第一話
7月初旬に行われた定期試験後の放課後。
皆でいつもの喫茶店でお茶とお菓子を用意して、試験が終わった解放感を味わっていた。
そんな中、クッキーを手にしたレオが話題を提供してきた。
「そういや、そろそろ九校戦だよな」
それに珍しく深雪が反応する。
「ええ、そうです。そのため試験期間中でも、生徒会はいろいろと動かなくてはいけなくて、大変でした」
「深雪も出場するんだよね?」
「はい。新人戦ではありますが。ほのかと雫も参加しますよ」
俺の質問に上がった2人はやる気に溢れているのか、ガッツポーズをVサインをした。
しかし、雫は少し警戒するような声色で
「でも油断は出来ない。今年は三高の一年生に、一条の御曹司がいるから」
雫のその意見はいささか的外れだった(九校戦は競技が男女別なため)が、それに突っ込む野暮は誰もしない。
その情報に俺は興味を持った。やはり、一条の御曹司も俺達と同い年なのだ。
「へぇ……」
「そりゃ、強敵だね」
エリカも興味を持ったようだった。それは競技というより実戦の実力が見たいからだろう。
「それにしても、雫は詳しいね?」
「雫は毎年観戦に行っているくらい九校戦フリークなんですよ」
「好きなのはモノリス・コード」
俺の質問に答えたのは、ほのかだった。それを雫が補強する。
その日の放課後は九校戦の話題に、皆で盛り上がった。
翌週の月曜日の放課後。
最近は達也の仕事の手伝いのため、俺も風紀委員室に入り浸っている。
なんでも、次の風紀委員長のために引き継ぎ資料を作成したい。と、渡辺先輩から言われたので、その資料作成をしているためだ。
部屋には、渡辺先輩、俺、達也しかいない。
達也は黙々とコンソールに向かってタイピングしながら資料を作成して、俺は出来上がった資料の推敲をやっていた。
沈黙が続くのがちょっと嫌なため、適当な話題を探し、九校戦の話を出した。
「確か、今年はうちの三連覇が懸かっているんでしたっけ?」
「そうだ、私たちにとっては今年が『本番』だな」
その雑談に渡辺先輩が乗ってきた。
「九校戦にはあまり詳しくないんですが、どんな競技があるんでしたっけ?」
「ここ近年は種目が固定科されている。
モノリス・コード、
ミラージ・パッド、
アイスピラーズ・ブレイク、
スピード・シューティング、
クラウド・ボール、
バトル・ボード、
アウトスタンド・ワン、だな」
その中に聞き慣れない種目があった。
その疑問を晴らすため、渡辺先輩に聞いてみた。
「アウトスタンド・ワンってどんな競技なんですか?」
「ああ、アウトスタンド・ワンは九校戦の種目では珍しい、マジック・マーシャル・アーツを用いた一対一の競技だ。簡単に言えば魔法を用いた徒手格闘戦だな。
通常、マジック・マーシャル・アーツ系の競技は別に開催されるんだが、これだけは何故か九校戦で行われることになっている」
渡辺先輩は一気に言い切ると、一旦、机にあるお茶で唇を潤した。
「しかも、だ。新人戦限定でかつ、使用魔法にほとんどの制限はない。選手には誓約書を書かせるほどだからな。よほどの物好きじゃない限り参加しない」
「という事は、参加選手も少ないんですか?」
「ああ、棄権する高校も少なくない。今のところ、うちも参加は見送るつもりだ。……興味が湧いてきたか?」
「まぁ、ちょっと興味はありますが、俺が出場することはないでしょう。二科生なんですから」
「君の実力を知っていれば、出場は当たり前だと思うがね。まぁ、興味があるならパンフがあるから見ておくと良い」
そういって、渡辺先輩は長机に紙のパンフレットを滑らせてきた。
俺達が雑談している間、達也は黙々と資料の作成をしていた。
俺も推敲の手を緩めていたわけじゃないよ?
翌日。
午前中に「体育」の授業が行われていた。
魔法科の高校ではあるが、一般教養の項目が全く無いわけではない。
本日の授業はレッグボールだった。
レッグボールはフットサルの進化系で前後左右、そして上に反発性の壁を敷いてその壁を利用してパスやシュートをする、360度を利用したボール競技になる。
今は1-Eの男子同士で試合が行われており、女子の黄色い声援があるとなるれば、男子は気合が入るというものだ。
「芥!」
達也から壁を使ったパスが飛んでくる。
それを足を使って、トラップしてボールを地面に置く。
そこに、
「やらせるかよ!」
と、相手チームの男子生徒が立ちはだかった。
俺はちょっとしたおちゃめ心を炸裂させた。
地面に置いたボールを右足の踵で軽く蹴り上げて、前に進む。
軽く蹴り上げただけなので、ボールはまだ背中に張り付いている、そのため、相手にはボールはまだ見えていない。
そこから重力によって落ちてくるボールを左足の踵で蹴り上げ、ボールを高く上げて相手を追い越す。
ダブルヒールリフトの完成だ。
それに女子の黄色い声援が飛んできて、気持ち良かった。
「吉田!」
俺は同じクラスメイトの吉田 幹比古 <よしだ みきひこ>に向かって壁を使った変速パスを出す。
吉田はその変速パスに慌てること無く、トラップするとシュート撃ってをゴール決めた。
得点が入ったブザーが鳴る。
そのシュートを見ていた、レオと達也が俺の側まで来る。
「やるな、あいつ」
「ああ。読みも良いし、なにより身体が動く」
吉田 幹比古の身体は細い部類に入るが、キチンと引き締まった体格だ。
その上で身体が動くということは、相当な訓練を受けているのだろうと予測できる。
その試合は俺達が活躍することで、勝利を収める事が出来た。
試合後、俺達というか、レオが吉田に声を掛けた。
「ナイスプレー」
吉田はこちらに気づくと、
「そっちこそ」
「こう言っちゃなんだが、吉田って結構動けるるんだな」
「幹比古」
「ん?」
「苗字で呼ばれるのは好きじゃないんだ。名前で呼んで欲しい」
「おう、じゃあ、俺のこともレオでいいぜ」
それに達也と俺も乗っかる。
「俺の事も達也でいい。幹比古と呼ばせてもらうよ」
「俺も俺も! 芥でいいよ。俺も名前で呼ばせてもらう」
幹比古は俺達に向き合うと、
「僕も君達とは話してみたいと想っていたんだ」
「そうか、奇遇だな、俺もだ」
達也がそれに答えた。どうやら理論畑で優秀な2人は何か通じるものがあるらしい。
「なんか疎外感を感じるな……」
「わかるぜ。俺もだ……」
そうして、俺達と幹比古の交流は始まった。
そのあと、エリカの運動着に対して一悶着あったが、レオと幹比古の名誉の為、割愛させてもらおう。
昼休み。
いつもの生グループが生徒会室で昼食を取っているが、ここでも話題は九校戦だった。
しかし、内容は競技に関することではなく運営に関することだったが。
この中で一番心労が溜まっているであろう、七草会長はお弁当を進める箸を止めて愚痴っている。
それに渡辺先輩が相槌を打っている。
「一番の問題はエンジニアよ」
「まだ決まってないのか?」
「ええ、ウチは魔法師の志望が多いから、実技の方に偏っちゃって。特に三年生は魔工学の方は手薄になっているのよ」
「それは深刻な問題だな……」
俺と達也、深雪は黙々とお弁当を食べてる。が、以外な所から刺客はやってきた。
「なら、司波くんがエンジニアをするのはどうでしょうか?」
その刺客はあーちゃん先輩だった。
「……盲点だったわ」
「その手があったな」
七草会長と渡辺先輩は、我が意を得たりと達也の方を一斉に見た。
達也は諦めの溜息を軽くつくと、2人に向かって言った。
「CADの調整は繊細なものです。一年生、ましてや二科生の自分が担当するなど反発を……」
達也のセリフは全部言えなかった。七草会長と渡辺先輩が食い気味に反論してきたからだ。
「なんでも、始めてはあるのよ」
「前例は、なければ作れば良い」
退路を絶たれた達也は、うなだれるしか無かった。
そんな達也をよそに俺はお弁当を食べ終え、「ごちそうさま」と挨拶した。
恨みがましい視線が横から飛んできたが、俺は素知らぬ顔をして、お弁当箱を片付け始めた。
その週には、達也がエンジニアとして参加することが決定し、さらに翌週には壮行会があり、全校生徒が知ることになった。