死に損ないの英雄   作:HakuGozira

8 / 8

 やっと入った二章。
 なんか、間話やるって言ったけど、全然やる気起きなかったので、一気に2章入りました。

 ちょっと変化した所は、背負うと決めた特別の肩書きによって、瞬く間に自身の立場が変わった事による緊張と、呪いを力と捉える様になってしまい、若干リゼロ三章の自暴自棄スバルみたいになっています。

 


二章 1話 砂に散る

 

 ___なんか、やだな。

 

 開口一番に呟く、自身の心中。

 行き交う人々は、あの時同様に『好奇』と『奇妙』を孕んだ視線を向ける群衆に、新たに芽生えた視線は『希望』と『期待』だ。

 何も無かった無謀な少年は、学園都市キヴォトスに置いて最も期待され、最も望まれた偶像人物に担ぎ上げられ、何処か忙しない。

 

 不自然に動悸する心の臓を、必死に宥めるや否や、視線から逃れるよ様に、病室へと戻るササキ・シュウ。

 決して振り返りはしない、これは自身が望み選択した物なのだ___逃げるな、逃げるな逃げるな逃げるな。

 

 与えると、そう決めた自身の青春の物語。自身の意志で歩み始めた、無責任の一歩と、変化する社会と絶え間無く浴びせられる世論の声。

 選択した筈の、望んだ『特別』。それは、今はただただ、気持ち悪いとそう感じた。

 

 「…気張れよ、気張れ気張れ。折れるなササキ・シュウ。これは、俺が望んだものなんだろ。」

 

 期待を一身に背負うと、誓った約束を、簡単に破る様な薄情な人間へといつ成り変わった。

 俺なんかよりも凄い人が、優しい人が、可愛い人が、託してくれた。けれど、嫌な考えが渦を巻き、自身に向けられる喜怒哀楽の仮面を庇った人間達の、視線から逃げる。

 

 「こんなふざけた力のせいで、人間不信みたいになってんのかよ俺。」

 

 死に晒され、幾たび朽ちたか分からない、あの虚無感と喪失感。簡単に乗り越えられるのなら、高望みは叶うとそう思いたい。

 この世界の常識で、ササキ・シュウは最も簡単に死ぬ。先生の存在を聞けば、神秘の無い人間への発砲を多少は躊躇うと、何処か期待していたが、

 

 ___やっぱり、怖いもんは怖い。

 

 一時の感情と、乗り越えられた悦に浸ってただけだと、理解する。躊躇いなく銃口を向ける、人々。『観測者』と訳の分からない単語を並べ、佐々木柊が知らないササキ・シュウを見つめる『大人』。

 疲弊、混濁、十七歳の男子高校生。思春期真っ盛りの心は、壊れやすいと、聞く。

 

 自身よりも背丈が高く、地位も、名誉もある『大人』が一個人の命を奪おうと、無数の軍隊を投入したり、ミサイル砲や戦闘機など過剰戦力にも程がある。

 人々の変わり始めた視線が、刃物の様に自身の背を刺す。無数の身勝手な大人の悪意が、成人もしないただの男子高校生を殺しに来る。

 

 けれど、出処が不明な悪意では無い。明確に自身の壁として立ち塞がる、『ヴァラン』が明確となった現在は、非常に目的が絞られる。

 明確な悪は、カイザーコーポレーションと先生を攫った探究心を行動原理とし、今だ自身の数十ある死の記憶の中で、全容が掴めない未知の存在、ゲマトリア。

 

 闇雲に歩き始めた最初とは違う。明確に敵が、倒すべき悪がはっきりとササキ・シュウの障害として立ち塞がる。

 簡単だ、簡単簡単。潰す為に、自信を利用して、証明し続けろ、自身が『特別』だって証明を、特別に成らないササキ・シュウをこの場所は必要として無い。

 

 ___歩みを止めたら、死んだも当然だ。

 

 

 ___________________

 

 

 「いや、キヴォトスの不祥事を持って来いって言ったけど、ここまでは想定外だぞ?」

 

 「申し訳ございません。…実は、これでも本来の半分までは削いで、シュウさんの負担軽減を図ったつもりなのですが。」

 

 「…これで、半分?」

 

 病室のベットへと横たわるシュウの側で、キヴォトスからかき集めた不祥事の数々を記した資料を、大量に抱えるリン。

 病人の立場でありながら、戦闘訓練を叩き込まれる最高の矛盾を抱えながら、不満を溢す訳でも無く淡々とカンナに扱かれる日々を二週間送った。

 

 肩の傷は完治、包帯が取れ、銃痕が肩に痛々しく存在感を曝け出すが、男の勲章として割り切る。

 シャーレ部長となったこの二週間、世間の全ては一瞬で変わった。不自然と現れ、身元も学歴も存在しない奇妙な少年、ササキ・シュウは、一晩でキヴォトス全土の話題の的となった。

 

 方や、先生同様に、自身に希望や崇拝の念を抱く派閥。方や、自身の存在を疑問に思い、不詳の念を抱く二種間の派閥が生まれ、衝突。

 結果。ミレニアム、ゲヘナ、トリニティの三間の介入が発生、介入理由はササキ・シュウによって生み出された根掘り葉掘りも無い『希望』の植え付け。

 

 故に、三間はササキ・シュウの処遇を確定すべく、それぞれの案を提示し、ミレニアムは『使用』ゲヘナは『消去』トリニティは『崇拝』。

 

 三間の複雑に絡み合った、ササキ・シュウの処遇は、中立の立場であり、学園にすら属さない連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの『部長』として連邦生徒会がササキ・シュウを任命させ、公表し、戦闘の引き金を引く一歩手前までの緊迫した状況に、連邦生徒会の決断が自体の収束に繋がった。

 

 その結果、シャーレ部長となったササキ・シュウは大量に流し込まれたキヴォトスが抱える不祥事を解決する為に、傷の完治した肉体に鞭を打って奔走する羽目になる。

 結果を証明し続けなければ、三間どちらかの提示した処遇を苦渋で受け入れるしか無いのは、はっきりと言って連邦生徒会に不利益が発生する他、キヴォトスに再び暗黒時代が到来する。

 

 三間もキヴォトス暗黒期は避けたい状況の筈で。決して自画自賛となる訳では無いが、自身の存在の有無はこの先のキヴォトスの存続を続けられるか否かの架け橋となっている。

 連邦生徒会も、再び現れた『その人』を失うリスクを極端に恐れている節もあるが故に、三間の処遇に、連邦生徒会不詳を同時に背負うシュウは事の事態に項垂れ、思わず資料の読み手が止まる。

 

 自身がこの世界に来る前から、散々苦しみ、もがき、助けを求めた数々の言葉を連なった資料は、不甲斐ない自分を奮い立たせる為の…言い方はアレだが、『起爆剤』だ。

 同時に、自身の存在証明を確立する材料となる。

 

 「…言ってもな、こんな紙束の中から一つ一つ解決するとか骨が折れるってレベルの話じゃないぞ?」

 

 「……同意意見です。」

 

 「た、確かにこれを纏めて資料にすらのも一苦労だし。まぁ、そのリンさん良かったら、胃薬ありますけど?」

 

 自身の隣で、三間の板挟みとこれ程の不祥事を紙束にし、纏め上げた絶賛の苦労人が、項垂れておら、同情の念を込め、入院生活中にお世話となった胃薬をリンに手渡す。

 連邦生徒会会長が失踪し、積み重なる問題の数々に押し潰され、それでも前を向き、キヴォトス復興の為に、抗い続けるリンに、自身と同じ境遇か接点か、何処か心の隅で同情と同時に、凄まじい敬意の念を払う。

 

 自身の苦労など、一度消えれば水の泡だ、痛みも喪失感も虚無感も『死ね』ば、全て回避し、やり直す事が、無かった事に出来る。

 しかし、目の前の人物は違う。一度しか無い選択の数々で、後悔を胸に抱き、群衆に糾弾される恐怖を必死に振り払い、それでも前を向き続けれる、自身とは違う一度限りの選択での覚悟の数々に、自身の覚悟など取りに足らない物だと実感する。

 

 ___足りない足りない、大馬鹿野郎は足掻く以外に方法は無いだろ。使い、潰し続けろ自身を。

 

 助けたい、救いたい。助けを乞い、伸ばした手を掴む責任を俺は背負った。半端な気持ちだろうと、助けたい想いが、この選択を選んだのなら、折れる事は許さない。許されてたまるものか。

 自己暗示の様に、自身の硝子細工の心を無理矢理にでも補強し、資料の読み手を再開させる。

 

 一枚一枚を一言一句見逃さず、その目に焼き付ける。記された物達には、今だ公にされていないカイザーPMCの支配の手により、大切な友人を奪われた悲痛の声を、震える手で文字に記し、友人の捜索を願う少女。

 極々平凡な日常で、偶然にも戦闘に巻き込まれ、体が頑丈と言えど、戦い慣れない普通の少女と大差ない存在は、向きられた銃口にトラウマを植え付けられ、外が怖くなった。『助けて』と懇願する物。

 

 読み手が、更に更に早くなる。

 叶うのなら、これらの全てが起こる前に、手を伸ばしたかったと愚かで傲慢な言葉が心を蠢き、無意識に爪を齧る。

 噛んで、噛んで、自身の不甲斐なさを呪う少年。生きる上で最悪と差し違いない『呪い』を、今は全てを助ける為の『力』として考える少年にとって、自身の存在しない場所で確定してしまった出来事を変えられない現状に嫌気が指す。

 

 資料を捲るたびに、自身の心に後悔の塵が積もれる。

 積もって、積もって、何か起こせるだけの存在ならば苦労はしない。何故なら、自身は『ササキシュウ』で、凡才故に何も起こせない。

 一人では、足掻く事すら出来ないちっぽけな男は、積もる後悔を詰まらせ続け、ある資料に手が止まる。

 

 ___アビドス高等学校。

 

 その名は存じているが、全貌を良く知らないシュウはこの場所を皮切りに、先生が行方不明となっただけという何とも、曖昧な情報。

 曖昧故に、つい無意識に流すだけとなっていた資料の文字を入念に、取りこぼしの無い様に、見続ける。

 

 『アビドス高等学校。在校生五名、小鳥遊ホシノ三年生。砂狼シロコ・十六夜ノノミ両二年生。黒見セリカ・奥空アヤネ両一年生。』

 

 瞳に焼き付け、更に資料を捲る。何故か、目が離せない。

 

 『アビドス砂丘に建つ此処、アビドスは未曾有の砂嵐や干ばつ、砂漠化前は、在校生数百を超える繁栄した学校であったが、その威厳は砂と共に朽ちた。』

 

 ___捲る。

 

 『直面した様々な問題に、アビドスは多額の資金を投与し、状況好転を図ったが、結果は好転といかず暗転。その為、アビドスは約9億円の不詳を抱える。』

 

 『現在は、先生が支援要請受理し、アビドスの不詳をシャーレが金額の半数を負担する予定だっだが、先生が行方不明となった。』

 

 ___捲る。

 

 『先生誘拐の疑いがあるアビドスは、責任追及を求められ、本来の不詳の2倍の額を請求、更には、アビドスが管理するアビドス砂丘の三分の一の領土を連邦生徒会が管理し、事実上のアビドス閉鎖を行う。』

 

 ___捲って、焼き付けて、

 

 『事実上の閉鎖と申したが、学校自体の運営は停止しておらず、連邦生徒会の補給物資の提供停止と先生誘拐の罪を犯した二つの事案を、追及。』

 

 『現在在校生。三年生・小鳥遊ホシノ退学処分。二年生・十六夜ノノミ、砂狼シロコ在学。一年生・奥空アヤネ、黒見セリカ、在学。』

 

 全てを見た少年は、手で目を覆いやり場の無い不快感を処理する。

 救えない話だと、そう思う。どちらの言い分にも頷ける場所もあり、ただでさえ混乱に混乱を呼ぶ安定しないキヴォトスの状況に、先生失踪と、追い討ちを掛けるが如く、積み重なる問題。

 

 誰が悪いとか、そんな子供の考えでは無い。明確に、悪という存在が浮き彫りとならなければ、再びキヴォトスに困惑が訪れるのは回避出来ない。

 良くも悪くも、何かの敵が必要だったのだ、それで連邦生徒会は明確に敵を作り、状況混乱を避け、一点の存在が悪と指差した。

 

 確かに、自分自身でも、文化祭の準備などに追われ、手一杯のギリギリの状況の中、突如展示物が壊れたと言われ、更には犯人像も掴めないと言われれば、誰かを責めたくなる気持ちが溢れる。

 

 多数派同調バイアス。心理学の一種で、全員と同じなら、その意見が正しいと、明確な答えも確証も無いまま多人数の意見に賛同する事であり、今の状況がそれに酷似する。

 全員の日々、困惑と不安に包まれる生活の中で、希望として現れた唯一信頼できる大人『先生』。それすら消え、再びキヴォトスに暗雲が訪れる事を危惧した連邦生徒会は、明確にアビドスを敵にした。

 

 そこに、陰謀や真実があるとも考えずに。

 

 「…くそか、嫌、馬鹿か変な同情すんなよ俺。」

 

 一瞬でも、可哀想と哀れに思った同情の感情を、必死に否定する。

 この子達の絶望や悲しみを、自身の理解の枠組みに入れ、勝手に分かった気になる様な偉い人間に俺はいつ成った。

 何処までも高望みが届かず、精一杯の背伸びと、自身の命を引き金に行動を起こすだけの弱者だ。

 

 愚かにも、与えられた呪いに、固執し自身の強さを見誤るのは、高が知れている。

 けれど、仮に、この力で全てを救え、『助ける』事が出来るのなら、俺の存在証明も出来る。

 

 「……助けて、やらないとな。」

 

 使命感や救済の心、異様に混ざり合い混濁した感情の渦に身を任せ、リンへと言葉を投げ掛ける。

 

 「リン、今からこの、アビドスに行こうと思うんだけど、どうだ?」

 

 「……アビドス。」

 

 「あぁ、この子達が綴る最悪を、俺が変えたい。この子達に手を差し伸べたいんだ。こんな事ってただの子供の責任の押し付け合いだなんだ…だから、俺がこの子達を…、」

 

 「…シュウさん。」

 

 続き続ける、アビドスへと向かう為の口実を作り上げ、最後の一足と言った状況の中、神妙な眼差しで自身の瞳を射抜くリン。

 そこにあるのは、清楚の中にある凛々しさや、美しさでは無く、単純にその瞳に映るのは静止するような、冷たい眼差し。

 

 「…アビドスへの救援は、控えて頂きたいのです。」

 

 「な、何でだよ?ただの責任の押し付け合いみたいな状況で、勝手に悪者に仕立て上げられたこの子達が、可哀想に思えないのかよ。」

 

 「同情の感情は、結構です。貴方の心に宿る正義感で動くのも、結構ですが、この件だけは連邦生徒会側からも、貴方の介入は望んでいません。」

 

 「すみませんが、資料の回収を行います。今後は、この様な事が無い様に、一層の配慮を致しますので。」

 

 乱暴に、その手から資料が奪い取られ、リンは何処か空気の澱みを感じ、前髪に影を落としながら病室を抜け出した。

 僅かな静寂、連邦生徒会が抱え込むアビドスの不詳、何処か連邦生徒会はアビドスに悲痛の感情や負の念を抱いていると、そう思っていたが、違った。

 

 逃げたのだ、あの瞳は、逃げの瞳だ。瞳に宿る感情を自身がよく知っている。恐怖に溺れ、震える気持ちで明日を懇願した自分とリンの姿を重ね、シュウは病室のベットから起き上がる。

 

 「シロナ。早速で悪いんだが、俺とお前の初初陣だ。」

 

 『起動完了。シュウ様の声帯認証を受理、ご命令を。』

 

 「単独で解決する事になるが、俺とお前ならやれる。…頼むぜ、最高の相棒。んで、まずやる事はアビドスまで行く為の足の確保をしたい。お願い出来るか?」

 

 『肯定。近場のカーレンタル会社に、レンタル車の申請を送りました。すぐにでも行動を行えます。』

 

 「…本当にお前は最高だシロナ。」

 

 相棒の完璧で迅速な対応に、笑顔が溢れる。

 アビドスの不詳と、連邦生徒会が抱く何かの恐怖と、逃げ。更には、先生失踪の真実の解明と、先生の解放。

 

 成せば成す程に、自身の存在が膨れ上がる最高のトピック。逃す手も無ければ、逃げる事も無い。

 その過程に、待ち受ける障害は、この『力』でどうにかする。この力の詳細は、神秘と体が歪に絡まり、この世界の何処にも存在しない不純の魂は、生と死の境界が無く、死ぬ事が出来きない。

 

 行き場を失った今の魂は、器が存在する過去へと遡るという事らしい。

 

 「…使えるもんなら、使ってやるよ。」

 

 上等、永遠と制限の無い力のなら、使える分だけ使い潰してやろう。俺で無ければ、俺じゃ無いと救えない。

 

 救ってやるんだ、救うんだ、救って、___助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて。

 

 ___なんとも、傲慢な。

 

 魂に語り掛ける『何か』の声を振り払い、焦る気持ちでアビドスへと足を向けた。

 

 

 ___________________

 

 

 夜の砂漠はよく冷え、寂しさすら感じる。

 アビドス砂丘は、日中に凄まじい灼熱の地獄と、砂嵐に苛まれ、ヘイローも無いシュウでは、砂漠へと足を踏み入れた瞬間、砂の塵となって消えると、シロナに断言され、自身のよく知る校庭に渦巻く砂嵐とはかけ離れている。

 

 付け足す様に、夜間ともなれば灼熱の次は、肌をつんざく様な凍える寒さが砂漠を覆い隠し、夜にもなれば、アビドス砂丘には灯り一つすら灯らず、夜空には星が広がる神秘的な光景が広がる。

 神秘と言われれば、良い思い出はないが、自然的な光景に目を当てられ、積み重なった辛い経験は砂と共に流れ落ち、一層夜空が綺麗に見える。

 

 「…寒いな、砂嵐は無いって聞いたのにな。まぁ、用意は大いに越した事は無いけど。」

 

 自身の身を包む、元の世界の唯一の支給品。紺色のジャージに、道中で購入した黒を基調としたマフラーを首へと巻き、レンタルした車を運転するシロナへと視線を落とす。

 この世界では、車の免許証を得るに、年齢は関係無く文字通り小学生でも、車を運転出来ると、訳のわからない世界観であり、あまりの規制の緩さに度肝を抜かれる。

 

 シュウ自身は、元の世界の常識に従い、二十歳となるまでは必ず飲酒も無免許運転も起こさないと、心に刻み、今この車を動かす相棒シロナを首に垂らしながら、凍える寒さに身を縮める。

 

 「つけられてるな、バックミラーに見えんのでも。……駄目だ、数えられない。」

 

 リンへの書き置きや、車の手配に、自身の装備品の回収など、やる事ずくめの何処か万全では無い状態で、結局アビドス高等学校へと車を発進させたのは夜のアビドス砂丘。

 腰に装備するトマホークに、黒い塊ハンドガン。トマホークの扱いは、カンナとの戦闘訓練で、ヘイロー無しとは言え、恥ずかしく無い程度には斧捌きはお手のものだが、

 

 「銃は、とてもじゃ無いけど、発砲する覚悟は無いな。」

 

 自身の最も欠点な点は、銃の引き金を引けない事にある。発砲の瞬間、たった一発の自身の引き金で、どれ程の最悪が訪れるのかと、不安が渦を巻き、トリガーに掛ける指の力を無意識に解いていた。

 結果、唯一扱える武器はトマホークが一本と、銃が当たり前の常識に置いて、あまりにも欠陥過ぎる自身の短所は、ため息物。

 

 飾りの銃が一丁と、接近戦特化のタクティカルアックス。銃を所持していながら、銃を扱えない不恰好な格好と、矛盾に頭を抱えるが、嘆く暇では無い。

 

 「…シロナ、どうにか後ろの奴らを巻く事って出来ないか?」

 

 『謝罪。現在時速は、約128キロ。これ以上の速度上昇はシュウ様の身に危険が迫った場合、逃亡が不可能となります。』

 

 「いや、そんな最悪は絶対に起きない。だから、速度はガンガン上げてくれシロナ。」

 

 『……っ。』

 

 寂しさを噛み潰す様な声色がタブレット越しから聞こえ、車の速度が格段と上がる。

 手すりを掴まなければ、四輪駆動車の中で、後部座席と前方座席に体を打ち付けながら、のたうち回ってしまいそうなGに、必死に耐え凌ぎながら、永遠と自身の後ろをつけてくる謎の軍団へと視線を向ける。

 

 アビドス砂丘へと踏み入れた、最初から突如として自身の背後をつけるヘルメットを被り、暴走族同様に自身達のトレードマークを描いた旗を、車へと貼り付けながら迫る軍団。

 十中八九、カイザーPMCの手回しの仲間であろう。自身と車との距離は数百メートルは離れているが、そんな安全マージンなどは、銃の前ではなんの意味も成さない。

 

 「……っ!?」

 

 たった一発の発報が、開戦の狼煙を上げる。

 遥か後方から嵐の様に撃ち続けられる弾丸、無論、嵐の中のほんの細やかな贈り物で、自身の命など羽より軽く散る。

 差し詰め、シロナの完璧なドライビングテクニックのお陰か、車体への弾丸の被弾は少なく、最高時速を維持した状態で、極寒と銃弾との死を賭けた鬼ごっこ。

 

 「……銃の安全レバーは、解除してある、な。」

 

 一発の弾丸が、後部座席の窓、自身のすぐ横の窓を破壊し、ガラス片が肩の辺りに深く食い込む。

 激痛と熱の存在証明が始まり、肩から流れる血を手で抑え、ジクジクと痛む肩に多少の気休めに、マフラーを巻き付け応急処置を行う。

 

 銃の安全レバーの解除を確認し、破れた窓ガラスから僅かに体を出すシュウ。後方には、未だ数の減らないカイザーの手回しのヘルメット軍団達に、前方には自身が目指した目的地、

 

 「アビドスか!…おし、シロナ最高時速で直進だ!」

 

 『理解。振り落とされない様、しっかりと手すりに掴まる事をお勧めします。』

 

 夜の砂丘に聳える、白い校舎アビドスが目視で捉えられる距離へと迫っており、自身の呼び掛けに答えたシロナは、最高時速を維持し、激しい砂煙を舞い上がらせながら、アビドスへと直進する。

 負けじと、ヘルメット軍団も速度を上げ、シュウへと迫るが、既に数百メートルも開いた距離を一瞬で縮める事は、不可能。

 

 「……おし!このまま、アビドスまで走れば………、」

 

 瞬間、謎の光と乾いた音が、鳴り響く。

 

 「なん、」

 

 言い切る前に、全ては無に化した。

 上半身を乗り出していたシュウは、突如として自身の体を肉塊に、否、肉塊とは生温い、マグロ叩きの様なぐちゃぐちゃの物体へと早替わりを成す。

 

 痛みは無い、ただただ、無感動に体が崩れ、破壊され、自身の体を構成する全ての臓器、細胞が宿主を失ったが如く散っていく。

 

 呆気なさと、自身の無気力に苛まれながら、少年は、理想を高々と抱き、物寂しい砂漠に散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 
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