魔法科高校の劣等生 ~隻腕の魔法使い~   作:なべを

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第三話

八月一日。

 

九校戦が開始される前前日の午前中。

大体2週間分の着替えやら何やらを纏めた、大きめのスーツケースを転がして、

夏用の私服である、薄いロングTシャツに黒のスラックス、そしてサンダルというラフな格好に着替えてキャビネットを呼び出した。

 

九校戦に参加する生徒とは別のコースで、俺は富士演習場の一角に設置された会場へ向かうからだ。

呼んだキャビネットが家の前に止まったので、中に滑り込んで移動先の富士を指定する。

キャビネットは静かに前進を始め、目的地へと進んでいった。

 

富士の演習場に付いたのはお昼を少し過ぎた辺りだった。

どうやら一校の選手たちはまだ到着していないように見える。

エントランスには、他の学校の制服を来た生徒がちらほらと見えるが、一校の制服は見えないからだ。

 

しかし、別の一団は同じ頃に到着していた模様。

宿泊施設のエントランスでキャビネットから降りて、荷物を下ろそうとした時、見知った男子の声が聞こえてきた。

 

「あれ? 芥じゃね?」

 

その声の方を向くと、同じ様にキャビネットから荷物を下ろしているレオと目があった。

 

「あれ、レオ? なんでここに?」

「それはこっちのセリフだぜ、芥? お前、選手だったか?」

 

すると、またまた見知った声が割り込んできた。

 

「え、芥? なんでここにいるのよ?」

「芥さん、ですか。こんにちわ」

「芥。こんにちわ」

 

エリカ、美月、幹比古までいる。

ひとまず邪魔にならないように、宿泊施設のエントランスをくぐり、ロビーの雑談スペースで話す事になった。

俺は立ったまま話し始めたが、エリカはさも当然のようにソファーに座っている。

 

エリカの格好はこの場にあまり似つかわしくないサマーワンピースを来て足を組んでいるせいか、素足が強調されて目のやり場に困る。

俺の倫理観もこの時代に対応しているので、素肌を見ると妙にドキドキしてしまう。

そのドキドキを悟られないように、エリカから微妙に視線を外して質問した。

 

「いや、なんで皆ここにいるのさ?」

「わたし達はちょっとしたコネを使って、ここに泊まれるように手配したのよ」

「あー。俺も似たような感じ」

 

俺とエリカは視線を合わせると、あんたもか、と同じ事を思った。

 

「まぁ、皆が集まれたのは良いことじゃね?」

「そうですね。ここでも皆と一緒なのは嬉しいです」

「たしかに。ここ人多そうだもんね。知り合いが居るだけで大分安心するよ」

 

レオ、美月はいつものメンバーが揃った事が嬉しそうだ。

そこに幹比古が割り込んできた。

 

「エリカ、早くチェックインをしたほうが良いんじゃないか?」

「それはミキがしてきてよ。女の子にさせるなんてスマートじゃないわよ」

 

その理不尽さに慣れているだろうか、幹比古は一つ溜息を付くと受付の方に向かっていった。

俺とレオも目線で頷き返すと、一緒に受付の方に向かった。

俺の列の方が先にチェクインが終わったので、雑談スペースに戻りスーツケースを手に取ると、

 

「お先に」

「あ! ちょっと待って! 芥。あんた、今日のパーティーには参加するの?」

「するよ。そう言われているからね」

 

そっか、と、エリカは言うと手をひらひらとさせた。それで話は終わりなのだろう。

俺は自分に与えられた部屋に通じるエレベーターへと向かった。

 

エレベーターで指定階で降りて部屋に向かう。

ドアノブにカードキーをかざすと解錠されたので、中へと足を踏み入れる。

中は、ツインベットがある一人で泊まるには、いささか広い部屋だった。

荷物を下ろし、窓の方に立つとこれから熱狂が生まれるであろう九校戦の会場が見えた。

 

壁に備え付けられたレトロな時計をみると、パーティーまではまだ時間がある。

俺は窓側に備え付けられた椅子に座り、携帯端末を取り出して小説を読み始めた。

(本来は紙の方が好みだが、この時代では電子書籍が一般的なため、それに慣れるように電子で見ている)

 

いつもの二科生の制服に着替えて、パーティー会場に向かう。

ひっそりと紛れるためパーティーへの参加は、開始時間から少し経ってからにした。

 

その際、少し気配を消しながら会場に入る。目立つことはしたくないからだ。

ただでさえ俺は見た目で目を引いてしまうので、ここでは大人しくしていよう。

ただ、俺のことを知っている連中は気付く、その程度の気配は残しておく。

 

ボーイからグラスを受け取り、部屋の隅で一人食事をして過ごしているが、そうそうに見つかってしまった。

 

「芥、来ているとは聞いていたが、こんな隅にいなくてもいいだろう」

「達也、俺だけ二科生の制服なんだ。目立つのは良くないだろ?」

 

達也が近づいてきて、挨拶をしてきた。

俺達はグラスを持ち上げ、挨拶を交わす。

 

「このパーティーによく潜り込めたな」

「まぁ。半ば強制的な感じはあるけど、コネが強すぎるのがいけない」

「……コネが強いことに反発するのは、なかなか聞かないな」

「だろうね」

 

俺はグラスに口を着けて、ジュースを一口飲む。

そして、達也の制服姿を上から下に見て、

 

「様になってるじゃないか」

「よしてくれ。こんな二回しか来ない制服を褒めれれてもな」

 

達也は外聞を嫌ってか、八花弁の刺繍が入った一科生の制服を来ていた。

そこにもう一人、俺に気づいた人物がやってきた。

 

「芥さん、いらしてたんですね!」

 

深雪だ。

深雪が来るとなると、更に耳目を集めるので、俺は気配を更に落とした。

これで俺は認識から外れるだろう。

その気配の殺し方を見た達也は、ほうっと関心の息を付いた。

 

「やぁ、深雪。こんばんわ」

「こんばんわ、芥さん。来るとわかっているなら一言、教えていただけば良いものを……」

「ただ、観戦に来ただけだからさ。選手には言わなくても良いかなと思って。そういえば、エリカ達も来てたよ」

「ああ、さっき会った。……ほら、エリカと幹比古は給仕の仕事をしているだろ? レオと美月はバックヤードだ」

 

そう言われて給仕の人達をちゃんと見ると、確かにエリカと幹比古がいた。

エリカは化粧もちゃんとして大人びているため、場に溶け込んでいる。慌ただしく動いている幹比古の方が、逆に目立っている。

 

そうして3人で雑談をしているが、いかんせん深雪の存在感が強すぎる。

このままだと俺が居ることがバレそうなので、

 

「深雪。他の人達にも挨拶をしてきたほうがいいんじゃない?」

「え。しかし……」

「チームメイトとの交流も大事だと思うよ?」

「……わかりました。失礼致します」

 

俺が言外に込めた意味を理解した深雪は、深雪と話したがって壁を作っている一団の方に向かっていった。

俺はふーっと溜息をつくが、それを見た達也が諌めるように目を細めて、

 

「もう少し、言葉を選んで欲しい所だな」

「他に言いようがないって。怒らないでよ、達也」

 

そうこう話しているうちの会場の照明が落ちて、壇上のみに明かりが点く。

来賓の挨拶が始まったようだ。

ちょうどいい暇つぶしが始まったので、俺と達也は耳を傾けた。

 

テレビやニュースでしか見たことが無いようない来賓達の挨拶の後、最後はかの有名な魔法師のみとなった。

九島 列 <くどう れつ>。

かつて「最高」にして「最功」と謳われた魔法師。現在は90才近いはずだ。

なかなかお目にかかれ無い十師族の人物が見れることに、俺は少し興味を持ちながら登壇するのを待った。

 

そして名前が呼ばれると、中央のマイクにスポットライトがあたる。

しかし、そこに現れたのは紅いドレスを纏った「若い女性」だった。

会場がざわめくが、俺は仕掛けには気付いていた。()()()()()()()女性の後ろに人が居るのが解る。

 

達也も同様にその仕掛けに気づいたのだろう。その視線はちゃんと、後ろにいる人に向けられている。

その人物は俺達の視線に気付くと、ニヤリと笑い、女性の耳元で何かをつぶやくと、女性は壇上から降りていった。

次の瞬間、九島 列がスポットライトを浴びている。仕掛けに気づかなかった人は九島 列が突然、現れた様に見えただろう。

 

九島 列はこちらに視線を送ってきたので、軽い目礼を返す。

それに満足したように、頷くと九島 列は語りだした。

 

「今のは単なる「手品」だが、今、自分がテロリストだった場合、対処出来たのは精々5人位だろう。

 魔法を磨くことはもちろん大切だ。しかし、()()を怠ってはいけない。私は君たちの()()に期待する」

 

その言葉に会場から拍手が起こる。満場の拍手とは行かないが九島 列が言った内容は伝わったのだろう。

その九島 列のスピーチを視て、俺は思ったことをそのまま口にした。

 

「なかなか、面白い方だな」

「ああ」

 

そのつぶやきに、達也も同意した。

この世の中には、まだまだ面白い人は沢山いるのだ。

 

おそらく「先生」はこれを見せたかったんだろうな、と思いながらパーティーはお開きとなり、俺は来た時と同じ様にひっそりと会場を後にした。

部屋に戻り風呂に入った後、明日の予定はどうしようかと考えながら、その日は就寝した。

 

明後日から始まる九校戦に胸を踊らせながら。

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