死に損ないの英雄   作:HakuGozira

6 / 8

 いやー。リゼロって面白すぎわしないですかね?
 小説勢なんですが、スバル君演じる、ゆっけ氏の演技力には度肝を抜かれましたね。
 後は、今日のリゼロタイトルが『オマエハダレダ』なのがちょっと予想とずれましたね。完全に『ハリボテの見る夢』かと思ってましたが、違いましたね。
 ちょっと蛇足しましたが、本編どうぞ。



一章 6話 反撃の狼煙

 

 「…シッテムの箱への接触ですか。」

 

 「あぁ、今俺が戦闘以外で貢献できるのはこれぐらいしか無い。」

 

 ノアとの邂逅を経て、協力を得たシュウは、出来うる限りの状況説明を行い、シャーレ突撃の算段を整える。

 まず自身が貢献出来る事は、シッテムの箱に選ばれた『その人』という認識を使い、シッテムの箱と接触し、その後シロナの力も借り一時的にサンクトゥムタワーの制御権を獲得。

 キヴォトスを支配しようという算段であるが、文面だけを見れば、殆ど悪役の様な所業である。

 

 「まぁ、はっきりと言えば俺が出来るのは一時的な処置であって、ずっと同じ事が出来るとは限らないんだよな。…それこそ、先生が居ればな。」

 

 「そうですけど、私はシュウさんも十分過ぎる程に頑張っているとお見受けしますよ。…自信を持って下さい。」

 

 「……そう、だよな。」

 

 正直な所、不安が物色される訳では無い。

 先生の様に、完全にシッテムの箱へと選ばれた『その人』という存在では無い事は、嫌でも理解してる。

 端的に言えば、自身の存在などキヴォトスを一時的に抑え込む鎮痛剤程度の安らぎだが、僅かな安らぎが今混乱された状況では必要不可欠。

 

 「…まぁ、なるようにやってみるか。どうなるか分からないけど、ノアも居るし。」

 

 「どうしましょう。初対面の男の子に、告白紛いな事をされてしまっています。」

 

 「いやいや!告白じゃないからね!いくら好きな相手でも、ちゃんと手順は踏んで告白するし。」

 

 「…もう、答えになっていますよ。」

 

 「……え?」

 

 自身の発言を思い出し、茹蛸の様に顔を赤く染めたシュウは全身で発言の否定をするが、ノアは面白いものを見る様な笑顔でシュウの姿を見つめ、シュウは後頭部を掻きむしる。

 殆ど初恋に近い状態であり、恋愛経験など皆無なシュウは、洒落ついた会話や相手の手順を踏む初歩的な所が欠けており、シュウは顔を赤く染めながらも自身の心の内を明かす。

 

 「もう絶対なんだけど、俺はノアの事が好きだ。こんな気持ちは初めてだし、正直どう言うって良いのか分かんない。」

 

 なる様になれ、そう言わんばかりに側から見れば、恥ずかしい限りの言葉を紡ぎ続ける。

 

 「だから、ノアの事が好きだけど、この気持ちは今じゃ無いって分かる。」

 

 だが、この気持ちは今じゃ無い。

 恋愛などに気持ちを向けてる場合では無い、迅速な行動をしなければ夜でカイザーの襲撃に遭い、キヴォトスが焼け野原となる。

 その為には、現状再び美食屋研究会の面々との接触も欠かせず、更には他の学園の戦える生徒の力も必要と、人手が圧倒的に足りない今の状況。

 

 だから、今はこの気持ちは心の引き戸にしまう。

 ある程度の整理をつけ、ノアへと顔を向ければ、目を大きく見開き、何処か不意を突かれた表情を浮かべている。

 

 「えっと、なんか凄い事普通に言いまくってたから今更だけど、忘れて欲しいかな…なんて?」

 

 「…大丈夫ですよ、覚えておきます。」

 

 「いやいやいや!忘れて欲しいです!本当に!」

 

 「そこまで言っておいて、ですか?…逆にそこまで言われると、私を本当に好きなのか怪しく感じますが。」

 

 「好きなのは本当。寧ろ、人生で出会ってきた女性という枠組みで天下を突き抜けて、頂点に達してくるぐらい。」

 

 「そ、そうですか。」

 

 「まじで、これは本当にそう思ってる!」

 

 心からの言葉をノアへと伝える。

 酷く熱い顔を抑えながらも、必死に言葉を紡ぐ姿にノアは慈愛の様な表情でシュウを見つめる。

 やらなければいけない事は山積みだが、今はただ、この時間が酷く心地良くて、楽しいとそう思った。

 

 

 ___________________

 

 

 まず状況を整理しよう。

 まず一つは、シッテムの箱との接触を行い、シロナを味方につける事。

 二つ目に、カイザーの襲撃を回避し、後退させる事が必要条件であるが、後者のシッテムの箱を手に入れればカイザーを退ける事が可能となる。

 

 理由はシンプル。

 カイザーへ表向きは、様々な企業を展開する大手企業であり、そんは大手が人殺し、ましてやギヴォトスの希望となる存在を、手にかけるものなら、ギヴォトス中からその信用を失うリスクがある。

 

 信用とササキ・シュウの命を天秤へとかけた場合、信用を捨ててでもシュウの命を奪うとは、到底考えられない。

 他にも不確定要素は山程あり、何故シャーレの突撃を決行しなくとも、シャーレに砲撃砲をカイザーは撃つのか、何故厄災の狐が出現するのか。

 

 だが、今は目の前の事に集中しよう。

 

 「…あらあら、随分と珍しいお客様ですわ。」

 

 「珍しいね、俺はそこまで珍しいもんじゃ無いよ。…ただの普通の男子高校生だよ。」

 

 目の前に佇む、艶のある銀髪を靡かせ、鋭い視線を飛ばす紅の瞳で自身を捉える存在は、黒舘ハルナ。

 何度も、何度も自身の命を救ってくれた大切な仲間で、それ以上に命を賭けても守りたい存在である。

 

 数十回の、繰り返しを果たしてもなお、美食屋研究会、主にハルナとの協力を得られなければ、結果としてバッドエンドへと一直線。

 協力が必要不可欠な中で、美食屋研究会を仲間へと迎えられたのは、シロナとの初邂逅と、カイザーの砲撃砲の時のみで、それ以外は気まぐれで戦車の餌食となったり、美食屋の跡をつけた後、戦闘に巻き込まれ死亡。

 

 自身で振り返る程に、なんとも無様なものだと頭を悩ませる。

 正直、自身の殺した相手を許容できる程、自身の心は歪なものでも無いが、命掛けで自身の命を救ってくれた事を知っている。

 だからこそ、見捨てたくは無いし、安心して自身の身を任せられる。

 

 「所で、ただの野暮用で無ければ、こんな所に足を運ぶ必要は無いと、そうお見受けますよ?…物陰で身を隠しているあなたも。」

 

 「…違うんだ、別にお前達と戦う訳でここに来た訳じゃ無いんだ。」

 

 「ならば、何故ここに?」

 

 「…協力して欲しい事があるから、俺はここに来た。」

 

 「協力とは、私達が見ず知らずのあなたへと手を差し伸べる人とでも思いで?」

 

 「…まぁ、正直に言えば確かに、見ず知らずの人間にいきなり助けてって言われれば、誰でもそんな反応はするのは分かる。」

 

 「……はぁ、聞いて呆れるものですわ。それが分かっておきながら、何故ここに、いえ私の元へと足を運ぶのですか?」

 

 素朴な疑問をハルナは目の前の少年へと投げ掛ける。

 目を向ければ、男性という稀有な存在でありながらも、酷く凡庸な見た目であり、黒髪短髪に、以外にも筋肉質な体は紺色のジャージと相まって何処かスポーツマンを連想させる。

 

 しかし、その存在は神々の祝福である神秘を持ち合わせない、『貧弱な体』。いかに筋肉質と言えど、この世界では神秘の有無で、筋肉など無用の長物となる。

 だが、それ以上に、ハルナは少年の『目』が気になってしょうがない。

 

 何故、その様な目をするのか理解は出来ない。何故、助けを求める存在が、何かを助けようとする目をするのか、分からない。

 理解は出来ないが、少年の目が全てを物語っている。とてもじゃ無いが同年代の少年が、する目では無い。

 

 「……そうだな。」

 

 そこで、口を開く。

 ハルナは少年の一挙手一投足に目を向け、少年の言葉を待つ。

 

 「俺はさ、みんなで一緒に飯が食いたいんだよ。」

 

 「………え?」

 

 唐突に、突拍子の無い言葉にあっけらかんな声が溢れる。

 少年の言葉の真意に、理解が出来ないまま、それでも言葉を続ける少年。

 

 「よくあるだろ?…『働かざるもの食うべからず』って、それと一緒なんだよ。俺は、みんなで一緒に戦って、いい汗と、いい笑顔で飯を食いたいんだ。」

 

 「俺は、一人で飯を食うのは心細いし、寂しいからみんなで飯を食べたいんだ、そこにお前が必要なんだハルナ。」

 

 「ハルナだけじゃ無い。…全員で笑って飯が食いたい。だからハルナ、一緒に飯を食おうぜ。」

 

 意味不明な発言だとハルナは思う。

 突拍子の無い発言に、殆どの人は頭を捻り、首を傾げる。

 しかし、ハルナは何故か少年の言葉に不思議と、心が満たされていくのを感じる。

 

 根拠は無い。けれど、心が根拠という過程を吹き飛ばし、少年の言葉を受け入れる。

 そこにあるのは、同情や慈悲の念では無い、あるのは見えない糸で繋がれた、切れることのない『何か』。確証の無いそれが、ハルナの疑問を吹き飛ばし、体を動かす。

 

 「…一つだけ、尋ねたい事がありますわ。」

 

 「一つだけで良いのか?何個でも、聞いてやるよ。…俺とお前の仲だろ?」

 

 「何を言っているのですか?…私は別に、あなたの発言全てに納得し、その手を取る訳ではございません。そこは勘違いしないで頂いて。」

 

 「…はいよ。」

 

 「ですが、あなたの発言と『目』に心動かされたのは事実。…この黒舘ハルナは、あなたの盾となり、剣となる事を誓いましょう。」

 

 その手を強く握るハルナの手を、更に強く握り返してやる。

 挑発的なその態度と、言葉の裏にある好奇が、本来のハルナの素であると理解するが、その程度で幻滅する事など無い。

 握られたからには、その期待を裏切る事などあってはならない。緊張で上手く笑えているか分からないが、ここにハルナ、ノアが居る。

 

 それだけが、今はシュウの頑張った道のりだ。

 

 

 ___________________

 

 

 夜の帷が落ちた、神秘的な光景が広がるキヴォトスの街並みを走り続けるシュウは、練り上げた作戦の一プランを決行すべく、シャーレへと向かっていた。

 ハルナとの共闘を貼り付けたシュウ。更には、セミナーを味方へと付けたシュウの現状のコンディションは最高潮へと至ったが、不安要素は払拭した訳では無い。

 

 シャーレでの攻防は、これからの課題として必ずぶつかる障害であり、この障害は避けては通れない。

 しかし、どうしても、シャーレへと撃ち込まれる砲撃砲をシャーレの攻防中に対策するのは、まず不可能であり、正直戦闘勝利だけがこの戦いの解決策では無い。

 

 最も問題は、結局この砲撃であり、忌々しく自身の命を無惨にも奪い去って行った憎き鉄の塊を完膚なきまでに、無力化し本当の意味での勝利をもぎ取る。

 

 「…その為に、必要なのは、『シロナ』の力だよな。」

 

 砲撃砲へと唯一対抗できる最終兵器…もとい、シッテムの箱現状OSの『シロナ』の協力は、必要不可欠であるが、シロナの協力はシッテムの箱へと辿り着けさえすれば、達成される。

 シロナのオリジナル、アロナが何故、俺の名前を知って、俺へと権限を与えてくれるのか、謎は謎であるが今は有り難い事に変わりは無い。

 

 『あ、あ。聞こえますか?シュウくん?」

 

 「おう、ばっちり聞こえてるぜノア。…いや、至近距離ノアも最高だ。」

 

 『馬鹿な事は言ってないで、今は目の前の事に集中して下さい。…現在、シャーレの警備隊は美食屋の皆さんが相手をしていますので、シュウくんは、このまま進んで下さい。』

 

 「分かった。」

 

 まず前提として、全員が傷一つなく戦いを完遂するのが絶対条件。それ故に、ノアは遠隔でのシャーレの案内と状況確認。ハルナ達美食屋の面々はシャーレ内の警備隊達を引き寄せ、建物外へと避難させている。

 はっきりと言えば、シャーレでの攻防はササキ・シュウ単独での突撃と変わりは無く、最初はハルナとノアからの猛反対を喰らったが、ユウカがゲヘナ学園へと連絡を入れ、『キヴォトス最強』と謳われる存在に協力を申し立てる事で、解決した。

 

 「…いや、けどな。キヴォトス最強の力が未知数すぎはしないか?…なんだよ、戦ってる自分じゃ無くて周りが危険な目に遭うって。」

 

 『それ程までに、空崎ヒナさんという存在は、文字通り桁違いの存在です。…しかし、ヒナさんが到着するまでの時間稼ぎは、シュウくんに掛かっています。』

 

 「分かってる。だから、その為に最高の相棒を仲間にするんだ。」

 

 『キヴォトス最強』と呼ばれる空崎ヒナ。

 しかし、空崎ヒナが到着するまでの時間稼ぎと、カイザーの砲撃を止める二つは、シュウにしか出来ない。

 

 途轍も無い緊張が、シュウの心へと降り掛かる。幾ら死を経験し、立ち上がっても、死の恐怖は消える訳では無いし、ましてや自身の死と顔の知った仲間達が、傷付き、危険な目に遭うのはもっと御免だ。

 正直に言えば、今でも喉の辺りを蠢く、酸っぱい胃液を吐き出したいし、足腰に力を入れてるだけで、すぐ気を抜けば、失禁しかねない程の緊張から解放されたいと、願う。

 

 故に、弱者の精一杯の強がりは、誰の目にも止まる物だが、今はこの感覚が、自身をまだ普通の人間として居るんだと、感じさせる。

 

 ___痛いのは、やだ。死ぬのはもっとやだ。

 

 弱音が自身の声となって耳に届く。

 けれど、自身の周りには頼れる美食屋の面々に、好きな人がいる。それだけで、今は必死に取り繕って歩みを続けられる。

 

 「…好きな子の前で、かっこつける事の何が悪いんだよ。」

 

 好きな子の前で、弱くとも格好をつける事の何が悪いのか、否、全男子は単細胞の如く単純で、好きな子の前で無意識に格好をつける。

 

 「うっし、気合いは充分。覚悟は半分。」

 

 『気合いはあっても覚悟が足りないと、少し不安ですね。』

 

 「…それもそうだけど、ノアに一つ良い事を教えてやるよ。それはそれ、これはこれだ。」

 

 覚悟は足りない、けれど足掻く気合いは充分。

 足りない覚悟は気合いで補う、諦めの悪い男の力を見せつけてやろう。

 酷い面の男は、最も意地汚い笑みを浮かべ、その瞳に闘志を燃やしながら歩き続けた。

 

 

 ___________________

 

 

 「…だぁー!もう!なんでいつも上手くいかないんだよ!」

 

 『無駄口は結構なので!…そこは右です!』

 

 意気揚々とシャーレへと突撃したのは、束の間。

 シュウは現在、シャーレの警備隊とは別の部隊。『ヴァルキューレ』と呼ばれる連邦生徒会直属の警察部隊に、何故か全力で追われている。

 

 『死に戻り』で得た情報は、昼に厄災の狐。夜にはカイザーの襲撃と完全な予測が出来た筈だったが、ここに来て完全に未知数の第三戦力が魔の手を伸ばし、迫り来る銃弾の嵐をノアの案内に続いて回避していく。

 

 指示の元、右へと方向を変え、全力で駆け出すシュウは、背後から鳴り響く銃声の嵐と、爆破物の破裂音が響きその音と共に、体が鞭を打ったかの様に再び走り出す。

 よくある『タイムリープ』系は、現状未来で確定した情報は、覆る事なく、永遠と同じ流れを辿る筈の『当たり前』をことごとく破る掟破りな状況に、頭を抱えたくなるが、それで状況が好転する訳ではない。

 

 「…くっそ!横腹痛い!」

 

 何度死に、戻ろうとも、筋力や体力が『蓄積』する事は無い。唯一残るのは、死までの記憶と『痛み』のみ。

 しかし、その経験が今のササキ・シュウを形作る。四肢は繋がっている、擦り傷一つすら付いていない。五体満足な体。

 

 四肢が付いて、動くだけでまだ足掻く事は出来る。

 懸垂と同じ要領で、器用に階段の手すりへと登り、階段を登る時間を多少短縮する。

 部活動では無駄な筋力と言われた前腕と二の腕。今はその筋力達が、命の危機に瀕した状況で、火事場の馬鹿力を発揮し、通常のパフォーマンスよりも遥かに体が動く。

 

 「いけるいけるいける!…いいぞ、俺の筋トレ!」

 

 『逃げる事だけが勝利ではありません。…そのまま前進して、地下へと降りて下さい。』

 

 「…分かった。アドレナリンが入ったお陰か、体力に心配はな……。」

 

 「そうか、体力に心配は無いのなら、今度はこちらと遊んで貰おうか、観測者。」

 

 背後に響く、声に野生動物を連想させる咄嗟の動きで、視線を声の主へと向ければ、凄まじい図体に、鋼鉄の面を被る今、自身が最も憎むべき存在。

 

 「……カイザー!」

 

 「声を張り上げずとも、聞こえるさ。…もっとも、今から貴様が聞く事になるのは、この地に生きる者達の悲鳴、だかな。」

 

 意気揚々と、語り出すカイザーを鋭い眼力で睨み付ける。

 目を通すだけで、カイザーの背後に立つのは数十体のロボット兵達。兵達は各々が小型拳銃に大型拳銃、更にはロケットランチャーとササキ・シュウという個を葬り去るには、過剰な戦力。

 武力面では、考える間も無く劣勢で、あまつさえ目の前の殆どの奴等は、金属などで身を包むが、一方は身一つの生身。

 

 『……シュウくん。私が合図を出した瞬間、全力で扉に向かって、目一杯に扉を閉めて下さい。チャンスは一度です。』

 

 肝が冷える詰みの盤面に響く、鈴の様な声は、恐怖する少年の心を奮い立たせる。

 頭を振り、覚悟を決めたシュウは、自身の軸足である右足を若干浮かせる。そして、

 

 「……っ!」

 

 ノアの合図が耳を突く。

 瞬間に、自身の初速と兵達の動きが合わさる。

 ぎこちない全速力で、扉へと駆け出す少年の背を、無数の鉄の棘が襲い掛かる。

 若干の数歩の僅かな距離は、銃を前にした人間の前では、終わる事の無い道に感じる。

 

 「……ぁが!」

 

 扉へと辿り着き、乱暴に足で鉄扉を閉めるその瞬間、たった一発の弾丸が、シュウの肩へと被弾する。痛みをどれだけ経験しようとも、慣れる事は無い。

 肩から溢れ出す鮮血と、激痛に肩を抑えながら、震える足取りで、階段を降りる。

 

 「痛く無い痛く無い痛く無い!…やっぱり痛い!」

 

 『…ごめんなさいシュウくん。私の判断ミスで、貴方に傷を与えてしまって。』

 

 「き、気にしないでくれ。あの時はこれが最善の手だったよ。寧ろ、足に当たんなくて良かったよ。」

 

 『…そう、ですか。』

 

 ジャージの上を脱ぎ、力一杯に肩へと上を巻き付け、必要最低限の止血を行い、軽く肩を慣らす。

 幸いに、銃弾が貫通せず、体内へと銃弾が残り、肩らへんに熱と痛み以外に、ひんやりとした感触が僅かに残る。

 

 気色の悪い感覚を、膝を殴り続ける事で緩和し、肩を抑えながら地下へと向かう。

 壁へと手をつきながら、痛みに耐え、悶える虫の息の少年は、確かに震える両足で、進み続け、シッテムの箱が鎮座する地下へと辿り着くが、

 

 「……クソが。」

 

 「随分と、虫の息の様だな観測者。もっとも貴様の策略など、我の前では無意味に近いというに、愚かな。」

 

 耳にも入れたく無い、神経を逆撫でする声が響き、正面へと視線を向ければ、巨体の大男。カイザーが佇んでいた。

 不自然に空いた天井からは、カイザーが地面を破壊し、自身が辿り着くよりも先にシッテムの箱へと到着した形跡があり、凄まじい執着心に自ずと恐怖よりも、不快感を覚える。

 ほんの僅かな時間、そんな時間がカイザーという人間に多少の猶予を与えた。

 

 「…さぁ、どうする?既にシッテムの箱は我が支柱の中だ、武力も無く、出血多量で意識が朦朧とする弱者が一人で、何が出来る?」

 

 __頭を回せ、回せ回せ回せ回せ!

 

 シッテムの箱を片手に、懐から拳銃を取り出したカイザーは、目の前の血まみれの少年へと銃口を突き付ける。

 引き金に指は掛けられ、勝敗は確定した王手の状況。

 

 銃口を突き付けられる少年は、微塵子程度の脳を全力で回し、打開策を練るが、突き付けられる銃口と圧倒的なまでの『理不尽』に、思考が放棄を選ぶ。

 心中が諦め、銃口から放たれる銃弾の痛みに耐えるかの如く、両目を瞑り、『終わり』を覚悟したその刹那、一発の銃弾が静寂を打ち破った。

 

 「シュウくん!…立ち上がって下さい!まだ、諦めては、駄目です!」

 

 「……っ!」

 

 静寂に響く、ノアの声。

 凛とした表情からは、似ても似つかない張り上げた声に、自身の体の中に、再び熱が入り込む。

 

 「うぁら!」

 

 突然の出来事に唖然としたカイザーに飛び掛かり、その手からシッテムの箱を奪い取るが、カイザーの抵抗を喰らい、腹部へと重い蹴りが突き刺さり、体を鞭打ちながら地面へと転がる。

 蹴りの位置が、運悪く鳩尾へと放たれ、視界が白く点滅するシュウ。

 

 「……ふざけた真似を、してくれる!良いだろう、貴様がそれ程までに我へと抗うというのなら、この地全てを焼け野原へと変えてくれる!」

 

 「…離して、離して!」

 

 カイザーが取り出した、携帯電話。

 シャーレとへと突撃してきた周回の中で、ミサイルが飛んでくる瞬間は、あの携帯電話へとカイザーが指示を飛ばし、ミサイルが放たれる事を、シュウは理解している。

 

 ノアは、カイザーの手を撃ち抜こうと銃口を向けるが、背後から飛び出したロボット兵達に押さえ込まれ、身柄を拘束される。

 

 勝ち誇ったが如く、額へと手を当て、笑い声を上げるカイザー。

 ノアが必死にロボット兵達へと抵抗をするが、抵抗虚しく数の暴力には逆らえない。

 絶望的、圧倒的なその光景で、自身の優位を確信したカイザー、倒れ伏す少年へと歩み寄り、その絶望へと満ちた表情を一目見ようとし、カイザーは少年が浮かべた表情に唖然とする。

 

 「……何故、笑っているのだ。」

 

 「馬鹿、野郎が。そうやってお前は大事な所で自分の優位を確信したら、ノロマになる脳無しで良かったよ!」

 

 「ふ………シロナ!」

 

 少年がその名を叫べば、不意に暗闇であったタブレットへと電源が入り、最も頼りになる俺の『最高の相棒』が、少年の耳へと入る。

 

 『認証完了。…シュウ様、ご命令。』

 

 「…このキヴォトス全土でも良い!とりあえず全部の電子機器の機能を止めてくれ!…頼むぞ、シロナ!」

 

 『理解。一時的にサンクトゥムタワーの制御権をシュウ様へ、これによりサンクトゥムタワーの半径数百kmに及ぶ範囲の電子機器の機能停止を確認。』

 

 シロナの声が響いた直後、地下の唯一の灯りが息を止めるかの様に止まり、カイザーが握っていた携帯電話も機能を停止し、画面が暗闇へと変わる。

 隙を見計らい、カイザーから慌てて距離を取るシュウは、ノアを取り押さえるロボット兵達へと突撃し、ノアを解放する。

 ノアは解放された瞬間、地面へと投げ捨てられた自身の拳銃を拾い、銃口をロボット兵達へと向け、発砲し、兵達を無力化する。

 

 「…無茶し過ぎです。」

 

 「無茶するぐらいが、男みたいなもんだ。…さぁ、後はこの場所から離れるだけだな。歩くのは頼んだノア、もう正直立ってるだけできつい。」

 

 「…肩なんて、幾らでも貸しますよ。…本当に、よく頑張りましたよシュウくん。」

 

 ノアに肩を預け、途方も無い道を歩き続ける。

 肩に被弾し、出血多量で今でも意識を失いそうな危機的状態に、鳩尾に入った重い蹴りは、気を抜くだけで血の血塊を吐き出さんとするが、ノアを汚さまいと、必死に喉で咳止める。

 僅かな歩く振動で、肩に激痛が走り今すぐにでも泣いてのたうち回りたいと、そう考えるシュウ。

 

 必死に取り繕って決壊寸前の感情のダムを、押し殺し、今はただ『救えた事』を必死に噛み締める。

 

 「…ノア、本当に俺は出来た、かな?皆んなが信じてくれて、託してくれた期待に、俺は応えられたかな。」

 

 「そんな事を、今聞くんですか?…これ程までに、誰かの為に動いて、傷ついても立ち上がった貴方は、期待以上の人ですよ。」

 

 「…なので、もし誰かが貴方の努力や期待を否定するのなら、私は最後まで貴方が期待を裏切らない優しくて凄い人だ、という事を言い続けます。ですから、今は胸を張って下さい。」

 

 ノアの言葉に、全身という熱が一気に湧き上がる。

 酷く顔が熱くて、ノアの顔をまともに見ていられなくなる。本当に、本当に好きなんだ、生塩ノアっていう女の子の、愛しさで胸が張り裂けそうる。

 出来ある事なら今、この場でノアの愛を叫び、結婚指輪の一つでも贈りたい。

 

 「……好きだな。」

 

 愛の呟きを溢す唇が、ノアの手に塞がれる。

 突然の出来事に困惑する間も無く、それは起こった。

 

 鳴り響くのは凄まじい轟音、耳を塞が無くては鼓膜すら破りかね無い甲高い音は、崩落する壁と硝子の音と共に鳴り響く。

 押し倒される形でノアが上に覆い被さり、降り注ぐ硝子の破片や壁の崩落で落下するコンクリート片を、自身の体で防ぎ、シュウの身の安全を守り抜く。

 

 舞い上がる火薬の煙と、何処からか聞こえる耳障りな声。

 気付くよりも先に、シュウの手足は行動を選択し、ノアの体を支え、壁際へと退避する。

 口へと手を置き、呼吸の有無を確認し、僅かな息遣いがシュウの耳へと聞こえ、内心安堵する。

 

 「…何が、どうなって。」

 

 「貴様の選択が招いた、破滅の道だ。」

 

 静寂に響くのは、最悪の声。

 カイザーは、乱暴に砂煙を振り払い、その姿を現すが、シュウの視線はカイザーの背後に控える、巨大な鉄の塊軍である。

 背後に立つのは、様々な武装で銃口を自身達へと向ける、ロボット兵隊達、自身が見えいる限りでの兵達は数十程度かと、身勝手に最悪の事態を想定していなかった。

 

 銃には、多少の耐性が付き、最初程の同様は見せなくなった筈のシュウの心臓は、酷く波打ち、息遣いすら鼓動で掻き消される。

 兵達の裏、このフロアを取り囲むように飛行するのは、機関銃を装備し、風を切る鋼鉄の輪っか、プロペラを回転させた、『最悪の武器』

 

 「…戦闘機。」

 

 「いやはや、貴様の様な存在に、ここまでの手を打つのは久方ぶりだったぞ。…冥土の土産として、我カイザーを踊らした罪を持っていく事だな。」

 

 「…最も、冥土に行く前に、我が貴様を地獄に送ってやるだけの話だが、な。」

 

 目視に入れるだけで、数機。否、数十機はくだら無い戦闘機軍団。

 暗闇を照らす照明灯は、シュウ達の最後を飾るかスポットライトの如く、自身達をピンポイントに照らす。

 

 圧倒的、罪の盤面。武力は皆無の少年に、武力に倒れ伏す少女、絶望的な状況をたった一人の少年が覆す事は不可能。

 最後はノアだけでもと、無価値な正義感は、今だに電源の入ら無いシロナが活動しなければ、守る事すら出来ない無力な少年。

 

 自身の無力に打ちひしがれる前に、終わりの時は、迫る。

 忌々しい男が、腕を上げるのを合図に、無数の銃口が少年へと突き付けられる。

 方や、拳銃。方や、機関銃。ノアを守ろうと無意識にその腕へとノアを抱き止める少年は、迫り来る銃撃の嵐を前に、肉壁と機能するかも怪しい。

 

 世界が、映画の演出の様にスローとなる。

 脳へと流れ込むのは、無数の死の瞬間。

 銃撃の嵐に、体が原型を留めず肉片となって死に、戦車の砲撃を生身で喰らい、痛いという感覚すら麻痺したまま、死んで。

 死の記憶が、最後となって自身の心を折らせない。

 

 ___諦めるな、諦めるな。

 

 無責任な心の声が、嫌でも死を拒む。

 スローとなる世界、永遠とも思えた振り上げられた腕は、静かに振り下ろされ、銃撃の雨が、文字通りササキ・シュウという存在を跡形も無く殺す、その瞬間。

 

 「…そこまでよ。」

 

 似ても似つかない、可愛らしい声が静寂を引き裂く。

 力強く着地し、周囲を立ち登る砂煙が、少女の身動き一つで消し飛び、俺は、虚な瞳で少女を見つめる。

 

 高貴な輪っか。長い銀髪に、アメジストの様な瞳、由緒正しい正装へと身を包み、肩に羽織る黒の制服の裾には、風紀委員と描かれた赤の腕賞。

 

 「……あんたは。」

 

 「…私は、ゲヘナ学園。風紀委員会委員長。空崎ヒナ。」

 

 華のある佇まい、酷く洗礼された動作でこちらを振り向く『最強』は、血まみれの少年へと目を向け、宣言する。

 

 「遅れて申し訳ないわ。…その分は、活躍で答える。」

 

 容姿にそぐわない、大型銃を取り出し、カイザーへとの銃口を向ける、『キヴォトス最強』は、その威厳を、圧倒的蹂躙を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 後二話ぐらいでシャーレ完結させて、次章に行きたい。
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