鬱系世界で魔法少女(♂)は甘やかしたい   作:ヒナまつり

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癒し系魔法少女になっちゃった…!?

 

 「昨日午後10頃に目撃された怪人ブロードは、本日午前5時30分に魔法少女グローリアにより討伐されたことが確認されました。緊急避難を行っていた近隣住民の方々は念のため避難所での待機をお願いいたします。続きまして、魔法少女ラピスウィリデへのインタビューを─」

 

 雨の降る音と、様々な魔法少女のポスターが貼ってある部屋でもう慣れてしまった怪人討伐と魔法少女のニュースが流れる。

 

 前世では魔法少女も怪人も、妄想の中でしか現れないものだったのに…俺ももう、この世界に染まったんだな。

 

 そうしみじみ思いながら、俺は仕事による不満や怒りを忘れるために手元に置いてあった酒をあおる。

 

 けれど、酔えば酔う程に考えてしまうんだ。俺はなんでこんな世界に転生したのか、何故転生の癖に才能も力も…なにも貰えなかったのかと。

 

 せめて、魔法少女になれたらこの世界に転生した意味があるのにと。

 

 まぁ、でも魔法少女の寿命はとてつもなく短いんだけれどさぁ…でも転生したなら少しぐらい前世と違うことがしたいよねぇー?

 

 ─それに、初めて見た魔法少女は輝いていたんだ。月のように、綺麗で儚く思わず手を伸ばしてしまうほどに。

 

 …届くことはなかったけどね。はぁ、明日も仕事だ。さっさと寝よう。明日は怪人なんていなければ良いけど─。

 

 


 

 「ふぁ~、もう朝かぁ…?何か声…変じゃな─!?」

 

 鳴り響くアラームを止めて、起き上がろうと身体を起こした時、自分の声がやけに甲高くホワホワとした声でその上、男には存在する筈のない…巨大な山が目に写った。

 

 「…あぁー!昨日魔法少女になりたいなぁって思ってたから夢見てるのかな!うん、うん…うわ、やわらか…!んっ、うへ…感度良いなぁ?」

 

 どうせ夢だろうと、その巨大な山を揉んだ瞬間…稲妻のような感覚とちょっぴりエッチな声が漏れた。

 

 「へぇー、リアルな夢だなぁ。んんっ、ヤバい…良くない気持ちになるぞこれぇ。よし、ダメ。触るのは止めよう!んでぇ、これ…夢─だよね?」

 

 流石に不安になってきて、俺は自分の頬をつねってみた。すると、モチモチの頬っぺたは良く伸び痛みが俺の身体を襲った。

 

 「いひゃ!へっ…痛いんだけど、まさか─夢じゃない…?」

 

 一瞬過った不安は、俺の中で肥大化していき…いても経っても居られず鏡で自分の姿を見た。

 

 そこには、白銀の髪と優しそうなブロンズのタレ目のシスター服のような何かを着たおねーさんポカンと間抜けな顔で居た。

 

 それはそう、まるでニュースで見たことのある魔法少女のようで…。

 

 「あわ、あわわ…!もしかしなくとも俺、本当に魔法少女になってるぅぅー!?じゃ、じゃあもしかして…俺、女にぃ!?」

 

 悲痛な叫びが部屋中に響く。けれどその声も鈴のように綺麗で俺はぐったりと膝をつくことしか出来なかった。

 

 確かに、どうせなら魔法少女になりたいって思ってたよ?でもさ、急すぎるよ…!うわぁ、今日の仕事どうしよ!今から休みの連絡か?いや、でもこの声でしたら誰ってなるよねぇ?

 

 それにもし、男が、それも成人が魔法少女になったって知られたら…何らかの実験とかされる可能性もあるんじゃ…?というか俺は今男なの?女なの?いや、胸があるってことは女?

 

 でも、そう見てみるまでは分からない。俺の息子が消えてしまったなんて、分からないから!

 

 恐怖と好奇心で俺は見に纏ったシスター服を脱いでいく。

 

 そして、そこにあったのは…余りにも立派な息子の姿だった。

 

 「ふ○○りじゃねぇか!一番最悪のパターンだなぁ!?え、じゃあ俺男で女!?シスター風おねーさんの魔法少年少女ってこと!?属性多すぎだろぉ!」

 

 はぁ、はぁ…叫び疲れたぁ!というか驚き疲れた!えっ、というか俺これからどうすれば良いの?見た目変わったら身分証も使えないよね?戸籍も…全部ダメじゃない?!

 

 ─お、終わった…人生終わったぁ!?魔法少女になったせいでぇ!

 

 「ふぅ…よし、もう現実逃避しよう。うん、魔法少女になったんだ。どうせなら他の魔法少女に会いに行こ!それでどうにか、家に泊めて貰おうそうしよう!じゃあスマホと財布…よし!じゃあ探すぞ魔法少女!」

 

 何時もと違って前向きに俺は外へ飛び出した。

 

 それが、魔法少女になるという夢が叶ったからか…それとも才能も特別な力もなかった自分にやっと現れた特異な物に感動していたのか分からないが少しだけ道が晴れた気がしたのだ。

 

 


 

 「グローリアっ!貴方、魔力も体もまだ回復してないのに!」

 

 「ラピスウィリデ…お荷物の癖に煩いですわ!わたくしは怪人を殺さないと行けませんの!でなければ、あの子の敵を取れませんのよっ!」

 

 「あぁ、もうあんのお馬鹿!グローリアのマネージャーは何してるよ!はぁ…もう、援護するわよ!」

 

 テレビの撮影が終わった瞬間、近場に突然現れた怪人に向かった私はそこで魔力不足のグローリアに出会った。

 

 その上、本来なら2日は休まないといけないと診断されていた傷を魔力で無理やり治したのか魔力は更に少ないようで怪人を倒すのには明らかに脆く弱い剣しか召喚できないみたい。

 

 このままじゃ、死ぬのはグローリアの方だ。それは─放っておけない。だから、震える手で私は大っ嫌いな魔法を使った。

 

 それは、様々な鉱石を生み出し標的に圧し固める単純なものでそれ故に強力だと言われていた物だった。

 

 …でも、ある日を境に私はこの魔法をマトモに使えなくなった。だから…足手纏い。だけど、グローリアが死んじゃうぐらいなら…使うしかない。

 

 そう思って使ったそれは、全盛期とは遥かに弱く怪人の一部を鉱石化するだけに留まった。

 

 ただ、その一瞬はグローリアにとっては願ってもないチャンスでボロボロな剣で怪人の首を狙った。

 

 「取りましたわ…!えっ─?」

 

 けれど、余りにも貧弱な刃は敵を切り裂くことなく砕けた。…当然だ、分かりきっていたことだった。でも、私はグローリアならって現実を見ていなかった。

 

 そして、グローリアも同じだった。だから、バカにするように笑う怪人に簡単にその首を捕まれてギュッと絞められる。

 

 そう、そして…また友達を失うことになるんだ。相変わらず、足手纏いの私のせいで─。

 

 「うわ、うわぁー!ちょっ…止まって、止まってぇ~!あぁ!そこの人、避けてぇ~!」

 

 だけど、今回はそうはならなかった。見たこともない突然現れた魔法少女がピカピカと光る綺麗な玉に乗って怪人へ突撃してきたから。

 

 怪人は突然のことでグローリアを離して逃げ出そうとしたけれどその光が弱点なのか動くこともままならずグローリア共々押し潰されそうになる。

 

 「あぁ~!ダメだって!あっ、そうだ!小さくなって~!」

 

 でも、その瞬間大きな光の玉は突然小さく圧縮されてその代わりに光を強めた。それは、私達魔法少女にとってはただ眩しいだけなのに…怪人にとっては太陽の光のように燃やし悲鳴のような声を叫び消滅させたのだった。

 

 「…えっ?ヤバ…人殺し?俺、ヤっちゃった?えぇ、本当の人生終了じゃん…ただどんな魔法使えるか試しただけなのにぃ─いやでも、女の子襲ってたし…セーフ?」

 

 命の恩人とも呼べる彼女はボソボソと何かを呟きながら悲しそうな顔で消えてしまった怪人を眺める。それは、聖職者が失った命へ祈りを捧げるように。

 

 その横顔が、やけに私の瞳に残った。まるで怪人にすら優しさを分け与えるかのような…その綺麗な横顔が。

 

 でも、彼女は直ぐに切り替えまだ気絶しているグローリアに近寄った。

 

 「うわぁ、首絞められたのかな?むっ、何だか治せそうな気が…ぐぬぬっ、出ろぉ─」

 

 そして、天使のように神々しい光を纏いグローリアの身体に触れる。

 

 その瞬間、グローリアは眩い光に包まれた。咄嗟に目を閉じた私が光が落ち着いた時に見えた光景はあり得ないものだった。

 

 そもそも、魔法少女は自らの欲望や性質によって魔法が決まるんだ。例えばグローリアは騎士に憧れ、私はおばあちゃんに貰った翡翠を大切にしていた。そしてそれが魔法に影響したの。

 

 だからこそ、他人に影響を与える物は少ない。あっても洗脳や心を読むなどの少し悪い魔法で…誰かを癒す魔法なんてあり得ない。

 

 だって、それは…自分の欲望よりも他人の幸せを望むようなものなんだから。

 

 そして、考え込んでいる間に彼女はグローリアを抱えて私の側にやって来た。

 

 「貴方は怪我はないようですね。…良かった。えっと、この子は貴方のパートナー?それなら、預かって貰えるかしら」

 

 やっと聞こえた彼女の声は甘く優しく、包み込むように私に届いた。まるで…お姉ちゃんのように。

 

 けれど、それが私にとって忘れようと思った傷のようなもので…なんて答えれば良いのか分からなくなってしまった。

 

 それが、彼女にとっては今さっき起きた事の恐怖によって震えているのだと勘違いされたのか小さな熱が頭に触れた。

 

 そして、さわさわと優しくその熱は私の頭を撫で、優しい笑顔で私を見つめる。

 

 それはもう心配しなくていいよと伝えるかのようで、私は何故か溢れてくる涙を拭うことしか出来なかった。

 

 彼女はそんな私を見ても、拒絶することなくまだ優しく頭を撫でてくれて…やっと泣き止んだ時にまた言葉を掛けてくれた。

 

 「良く、頑張りましたね。貴方のお陰で彼女は助かりました。本当に、偉いです」

 

 それは、きっと本心からの言葉で優しく優しく私の胸に届いた。でも、自分が役立たずであることは分かっていて…その優しさが少しだけ痛い気がした。

 

 でも、それと同時に何処か空っぽだった何かが満たされるような気がした。

 

 だから、まだ震える声で私は答えた。

 

 「…ありがとうございます。えっと、彼女…グローリアはこちらで預かりますね。それで…もしよかったら私達の事務所に来てくれないですか…?」

 

 本来は、感謝を伝えてそれで終わりの筈だった。でも、何故か私はその人の裾を掴んで一緒に来てくれるように頼んだ。

 

 その理由はまだ分からない。けれど、私は助けて貰った感謝を事務所から渡すべきだって思うことにして少し困ったような彼女の手を引っ張った。

 

 彼女といればいつの日か、その答えが見つかると信じて─。

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