで信じられないものでも見るかのように、目の前の派手ギャルかぐや姫様は狐と龍の顔を交互に見て、「……大丈夫?」ともう一度問い直す。
お互いの顔を見ると、桜楽は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ、ツクヨミにメイク落とし機能がなくてよかったなと言わんばかりに崩れまくった表情で、多分向こうの反応的に私もそんな感じ。
「2人とも大号泣じゃん」
かぐやの言う通りだ。
しょうがない。
考えれば考えるほど陳腐な言葉に収まってしまいそうだから口には出来ないけど、それだけ感情を直接揺さぶってくるような、歌もパフォーマンスも、そして生ヤチヨという存在そのものがそれだけの破壊力を持っていたのだから。
そしてその環状はツクヨミ共通のものだったらしく、グッツグツに沸き切った観客席から注がれるのは万雷の拍手と大歓声。
鳥居の上のヤチヨは大きく手を振ってそれに応えてくれた。
「イェーイ! 感謝、感激、雨アラモード☆ ううっ、ヤチヨは果報者なのです……」
なんかこの言葉だけで3日くらい飲まず食わずで行けそうな気がしてきたな。
「……あっ、ここでお知らせ! 「ヤチヨカップ」っていうイベントを開催しま〜〜す☆ はいFUSHI、説明よろしくゥ!」
「おまかせあれ! ヤチヨカップの参加資格はツクヨミに存在する全ライバー、つまりは君達全員! この一ヶ月で最も多く新規ファンを獲得した人が優勝だよ!」
ああ、なんだ。
よくあるタイプのイベントか。
そんなことが一瞬よぎった脳内を、次の一言が完璧に消し飛ばした。
「優勝賞品はなんと、ヤチヨとのコラボライブ! 文字通り世界一盛り上がるコラボステージ間違いなし! 君の夢を世界の中心で叶えちゃおう!」
「うっそコラボぉ!!?」
「はい? はい??」
近隣住民にブチギレられそうなくらいバカでかい声が出た私と、現実を受け入れられずピクピク震えている桜楽。
そんな中で無邪気に取んでくる「それ、すごいの?」というかぐやからの質問。
半ばパニック状態の頭をブン回しながらなんとかその回答を引っ張り出す。
「あ、ああ、あったりまえじゃん!!?」
「うおでかっ」
「すごいもなにも配信コラボはあったけどライブのコラボは初なんだって!! え、うそ、誰と!? どこで!? どうやって!?」
「へー、じゃあかぐややりたい! 2人も一緒にやるでしょ?」
「んー、どうだろ。もしかしたら──」
「濁さなくていいよ、桜楽。ヤチヨが私達みたいなモブとやるわけないんだから。どうせこんなの出来レースよ」
「出来レース?」
「最初から決まってるってこと。……うう……ヤチヨ〜〜〜!!」
思わず許容量ギリギリまで溜め込んだ感情を吐き出したその時、どこからともなく響く車輪の音と虎の咆哮。
そう、最初から決まってるとしたらまさに適任の奴ら。
彼らはドッカーンとド派手な音を立てて、爆煙と観客全員の注目を浴びて姿を現す。
「よう、子ウサギども。お前らの帝様の登場だ!」
「ちっ……桜楽」
「はいはーい」
私は彼らが姿を現した時のお決まりで、スカート状になっていた桜楽の翼を広げてもらい、その影にすっと隠れる。
そしてキャーキャーと浴びせられる黄色い歓声の中を歩いてきたのは鬼をモチーフにした男性アバターと、その後ろに控えるローブを纏ったアバターに地雷系っぽい男の娘アバター。
そう、このツクヨミにおいてヤチヨの次に数えられるほどの人気プロゲーマーユニット、「
一番前を行くリーダーがパチンと高らかに指を鳴らすと、会場中のモニターは一斉にジャック。
先程までヤチヨを映していたその画面は瞬く間に彼らのトロフィー陳列棚へと姿を変えてしまう。
オリジナル曲をバックに映し出されるのはツクヨミ一の人気を誇るフルダイブ型アクションゲーム「
「かぐや! かぐやもあの戦うやつやりたい!」
「……もしかして、勝てば優勝できるとか思ってる?」
「え、違うの?」
「あのレベルは諦めて。無理」
そしてステージの中央にたどり着いた彼らは、まるでそこが自らのための舞台であると言わんばかりに観客の方を見回した。
「祭りの幕開け……か」
寡黙なフード、雷が静かに発する。
「みんな〜♡ 俺のハートを受け取る準備は出来てるよね〜♡」
地雷系男の娘、乃依が振りまくファンサービス。
「黙ってついてこい! ツクヨミ全部、俺達の夢で埋め尽くしてやるぜ!!」
そして最後に轟く帝の檄。
ド派手にブチ上げた紙吹雪も加えりゃゲームセット。
こんなのブラックオニキス……黒鬼共のコールド勝ちだ。
会場の誰もがそう確信した。
「てなわけで、最高のステージ作ろうぜ? ヤチヨちゃん」
ブラックオニキスも。
「そうだね。もしそういう運命なら、だけど」
ヤチヨは……どうなんだろ。
「すっげー!! ヤチヨと黒鬼のコラボかよ!!」
「ツクヨミの最高記録更新だろこんなの」
「マジで? 一ヶ月とか長すぎ」
観客が思い思いの声を上げる中、様子の戻ったステージでヤチヨは再び呼びかける。
「ということで、みんなで競って盛り上げて! 最高のライブにするってヤチヨからも約束しちゃうから! 一緒にハッピーエンドまで爆走して、めでたしめでたししちゃお〜〜☆」
「はぁい♡」
「しちゃう〜♡」
「むぅ──!!」
だけど、そんな黒鬼勝確の雰囲気をただ1人。
空気の読めないエイリアンは──
「ヤあぁぁぁ────チいぃぃぃ───ヨおぉぉぉ────!!!!」
「……あ、何やって──」
「かぐやとコラボしてえぇぇぇぇぇぇ──────!!!!!!」
彼ら以上にブッ壊した。
遠からむ者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。
私達が止める間もなく、ド派手もド派手な大見得切りが炸裂する。
「かぐや、ヤチヨカップ優勝する!! そんで私達3人とヤチヨでコラb……むぐっ──」
「あっ、力強っ!?」
「私達が、コラボライブするのっ!!!!」
2人分の拘束を火事場の馬鹿力的なそれで振りほどき、盛大に叫ぶかぐや。
こいつやりやがった。
マジでやりやがった。
っていうかさっきしたばっかだよね「目立たない」って約束。
自分でも分かるくらい顔が熱くなり、桜楽はそれに加えて目ん玉ぐるぐるのパニック状態。
けれどそれを笑うでも貶すでもなく。
「……へぇ」
「なんだあいつ……」
「あの子、ちょっとかわいくない?」
「面白いやつが出てきた」、そんな視線があらゆる方向から一点集中。
それはあまつさえヤチヨでさえも。
「……ふふっ、いとかわゆし」
ああ、逃げたい。
今すぐスマコン外して、現実でお布団被って死にたい。
けれど今の私達にそんな選択肢は許されない。
なぜなら──
「ほいじゃ、今日のライブもここでクローズ♪ 今度はお話の時間だよ。さらば〜い☆」
そう、お話。
つまりは握手券付き。
ステージ上で終幕を告げたヤチヨは配信を止めると無数に分身し、チケットを持つ観客一人一人の方へ飛んでいく。
ここから先はチケット持ちのVIPルームのようなもの。
あのヤチヨと対面でお話できる上に握手まで。
……ちょっと待って。
対面で!?
お話して!?
握手まで!?
おいおい、こんなの私の認識が間違っている可能性まである。
明らかに都合が良すぎる。
ほら、桜楽のほっぺを引っ張ったって何も反応しな──違う現実のほっぺだこれ。
「やば、死にそう……」
「あ彩葉!? 桜楽は──もう死んでる!?」
急いでかぐやは私と桜楽の手をがっちりホールドし、手の幼い温もりで私達を蘇生する。
……とまあ長くなったけど、これがあるために私達に逃げの選択肢なんてものは用意されていないも同然というわけだった。
「ねえ彩葉、桜楽、一緒にやろ? ヤチヨとコラボしよ?」
「いやm──」
「ムリムリ! 小娘が何考えてんだ!」
私が言おうとした「無理」の二文字に大量のおまけをつける聞き慣れた声。
声の主の方へ目を向けると、そこにはちっちゃなヤチヨと、その肩に乗ったFUSHIがいた。
っていうか、今日のFUSHIは随分と口が悪いな……
「こーらっ」
だが、そんなマスコット枠をヤチヨは軽くたしなめた。
……待って、ちっちゃいヤチヨ?
うわレアレアなちびヤチヨだ!!
これ何%くらいだっけ、確か5%、3%、いやもっと低かった気も……
「……」
かわい。
ありえんぐらいかわいい。
かわいすぎ。
しぬ。
今日寿命かも。
死ぬわ私。
ごめんね桜楽。
先に行くね。
それとも一緒に行く?
あ、一緒に行きそうな感じだ。
じゃあこのまま──
「無理じゃないし! かぐやコラボするし!」
死の淵を彷徨っていた私を引き戻したのは相変わらずのかぐやの声だった。
「だから、さっき言ってた通り無理。私達ド素人だし、相手が悪すぎ」
「ふっふー、どうやらお忘れのようだね。 ヤチヨカップはライバーなら誰だって参加可能。みんなに可能性が残されているのです☆」
「あ、そっか! じゃあかぐやもライバーになろ! さてさて準備準備〜!」
そしてサクッと彼女はログアウトし、残されたのは私と桜楽、そしてちびヤチヨ。
「……あ、チケット当てたの彩葉だし、私も先に戻ってるね」
「いいよいいよ、今日はちびヤチヨを見つけた特別サービス! 銀色ドラゴンちゃんにも握手をサービスしちゃおうじゃないか!」
そう言ってポンとその場で倍に増えるちびヤチヨ。
「ほらほらこっちだよ〜☆」と彼女は桜楽の手を引いてどこかに消えてった。
羨ましい……じゃなくて。
「今日は楽しめた?」
「……っ、あ、は、はいっ!!」
話しかけられて、思わず声が裏返る。
昔からずっと変わらない、聞き慣れた優しい声が目の前で広がる。
そうだ、楽しまないと。
楽しんで良いんだ。
私のためにも、ヤチヨのためにも。
「……その、いつもヤチヨに支えられてて、そのお陰で今日も生きてるっていうか……人生、暗くて、寒くて、長いトンネルみたいなんですけど……ヤチヨのお陰ですごく温かくなって、今は1人じゃなくなって……頑張れてるんです」
……あ、もっとなんか違うこと言えば良かったのかな。
言い終えてから後悔しそうになると、ヤチヨはくすっと笑った。
「「もっと気の利いたこと言いたかったな〜」、みたいに思ってるでしょ?」
「うぇっ!? うそっ!?」
「ふふん、ヤチヨくらいになるとテレパシーもお手の物なのです……なんて、ヤチヨもおんなじなだけだよ」
「え、ヤチヨも……?」
「……むかーしむかし、ひとりぼっちのウミウシは一つの光を追いかけて、暗くて、寒くて、とってもとっても長いトンネルを、ずーっと歩いていました。すっごく長い時間をそこで過ごして、たまに見つけた本当にちっちゃな光はすぐに消えちゃって、もう疲れたな〜、なんて足を止めようとした時、今まで見つけた光と、これから待ってる光が一つになって、すっごく大きく明るいお月さまになりました。ウミウシはそれを必死に追いかけて、そのうち集めた光と一緒に人の形になって、今やツクヨミを作って、お月さまを見守っているのです」
彼女の言葉を、私は必死に噛み砕く。
だって、知りたかったから。
大好きなヤチヨが、私のために何を言ってくれたのか。
けれど考えるより先に、私はヤチヨと目が合った。
「……そっか」
ここではどういう意味かってのは、重要じゃないのかも。
大事なことは光があって、ヤチヨもそれに向かって頑張ってたってこと。
そして私にとっての光は──
「ありがとう、ヤチヨ」
「いじょ〜、ツクヨミ誕生秘話でした☆ ツクヨミの皆には内緒だよ」
そう言ってヤチヨはふわっと浮かび、私の頭にそっと手を添える。
……待って、私の頭に、手を!?
「─────っ」
言葉にならない。
けれど、すごく温かい。
ああ、なんて言おう。
この状況をどうやって表現しよう。
「いつも来てくれて、ありがとね」
え、認知?
認知頂いちゃった──って、そりゃ管理人ならログくらい追える……いや認知!?
あ、もう無理だ。
私保たない。
「あ、あの、今日はこれでっ! ほ、ほほほ、本当にありがとうございましたっ!」
もう勢いそのまま私はログアウト。
こんなの一秒だって耐えられる気がしない。
早く戻って、この幸せを現実で噛み締めたい。
顔が、とにかく熱い。
「──またね、彩葉」
最後に、そんな声が聞こえた気がした。
▽
……ああ、2人とも行っちゃった。
彩葉は相変わらずだし、桃華も、私のことを覚えてるか結局聞けなかった。
早く話したいな。
色んなこと、色んなこと、色んなこと……
「……あははっ、ヤッチョもお疲れみたい」
大丈夫。
もう一度会えた。
彩葉どころか、桃華とももう一度会えたなんて。
それだけで、充分に果報者。
そう、私はずっと、ハッピーエンドなのです。
高評価とか感想、よろしくお願いします!
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