パーティーから翌々日。
今日からが九校戦が始まる日だ。
昨日の夜、
午前中の開会式の後、すぐさま競技が開催される。
初日は本戦のスピード・シューティングの予選と決勝、バトル・ボードの予選が行われる。
スピード・シューティングは七草会長が、バトル・ボードは渡辺先輩がエントリーしている。
七草会長の勇姿を拝見するべく、エリカ達と一緒に一般に解放された観客席に向かう。
俺達はあくまで呼ばれた側ではないから、選手席には入れない。
観客席に足を踏み入れると、開始前だというのに静かな熱気が蔓延していた。
エリカが席後方に達也、深雪、ほのか、雫を見つけたので、俺達もそっちに移動する。
達也たちの後方の席を確保して、各々に挨拶をした。
挨拶具合から感じるに深雪達、特に雫の興奮度合いは伝わってきた。
達也からスピード・シューティングの説明を受けている、その時、客席前方で黄色い歓声が上がった。
七草会長の番になり、会場に現れたのだ。
七草会長はゆるく巻いた髪を揺らしながら、ウエストを絞った襟付きのジャケットを着て、ストレッチパンツを履いている。
それがまた様になっていた。いつものゆるゆるな会長を見ているので、そのギャップに驚かせられる。
競技時が始まるのか「お静かに」の案内が出る。
その静寂に満ちた競技場に一人佇む、七草会長。
そして、開始番のライトが順番に消えていき最後のランプが消えると、競技が開始された。
七草会長の競技自体は満点で終了した。が、それ達はその技術に見惚れていた。
俺は独りゴチた。
「いやー、理解ってはいたけど、ちゃんと見ると凄いな」
「ああ、あれほどの魔法はなかなか目にする機会がないからな」
俺の独り言に、達也が関心した様子で返してきた。
流石は生徒会長といったところか。
その後、俺達は会場を移動して、渡辺先輩が出るバトル・ボードの予選観戦に移った。
バトル・ボードは会場も大きいので移動にも時間がかかる。競技はそれも考慮された開始時間が設定されていた。
こちらの会場も会場前方には観客が詰め寄っている。ただ、男女比は七草会長の時と逆だったが。
それを見て俺は一言。
「ミーハーってやつは何処にでも居るんだな」
「別にあんな女、見てもしょうがないわよ」
返答はエリカから来た。彼女には珍しく辛辣だった。
俺達は前の会場と一緒で後ろの方に陣取った。
渡辺先輩が現れると、本当に黄色い歓声が上がった。
渡辺先輩は女子受けがいいようだな。まぁ、ウエットスーツを着た渡辺先輩は様になっているから仕方ないか。
競技が始まっても、黄色い歓声が止むことはなかった。
なぜなら、渡辺先輩の勇姿は、当然の様に見栄えするものだったからだ。戦術も上手い。
しかし、達也はその勇姿の裏で実行されている、魔法の処理能力に感嘆していた。
「凄いな。常時、3から4種類の魔法をマルチキャストしているのか」
その感嘆をさも当然の様に受け取っている、渡辺先輩はそのまま一位で予選を通過した。
その後も競技は続き、八月五日。
バトル・ボードの決勝戦。
そう、「あいつ」から聞かされていた通りなら、何かが起こるのはここだ。
俺は注意深く試合を見つめていた。
そして、それは試合開始の直後に起こった。
最初のカーブに渡辺先輩が達し、その後に七校の生徒が差し掛かった時だ。
七校の生徒はカーブに対し、減速では無く加速して渡辺先輩に向かって突っ込んでいった。
ボードから投げ出された七校の生徒を渡辺先輩が受け止めようと、慣性中和魔法を発動させる。が、それが何故か発動しなかった。
七校の選手ともつれるようにして、渡辺先輩も壁に激突するコースを取っている。
俺は素早く右手を前に突き出して、慣性中和魔法を発動させた。俺の魔法はギリギリ間に合ったようだ。
壁に激突する直線に俺の慣性中和魔法が発動し、壁に大きな衝撃も無く2人はふんわりとぶつかった。
重い衝撃は無かったと思うが、油断は出来ない。
大会は中止を意味するレッドフラグが舞い、決勝戦は中止となった。
達也が素早く立ち上がり、
「俺が行く。みんなはここに居てくれ」
達也は足早に会場を後にした。
「一体何がどうなってんだ?」
「明らかにあれはおかしいわよ」
会場に残された面子は、それぞれに疑問を口にしながら推論を重ねていった。
その中で俺、一人だけは落ち着いていた。
何かある。とは思っていたがちゃんとあったな。
最低限、魔法が間に合ったから良かったものの、何もしなければ、大きな事故に発展していただろう。
それを発生させた連中の事に、想いを寄せながら、俺は静かな闘志を燃やしていた。
幸い、渡辺先輩の症状は重くはなかった。
軽い脳震盪だということだが、大事をとって1週間の養成を言い渡された。
そのため、渡辺先輩が出る予定だったミラージ・パットは棄権することになった。
その代わりとして、新人戦を辞退する形で深雪が本戦に出ることが決定した。
事故があったその日、俺は達也に一校の機材車に着てくれと、呼び出しを受けた。
夜、機材車に向かうと、美月と幹比古も機材車の前に居た。
「あれ? 2人とも」
「芥さんも呼ばれたんですか?」
「ああ、2人も?」
「ああ、何か相談事があるようだったよ」
俺が機材車のドアをノックすると、深雪が中に入れてくれた。
中では達也、五十里先輩。千代田先輩がコンソールに向かっていた。
どうやら、渡辺先輩が事故を起こした場面を皆で検証しているようだ。
達也は、事故の原因が意図的ではないか? それに精霊魔法が使われたのではないか? と疑っている。
幹比古を呼んだのはそのためだろう。
達也の質問に、幹比古の答えは「出来る」だった。ただ、準備は必要とのことだが。
そして、なぜか俺にも聞いてきた。
「芥にも出来るか?」
「なんで俺に聞くのか分からないけど、出来るよ」
「どうやってだ?、幹比古と同じく会場に入らないと駄目か?」
達也の質問は幹比古に質問した以上に、難しい事を聞いてきた。
「会場外からって事? 一応、地脈を通じてその先を見る千里眼的な事は出来るけど、それもはっきりと見えるわけじゃないから、一度はちゃんと目で見る必要があるかな」
「そうか、お前でも難しいか。渡辺先輩を守った魔法発動から見るに出来そうに見えたが」
「あれでも最速で発動したやつだから、完全に緩和はできなかったけどね」
「それでもあれは、有効だったよ」
俺の言葉に幹比古は、驚いているようだった。なにかおかしな事を言っただろうか?
いろいろと仮説は検討できたが、はっきりとした答えは出ないまま、皆の胸にしこりを残したまま日は進んでいった。
その後、日程は新人戦に移っていく。
雫のスピード・シューティング。
ほのかのバトル・ボード。
2人とも、新人戦の大きな舞台でありながら、優勝を勝ちとる快挙を成した。
これまでの新人戦で一番盛り上がったのは、蒼い振袖を着た雫と、緋色の袴と白の単衣を着た深雪のアイス・ピラーズの決勝だっただろう。
2人見た目もさることながら、繰り出された魔法の数々も観客を魅了していた。
そのハイレベルな争いには俺も感嘆したものだ。あれ、完全に高校生の領域を超えてそうだけどな。時に深雪は。
ここまでは大きなアクシデントが無く、大会は順調に進んでいった。
しかし、運命の振り子は均衡を保つ。
良い方に振り子が振れたなら、次は悪い方に振れるのだ。
それは現実となり、新人戦のモノリス・コードで運命の振り子は悪い方に振れた。
試合開始直後に、一校の選手に向けて四校の選手が「破城槌」の魔法を放ったのだ。
密閉空間での「破城槌」は殺傷ランクが規定を超える。それはフライング気味に発動し、一校の選手を飲み込んでいった。
またもや、レッドフラグが振られて、競技は中止となった。
運ばれていく一校の選手はかなりの重体だった。
起きてはいけないことが、2度起きた。つまりそれは、3度目もありうるということ。
俺は自分の部屋で、情報を集めていた。幸い「あいつ」が調べてくれる情報は正確だった。
やはり「無頭竜」が関わっているようだ。
別の場所では一校が今、緊急ミーティングを開いているそうだ。
まぁ、結果としては達也達がモノリス・コードに参戦する流れになるんだろうな。
なんて、他人事の様に考えていた時。
部屋に備え付けられて電話が鳴り、俺はその緊急ミーティングに呼び出しを受けた。