死に損ないの英雄   作:HakuGozira

7 / 8
 現地点でのササキ・シュウ認識は甘く。

 裏に繋がる存在がゲマトリアであると理解していません。黒服は先生を攫った以外に情報が浮き彫りとなっていない為、シュウの中でまだ黒服の評価は低い訳ではございません。
 後は、シュウくんが武器を持ち始めますが、武器構成が某ハザードの某S・ケネディです。


一章 7話 神様、助けて下さい。

 

 ____規格外。

 不意に、溢れるその言葉。

 異世界へと飛ばされ、永遠と死を続けた地獄の世界で、この言葉を何度も呟いた。

 

 一般的な思考では、拳銃で人間は死ぬ…この世界では、単なる牽制の道具としか機能せず、殺傷能力をこの世界の人間達は、銃に抱いていない。

 あくまでも、一時的に意識を奪うか、相手の身動きを止めるかの単純な二択。故に、

 

 「おゎゎゎゎ!」

 

 目の前で繰り広げられる、銃一つで、鋼鉄の機械軍達をあしらい、恐ろしい精度で、戦闘機を銃弾一つで撃墜させる圧倒的蹂躙。

 正しく、個として『規格外』の存在、空崎ヒナ。

 

 戦闘に参加しようにも、降り注ぐ銃撃の嵐と、空崎が破壊する建物群の崩落からノアを、守るので手一杯。

 反撃の手を緩めまいと、永遠と銃の乱射を続けるカイザー達。迫り来る銃撃の嵐を前に、威風堂々と瞬き一つすらしない空崎。

 

 「……ば、化け物かよ!」

 

 「流石に、少女相手にその言葉は、御法度だと思うのだけれど?」

 

 「えー!?い、いつの間に?」

 

 既に、自身のすぐ側に佇む空崎に、驚き尻餅を着くシュウ。

 シャーレの天井を突き破り、瞬きの一瞬でカイザー達を蹂躙し尽くした、規格外空崎ヒナ。

 完全な初対面で、空崎の一方的な蹂躙光景を目の当たりにした弱者は、強者へと膝をつくが如く、無意識に体は正座を選択した。

 

 「…とゆうか、ヒナさんが来たって事は、俺らの協力を受け入れてくれるって事で良いのか?」

 

 「ええ。…その認識で間違いないわ。けれど、戦線に入るのが遅れたのは、一生の不覚だわ。」

 

 「いや、そんなに謙遜する事は無いって。寧ろ、本当にベストタイミングだった。ありがとうヒナさん。」

 

 深々と頭を下げる。

 自身の非を責めるヒナだが、最もあの場でヒナの参戦が無ければ、銃撃の嵐に、シュウはなす術もなくその全てを肉塊へと変えられていた。

 寧ろ、頭を下げても足りない程の活躍を一瞬で作り出しのは空崎ヒナおいて、他に居ない。

 

 意識を失ったノアを背負い、シッテムの箱を口で咥えるシュウ、奇抜なスタイルに、ヒナは若干の引き具合を見せるが、直様顔を無表情へと変え、護衛へと専念する。

 

 「そういえばさ、ヴァルキューレの奴らも此処に居たと思うんだけど、そいつらはどうなった?」

 

 「…申し訳ないのだけれど、問答無用で後退させた。一刻を争う状況だったから、手加減は多少したつもりなのだけれど。」

 

 「あぁ〜本当に、凄いですね。」

 

 規格外の暴れっぷりに、苦笑いを浮かべるシュウ。各々が完全武装と呼べるカイザー軍団を、殆ど銃を無しに、素手で蹂躙し、状況が状況と言えど、単独で軍隊を後退させる無類の強さ。

 なろう系主人公ばりの、『俺TUEEE』状態のヒナに、弱者の言葉選びは慎重となる。

 

 「とりあえず、これで解決って事には、ならないよな?」

 

 確信の無い、解決の言葉を言いたいが、現状全てが解決した訳では無い。

 山積みとなった問題は、数知れず、カイザーコーポレーションの悪行。不祥事でのヴァルキューレ介入と、事の重要性を理解し難いシュウであるが、事情を深く知るヒナは、浮き彫りとなった問題に頭を抱える。

 

 「これで解決なら、良いのだけれど。…現実は残酷よ。」

 

 「……本当にな。」

 

 現実にどれ程押し潰されたか、数えても無い。

 無知の知、知らないが故に知らなければならないと、心が覚悟を決める。

 

 「なぁ、教えてくれるかあんたが知っている全てを。」

 

 第三勢力、『ヴァルキューレ』の介入に、カイザーコーポレーションの単純で、不自然な動き、それら全ての真相を目の前の少女へと尋ねる。

 空崎は、目を閉じ、その口から真相を話した。

 

 

 ___________________

 

 

 大前提に、『先生』は不確定な存在では無く、事実上存在した連邦生徒会長が選んだ『その人』であり、シュウの様に特異的な存在では無い。

 

 連邦生徒会長が書き置いた、『置き手紙』には、近い将来キヴォトスを救う希望が現れると、記され、実際に置き手紙の発見から数日後に、謎の大人『先生』が現れ、混乱状態のキヴォトスを再び、統率する可能性があった。

 誰もが希望を抱き、尊敬できる大人という観点で、凄まじい賞賛を浴びた『先生』は、アビドス高等学校の支援要請を受け取り、高校へと出向き、消息を絶った。

 

 無論、この件にキヴォトス中が衝撃を受け、連邦生徒会へと情報の追及を求めたが、何者かの裏の介入で、追及自体を抹消。

 結果、事実上は殆どの人々が、先生消息を明かされず、再びキヴォトスは暗黒期へと舵をきった。

 

 「…じゃあ、先生失踪を知ってんのは、ヒナさんだけ?」

 

 「いいえ。とある一件で確証を得た、私達風紀委員会は、連邦生徒会の監視下から外れて、極秘で捜査を行ったの。」

 

 「それで、分かった事がカイザーコーポレーションの協力と。」

 

 カイザーの目論見は、軍事的行為での、キヴォトス全土の掌握。

 建前は判明しているが、矛盾の多い点は幾つも有り、第一に、冷酷なまでの人間が、自身自ら赴き、俺を殺そうとするのかが、理解出来ない。

 賄賂やらで、殺し屋を雇い、極秘裏に命を奪えば、足跡を辿られず、かつ『キヴォトス最強』に警戒される事もないだろうに。

 

 「……なんかな、裏に誰か居そうだな。」

 

 最もらしい結論。

 何者かの促しを呑み、餌に釣られる魚を連想させる、カイザーの脳の無い単純な動きは、裏で糸を引く何者かの影響が強い。

 更には、カイザー襲撃と同時に現れた連邦生徒会率いる『ヴァルキューレ』の介入は、自身の最悪の結論を確定づける。

 

 ___連邦生徒会にカイザーと裏で繋がる何者かがいる。

 

 確定づけるには早とちりにも考えられる最悪な結論。

 厄災の狐の出現、カイザーコーポレーションのシャーレ襲撃と不自然なヴァルキューレの動き。

 一難去ってまた一難と言うが、降り掛かる最悪の数々に、自身の打ち破った最悪のほんの一握りに過ぎない事を、実感させられる。

 

 深淵もまたこちらをのぞいている。深く潜れば、潜る程に悪意は牙を剥き、ササキ・シュウの命を脅かす。

 抜けるものなら抜けたい、底無しの悪意の沼に不用心にも、片足を責任も無く突っ込む、愚者。

 

 秤にかけられた無数の命を踏み台に、死に損ないは何度、自身の選択を呪い続ける。

 大人のいない、子供だけの箱庭で、永遠と自負と挫折を繰り返す少年少女達、巻き込まれた少年は、渦巻く陰謀など到底退けられる力など存在しない。

 

 ___けど、無責任でもやり遂げる。

 助けてと、声を上げる少女がいる。少年に託し、希望を見出す人達がいる。

 自身だけは、目を背けない。消えてなくなる思い出も、約束も、全てを無かった事にするのは、無理だ。

 

 「…何でもかんでも、背負いすぎだよみんな。」

 

 歳相応に、恋、勉学に葛藤する瞬きの瞬間に終わってしまう程の短い学生時代。

 短い学生時代を、この世界の学生達は、何ら社畜と変わらないデスクワークに時間を浪費し、異性に至っては、化粧で誤魔化しの効かない程にクマをつける人達がいる。

 

 ___ふざけるな。

 

 今、此処から始めるんだ。

 先生が消え、来るはずだった青春の物語を描けない全員に、俺が与えるんだ。

 解答用紙に白紙は、気に食わない。誰もが青春に答えを見つけ、笑い合って青春を謳歌する、そんな青春の秒針を今刻もう。

 

 ___これは、俺が与える青春の物語だ。

 

 

 ___________________

 

 

 凛々しい姿で、汗一つない純美の空崎、方や、額に血を滲ませ、肩から着弾した傷を上着で出血し、意識が覚束ない弱者、ササキ・シュウ。

 今だに意識の戻らないノアを背に、満身創痍が二名とキヴォトス最強が一名。激動の一日は、登りゆく朝日の祝福を受け、あれ程願った『明日』を肌で感じる。

 

 小鳥の囀りすら美酒に思え、心を満たす達成感が苦労と、激痛の痛みを上から蓋をする。

 

 「…っ。」

 

 「お、目が覚めたか。ノア。」

 

 背から、女神の祝福が耳を癒す、体制を落とし、ノアをその背から下ろし、今一度その瞳と向き合う。

 シュウの瞳と少女の瞳が、祝杯を交わす。時間が止まれば良いのに、貧困な自身の心では、少女と眩しい朝日をどう表現するか、分からない。

 

 「…シュウくん。」

 

 「あ〜!今は、そんな悲しい顔はしないで欲しい。…こんなドラマチックな場面で、ヒロインが悲しい表情で終わるラストなんて、誰が望むんだよ。」

 

 目尻に涙を浮かべ、自身に自負を枷にするノアを宥める。

 責任なんて、この場の誰一人にも無いのだ、混乱と理不尽に苛まれ、望まぬ形で、陥れる。けれど、一人で拭えない物は誰かと拭ってやれば良い。

 子供の内は、太らない。そうゆうものだ、子供の内だから責任は、半分こして背負えば良い。

 

 「何度も、言うけど。ノアが居ないと俺本当に、あの場で終わってた。感謝しても仕切れない方はこっちだよ。」

 

 「ですが、私は言葉を投げ掛けるだけで、シュウくんの助けになった覚えは、」

 

 「…言葉はな、人を強くすんだよ。」

 

 発言を真っ向から否定する。

 無力に打ちひしがれ、永遠と自身の力及ばない最悪に何度も直面した男を、俺が一番知っている。

 力足りなくとも、言葉が力をくれる。逆も然り、言葉は『強力な武器』の前に、『優しい魔法』でもある。

 

 「ノアの言葉に、俺は何度も何度も助けられたよ。…あの場で誰よりも一番聞きたかった声は、ノアなんだよ。だから、俺は撃たれて、蹴られてそれでも諦めなかった。」

 

 「言葉の力なんて、そんな不確定要素で人が、強くなれる訳無いじゃないですか。」

 

 「でも、実際俺は立ち上がったし、現にシッテムの箱も俺の手の中。ほら、証明できたろ?」

 

 「ですが、私の言葉にそれ程の力があるなんて、考えられません。」

 

 永遠と自己否定を繰り返す、恋しい人。

 稀に、自身の事を相手の方が良く知っていると言うが、実際その通りなのかもしれない。

 自身が与えた物は、相手にとってほんの一握りのすずめの涙程度のもの、否、与えた物と貰う物は根底から違う。

 

 与えたのが僅かでも、貰ったものは遥かに大きい。

 失うばかりの小さな少年に、少女は、仲間は大きなものをくれた。貰い物ばかりの『貧しい少年』は、目の前の少女に今度は自分が『与える』。

 

 「…ノアが自分の言葉に何も感じないのなら、俺がその言葉を何度も受け取るよ。…受け取って君の言葉に力があるんだって証明する。」

 

 「証明なんて、」

 

 「君が言う、不確定要素ってのは、奇跡って言うんだ。君は、俺に希望をくれた。だから、俺は君に奇跡を与えるよ。…希望が、奇跡を手繰り寄るんだから。」

 

 希望が奇跡を呼ぶ。

 取るに足らない身勝手な言葉。言葉が、希望になるのなら俺は、希望を背負い奇跡を手繰り寄せる。

 不可能は無い、ノアが否定した全てを使って何度でも奇跡を乗せる。否定を振り払い、君が自信を持って言葉を紡げるその時まで。

 

 「……だから、何度も言うよ。ありがとうノア。俺を、助けてくれて。どうしようもないササキ・シュウに希望を、奇跡を起こさせてくれてありがとう。」

 

 照り付ける日が、ノアの相貌を照らす。

 純白の、穢れを知らない優美に太陽のグラデーションが掛かる。悲壮な表情は形を潜め、瞳に映るのは柔らかな少女の笑顔。

 

 ___本当に、お前が頑張る気持ちが分かったよ、ナツキ・スバル。

 優しくて、大好き人の為に戦える大馬鹿野郎の心情が、輪郭を帯びる。

 画面の向こうの事象、縁の無い命を賭けて何かを守る大馬鹿野郎は、何度も絶望を乗り越え、たった一人の笑顔を見る為に頑張った。

 

 死の値に、釣り合う報酬では無いのは明白、あの虚無と喪失感を帳消しに出来る程では無い。

 けれど、今だけはあいつの言葉を否定する。

 

 「こちらこそ、私に、信じさせて、奇跡を手繰り寄せた貴方を、尊敬します。」

 

 「ありがとうございます、シュウくん。全てを、私を助けてくれて。」

 

 リザルト結果・通算死亡回数31回。

 拭い切れない後悔も、トラウマを心に刻まれながら、弱者の強がりで無我夢中に抗い続け、手に入れた『明日』と『好きな子の笑顔』。

 

 ___なんだよ、結構割に合うじゃん。

 

 

 ___________________

 

 

 「ククク、やはり退けましたか。…期待以上です。」

 

 人と呼ぶには、あまりの異形の存在が、電子機器の画面を凝視する。

 人肌を感じさせない、服の裾、顔を全てが黒い何か。はたや、コスプレの類と、常人は片付けるふざけた存在は、その心中に強い『好奇』を宿す。

 

 幼少期、全ての物事に楽しさを見出し、好奇心と探究心のみで体を動かす、少年じみた『好奇心の塊』は、一人の突如現れた少年に強い、否、探究心だけでは、片付けられない激動が渦を巻く。

 協力関係とあるカイザーPMCに発破を掛け、連邦生徒会、不知火カヤと癒着関係を結ぶ、ジェネラルを利用。カイザー軍とヴァルキューレの不利的状況を、初見で退けた。

 

 「…いえ、初見では無い。既に確定した過去を彼は、見ている。」

 

 最悪、厄災の狐すらも『先生』のお力を利用し、投下をも考えたが、彼の未知数の力は、『必ず勝つまで継続する』。

 三勢力で挑もうと、彼は跳ね退ける、現に、彼は初見でこれらの窮地を脱した。更には、カイザーが使用許可を出したキヴォトス全てを火の海へと変えるミサイル

 

 その存在は、カイザーと私以外に知る人物はこの世界と存在しない、故に彼は、それを起こる事を理解し、阻止。

 

 「……あぁ、本当に彼は面白い。」

 

 退けた脅威など、自身が作り出したシナリオの一握り、彼は愚かで、優しい人故に、表立って全ての出来事を『観測』していくだろう。

 捻じ曲がった、終わりゆく終末点に現れた異分子、希望が潰え、色を失った筈の世界で唯一、先生と同じ『色を持つ』存在。

 

 「シュウさん、どうか折れる事なく進み続けて下さないね。…愚かでも、虚しくとも、潰えた記憶の断片を掻き集め、抗って下さい。」

 

 「我々の探究は、貴方と共に歩みましょう。」

 

 朝日を、黒い手が覆う、

 希望と絶望は、表裏一体。希望を胸に、彼が絶望へと抗うのなら、我々はその影へと潜み、最大級の探究を持って、彼へと絶望を届けましょう。

 

 

 ___________________

 

 

 ___知らない天井。

 薬品が鼻を付く、一切の色が白く染まった、一人を入れるには大き過ぎる病室。

 シャーレでの激動を退けたシュウは、ノアとの握手を皮切りに、全身のアドレナリンが消え、毛細血管、ひいてや細胞の一つ一つが警告の如く、激痛が支配し、気絶。

 

 出血多量による貧血症状と、膨大な疲労が蓄積し、常人の許容を超えた稼働量に体が耐えれ無かったと。

 

 「……凄い、静かだな。」

 

 『肯定。昨晩より、気温が3℃以上高く、比較的夏場に入る部類のため、学生達は、外出を避けているのが理由です。』

 

 「へぇ〜、じゃあちょっと薄着でもしようかな。」

 

 横たわるベットの横に設置された木製テーブル、その上に鎮座するタブレット『シッテムの箱』から機械じみた少女の声が響く。

 現状は、自身の物となったシッテムの箱…もといシロナ。曰く、連邦生徒会の現代表、七神リンが意識不明の下病室を訪れた際、先生以外にシッテムの箱が起動した事に、度肝を抜かれ、唖然としたそうだ。

 

 日常のちょっとした会話、姿、形はあっても、色彩が無い様に全身が白い少女。

 奇妙であるが、今の心情は『大切な相棒』。消えた過去の中で、何度失敗しようと、自身は貴方の隣に居ると、盛大な告白をしてくれた相棒。故に、シロナの発言の疑問点を俺は追求した。

 

 「……なぁ、シロナ。お前は、俺の力が分かったみたいな口ぶりだよな。」

 

 『肯定。私は、貴方の神に等しい領域の力を所持している事は理解しています。…無論、それがシュウ様の命を賭けた無惨な力という事を。』

 

 知っている。

 与えられた身の丈に合わない、異常な力をシロナは観測している。神の領域、言いくるめば時を遡り、自身の都合の行く結末まで『やり直す』事を指す。

 字面を見れば、確かに神の様に死にゆく誰かの運命すら捻じ曲げる神の力、されど、それ相応に激痛も伴うが、最もネックなのは『死』である。

 

 「…なんで、この力は俺の死が引き金になってるんだ。」

 

 『疑問。あくまで、私の推測になりますが、体がこの世界の祝福、神秘と歪に絡み付つき、生と死の境界が決壊した魂は、この世界で異分子となり、死の概念が消え去り、行き場を失った魂はササキ・シュウが存在した時間軸まで戻ると推測します。』

 

 『…現に、シュウ様自身の中で無象有象に蠢く、神秘の輪郭があります。』

 

 死に戻っている訳では無く、死ねないだけ。

 銃や近未来文明を軸に見て異世界の実感が欠如していたが、此処は自身の常識が通じず、新たな物理法則が働く異世界。

 理解が及ばない無理解な力、無論適応できる筈が無い。

 

 端的に言えば、今までの力は『死に戻り』という訳では無く、単にササキ・シュウの魂が、自身の死と生の区別が付かず、行き場を失った魂は、器のササキ・シュウが生きた時間軸まで遡る。

 ___死ぬという概念が存在しない不気味な魂。

 

 「……はぁ。」

 

 天を仰ぐ。誰かの愛の呪いなら解決策を提示できたが、自身の中に宿るのは、この世界の当たり前の力が、この世界で当たり前じゃ無い存在に、返って牙を向く現象、解決策の提示が不可能。

 

 「なら、先生も同じ事が?」

 

 『否定。先生の肉体には、神秘が宿っていません。』

 

 同郷説が濃厚だった先生には、神の祝福が与えられなかった。

 分からない、分からない分からない。この世界に、自身が呼ばれた理由、アロナの存在、記憶に無い者達がササキ・シュウに託している。

 顔も声も分からない者達が、武力も持たず、生き残るにはあまりにも脆い男を知り、希望を託したのか分からない。

 

 「……失礼します。」

 

 思考の渦を断ち切ったのは、凛とした声だ。

 入室の許可を出し、病室へと誰かを招き入れるシュウ。声の主は、連邦生徒会現代表、七神リン。艶のある長い黒髪に、暴力的なまでのスタイルと清楚感漂う黒眼鏡をつけるリン。

 

 隣には、見なれない生徒がおり、こちらも長い髪であるが、神々しさがある金髪に、滅多に見る気配が消えた『ケモミミ』。

 同世代とは思えない鋭い目つきに、ギザ歯が特徴的な生徒はリンの隣で、凄まじい警戒心を眼力に乗せ、シュウの姿を射抜く。

 

 「体調のほうは、まだ優れませんか?」

 

 「いや、全然そんな事ないよ。やっと普通に寝れたぐらいだから、ベットに寝て起きる事がこんなに、良い事とは。」

 

 「それは、優れていないのでは?」

 

 肩にキツく巻かれた包帯を見せ、力瘤を作るシュウ。

 体調自体は、腕に繋がれた点滴と設備が整う、自宅のベッドよりも数倍心地良い影響か、コンディションは最高潮。

 痩せ我慢では無い、とも言い切れない。若干に残る肩の違和感は消えず、技かに動かせば張り付く様な痛みが、ねちっこく纏わり付く。

 

 「……で、なんの様だって言っても、大体俺関連だろ。」

 

 「理解が早くて助かります。…その前に、この方が貴方に謝罪をと申しますので。」

 

 「……ヴァルキューレ警察学校所属、尾刃カンナです。前日は我々部隊が、身勝手な行動でヘイローも無い貴方への発砲を、心からお詫び申しす。」

 

 深々と頭を下げる、カンナ。

 ヴァルキューレ所属と言われ、肩の古傷が疼き、無意識に肩の傷を手でなぞる。

 好印象とはいかず、少なくとも目の前の少女に敵意を向ける以外に、自身の決め憤りを曝け出す方法は無いが、警察機関所属の個人に、不満を投げるのは解釈違い。

 

 君息を吐き、感情に折り合いをつけ、鋭い目つきのカンナへと瞳を交わす。

 

 「まぁ、その。酷い目にあって、ヴァルキューレの印象は最悪だけど、そもそも大勢で動いてる組織なんだから、そういう事はあるかもしれないんだ。」

 

 「…けど、そんな大勢にカンナみたいな人がいるんなら、俺は何度だって許すよ。だから、顔を上げてくれ。」

 

 「……感謝します。」

 

 組織間で動いてる存在に、一個人の俺が申し立て様と、一気に全てが変わる訳では無い事を、良く知っている。

 投げ掛け一つで世界が変わるのなら、大それた苦労なぞ必要は無い。故に、少しずつ変えて、知っていけば良い。まずは、カンナ様な正義感溢れる優しい人が居るだけで、印象は大分変わった。

 

 「んで、カンナの件は一旦解決で、次はリンリンの件だな。」

 

 「何処と無く品にかけた名前で呼ばないで下さい!…はぁ、まず私が此処に来た理由は主に二つ。」

 

 「一つ目は、現在の貴方の立ち位置を、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの部長へと任命し、キヴォトスに蔓延る問題の数々を解決して欲しいのです。」

 

 リンが提示した自身の処遇。現状の自身の位置は、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの部長職、前職に『先生』が所属していたが、先生の所在が不明となり、事実上は活動停止を余儀無くされたシャーレに、新たなシッテムの箱に選ばれた存在、ササキ・シュウの出現。

 

 現在も先生の捜索は、キヴォトス全土で行われているが、足取りほ愚か、尻尾すら掴めない暗雲に差し込む一筋の光が、自分自身。

 

 「いいぜ。自分から土足で踏み込んだ問題だし、俺なんかで何かが変わるなら、喜んでやってやる。」

 

 「良いですか…我々は一方的に貴方の立場を利用し、キヴォトスの再生を図ろうとしています。提示できるメリットも釣り合うかどうか。」

 

 「全然釣り合うぜ、美人達に賞賛されて尊敬されて、好きな子にかっこいい姿が見せれる。俺には十分すぎるよ。」

 

 「…ありがとうございます。選ばれた人が、貴方でとても安心しています。」

 

 柔らかい笑顔を露わにするリン。

 笑顔と美人に褒められて、好きな子が俺を見てくれるだけで、十分自身には釣り合う見返りで、それ以上は要らない。

 

 「では、次に二つ目ですが、これは貴方へと連邦生徒会とこの場におる、尾刃カンナさんの助力の元、必要最低限の武力譲渡を提案しました。」

 

 言葉を皮切りに、病室の扉が開かれ、カンナ同様の服装に身を包んだ女子生徒が銀色のアタッシュケースをカンナへと渡し、俺へと箱を手渡す。

 見た目以上に重厚感があるが、以外にも箱自体の重量はそうでも無く、寧ろ、自宅にあるダンベルよりも軽い。

 

 「………おぉ。」

 

 箱を開け、中身へと目を通す。

 高級感のある黒いスポンジに包まれるのは、黒を基調とした片手銃。名が見当たらず銃口付近に目を通せば、名が彫刻の様に刻まれ、Beretta92FSと読める。

 最後に、この銃社会に置いて最も不利と思える近接特化の片手ナイフ、否、ナイフでは無い。それを箱から取り出し、全体図に視線を通せば、

 

 「……手斧?」

 

 「正確には、トマホークと呼ばれる戦闘用斧で、ミレニアムサイエンススクールの技術提供の元、作り上げた物です。」

 

 手に持ち、その感触を馴染ませる。

 祖母の仕事の手伝いで、林業の仕事を任された際に待たされた、手斧とは、質感と重さが格段に違う。

 今手に持っている手斧は、あまりにも軽すぎる。感触は金属を触っている物と同じで、殺傷能力の高さが窺えるが、重厚感と質量が良い意味で比例していない。

 

 「全然、重く無いな。…つか、渡されただけで戦闘訓練とか諸々をやった事が無い俺が、扱えるのか?」

 

 「その為に、尾刃さんにお越し頂きました。」

 

 「はい。今後、シュウさんには回復に専念して貰うのと同時に、私と共に、僅かながらの戦闘訓練を積んでもらいます。…ヘイローが存在しない貴方に合ったメニューを考案しましたので、ご安心下さい。」

 

 「……はい。」

 

 強くなる事以外には、何も守れない。

 すずめの涙程度でも、戦闘能力の向上は、自分自身も願ったら叶ったり、提案を受け取り、了承した俺は、カンナへと戦闘の手解きを授かる。

 __何処と無く、嵐の前の静かさの様な違和感を胸に残しながら。

 

 

 ___________________

 

 

 ___神様、お金はあるのでみんなを助けて下さい。

 ___神様、この身を捧げますので、みんなを助けて下さい。

 ___神様、命をあげるので、みんなを助けて下さい。

 

 嘆きを、世界は、神は叶える事は無い。夜の帷が下り、昼間の熱さが嘘の様に消え、衣を変えなければ寒くて、凍えそうな夜の砂漠を見つめる少女。

 周囲を見渡す限りの砂漠、砂漠砂漠。断崖絶壁にも思える孤島を連想する、砂漠に聳える一つの学校。

 

 一階付近には、砂嵐の影響か凄まじい量の砂が、校舎内を埋め尽くし、存在した筈の過去の栄光、思い出を見るも無惨に覆い隠し、ただ無機質な学校を作り上げる。

 生徒と呼べる生徒は、殆ど在籍しておらず、自身を含めれば五人が全校生徒と、砂漠の影響と言えど、五人が在籍するには過疎な学校。

 

 ___何処で、間違えたのでしょうか✴︎

 

 五人と言えど、自分達を支え続けた偉大な先輩は、いない。

 叶うのなら、先輩と『先生』を奪った憎きゲマトリアの『黒服』と名乗る人物を、この手で肉片残さず、砂漠へと散らしたい。

 殺意、憎悪、人生の辞書で十六ページすら刻まれない余白の多い人生で、全ての余白に永遠と、殺意と憎悪を綴りたい。

 

 今、悪意に晒されるこの場で、自身の令嬢の立場など使えない肩書き、役にも立たない無数の札束と同様の、『ゴールデンカード』。

 けれど、最も使えないのは、『自分自身』。

 

 「ん、ノノミ。いい加減に寝て。」

 

 静寂を切り裂く、扉の音。

 自身と同じ、アビドス高等学校ニ学年・砂狼シロコ。在籍する五人の中で唯一の自身の同い年の同姓で、戦闘要員が皆無のアビドスで私とシロコちゃん、後輩の奥空アヤネちゃんで永遠とこの場を守り続けてる。

 

 「シロコちゃん✴︎どうしてですか〜?まだ、三徹目ですよ。ただでさえ、ホシノ先輩も居ないんですから〜。見張りが居た事に越した事は無いです!」

 

 「……駄目だよ、ノノミ。壊れちゃう。」

 

 壊れちゃうか___。信頼できる先輩も消え、アビドスに降り掛かった負債の数々を減らす為に、努力してくれた後輩の二人。更には、絶望的な状況で現れた『信頼出来る大人』は、無惨にも子供には届かない深い悪意に飲まれた。

 

 自身の存在意義を示せるものは、シロコちゃんとアヤネちゃんの二人。もう一人の後輩、黒見セリカちゃんは、殻に籠る様に自宅から一度たりとも外に出なくなった。

 

 先輩以外は揃う四人。常に行動を共にし、卒業まで永遠とこの関係が続くと思い、希望に胸を膨らませた青春の物語は、歪んだ結末へと終着する。 

 

 仲間なのに、心はあさっての方へ、全員がバラバラが欠けた心の隙間を必死に探すが、

 ___それでももう、戻って来ない青春の話。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ちょっと、難産かな?
 人間相関図や、物語の内容や文才を濃く出来たらな〜。なんて、そんな他力本願を願っている大馬鹿野郎です。
 因みに、最後の一話は閑話で締めて、次章のアビドス高等学校に行きたいです。
 独自展開なので、自由奔放にやりたいんですが、結局盛り上がるのアビドスしか無くね?なんて思って、まぁ、独自解釈をモリモリに使って面白くできたらなーなんて思ってるんで、よろしくお願いします。
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