九校戦も近づいた7月の中旬。
その日の夜も「あいつ」と家のリビングで会話していたが、会話の内容はいつもの学校の報告では無く、別の話題だった。
『芥』
「ん?」
『開発室から、「黒」と「白」のアップデートが完了した、と報告があった。週末にでも行って確認してくれ』
「お! りょーかい。週末、顔を出すよ」
しかし、俺は話題を学校行事である、九校戦に戻した。
「それと、調べて欲しい事があってさ」
『なんだ?』
「九校戦の種目にアウトスタンド・ワンっていう、聞き慣れない種目があるから調べて」
幾分かの沈黙の後、「あいつ」は返してきた。
「……なるほど。たしかに、それは聞いたことがないな」
「だから、根掘り葉掘り調べといて」
『わかった。その種目だけで
「よろしく」
『ああ、お前もちゃんと開発室には顔を出せよ』
その日の会話は終了した。
その週末。
俺は私服に着替えて、家の前まで着かせたキャビネットに乗り、郊外にある会社「Bullshitter Company」(ブルシッター カンパニー)の開発棟に向かった。
キャビネットの窓から見える外のビル群を眺めながら、思いを馳せる。
「Bullshitter Company」(ホラ吹き野郎の会社)は「個人に特化した特化型CADの作成」で有名な会社である。
達也の所属するFLTのように、革新的なデバイスを作るのが目的ではなく、完全に個人の得意魔法に合わせた、ワンオフのデバイスを作成する事が目的の会社だ。
その性質から、軍人、又はその筋からのオファーが多い。
値段的にもかなりの高額になるが、その分の品質は保証されているため、コアなファンが多い。
なぜ、俺がそんな会社と関わりがあるのかと言うと、俺が作った会社だからだ。
会社を作ったのは必要に迫られての事だが、今ではそれなりに影響力も出てきたので、良い隠れ蓑になっている。
もちろん、表に俺の名前が出ることはない。あくまで、裏で実権を握っているというだけだ。
キャビネットから見える光景はビル群から、森林へと変化していた。
郊外に建つBC社の研究棟のエントランスにキャビネットは吸い込まれていった。
研究棟としてはいささか大きな建物の前で、キャビネットを降りる。
そのまま入り口に向かい、顔パスで厳重な警備を通り抜けて、建物の2階にある「第一開発室」を目指す。
この建物は「第一開発室」専用の建物と言っても過言ではない。
「第一開発室」は表には現れず、ただひたすらに新技術を開発していくための金食い虫だ。
その金食い虫のお陰で、会社のビジネスが成り立っている側面もあるので、マッチポンプも良いところだ。
「第一開発室」に足を踏み入れる。が、三者がそこに踏み行ったのだが、誰も何も反応しない。
それだけ研究命の連中しかここにはいない。
俺はこの研究室で一番偉い男に声を掛けた。
真北 万久里 <まきた まくり>、通称、「マック・マック」だ。
こいつがこの研究室のブレーンである、魔法師を研究物としか見ていないイカれ野郎だ。
マック・マックの身長は俺とほぼ変わらないが、極端な猫背のせいで俺より小さく見えるし、なにより怪しさが倍増している。
小さめの丸眼鏡もそれを助長している。
「マック・マック。流石に気づけよ」
「おや、
「さっさと終わらせよう」
「きひっ、了解です。検査室に行きましょうか」
マック・マックが前を歩き、「第一開発室」を出る。それに俺は付いていく。
マック・マックはお喋り好きだ。前を歩き検査室に向かう間も、話し掛けてくる。
「で、どうなんですかい? 学校とやらの生活は? 楽しめてますか?」
「ああ、おかげさまでな。思ってた以上にスリリングだ」
「そうですか、そうですか。隊長が楽しめてるなら何よりです」
「おべっかを使うな」
「私にだってそれ位の頭は残っていますよ、きひっ」
「第一検査室」と書かれた部屋に入る。
そこは、入り口手前に検査用のコンソールが並び、窓がついた壁一枚向こうは白い壁で覆われた部屋がある簡潔な検査室だ。
早速、マック・マックはコンソールに張り付き、俺はそれを横目に壁の向こうの検査室に扉を開けて入る。
検査室の中央に立つと、スピーカーからマック・マックの声が流れてくる。
『んじゃ、準備も出来たので、早速始めますか』
そうして、俺は
しばらくの後、実験から解放されて、検査室からコンソールがある部屋へと戻った。
マック・マックはコンソールに向かいながら、一切こちらは見ずに、
「流石は隊長。良いデータが取れました」
「じゃ、後は頼む」
「きひっ、了解です」
俺は検査室を後にして、この建物にある自分の執務室へを足を向けた。
建物の南側にあるその執務室の椅子に座り、ヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)を装着する。
仮想ウィンドウで、情報を処理するのはこれが一番だ。この時代でも機械で空中に情報体を表示する技術はまだない。
そうやって、会社の数字の確認やらの事務作業をこなしていき、最後にメールボックスを確認する。
俺にメールはそんなに来ない(そもそもアドレスを知っている人間はごく少数だ)が、この時は一件の未読バッジが付いていてた。
メールを開くと、挨拶とかも無しに短い文章で、こう書かれていた。
『部屋を用意した、九校戦を観戦してこい。
その簡潔なメールの相手である、「先生」からのメールはいつもこんな感じだ。
要件しか書いてこない。
しかし、これが俺の九校戦の参加ルートか。
もう少しドラマチックな何かで参加すると思っていたが、想像以上にドライだった。
これにより、俺の九校戦参加が決まってしまったのだ。