なぜ俺がブランシュの居場所を知っているか。
答えは簡単。「あいつ」に調べてもらったから。そういうのは「あいつ」の十八番だからな。
「情報を教えるのはいいんだけど、壬生先輩を一人にしておくの?」
達也には俺の質問の意図がちゃんと伝わているだろう。
「それは心配ない」
そう言って達也は保健室に入り口に向かい、扉を開けた。
そこには、見つかったことを気まずそうにしている、カウンセラーの小野先生がいた。
「あの……。えっと……。九重先生の秘蔵の弟子には見つかっちゃうか……」
頬をかき、そんな事をいいながら小野先生は中に入り、壬生先輩が横たわるベット横に椅子に座った。
壬生先輩は小野先生にまかせておけばいいだろう。
見届けた後、他の全員がカーテンを挟んだ隣のベットの方に移動した。
俺は携帯電話を取り出し、ブランシュの位置情報を達也の携帯に送った。
達也は携帯を取り出し、皆が見える形で位置情報を確認する。その場所はここから数キロと離れていない場所だった。
それを見たレオは呻く。
「こんな近くにいたのかよ。舐められたもんだぜ……」
「放棄された工場か……。車のほうがいいだろうな」
「車は俺が用意しよう」
車は十文字会頭が用意してくれるそうだ。それに七草会長が驚く。
「十文字くんも行くの!?」
「ああ、十師族に名を連ねるもとして、この学校の生徒として看過することは出来ん」
「なら、私も!」
「お前は駄目だ、七草。この状況で生徒会長がいないのは、何かとまずい」
七草会長は頬を膨らませながら、渋々といった感じで了承した。が、渡辺先輩にも釘を指した。
「わたったわ…。摩利も駄目だからね! この状況で風紀委員長がいなくなるものも危ないから!」
「わかった、わかった」
そうして、参加メンバーも決まり、出発することになった。
十文字会頭が用意してくれた車は直ぐに届いた。軍用品だろうか、しっかりと補強された車だ。
俺達は車に向かうと中にはいる。運転は十文字会頭が、男性陣は一番後ろ、間に女性陣の配置になる。
なかでスタンバっていると、外で桐原先輩が十文字会頭に直談判していた。
頭を下げてでも行きたい理由があるのだろう。直談判は通り、桐原先輩は助手席に座った。
その手には真剣か、はたまた模造刀か、刀が握られていた。
車はブランシュが根城にしている廃工場に向かっている。その中で即席の作成会議が開かれた。
運転しながら十文字会頭が達也に、
「司波、お前が指示を出せ」
達也は一つ頷くと、指示を飛ばし始めた。
「レオ、エリカは退路の確保と逃げ出そうとするやつの始末。十文字会頭と桐原先輩、芥は裏口から。俺と深雪は正面から行きます」
それぞれが了解の声をあげて、即席の作戦会議は終わった。
左手にみえる森の隙間から、廃工場が見えてきた。
車が最後のカーブを曲がると門扉が見えた。が、それは閉じられている。
そこに車は速度を落とさずに突っ込んでいく。
「レオ!」
「パンツァー!」
レオが声を上げて硬化魔法を発動させ、車全体を硬化させる。
一個の弾丸となった車は正門をそのままぶち破り、敷地内へと滑り込んでいった。
俺達は即座に車を降りると、後は打ち合わせ通りに動く。
俺は十文字会頭を先頭にして、桐原先輩と一緒に裏口の方に回る。
裏口に周る際、桐原先輩に聞いてみた。
「それ、模造刀ですよね?」
桐原先輩は答えず、ニヤリと笑うだけだった。
裏口の前に人員は配置していなかったので、そのまま入ったが、中では相手方が待ち構えていた。
侵入者である俺達に気付くと、警告無しで発砲してきた。
しかし、それは十文字会頭の防御魔法「ファランクス」に前では全く意味を無さない。
「ファランクス」が全てをシャットダウンする。
「ファランクス」を展開しまたま、十文字会頭は悠々と前進していく。
そのまま、白兵戦の距離まで近づくと、
「桐原! 世羅!」
十文字会頭は俺達に合図した。
「おう!」
「はい!」
俺と桐原先輩は十文字会頭の両脇をすり抜け、相手に肉薄する。
流石だろうか、「高周波ブレード」を使う剣術部の桐原戦先輩は相手をどんどん、斬り伏せていく。
楽だわ-なんて思いながら、俺は桐原先輩の死角になる位置にいる敵を倒していく。こんな奴ら「当身」で十分だ。
その様子を見て、十文字会頭は関心した表情を浮かべているが、俺には見えていない。
ひとまず、この場にいる全員を行動不能にさせると、俺達は次へと足を運んだ。
敵をなぎ倒しながら進んでいくと、突き当りに当たった。壁というよりか扉が閉まっている。
その扉を桐原先輩は「高周波ブレード」で難なく切り裂いていく。
切り裂かれて崩れ落ちた扉の先の部屋に、俺と桐原先輩が足を踏み入れる。
そこには達也と、倒れ込んだブランシュのメンバー、そして唯一この場で動いている腰を抜かした一人の男性がいた。
桐原先輩は達也に向かって、
「やるじゃねえか、司波兄。……で、こいつは?」
腰を抜かしている男を睥睨しながら言った。
達也は冷静に返した。
「そいつがブランシュ、日本支部のリーダー、司一 <つかさ はじめ>です」
その言葉を聞いた桐原先輩は、俺でもわかりやすい形で激昂した。
「こいつが……。こいつが! 壬生をタラシこみやがったのか!」
その激昂に押されてか、腰を抜かしてい男は慌てて立ち上がり、桐原先輩にCADに手を向けた。
が、桐原先輩は一足刀に踏み込み、「高周波ブレード」で男の肘から先を切り落とした。
悲鳴を上げながらみっともなく、うずくまる男に対して俺は、右手をかざし魔法を発動して傷口を焼いて止血した。
その痛みが激烈だったからか、男は失神して動かなくなってしまった。
後に入ってきた十文字会頭はその様子を見ると、達也の方に視線を向け、
「これで全部か?」
「おそらく」
答えを聞くと、ブランシュのリーダーに寄っていった。
俺は達也の方に近づいていくと、達也にねぎらいの言葉をかけた。
「お疲れ様。達也」
「ああ。芥もな。流石というべきか早かったな」
「こっちには桐原先輩もいたしね。後詰めに十文字会頭もいれば、討たれる事はないよ」
「それもそうか」
俺は視線を達也が来た方向に向ける。
「
「妹だからな」
その後、十文字会頭が連絡したのか警察機構がこの場に到着したことで、その場の指揮権は移った。
俺達は現場検証という確認作業をした後、外に出た。
俺と達也が外に出ると、待っていたとばかりに深雪が近づいてきた。
「芥さん、お兄様。ご無事でしたか?」
「ああ、大丈夫だよ」
「問題ない」
しかし、深雪の表情は晴れない。
そんな深雪に達也は優しく声をかけた。
「大丈夫」
えっ、と顔を上げる深雪の横を担架で運ばれる、
それで事情を把握したであろう深雪は、達也に礼を言った。そして俺は茶化した。
「ありがとうございます。お兄様」
「流石です。お兄様」
その冗談を受けて、達也は俺の肩を小突いた。
十文字会頭が根回ししてくれたからか、特に拘束されるでもなく俺達は放免となり、その場は解散となった。
時間は過ぎて、壬生先輩の退院の日。
俺は達也、深雪と一緒に退院お祝いのため、病院を訪れていた。
深雪の手にはお祝い用の花が握られている。
エントランスに入ると、壬生先輩が見えたが、その隣には桐原先輩がいた。
2人とも楽しそうに会話している。
「あれは……。桐原先輩ではありませんか?」
その答えは俺達の間に割り込んできたエリカが答えた。
「桐原先輩、毎日来てたんだって!」
「それはまた」
「マメなんだね。桐原先輩って」
「ぶー。なんだ、みんな驚かないのね」
ふてくされているエリカをよそに、達也は壬生先輩に声をかけた。
「壬生先輩!」
「司波くん! それに深雪さんと世羅くんも!」
壬生先輩達は俺達に気付くとこちらに寄ってきた
深雪が花束を壬生先輩に渡す。
「退院おめでとう御座います」
「ありがとう」
俺は桐原先輩にちょっかいを掛けてみることにした。
「桐原先輩。思ってた以上にちゃんとしてるんですね。そこまで壬生先輩を想っていたとは」
「おい! 世羅!」
それにエリカが乗ってきた。
「そうなのよねぇ。男は顔じゃないって事ね」
「こいつら……!」
そこに達也までも乗ってきた。
「そうだぞ、エリカ、ブランシュのリーダーを前にしたあの漢気には、一人の男として感服したものだ」
「あー。たしかにあれには感服したもんだ」
達也の隣で、俺はうんうんと頷いた。
「おい! 司波兄! 世羅! 何も言うんじゃねえぞ!」
桐原先輩は俺達を指さし発言を止めようとするが、小悪魔は止まらない。
エリカは達也に耳打ちするのポーズをとるが、声のボリュームはそのままに、
「後で教えてね」
と呟いた。
それは当然、桐原先輩に届いていたので、「こいつ!」と、桐原先輩とエリカの追いかけっこが始まった。
その間、壬生先輩は顔を真っ赤にしてうつむいて、固まったままだった。
じゃれ合いが終わると、壬生先輩達を伴って病院を出て、俺達は帰宅の途についた。
その夜。
俺はいつも通り、リビングで「あいつ」と通話をしていた。
『どうだった、この一ヶ月は? お前が望んだ「日常」だったか?』
「んなわけあるか。波乱万丈だったわ」
通話の先からくくくっと、含み笑いが聞こえる。
『まぁ、司波 達也と関わった以上、お前の「日常」は楽しくなるだろうよ』
「だろうな!」
『次のメインステージは九校戦だ。それまでは余暇を楽しめ。こちらもそれに備えて動く』
「九校戦ね。大きな舞台だから更に波乱が待っていそうだ」
『それも含めて
それで通話は終了した。
俺はソファーに体重を預け目を閉じて瞼の裏に、この一ヶ月間の出来事を思い出していく。
「歴史の主人公」であるメイングループとの邂逅。
風紀員の任命。
はては、テロリストとの交戦。
イベントが渋滞している。
普通に学園生活を送っていても楽しかっただろうが、より楽しさは増した気がする。
まぁ、深く考えてもサイコロ目はどうとでも変わる。気にしすぎるのも良くない。
だが、そのサイコロは自分の意思で振れるようにしておかないといけない。
そのための準備はちゃんとしている。気分を切り替えて、俺は夕食の準備を始めた。
そうして、入学式から約1ヶ月間。密度の濃い初めてのイベントをクリアしたのだった。