メインヒロイン、ノアの出番が少な過ぎない?と思っているやつです。ちゃんと、ちゃんと絡みは作りたいので、頑張ります。
後はタグに独自設定と解釈を入れました。
因みに、佐々木柊がササキ・シュウになる時の題名はひらがなではなく、漢字になります。
「明日を迎える事すら、許してくれないのかよ……。」
必死に頭を回し、そう呟いた言葉に自分自身ですら哀れに思う程にその声は弱々しい。
照り付ける朝日が、迎える筈だった明日を拒絶し、再び始まる地獄の一日を合図するかの様だった。
今の心中を説明するには、言葉を紡ぐ事すら苦痛に感じ、ただそこにあるのは凄まじい『喪失感』と『無気力感』だけであり、それ以外の感情は起き上がってこ無い。
もう死を理解した瞬間の吐き気などは消え、ただ訪れた『死』を理解するのに精一杯だ。
___自分で、死ねば。
一つの考えが、脳裏をよぎる。
今までの自身の死因は、他者による他殺や車に轢かれた事による轢殺、共通点はどちらも『自身で死んでいない事』だ。
自身に植え付けられた『呪い』と思える程の力を、完全に理解した訳でも無ければ、自身の死が発動条件以外はこの力の事を理解していない柊にとって、自身の『自殺』は試した事も無ければ、しようとも思わなかった。
けれど、今の柊にとって死は、最も『恐ろしい物』と同時に最も『望んでいる物』になっている。
既に終わった筈の自身が、さぞ当たり前かの様に五体満足で立って歩いている自身が気持ち悪い、平然と生きている事になっている自身が気持ち悪い。
___気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
震える手は既に自身の首を絞めており、それを理解した瞬間、脳に送られていた信号と血液が止まる感覚と、喉を通る唾液が正常に通らず、明確な死を運んでいる。
しかし、自身の手は死の一歩手前で首を絞めた手を外し、その場で体を丸め、足らない酸素を全身に回し一気に咳き込む。
「…なん、で。死ぬのが恐いんだよ……もう、死んでんだよ!」
心と体の関係は一緒と、何処かの学者は言っていた。
しかし、時に心と体の関係は食い違う事もあり、今の柊の現状がそれに近く、死を最も望む体と死を拒む心。それが行き違いを起こし、柊の体は死を拒んだ。
___もう、どうすれば良いのか分からない。
死を望みながら、死を拒む自身の心。あまりにも自分勝手で、無様な自分は、何処で何をすれば良い。
考える事すら苦痛となった柊は、覚束ない小鹿の様な足取りで何処かへと足を運ぶ。目的地などは無い永遠に続くこの道を歩き続ける自分はなんなのか。
___何者にもなれない、ならずもの。
自身の声が、弱い自身の心を蝕む。とりあえずは、何処に行けば良いのかは分からないが、無性に行きたかったのは『誰もいない所』。
誰もおらず、自分だけがいる空間で、一人寂しく死ねば楽な気持ちになる筈だ、心にそう必死に投げ掛ける言葉の数々は、酷く愚かで、酷く哀れだった。
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「………あ。」
殆ど、脳死で歩き続けた柊は眩しかった朝日は消え、今度は光すら入らない奇妙な場所へと足を運んでいた。
壁は崩落し、崩落箇所からは僅かに日光が照り付け、何処か神秘的なものを感じさせるが、周りの華やかな装飾品達は焼け焦げ辺りに散乱し、照明のシャンデリラは、電球が全て割れた状態のまま放置されていた。
最初は神秘的に見えた景色は、今理解すればただの『戦闘の傷跡』であると同時に、直感的に柊はここを『終わる場所』に選んだ。
荷物を全て置き、唯一形を保っていた食事用の白い布を被せたテーブルに座り、無心で周りを見渡す。
その光景は、あまりにも悲惨で元がどう言った場所なのかも分からないほどになった今の場所を、柊は不気味に思うと同時に『似ている』とそう思ってしまった。
誰にも気付かれず、酷く傷付きながらも必死に元の自分の形を取り戻そうと、ギリギリの所で何かを保っている状態。
それは奇しくも柊自身と同じであり、一歩間違えれば堕ちてはいけない領域に足を踏み込もうとしている危険な状態、体の中に爆弾を抱え今にでも爆発しそうな、そんな状態。
「だったら、もういっそ……。」
堕ちてしまおうかと、そう思い瞳を閉じ自身の何かを『捨て去ろうと』したその刹那、暗闇に一つの声が響いた。
「あら、随分と珍しいお客様ですわね。」
品のある上品な声、その裏腹に挟むは、自身を図る疑問を乗せている。
声の主へと目を向ければ、銀色の長い髪を靡かせ、吸血鬼を彷彿とさせる真紅の瞳、酷く整った顔立ちは正しく女帝の雰囲気を醸し出しており、無意識にでも膝を突きそうになる。
その少女は、自身の座るテーブルの前にある階段へと優雅に佇んでおり、それは極刑を前に自身の願いを聞き入れる神の様に感じれた。
「…ここに、どの様な要件でいらっしゃったのですか?普通の生徒であるならば、こんな所にも足を運ぶなんてふざけた真似はしないと思いますわ。」
「…そういう事なら、安心しろ。俺は生徒でも無ければキヴォトスの人間でも無い。そこらへんの残飯に群がる虫だよ。」
「残飯とは、酷く抽象的な例えをお持ちになりますわ。」
「残飯だよ、実際。俺は別に何にも手をつけられないで捨てられるそんな存在だ。」
頭では分かっている。これは、単なる八つ当たりに近いものである。
しかし、何故か無性にも苛立ちが募り始めており、今は止められない酷い口を開け、自負の言葉を吐く。
「そもそもな、俺はこの場所に来るんじゃ無かったんだよ。ただ当たり前に学校に行って、当たり前に家族と食事して、当たり前の様に明日を迎える。…そんだけの人生で良かったんだよ。」
少女は口を開けない。
しかし、少女は理解している。少年の話す時のその『狂気』の瞳に。
「散々な目にあって、また明日頑張ろうってごく当たり前のそんな事ですら、俺は迎えられない。何度も願った明日は消え、約束した出来事すら全部無かった事になって、終わろうとしても終わらなかった。」
だから、今柊が望む事はただ一つだけ。
「……楽になりたいだ。」
これだけだ、柊が望む物はこれだけだ。
別に大層な力や秘められた力が欲しい訳でも無い、現実世界の両親や友人の元に帰りたい。
異世界召喚なんて、自分は求めていなかった。求めたのはただ家族や友人の元に『帰る』事だけ。
それを望んで何が悪い。誰かの迷惑になる訳でも、誰かが不幸になる訳でも無い、今最も不幸な人間は自分なんだから。
___なら、帰れないのなら、せめて一人にして欲しい。
命の価値が軽いこの世界、そんな世界にこんな『呪い』だけを与えられた自分、死ぬのか恐い十六歳の少年にこの力はあまりにも『残酷』な力である。
故に、心細い少年は一人でいる事を選んだ、誰かに殺されたくない。死にたく無い。そんな一心で。
長い、独白だったと思う。言った所で訳も分からない戯言を言い続ける不思議な少年は、凛々しく立つ少女へとその瞳を合わせる。
少女の瞳に何が宿っているのか分からないが、少女は顎に手を添え、考える仕草を取ると、閃いた様に指を鳴らし少年へと手を伸ばすと、こう言う。
「食事に致しましょう。」
「………は?」
あまりにも腑抜けた声が出てしまった。
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「どうですか、この食事は?私が選別し、選び抜いた傑作の一品ですわ。あなたもどうぞ。」
「…まぁ、どうも。」
突如として始まった美少女と二人のみの食事会。
普段の自分自身なら、緊張のあまり声すら発さず無言の静寂が食事を支配し、気まずい雰囲気が漂う筈の食事は、緊張半分の『奇妙』半分と言った所だ。
半ば強引にテーブルへと着いた美少女は、テーブルに料理を並べ箸を二膳ほど用意し、少女が手を合わせるのを合図に、柊も手を合わせ食事を開始する。
「いや、色々と言いたい事があんだけどさ。なんで、飯?」
「あら?食事は食を楽しみ、相手との会話を楽しむのが普通の事。私はあなたと話す為に食事の場を用意しましたわ。普通に話すだけでは、相手の本心を感じる事は出来ませんわ。」
「…そうゆうもんなのか?」
上品な仕草で食事を口に運ぶ少女は、一度手を止め、口を開く。
「申し遅れました。私の名前は黒舘ハルナと申しますわ。あなたのお名前は?」
「俺の名前は、佐々木柊。気軽に柊って呼んでくれ。」
「…心得ておきますわ。」
真紅の瞳の美少女、ハルナは熱心に食事という行為を噛み締め、何度も咀嚼を行い、名残惜しそうに喉へと食事を通している。
それに感化され、柊も箸で食事を掴み、口へと運び咀嚼する。
選び抜いたのは、だし巻き玉子。
噛む度に、口に広がる白だしの深い味わいと、舌触りの良い食感。あまりの美味しさに思わず、美味しいと呟く。
「ふふふ、あなたは良く分かる人ですわ。」
「…よく分かってんのかな。俺は久々の食事でなんでも美味しと思うあの感じだと思うんだけど。」
「いえ、久々の食事ならば、肉や寿司と言った正にありきたりな食事を摂りますが、あなたはその中で一つだけそのだし巻き玉子を選んだ。…それこそ、あなたが分かる人の証明です。」
「…ご飯、好きなんだな。」
「ええ、伊達に美食屋を名乗っていますからね。食事にはうるさい方でして。」
そう言い、箸を進めるハルナの一つ一つの仕草を自然と目で追ってしまう。
恐ろしく綺麗と思える程に洗礼されたテーブルマナー。そのあまりにも綺麗なその仕草が、どんな光よりも美しい場面にも思えた柊は、箸を進め食事を摂り続ける。
その時、少女は箸を止め柊の瞳を見据え、口を開く。
「所で、あなたは何故。楽になりたいと仰ったのですか?私には、到底あなたの言葉の意味が理解できないですわ。」
「……いや、あれは単なる俺の八つ当たりだったよ。とりあえず不満をぶつけたいあの気持ちだ。」
この返しに嘘偽りは無い。『三度目の死』それを受け入れるには時間が無く、目が覚めれば地獄の一日が始まり、同じ道を辿ればもう一度死に再び最初に戻る。
その恐怖が永遠と柊の心を蝕み、誰にも共感されない『弱音』と不満をぶつけたかった。
けれど、こうなった原因はこの世界の人々では無い。そもそも、現代日本とこの世界は倫理観も価値観も違うのだ、『先生』という前例がいながら、殆どの人は銃弾で人が死なないと本気で思っている。
それはそうだ、何故ならこの世界ではそれが当たり前だからだ。
「…どつしてさ、あんた達にはその頭の輪っかがあるんだ?」
「どうしてと、不思議な事を聞きますわ。私達は生まれながらヘイローを持っていまし、そもそも、それが当たり前であってあなたの様に無い方が『特別』だと思いますわ。」
「…特別ね、俺はこっちに来てから、一度も自分が特別なんて思った事は無いよ。」
「……こっち?」
「…あぁ、確かに。ちゃんと説明しないとな。」
そこから柊は口を開き、自身の現状を話した。
突然この世界へと飛ばされ、右も左も分からずどうすれば良いのか。
この『呪い』について喋ろうと思ったが、無意識に魂がその『呪い』を伝える事を否定し、その部分は隠した。
「…聞けば聞くほど、あなたの境遇が先生と似ていますわ。」
「境遇だけだろ、俺は『先生』みたいに凄いやつでも、優しいやつでも無い…ただの凡人で弱虫だ。」
「……。」
口を挟む訳でも無く、淡々と柊の話を聞くハルナ。
ハルナの瞳に今、自分がどう写っているのか分かる訳が無い。けれど、酷いものだと思った。
同じ境遇でありながら、こうも立場と状況が違う事への不満と妬み。
声も形も知らない『先生』という存在は、既に柊にとって『超人』の枠組みへと入っている。自身とは違い、銃弾に怯まない覚悟と生徒を見捨てない『優しさ』を秘めた『凄い人物』。
境遇以外が根本的に違う俺と『先生』、それが柊が抱える悩みであり『憧れ』でもあった。
「…本当は、先生とは会った事も話したことも無いけど。俺からしたらもう先生は俺の目指す『目標』であって、『憧れなんだ。』。」
「だって、先生超人だから。…俺みたいな『凡人』とは違う。」
そうだ、先生は『超人』で、佐々木柊は『凡人』だ。
これは永遠に変えられ無い事実である。振り返る問題を、先生は生徒の手を取り合って解決した。右も左も分からない状況下で、そんな事が出来る人間なんていない。
先生は、たった少しでキヴォトスの希望へと讃えられ、キヴォトスの命運を託された。
柊も託されたが、呆気なく死に、約束も期待も無かった事になり、永遠と死の恐怖に怯える。
「…なんで、俺んだろうな。」
幾らでも人は選べた筈だ。
柊よりも運動が出来る人間。柊よりも勉強が出来る人間。柊よりも社交性がある人間。そんな人間を選べば良かった筈だ、けれど他でも無いこの『雑魚』が選ばれた。
____俺なんて。
「一つだけ、あなたに言いたい事がありますわ。」
口を挟んだ、ハルナ。その瞳は柊の瞳を見据え、根本的な中を見据えている様な瞳だった。
「…私には、あなたがどんな人間で。あなたがどんなものを経験したのかは知りません。」
「確かに、先生はとても素晴らしい方で、あなたよりも完成された人間であると思います。それが、世間の声ですわ。」
____そうなのだ、どれだけ背伸びをした所で俺は『超人』になんて。
けれど、とハルナは一言挟み、再び口を開く。
「少なくとも、あなたが選ばれたのは、『あなた』が必要だと誰かが思ったからなのでは無いかと思いますわ。」
「…超人では無い『ササキ・シュウ』という人間が必要だと思った誰かはきっと、今でもあなたの助けを必要としていますわ。」
そんなのは、偶像だ。
佐々木柊はこの世界ではただの弱い人間だ、完璧にも超人にもなれない、『出来損ないの英雄』だ。
ただ、身の丈に合わない約束を中途半端な同情で結び、こんな俺に希望を託してくれた人達を裏切った。
「…俺は超人じゃ無い。佐々木柊の助けが欲しい奴なんてこの世界には居ない。」
「別に、超人に固執する事は無意味ですわ。超人に憧れるのは結構ですし、普通よりは特別な方が良い人も居ますわ。」
「…だから、あなたは半分なくらいが丁度良いと思いますわ。」
____半分。
超人の半分なんて、ただの凡人では無いのだろうか。
どうゆう意味だろうか、俺が憧れるのは何でも出来る超人、『先生』で。
「先生が何でも出来る超人であるのならば、あなた半分の力を合わせて『超人』になれば良いのでは無いでしょうか。」
一息置き、その言葉を紡ぐ。
「半分は『優しい人』にもう半分は『凄い人』に、これが出来ればあなたも『特別』になれると思いますわ。」
時間が静止した。
その言葉を噛み砕くのにどれだけの時間が掛かっただろうか、言い表しにくい言葉の数々が心中を蠢くが、不思議と『分かった』気がする。
佐々木柊は『優しい人』かは分からないが、それは周りが決める事だ。
ササキ・シュウは『凄い人』かは分からないが、それを証明する事をすれば良い。
「本当に、こんな俺でも誰かを助けられるかな。」
「それはあなたの行動次第ですわ。…けれど、少なくとも今のあなたならば、可能だと思いますわ。だって、今のあなた、とても私好みで『美しい』ですわ。」
そう言って貰ったなら、俺はまだやれる筈だ、まだ何も起きていない。
結局自分の命を奪った存在も、これから起こる問題の数々も分からないが、美しいと思えた今の『ササキ・シュウ』ならば____。
「ありがとうな、ハルナ。」
今一度、始めよう。…覚悟は出来た。
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「……今のキヴォトスが抱える問題ですか。」
「あぁ、それが今どうしても聞きたい。」
もう折れない事を決めたシュウは、向かい合って座るハルナへとそう言葉を投げ掛ける。
キヴォトスの問題はある程度理解している。連邦生徒会長の失踪と先生の不在による犯罪率の上昇。殆どの問題はあの時にユウカから説明を受けたが、最も疑問に思った事があった。
____犯罪率が上がってるなら、どうしてそれを連邦生徒会は放置しているだ。
少なくとも、キヴォトスを統制するサンクトゥムタワーが現状制御権を無くし、今その影響で息を潜めていた不良達が一家に活動を再開している。
リンの言及もあった通り、サンクトゥムタワーの制御権を取り戻せばキヴォトスの犯罪率を大幅に下げる事が可能と言われる程に塔は重要な役割を担っているが、今最も大変な時期に何故連邦生徒会は行動を起こさなかったのか。
____分からない。
今自身で問題を解決するには情報不足も良い所だ。分からないのなら、連邦生徒会へとカチコミへと行きたいが、既に『死に戻り』の影響により人間関係は白紙へ。
現状の知り合いは黒舘ハルナのみ。連邦生徒会につてを取れる人間なんて、セミナーの三人以外には出会っていない。
「………いや。」
ないのなら、作ればいい。
連邦生徒会に入れる様に口実を作れば良い。必死に頭を回転させ、シュウは現状の解決策を模索する。
そして、辿り着いた一つのものに。
「…連邦生徒会長の置き手紙。」
『先生』は連邦生徒会長の手紙に書かれていた『選ばれた人』そして、外の世界から来た。
この共通点を逆手に取り、この場にいる『ササキ・シュウ』という人間もまた、連邦生徒会長に『選ばれた人』と誤解させれば良い。置き手紙の内容を覗けば、シュウがその人では無い事が記されているが、俺という存在は、良くも悪くも『イレギュラー』。
突如として、現れ先生が行方知らずとなった直後に現れた同じく『外の人間』。今の状況も利用すれば、ササキ・シュウを選ばれた人だと信じ込ませる事が出来る。
「…あとは、どうやってシャーレに突撃するか、か。」
「なら、私もそれに協力しても宜しくて?」
「……え?」
呆気ない声が溢れ、困惑の瞳でハルナを見つめる。
ハルナとは出会って数時間の仲であり、俺に協力する利点などは皆無。ましてや、何の見返りなど用意出来ない礼儀知らずシュウにとっては、何故ハルナが協力するのか、理解出来ない。
「…良いのか?俺は、何の見返りも出来ないけど。」
「そうですわね、一度食事を共にした食友であるのは差し違い無いですが、それだけで私はそんな無利益な事は致しません。」
「…だったら。」
「けれど、あなたの食事は不思議と私の心を満たしてくれた。初めてですわよ、食事以外で私の心を満たしてくれた人は。」
「…満たしたって。寧ろ、満たして貰ったのはこっちの方だよ。」
本当に、頭が上がらない。
底知れない優しが確かにシュウの心を満たしてくれた。そして、彼女も俺が満たしくれたと言ってくれた。
____なら、頼っても良いだろうか。
いや、頼らせてもらう。
ササキ・シュウには武力なんて持ち合わせていない。あるのは、己の身と『呪い』が二つ。
あまりにも弱いからこそ、誰かを頼ら無ければならない。
「…なら、協力して欲しい。んで、全部終わった後はもう一回飯食べようぜ!」
「…ふふふ、本当に面白い方ですわ。」
シュウが差し出した手をハルナが固く握る。
戦闘面は整った、後は自身の使える手札を使い、連邦生徒会の秘密を探るのみ、それで何度も失敗しようが、必ず辿り着いて見せる。
希望の道に。
「諦めねぇからな。覚悟してけよ、世界!」
そう天に腕を掲げ、高々に世界に、神に宣戦布告をした大馬鹿者は、主人公へとなるべく立ち上がった。
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「…いや、確かに突撃するとは言ったけど……これはおかしいだろ!」
「本当に、ハルナさんが言ってた通り面白い人ですね!⭐︎」
「あ〜もう!うるさいわよ!男なんだからこんな事で驚かないでよ!」
「良いね!良いね!働かざるもの食うべからずだー!」
夜の帷がキヴォトスを包んだ、暗闇の時。シャーレへと突撃する鋼鉄の塊、戦車を走らせるシュウと美食屋研究会の面々。
大人びた印象を与える容姿と長い金髪が特徴的な少女、鰐渕アカリ。
ハンバーガーを片手に、今まで会ってきた人物の中で一番と言って良い程のボディに、長い髪を二つに纏める少女、獅子堂イズミ。
そして、真紅の赤い髪をサイドに纏め、コユキぐらいの背丈の可愛らしい少女、赤司ジュンコ。
最後に、ハルナとシュウを含めた五人は戦車を全速で走らせている。
本来はチームワークなど無く、各々が自由に行動すると聞いていたシュウにとっては、個性が溢れる面々なのかと予想はしていたが、予想通り個性溢れる面白い人達だ。
「…そもそも、本当にこんな奴が連邦生徒会長が言った『選ばれた人』なの?先生が消えたすぐ後に来るなんて怪しい。」
「大丈夫だ。ちゃんと選ばれた人って証明してやるよ。今からな。」
「かっこいいですね!⭐︎」
「それで、一応の場所は分かっているのかしら。」
「あぁ、とりあえずは手当たり次第に行けば何とかなる!」
あまりにも心強い面々。
最初の時とは比べ物にならない程の戦力的余裕と、死に戻りによるある程度のシャーレの構造。
手札は整い、後はリンが渡しそびれた連邦生徒会長の残した物『シッテムの箱』を取り、裏で暗躍する明確な敵を見つけ出す事。
そう頭で考えていたシュウは突如として、大きく揺れた戦車の中で、座っていた座席から飛び上がり、鋼鉄の壁へと顔面を強く打ち付ける。
突然の出来事に、周りを見渡すと何故かイズミがサムズアップの状態でこちらを見ており、とんでもない発言をする。
「シャーレの壁は私がバーンってやったから!後は突撃するだけだよ〜!」
「よくやりましたねイズミさん。⭐︎早速突撃と致しましょうか!⭐︎」
「……え?は、いやいや、ちょっと待って!」
「ほら、さっさと行くわよ!」
イズミの砲撃により、巨大な風穴が空いたシャーレの一室。それを確認したシュウは唖然とするが、それに続く様にイズミ、アカリ、ハルナは各々が銃を装備し、戦車の外へと飛び出した。
シュウはジュンコに首根っこを掴まれた状態で外に放り出され、慌てて着地をするとジュンコに手を引かれながら全速力でシャーレへと開けた穴へと向かう。
ガラスの自動ドアを、手榴弾で破壊し、流れる様に美食屋の面々の後を追うシュウは、ギヴォトスの人の身体能力の高さに驚く。
体育の授業でシャトルランは130回は軽く超えるシュウは、元の世界では体力が一番の自慢と揶揄していたが、そんなものなどこの世界では飾りでしか無い。
「……ほ、本当に、同じ人間かよ!」
自身よりも速い速度で走りながら、全くの息切れすら見せない美食屋の面々。一方で既に虫の息に近づいているシュウは根性だけで足を動かし続け、必死に喰らいつく。
その時、突如として背後から発砲音が鳴り響き、疾風の如くの勢いでハルナがシュウを屈ませ、銃弾の雨からシュウを守る。
「やはり、警備隊などはしっかりと機能している様ですわね。」
「…シュウさん、シッテムの箱の在処は分かるんですか?闇雲に探してもこれ以上は埒があきませんよ。」
「……待て待て、今考えるから。」
思考を張り巡らせ、シッテムの箱の在処を探り出す。
一回目の時は、狐の面を被った少女と鉢合わせ、銃弾に撃ち抜かれて死亡。その時、今と同じ先生とオフィスの地面が謎の振動と衝撃により崩壊。
その結果、落下の衝撃で片腕が欠損し____。
「……地下室!地下があるんだ、此処には地下がある!」
「…分かった〜!なら、全速力でいっくぞ〜!」
「ならば、ハルナさんとイズミさんはこのままシュウさんの元に続いて下さい!後は、私とジュンコさんでこの警備隊を食い止めます!⭐︎」
そう言い、アカリとジュンコは銃口を警備隊達に向け、この場の足止めを選択する。
正直、この後の展開は未知の領域、此処まで戦力的余裕を持ってシャーレへと向かえたのは初であり、そもそもシッテムの箱を見るのすら初めてだ。
だから、ここからは初見プレイ。攻略本は存在しない未知の領域。
「……ちょっとあんた!」
突如として、ジュンコに呼び止められ視界をジュンコへと向ける。
瞬間、指を突き出し、目一杯の笑顔を浮かべシュウを送り出す。
「ここで、やったらかっこいいわよ!」
「……おう、任せておけ!」
___________________
「………これか?」
「えぇ。先生が持っていたものと同じタブレット端末。…それが、連邦生徒会長が残した物ですわ。」
地下へと何事も無く辿り着くことの出来たシュウは、目の前に置かれたタブレット端末へと視線が釘付けになる。
これが、連邦生徒会長が残した物。タブレット端末『シッテムの箱』そのタブレットは今シュウの目の前で強化ガラスの中で電源の付いていない状態で鎮座していた。
「本当に、これがシッテムの箱なのか?箱ってつく物だからてっきり、何かの入れ物かとばかり思ってた。」
「…う〜ん。本当に、これが連邦生徒会長さんが残したものなのかな〜?」
「………近くない?」
「そうかな〜?」
何度もガラスに保管されたタブレットを見続けながら、タブレットを取り出す方法を模索していたシュウは、肩にもたれ掛かるイズミに歳相応の反応を示している。
現実世界では存在しない程に、美しい相貌に暴力的なボディは、思春期男子にとっては正に毒であり、必死に邪な考えを振り払い今の問題へと向き合う。
最悪、ガラス自体は強行手段で割るとし、問題はタブレットの起動になる。
俺が『選ばれた人』だと証明する方法は、このタブレットを起動しサンクトゥムタワーの制御権を取り戻す事が最も重要な事である。
「ハルナ、とりあえずこいつを取り出せるか?」
「無理矢理にでも割ってしまって、宜しいのですか?最悪タブレット事破壊してしまう事に……。」
「出来るだけ、慎重にお願い!」
そう言い、ハルナは携帯していた銃を上げ引き金を引き、甲高い音と共に、銃弾が地面へと落ち、ガラスには若干の亀裂が走る。
その勢いのまま、ハルナは軽く手でガラスを叩くと、割れる音が地下へと鳴り響き、ガラスが粉々に辺りへと散り、シッテムの箱が無防備な状態となる。
「そういえば、あなたはこのタブレットの起動方法をご存知で?」
「………え?」
ハルナはタブレットを掴み、電源ボタンを何度も押し込むが、電源がつく気配は無く、タブレットを一度シュウの元へとハルナは渡す。
タブレットを手に持ったシュウは、タブレットの外装を見るが、一般的な学校支給の教材タブレットと似た様な形状をしており、何処か懐かしさを感じさせる。
「………なんかな。」
無意識に手が画面へと触れる。
脳が意図して手を伸ばした訳でもない、ただ無意識に体が画面へと手を伸ばし、自身でも理解不能な手の動きを見せる自分の手。
それは『自分の手』と言って良いのかも怪しく、自身の体が操り人形の様に感じられ、恐怖する。
その刹那、自身の視界が黒く暗転した。
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「………は?」
視界に光が取り戻され、最初に見たのは、永遠と続く海だった。
ただの海では無く、地面から地平線の彼方まで全てが海に埋め尽くされ、周りに建物らしい建物も鎮座せず、永遠と青い光景が広がる神秘的な空間。
海の上に立つシュウは、一瞬沈む危険性を感じ足を軽く上げるが、不思議な事に海に沈む訳でも無ければ、衣類が水に慣れている訳でもない。
しかし、靴裏には確かにひんやりとした感覚が残り、より一層この空間の神秘と疑問が浮かび上がる。
『初めまして、シュウ様。』
「……お前、は?」
突如として、少女の声がこの神秘的な空間に、音色の様に響き渡り、瞬時に声の主へと視線を向けるシュウは、その存在が人と呼ぶのか分からなかった。
正確には、人の形をしているが、その人は全身が白く顔や髪型も顔の輪郭すらはっきりしない人の形をした『何か』はその手に、自身が持っていた筈のシッテムの箱を握っていた。
「…お前は何なんだ?どう考えても人間じゃ無いよな。」
『肯定。私は、アロナと呼ばれる存在の映像データをバックアップし、予備の保険として生まれた存在。…簡単に言えば、アロナと呼ばれる存在の複製体で御座います。』
「……アロナ?」
『補足。アロナと呼ばれる存在はシッテムの箱のメインOS。言ってしまえばこのシッテムの箱の核となる存在です。』
「な、なるほど?」
説明を受け、自分なりに考えを咀嚼するシュウは状況を丁寧に纏め、簡潔にする。
まず、このシッテムの箱のメインOSである存在『アロナ』。そのアロナが予備の保険として作り上げた白い人物。
しかし、ここで一つの疑問が生じる。
それは、メインOSが不在のシッテムの箱は何故正常に動作が出来ているのか、それが分からない。
「一個聞きたいんだが、メインOSが欠けた電子機器ってのは普通に考えれば、起動すら不可能って聞いた事があるんだけど?
『説明。補足した通り、私はアロナが作り出した予備の保険であり、アロナは自身のOSの権限の半分を私へと託し、今は先生の元へと着いています。』
「あれ?じゃあ、シッテムの箱ってのは二つも存在するもんなのか?」
『否定。シッテムの箱は既存として一つだけの代物であります。…なので、現在アロナは身柄を拘束され、現在ゲマトリアで黒服と名乗る人物の元におります。』
「…ゲマトリア?」
聞き慣れない単語に首を傾げる。
そんな表情を浮かべたシュウを察し、白い人物…もとい『シロナ』が説明をする。
ゲマトリアと呼ばれる存在は、探究心を掲げ、神々の神秘を研究で解き明かす事を目標に、その為なら手段を選ばず、目についた生徒を利用するなど、聞いていて気分の良い話では無い。
だからこそ、何故先生はそんな危険な所に身を置いているのか疑問が積もる。
__分からない分からない分からない。
高校生の一少年が理解できる範疇を大きく超えた、陰謀が渦巻くこのギヴォトス。
常に死と隣り合わせのこの場所で、先生は何を見て、『選択』したのか、思春期で心が完全に成熟した訳では無い一人の少年は必死に頭を回し、理解を試みる。
しかし、その試みも目の前の『シロナ』の発言によって全ては『ゼロ』へと変える。
『危険。現実空間で何者かの襲撃、その影響でササキ・シュウ様の肉体破損率が56%を超えました。』
「は?…しゅ、襲撃?何処だ?」
『視界状況を……。』
「いい、今は俺を現実世界に帰してくれ。今すぐにだ。」
『………しかし。』
「良いんだよ。今!俺がしなきゃいけないのは情報を得る事だ、だから!」
『…理解。肉体と魂の同期を開始、ササキ・シュウ様、どうか苦しみ無く。』
「……なるべく、痛いのは勘弁だ。」
痛いものは痛い、けれどこの痛みを乗り越えなければ次に行けない。
もし終わったら、ハルナとの出会いも美食屋との関係も全てが『ゼロ』に変える。
けれど、不思議と怖くは無い。
____何故なら、立ち上がる事を決めたから。
_____何故なら、世界に宣言したから。
_____何故なら、俺はササキ・シュウだから。
「…だから、諦めない。」
そう言い、少年はあまりにも頼りないその背に全てを背負う決意を固め、地獄へと一歩踏み出した。
___________________
………熱い。
目を覚ました瞬間、最初に感じたのは腹部に広がる不可解な熱だ。
熱いだけなら、服を脱げば解決すると良いが、直感がこの熱を『終わりの証』と受け取り、その熱を受け入れる。
次に四肢の感覚だが、僅かに感じるのは冷たい地面の感触だ。その状況下で自身の体が仰向けに倒れており、瞼も重い。
足は動く、だが両腕に視線を向ければ文字通り首一枚で繋がった状態で、あまりにもショッキングな映像に思わず自身の腕が気持ち悪くて堪らない。
無意識に、自身の終わり悟った心中は最後の最後まで、『次に託す』行動を取る。
「……お、おまえは。」
「驚いた、まだ意識があるとは。即死すれば幸運な事だつたのだかな。」
そして、自身の視界の目前に立つ謎の巨大な男。その男と呼んで良い存在は、鋼鉄の体に不気味な仮面。更には、自身の筋肉質な肉体など霞む程の巨大なその男は、足元に転がる『人だった何か』を心底、退屈そうに見つめる。
もう口を開くので精一杯であり、意識などは無理矢理にでも体に引っ張り続けているが、そんな無意味な足掻きなどほんの数分持つかどうかである。
「…美食屋の奴らも不安なものだ。まさか、あのシッテムの箱が貴様という存在をギヴォトスの『観測者』と呼んでいたが、それも実際は虚勢の貼り付けなものだ。」
「……かんそくしゃ?」
「…そうか、貴様には既に関係の無い話だったな。」
そう呟く、機会男は既に役目を終えたシッテムの箱をその手に収め、懐から黒い鉄の塊、拳銃を取り出し、俺の脳天へと銃口を突き付ける。
「どんな障害であろうと、我。カイザーは永久に不滅だ。それは揺るぎない事実だ。…既にギヴォトスの希望も潰えた。更には観測者も消えた今!ここにカイザーコーポレーションの野望の実現を!」
「……やら…せえ、ぞ。」
必死に体を動かし、上体だけを起こしたシュウは鋭い目つきと『敵意』を宿し、機会男。カイザーの瞳を見据える。
周囲の状況からシャーレの建物は、ほぼ崩落。美食屋____ハルナ達も突然の襲撃により、撤退を余儀なくされたと、そう『思いたい』。
「…ぜっ、たいに……ぶっつぶして…やる!」
「気に入らない目だ。…何故そんな目が出来る?」
『それ以下』の存在である筈の貧弱な少年を瞳に捉えるカイザーはその少年の『歪さ』を肌で感じる。
死を間近に迎える人間の瞳では無い。その瞳に見据えるのは自身自身であっても、もっと先の何かを見つめている。
「…もう既に終わるだけのお前に何が出来る?もう何も、届きはしないぞ。」
「……とどく、ぜ。」
皮一枚で繋がる、腕だったものを上げ、私に指を突き出す少年は震える声で、確かに言葉を紡いだ。
その言葉の意味を未来永劫、カイザーは理解できる筈が無い。今、死に迎える少年は最も過酷で、最も地獄な道を自らの意思で踏み出す『狂人』であり、『酷く優しい人』なのだから。
____だから、諦めない。
「これが、……カウント1だ。」
命を終わらす火薬の匂いと発砲音がこの空間に響き渡り、四度目による命の終焉を迎え、過去へと向かった。
歪な終着点を、希望の終着点へと変える為に。