アズサの姉の行く末は
「戻って来たよ」
「…………おかえりセイア」
ぼんやりしていると、いつの間にかセイアが返ってきていたみたいだ。だが、セイアの様子はいつにも増して神妙な顔で私の方を見ていた。
「君に、聞いてほしい事がある」
「何?」
「私の予知夢で、アズサは殺され、君は病で死んでいた」
「!!!!」
私は信じられなかった。何故アズサが殺されるのか、誰に殺されるのか────私はそんな疑念が渦巻いたけれどそれを訊く勇気も無かった。
私が今更何をしたとて変わらないのではないか。そんなような気がして、怖かった。
「そんな……行かなきゃ…………」
けれど私はどうしてかそんな言葉が出てきた。なんでそんな言葉が出てきたのか分からなかったけれど、私はどうしてか居ても立ってもいられなかった。だが、どうやって起きられるのか分からなかった。
「ならばアズサの姉として守って来るといい。君の名前は────」
「っ!……ゴホッ!ゴホッ!」
セイアがそう言いかけた瞬間、私は以前と同じ赤いオーラに包まれ、苦しみ始める。私の名前、それが目覚めるトリガーなのだろうか?──そんな事知らなくたって次は眠れるのかすらも分からない程現実の身体は動かないのに、私はそんな事お構いなしに、現実か夢かも分からない中、立ったまま堪らえようとする。
「ゴホッゴホッ!……ゴホッ!……かはっ!……」
しかし私は、崩れ落ちるように倒れ込んでしまう。そして気付けば私は部屋のベッドで寝ていた。
「はぁ……はぁ……ゴホッゴホッ……」
私はもう、ベッドから立ち上がるのも億劫なほど苦しかった。全身が痛んで、頭がクラクラして、息苦しい。
本当に死期が近付いているんだろう。このままじゃ多分アズサに会う前に事切れる。なんとなくで根拠はない。けれどそれが本当だった時が怖かった。
私は…………ずっと何がしたいのか分からなかった。何かしたいって熱意が湧くことなんて殆どなかった。でも………………やっぱり死ぬ時位はアズサと居たかった。アズサと話したかった。アズサより出来なくて悔しいと思っていた癖に、私はアズサが何より大事だったんだ。アズサより出来なくて悔しい。けれどそれは、何よりアズサに『凄い』って言われたかったからなんじゃないのかな。
それは叶わない願いだろう。だって凄くないんだから。叶わなくたってもういい。アズサに……アズサに会いたい。
私の中で決意が固められたような気がした。
私はふと、机の上に置いていた純白の羽根を見る。アズサはどうしているかは分からない。けれど、きっとこの羽根を持っていれば私のように不思議な力が働いて立てるかもしれない。私は純白の羽根を握るように取って、身体を仰向けにする。
「まだ………私は…………」
私は体を起こす。胸が痛い。けれど…………
「アズサに…………会えてない!……」
大切な妹に会う為に体を動かす。合わないままおさらばなんて嫌だ。まだ沢山アズサとは話したかったのに……一緒に居たかったのに………………!
ドサッ!…………
私はベッドから転げ落ちる。でもそんなの関係ない。私はアズサに会いたいんだ。まだ話足りないんだ。
私は壁に寄りかかりながらもフラフラと立ち上がる。着替えなければ。私はこんなにフラフラなのに、最期にアズサと会う姿に気を使おうとしていた。いつも着てるシャツとズボンを穿いてベルトを締めて、ジャケットを着た。
「ゴホッゴホッ!……ゴホッ!……」
私はまだ髪を結えていない。けれどこれ以上身だしなみに力を使えない気がして、おさげになるように私の手作りのシュシュで髪を纏めた。
そして純白の羽根を胸ポケットにしまい、玄関へ進んだ。
ドン!……
私は体重を掛けて玄関の扉を開いて、フラフラのままアリウスの荒れた街並みを進んで行く。作戦で出てるからか誰も居なくて、閑散としていた。
そして私はカタコンベを通る前まで行く。すると、カタコンベの見張り担当の子が何処からともなく現れ、私の方に駆け寄って来た。
「ゴホッゴホッゴホッ!……ゴホッ!……」
「おい、お前……そんな状態なら寝て」
「アズサに……」
「?……」
「アズサに……会いたい…………!」
「…………そうか……」
声は掠れて聞き取りづらい筈だし、私が名前すら知らない子だった。だけど、私に肩を貸してくれた。
「カタコンベの前までは手伝う。だけどそれ以上は私がどうこうできないから……まあなんだ、アズサと会って話してこい」
私はそれに、無言で頷いて答えた。
「急ぎだろう?背負って行くぞ」
そして私はその子に背負われてその子は走った。私はその揺れに何処か眠気を感じながらも、私はしがみついた。振り落とされそうな気がして、そして何もしていないのは何故だか怖くて、何かが変わるわけでもないのは分かっていたけれど焦燥と病の苦しみは理性を鈍らせて私を衝動で突き動かそうとした。
そして彼女の足が速いのか、あっという間にカタコンベの前まで辿り着いた。
「ありが……ゴホッ!ゴホッ!」
「無茶す……いや無茶しまくってるな。でも……会いたいんだろ?」
私は降りながら首を縦に振る。
「なら行ってこい。私に出来るのはここまでだ」
そう言うと彼女は去ってしまった。きっと彼女と会うのはこれで最後なのだろうけれど、私は彼女の恩は忘れない。マダムに叱責されるリスクを負ってでも私の我儘に応えてくれたのだから。
私はフラフラした足取りで今度は綺麗な街並みを歩く。壁を伝い、その足取りは少しだけ重いけれどどうにか進み、アズサが居るはずの場所までなにかに導かれるかのように、進んで行く。アズサの居るはずの場所は知らないし、どうしてアズサの居るはずの場所を知っているのかは分からないけれど、アズサに会えるならなんでも良かった。
先へ、先へ、ただアズサの為に。そう思っている内に銃声が聞こえた。だからその場所へ向け走り出していた。進む道は一体どういうわけかアリウスの生徒と一人も合わなかったけれど、私を導く何かがそういうふうに導いたのだろう。
ダダダダダダダダダ!
そして銃声のした元へ……建物の角から私は飛び出した。
「アズ……サ!…………ゴホッ!ゴホッ!」
「っ!姉上っ!!!!」
そこで私の目にはピンク髪の女と相対する、ボロボロの姿で膝を付くアズサが写った。時に訓練でボロボロになる事だってあったはずだ。でも、私はその姿を見て激情に襲われた。私はそれを出来る限り表には出さないようにした。アズサの前で姉らしくない勝手な暴走みたいな真似はしたくなかった。
私はアズサの元まで駆け寄りしゃがむ。
「どうしてここに!……」
「アズサに会いたくて……無茶しゴホッ!ゴホッ!」
「私は大丈夫だ。だから────」
「アズサ」
「?……」
「誰がこんなに……アズサを…………ボロボロにしたの?……」
アズサは少し迷った後、ピンク髪の子の方を指差した。私はふらふらしながら立ち上がり、アズサが相対していたピンク髪の子を見据える。彼女が私のアズサを傷つけたのか。そうなのか。
「アズサを傷つけた奴は全員殺す」
ならば殺さなくちゃいけない。私はキレると随分見境がなくなるみたいで、アリウス生がいるのを見るに完全にあっちがアリウス側でアズサが裏切ったって所なんだろう。でも、そんなのどうでも良い。と言うか、アリウスとかどうでも良い。
アズサを傷付けた。ならそこに所属していようがあれは敵だ。滅殺しなければならない。
「あ、貴方がアズサちゃんの!……」
「酷い状態だ…………すぐにでも休まないと……!」
すぐ近くに先生と何人か生徒がいた。彼女らがアズサの言っていた補修授業部の仲間なのだろう。先生と思しきスーツの大人は私の事を凄く心配している様子だった。きっと私の口元が喀血で汚れてしまっているからなんだろう。
「アズサの……仲間だね…………私も戦う」
「そんな状態で!?巫山戯てるの!?」
「巫山戯てるかもね…………皆……取り巻き頼める?……」
ピンクツインテの子がツッコんで来るけど、もう私の体なんかどうでも良くなる程私を突き動かす激情は強かった。
「分かった…………でも絶対無事でいるんだよ」
「どうでも良い……どうせ虚しい。だから……ゴホッ!ゴホッ!……かはっ!…………」
先生の言葉を一蹴し、私は口元を抑えて吐いた血を手に受け止めさせ、それを『Memento mori』のシリンダーの後ろの方に塗り向けて六発全てに血をつける。シリンダーは酷く錆び付いていたけれど、動けば何でもいい。
「私が満足するまで暴れてやる!」
アズサの為って言えない辺り私はめちゃくちゃ自己中だ。そんなのすら、どうでも良かった。可愛くて大切な妹を傷付けたんだ。本当は殺りたくない、もう本当に本っ当に殺りたくないんだけど、殺る以外の選択肢は絶対にあり得ない。
「病気なのに休めない悪い子なら仕方ないじゃんね☆すぐに寝かせてあげる!」
そうピンク髪のヤロウが言う。同情している余裕があるらしい。そうか。私はそんなにお前にとって弱いか。ならお前が倒された時の顔が楽しみだ。
ダダダダダダダダダ!
「なんで当たらないのっ!!!!」
「射撃、下手っぴ、だねっ!」
そう言って私は絶え絶えの息だろうがお構いなしに弾幕を躱して肉薄する。ミカは近づくのを見越してか左手だけ拳を握った。まあ普通に考えて苦し紛れで徒手格闘挑むって見えるよね。
でも私は徒手格闘なんて下手くそもいい所だ。なので、私は格闘をしないように急ブレーキをして拳をすれすれで躱す。
「っ!?」
ズガァァァァン!!!!
そしてミカの土手っ腹に威力マシマシの一発をぶち込む。
「っ!!!!」
私は苦し紛れに振られる銃を躱して少しだけ下がる。そしてまた一発。
ズガァァァァン!!!!
今度は頭に当たる。頭から血を流しているがまだ銃を向けてくる辺りとんでもない耐久性を持っているらしい。その頑丈さはとてもうらやましいね。
「っ!……ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」
私は思い出したかのように咳をしてしまい、膝を付く。
「生意気じゃんねっ!!!!」
その隙を狙ってかピンク髪ヤロウは引き金を引く。私は体を転がして無理矢理躱そうとしたが、弾が出ない。弾切れか?────
「上!!!!」
何処からともなく聞こえてきた先生の声に咄嗟に上を向くと隕石が私の目の前まで迫っていた。躱せない。これは無理だ。何でもかんでも私は避けられるわけじゃない。私は潰れておしまいだ。
「……っ!?」
だが、赤いオーラのような物が私を包み込む。赤いオーラに当たった隕石は砕け散り、赤いオーラが飛び散って灰色の羽根に変わる。どうやら私の攻撃を極稀に無効化していた物はこれらしい。
「えぇーっ!?!?」
ピンク髪ヤロウは面食らった顔をしているがいい顔だ。出来ればそんな感じの顔で泡吹いてくれると嬉しい。
ズガァァァァン!!!!
私はそう思いながら弾丸を撃つ。今度は太ももの辺りに当たったらしい。めちゃくちゃ痛そうに顔を歪めている。私はそう言う顔が見たかったぞ、ピンク髪ヤロウ。
「何なの、もうっ!」
ダダダダダダダダダ!!!!
「狙い、なよ、もっと……」
今度はミカから肉薄してきた。私は弾幕を躱しながらも隙を見て弾丸をねじ込む。
ズガァァァァン!!!!
「無駄っじゃんねっ!!!!」
ブンッ!!!!
それでもピンク髪ヤロウは肉薄し、拳が当たる距離まで近づかれる。そして、風を切りながら振り下ろされる拳。これも躱せない。確実に当たる。ならばどうするべきか。
ズガァァァァン!!!!
前に出ていた足をぶち抜き、地面を踏み抜けないように後ろに吹っ飛ばした。幾ら怪力であれ、重心をかけて踏み込もうとしている足を対物ライフル並の弾丸が当たれば足が後ろに行く。
そしてピンク髪ヤロウの足は重心が前にある状態で二本の足が後ろにある状態。そうなれば盛大にズッコケるの当然だろう。私は屈んでズッコケる下を抜けるようしゃがむ。
ズザーッ!
「とっとと寝とけ」
そして私は立ち上がって見下しながら、頭を狙い『Memento mori』の引き金を引いた。
ズガァァァァン!!!!
「っ………………」
頭に当たったようで気絶させられたらしい。全く、強化した弾丸を頭に一発食らって尚気絶しないなどどんな耐久性なのだろう。
「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!……ゴホッゴホッ!…………げはっ…………」
そう思いつつ、私は気が抜けたらしく膝から崩れ落ち、蹲ってしまった。あのピンク髪ヤロウの酷いご尊顔が拝めないのは非常に、非っ常に残念だ。
「姉上!良かった……無事で…………」
「アズサ…………」
アズサはしゃがんで、私を抱き抱えるように上半身を支えてくれた。アズサの顔は今にも泣きそうで、せっかくの顔が少しぐしゃっとなっていた。
「聴いて……」
「……分かった」
きっとこれが最期だ。だから、私は姉上らしさを捨てて我儘に思いの丈をぶつけたかった。
「私はね……アズサが私よりできる子で…………嬉しかった。でも……ゴホッ!それが悔しかった」
「っ、…………」
「姉上って慕われてるのに、出来ないなんて悔しくて、だから頑張って、頑張って…………でも私はアズサより物が出来ないままだった」
「…………」
「私は…………アズサみたいに未来に希望を持てない私が……嫌いだったよ」
私は虚しかった。アズサの為に頑張って、アズサに必要とされて頑張ってる。けれど、私とアズサがこの先もずっと居られる確証がないまま、ただ今をどうにか一緒に生きる事に精一杯な日々は、とても怖かった。
それでもアズサは、希望を見出そうとしていた。けれど私は死期が近づいているからか『その先』に希望を見いだせなくて、何かをやるにしても熱意が無かった。
だから、私はアズサより勉強が出来ていた筈なのに『アズサよりも出来ない』と思えていたんだ。
私は自分の劣等感の正体に今更気付けた。余りに手遅れで、もっと早く気付けていればもっと幸せに生きていられただろうに…………
「……ごめん。私は傍にいたのに姉上の苦しみを何も理解しないでいて…………」
今度はアズサの番だ。私はもうしゃべるのも苦しかったから、静かにアズサの言葉に耳を傾ける。
「でも……私にとって姉上は憧れだった。姉上は病に負けないで、必死に生活を支えてくれて、大抵のことなら人並みにやれるのが……羨ましかった。私は姉上が支えてくれたから私は色々出来るようになれたんだ」
「…………」
「だから…………姉上は凄いよ」
私は、なんだか今までの苦しみが全部報われた気がした。私は喀血して体が痛んで息苦しくて、どうしようもなく苦しい筈だ。だけど私は笑顔を浮かべた。私は褒められた事がどうしようもなく嬉しかったんだ。
「ふふっ……アズサに褒められちゃった♪」
そしてそれと同時に私は酷い人間だと思った。私もアズサの憧れを知らず、大切にしてくれている事を蔑ろにし自殺しようとしていた。私は余りに自分勝手で馬鹿な人間なんだなと思い、過去の自分を殴りたくなった。
「アズサ……ごめん…………ゴホッ!ゴホッ!……かはっ!……約束……守れそうに……………………」
そう言う私の意識はゆっくりと遠のいていく。私はまた無茶しまくったけど、きっと最後の力を振り絞ったんだ。私はアズサより先に死んでしまう。それは悪いことなんだ。
でも、私は何だかたった一つの守り抜きたい物を守り抜けた気がして……満足して…………逝けそうな………………気が…………………した……………………
アズサ姉上は実はお金稼いでいました。しかし喘息だけから色々症状増えちゃって動けなくなっちゃったんですね。セーカイハーザンコークダー♪
ifは書いた方がいいですかね?……評価10人まで到達したら書きましょうか。赤バー行ったら平和な番外編でも書きます。
何でこんな事言うかって?評価に飢えてるからです(ドブカス)まあ評価なくてもなんかしらのおまけは書くつもりです。