死に損ないの英雄   作:HakuGozira

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 早速の2デスです。
 今回は、死だけをお送りしたいと思います。次回からは、物語を一気に進めたいと思うので、じゃんじゃん死んで貰いましょう。


一章 3話 さいあくのりかい

 

 ___死んだ。

 

 そう理解した。眼球へと突き刺された銃口から、無抵抗に放たれた弾丸。それは、佐々木柊の命を刈り取るには、十分過ぎた。

 死の直前とは、何にも不思議なものだ。痛みや地面の感触など、普通に生活してきた当たり前の感覚機能が停止し、明確に死という到達点に足を踏み入れる。

 

 ___早く、終わって。

 

 暗闇の中で、必死に自身の輪郭をなぞり、永遠の暗闇からの解放を望みながら、暗闇を彷徨う。

 手足なんて無い。ただ『ある』だけの存在は、必死に流れ着く『その先』へと足を運ぶが、突如として何者かに柊は鷲掴みにされる。

 突然の出来事に、必死に抵抗の姿勢を取るが、取るに足らない『ある』だけの存在は、抵抗虚しくそのまま何者かの手によって握り潰された。

 

 

 ________________

 

 

 「………ぁ。」

 

 目を開ける。

 あの時、終わった筈の体に足りなかった様々な物が戻ってきた。体外へと流れ続けた血液、千切れた筈の右腕。銃口によって刺し潰された左眼。そらは、何事も無かったかの様に柊の元へと返っている。

 ___気持ち悪い。

 

 五体満足に立っている自分自身が気持ち悪い。どうして生きているのだろう?どうして、死ななかったのか。

 

 「___!」

 

 声にならない悲鳴を上げ、その場を狂った様に走り出す。理解した、理解したく無かった。___死んだんだ、あの時。

 走りながら、涙と吐瀉物で服装を汚す。到底受け入れる事の出来ない、常人の域を越える能力、異能。分からないが、柊という人間は死を経験した、そして戻ってきた。

 

 『死んで戻る』そんな事など、あってはならない。死は死だ。あの時、柊という人間は確かに終わった筈だ、こんな事なんて。

 

 「……っ!」

 

 無我夢中に走り続ける柊は、何かの段差に躓き、顔面を硬いアスファルトの地面に叩き付ける。鼻から鳴り響いた、砕ける音と激しい熱。

 あまりの激痛に視界が点滅し、目の前を白が覆う。平衡感覚は無くなり、四つん這いの状態で、惨めにその場に蹲る。

 

 「…なんで、死なないんだよ!もう終わったんだろ!あの時!撃たれた、死んだんだよ!」

 

 もう何を言ってるのか自分でも分からない。鼻の形が歪となり、悪人の方が余程ましに思える程に醜い顔を、涙と鼻水で汚し、見る物は不快感を、はたや精神異常を起こした『バケモノ』を見る双眼。

 しかし、柊が感じる視線は、自身を殺す為の殺意を込めたものだと錯覚する。

 

 「なに、見てんだよ!なんも知らないくせに、何を見てんだよ!」

 

 咄嗟に道に落ちる小石を握り、群衆へと小石を投げつける。

 ___何も見るな。

 ___何を見てるんだ。

 ___お前らが知らないものを、見た、経験したんだよ。

 

 最悪な言葉が、感情のダムからこぼれ落ちる。何も分からないのだ、この世界の人間達は。銃口を突き付けられる恐怖を、発砲され、肌が貫通し命を刈り取ろうとする死の恐怖を。

 それは、そうだ。こいつらは特別なのだ。柊は違う。先生の様に『善人』ではない。ナツキ・スバルの様に『立ち上がる』事は出来ない。

 

 自己嫌悪、自己憎悪。自身の心を自身の言葉の刃物が刺し続ける。

 ___どうして、死んでない。…死んだろ。

 ___お前は、一体何者なんだよ。…何者でもない

 ___惨めだな。…うるさい。

 

 「死んじゃえよ。……死ねよ、クソや___。」

 

 その言葉が続く事は無かった。

 柊の言葉を遮る、黒い塊が柊の体へと衝突し無慈悲にも柊の命を奪う。

 二度目による、宙へと浮く感覚。否、それは体が宙に浮いたのではない。柊の視界に映るのは、脱力し首から上が存在しない『自分の体』だった。

 

 何度も、何度も視界が回転する。

 痛みは無い。けれど、それが不気味だった。四肢という四肢が無い。体という部品が欠けた。今あるのは、脳が入った『何か』だけだ。

 これで、終われば良かった。しかし、現実はそういかない。

 

 目の前に、黒い鳥が止まる。

 日常生活で、よく生ゴミや腐食した肉を食い、不潔な鳥として認知されているカラスは、脳の入った何かを嘴で蹴鞠の様に転がす。

 ___もう嫌だ。

 

 そう願えば、幾らか楽だろう。その言葉を理解したのか、はたまた思いが届いたのか、カラスは嘴を大きく開け、その口を何かの眼球の目前まで近づけ___。

 

 

 ________________

 

 

 「…………。」

 

 死んだ。否、『戻ってきた』というべきだろう。

 死因は、車との衝突にする臓器損傷と出血によるもの。一瞬の出来事で痛みが無かった事だけは、唯一の救いだった。

 けれど、最後に見た自身の頭を食い破ったカラス。人生でこうも鳥に恐怖する事になるとは思わなかった。

 

 「…明日だ。今日は多分無理な日なんだ。だから、明日になったら、頑張ろう。」

 

 諦めた、今を生きる事を。きっと今日が駄目な日なのだ。

 なんでも良い、とりあえず明日を迎えた後に対策を練れば良い。幸いにも、二回の死は無駄とはならなかった。

 二回の死で分かった事、一つ目はこの世界での銃の価値観は服を着用すると同じ程に当たり前となっている事。

 

 思考し、周りを見渡せば確かに、その身の丈に釣り合わない大型銃や小型銃を所持しながら、友人と雑談を行う女子生徒。

 これらを纏め、二つ目に理解した事はこの世界の人々には、銃弾が効かない事だ。一回目の世界線では、左腕に弾丸を貰った柊は、凄まじい激痛と出血に意識を飛ばす程追い詰められたが、ノアとユウカは銃弾を諸共せず、あのロボット達へと戦闘をしていた。

 

 「つまりは、銃弾が怖く無いのか、それとも『効かない』のかの二択だな。けど、状況的には後者の方が説明がつく。」

 

 つまりは、この世界にとって銃は然程脅威にもならない事だ。『先生』も柊も、この世界では銃弾一つで死ぬ様な脆い人間だ。

 方や柊は、銃口に怯え、恐怖で何もする事が出来ない雑魚。

 方や、銃弾が飛び交う地獄の中で恐怖に負けず、戦闘指示を的確に行う『先生』。

 

 「……どうして、こんなにも違うんだよ。」

 

 ___だから、妬む。だから、望む。

 

 『先生』の様に、銃弾にも怯まない覚悟を望む。『先生』は柊が背伸びしても届かない頂きに、手を伸ばすだけで届くその『特別』を妬む。

 

 「本当に、馬鹿みたいだな〜俺。」

 

 自暴自棄に乾いた笑みを浮かべ、何処かへと足を運ぶ。

 なんでも良いから、明日を迎える事が出来れば状況を変えられる算段を思いつける気がする。

 時間が、足りないのだ。ゆっくりと考える時間が今必要なのだ。

 

 ___逃げてない。これは戦略なんだよ。

 

 心に、そう必死に呼びかける。こうでもしないと、柊は『シュウ』でいられなくなる。

 諦めた訳では無い。あの時の三人の顔や、連邦生徒会副会長の七神リンの『期待』を無碍にはする事は出来ないんだ、自身でやると決めたのだ。最後まで、責任を持って。

 

 でも、足りない。時間が足りない。あれ程の濃い時間ですらも、まだ半日程度の時間で起こったのだ。

 そもそも、『先生』はどうやって右も左も分からない似た様な状況で、死ぬ事も無く様々な問題を解決し続けた?同じ地点、同じ状況下で、こうも変わる『立場』に嫌気が指す。

 

 「…そうだもんな、俺は『子供』で先生は『大人』だからか。」

 

 『大人』と『子供』。これだけなのだ、たったこれだけの違いで立場は見がましく変わる。

 ___大人は、頼り甲斐がある。

 ___子供は、大人に頼る。

 こんな、ありきたりな事で、どうしてこうも『違う』のだろうか。

 

 「……何してんだよ、大人は。子供の俺を守ってくれよ。」

 

 そう呟きながら、公園の様な所へと足を運んだ柊は、ベンチに腰を下ろし、感情のダムを決壊させる。

 大粒の涙が頬をなぞり、ありったけの声で泣き叫ぶ。高校生となった現在、心も成長し泣く事など無いと思っていたが、ちゃんと『怖い』ものは怖いし、『痛い』ものは痛い。

 

 そんな事を表に出す事は出来なかった。何故なら、『死ぬ』からだ。

 もう痛いや、怖いは死の前では刹那の感情。死が迫るなら、柊にそれを覆す事は出来ない。痛いと叫ぶ事も怖いと感じる事も無く、ただ無にきす。

 

 「もう、家に帰してくれよ。…俺が、何したっていうんだよ。」

 

 泣き叫び、ある程度の心の整理をつけた柊は、家に帰りたくなる。

 ただの部活終わりに、良い汗を流し、自分なりに精一杯人生を謳歌していた。別に退屈でも無ければ、良かったとそう思える人生で、こんな事になるなんて、思ってもいなかった。

 

 ___帰してほしい、家に帰してほしい。

 

 そう願い、ベンチに横たわり、瞼を閉じる。

 疲れた、今日は疲れたから、明日に頑張ろう。明日になったら、また最初っからだ。

 瞼を閉じ、迫り来る睡魔に誘われながら意識を深い闇へと落とす。気づけば、夜の帳が下りたキヴォトス。まだ活気が溢れる人々の声を耳に挟みながら、鼻水を啜り眠りにつく柊は、活気の声に掻き消された、僅かな『破裂音』に気づけなかった。

 

 

 ________________

 

 

 「………え?」

 

 気づいた時に、あまりにもあっけらかんな声が溢れた。

 横たわっていた木製ベンチは無く、目を開け広がるのは、よく見た慣れた最初の光景。行き交う人々が、自身に『好奇』の目を向ける場所。

 

 訪れてほしく無かった光景。『迎える事の出来なかった明日』。佐々木柊には、明日を迎える事は無く、再び地獄の一方通行の片道切符へと繋がる。

 

 

 

 

 

 





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