魔法科高校の劣等生 ~隻腕の魔法使い~   作:なべを

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第五話

夜に行われている緊急ミーティングに呼ばれたので、俺は宿舎の部屋から会議場へと足を向けた。

 

会議場の前にたどり着くと、ドアをコンコンッとノックする。

中から返事が返って来たので、扉を開けて中に足を踏み入れる。

足を踏み入れると、緊迫感がある冷たい空気が俺を撫でていく。

 

中には九校戦に参加する一校の主要メンバーに加えて七草会長、渡辺先輩、十文字会頭まで揃っている。

その場に相応しく無いのは俺を含めて、右側の壁際に立っている、いつも通りな達也と、その隣で借りてきた猫みたいに縮こまっている、レオと幹比古だった。

 

何があるんだろうか? と、内心首を傾げながらも、俺は部屋の中央まで足を進めた。

達也と同じ位置まで部屋の中を歩くと、七草会長の前で立ち止まり話を待つ。

横目で左側を見ると、この場にいる全員が渋い顔をしている。それだけで碌でも無い話は気がするので、心持ちだけはしておこう。

目線を前に戻すと、話は七草会長から切り出された。

 

「世羅くん。まずは急に呼び出してごめんなさい」

「いえ、それは問題ないです」

「そう……」

 

七草会長は言いづらそうに口をモゴモゴしている。

俺の発言をもって、その話の先を促す。

 

「自分が呼ばれた理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ええ……、いえ、ここで躊躇っても仕方ありませんね。世羅くん、あなたにはアウトスタンド・ワンに出場して頂きます」

 

断定系で来た。決定事項なのかー……。

 

「……理由を伺っても?」

「本戦の結果が想定よりも振るわなかったため、新人戦の比重が大きくなりました。

 そのため新人戦で出れる種目には全て出場する、とういう結論に我々は至りました」

「……人選の理由も伺ってよろしいでしょうか?」

「一番初めは司波くんからの推薦です。その後、私、摩利、そして、半蔵くんが賛成した為になります」

 

俺は壁際に居る達也の方に首を向けた。達也は素知らぬ顔で前を見ているだけだ。

こやつ……! 俺を売ったのか!?

七草会長に再度顔を向けて、俺は暗に辞退を申し出た。

 

「しかし、自分は正規の選手でもなければ、二科生になります。出場するには実力不足かと思いますが」

「アウトスタンド・ワンは特殊な競技性の為、前日でも受付が可能だ。そして、実力に関しては先程の三人、そして司波が保証した」

 

質問の返答は、十文字会頭から行われた。

その重く響く声が、有無を言わせぬ圧倒的な物言いになる。

 

「競技の性質上、危険が付き纏う。誓約書が必要なほどだ。

 しかし、それを持ってしても司波はお前を推薦した。『問題ない』と。

 そして、俺達はそれを材料に決定を下した。

 ……世羅。危険を承知だが、お前には出てもらう。何かあった場合は我々が責任を取る」

 

もし、俺に何かあった場合の全責任は会長達が背負うので、お前は気にせず出場しろ、という事か。

責任だけ取られ、後は本人の意思、と。もう、頷く以外の選択肢がないのでは?

だが、俺の心には火が点いていた。九校戦に出れるとは思ってなかったし、競技自体も俺の性分には合っている。

俺の心は行け! と言っている。なら前に進むしかないだろう。

 

「……解りました。どれほど出来るか解りませんが、全力を尽くします」

 

そう言って、七草会長に向かって腰を折った。

三年生たちは、安堵したような申し訳ないような顔をしていたが、他の主要メンバーは驚きの声を上げていた。

 

「では、こちらの誓約書にサインをお願いします。あと拇印も」

 

市原先輩が誓約書を机に差し出してきた。あと朱肉も。

誓約書の内容をざっと読む。

 

使用できる魔法のランクに制限は無い。ただし、直接相手を死に至らしめる魔法は使用不可とする。

試合中における、いかなる負傷も大会側は一切関与しない。

 

など、まぁ要するに、何があっても大会側は関知しないよ。という一方的な誓約書だった。

だが、問題ない。何かあったら会長達が責任を負ってくれるのだ。ここは気楽に行こう。

俺は右手でペンを持って誓約書にサインすると、親指を朱肉に押し付けて、誓約書に拇印を押した。

その誓約書を七草会長が受け取ると、

 

「……確認しました。改めて、世羅くん、有難うございます」

 

そうして、全ての懸念事項が払拭されたようで、この緊急ミーティングは終了した。

俺は、達也、レオ、幹比古と一緒に部屋を出て、廊下に出た俺は、いの一番に達也に声を掛けた。

 

「達也には、後でケーキセットを奢ってもらおう」

「お、それいいな、俺も奢ってもらうぜ」

「そうだね、それくらいは許されるだろうね」

「……それだけで良いのか? なら、安いもんだな」

 

あまり気負った感じをさせない俺達の声に、非難を食らうと思っていたであろう達也は、軽く返した。

こういうのは空気を重くしてもいい事はない。なら雰囲気を和らげるためにも、これ位でいいだろう。

俺達は会議場前から歩き出し、エレベーターに向かいながら話題を変えた。

 

「そういえば、レオ達はなんで呼ばれたの?」

「ああ、俺達の方は、モノリス・コードに出ろって話だな」

「それで、幹比古もか」

「そうだよ。話を聞いた時は驚いたよ。しかも、十文字会頭は有無を言わせない感じだったし」

「どうせ、達也が言ったんでしょ? ご愁傷様」

「まるで、俺が悪者みたいな言い方だな?」

「この場に置いては、それは正しい認識だよ」

 

エレベーターに乗り、達也の部屋がある階で俺以外の3人が降りる。

 

「あれ? 芥は来ないのか?」

「ああ、俺は独自で調べるから。そっちは作戦とかあるでしょ。気にしないで」

 

そっか、とレオが言ったので、手を振ってエレベーターの扉を閉じる。

俺が宿泊している階にエレベーターが到着して、部屋の前まで歩きドアのセキュリティを解除して部屋の中に入る。

 

中に入るとドアに背中を預けて、長く息を一つ吐く。

開催は明日だ。やることが沢山ある。出来ることをしよう。

 

よしっ、と気合を入れて、窓の方に歩きながら懐から携帯電話を取り出す。

繋ぐ相手は、もちろん「あいつ」だ。ワンコールで相手は出た。

 

「アウトスタンド・ワンに出場する事になったから、情報を寄こして」

『……可能性の一つとして認識していたが、本当にそうなるとはな。解った。出場選手の情報は随時ストレージにアップしていく』

「お願い。あと、規約の範囲内で使える『色』を持ってくるようにも手配して」

『要るのか? お前相手に高校生レベルでは必要無いと思うが』

「俺の感が必要だと言っている」

『解った。そちらも直ぐに手配しよう』

「よろしく」

 

そう言って会話を終え、携帯電話を机に立てかけ椅子に座ってディスプレイを表示させる。

ストレージを確認すると、アウトスタンド・ワンに出場する選手の情報が、次々とアップされ詳細がリアルタイムで更新されていく。

 

その情報を確認していると、不意に部屋の扉が控えめだがノックされた。

誰だろうと思い、ドアスコープから除くとそこには深雪が一人で立っていた。

 

俺は扉を解錠して、扉を引き開ける。

扉の前に立っている深雪は所在なさげ、というか、不安がっているように見える。

 

「どうしたの、深雪? こんな時間に男の部屋に来るもんじゃないよ?」

「どうしてもお話したいことがありまして。……中に入ってもよろしいでしょうか?」

 

俺は身体を引いて隙間を開けると、深雪は中に足を踏み入れた。

一応、扉の外に顔を出して、左右を確認する。よし、誰も見てないな。

扉を締めて、深雪の背中を追い越して机に向かう。表示していたディスプレイを消すと、立ったままの深雪と向かい合う。

深雪は視線を床に向けたまま、話を始めた。

 

「アウトスタンド・ワンに出場されるとお聞きしました」

「……早いな、もうその話が出回っているのか」

「芥さん、私は心配でなりません……。アウトスタンド・ワンは危険な競技、重大なお怪我をされるのではないかと……」

 

俺は深雪に近づき、右手を左肩へと優しく置いた。

そして、できるだけ何でもない風な声色を努めて出して、

 

「大丈夫だって、深雪。高校生の戦いでそんな危ないことには、ならないって」

 

その言葉では安心出来なかったのだろう、深雪はうつむいたまま俺に更に近付くと、俺の胸に収まってきた。

額を俺の胸に押し当てている距離。その以外な行動に俺はドキマギしてしまい硬直してしまったが、

 

「たとえ、そうであったとしても、もしもというのは消えません。それが私には怖いのです」

 

深雪の声色に本当の恐怖を感じ取って、俺は肩の力を向いた。

そして、右手を深雪の背中に回すと、背中を軽くポンポンッと叩き、背中を軽く抱きしめる。

顔を深雪の耳に近づけて、安心するように優しさを滲ませた声色で応える。

 

「本当に大丈夫だから、深雪。怪我なんて負わないから、そんなに心配しないで」

 

暫くそうしていると、深雪はこの部屋に来てから初めて顔を上げて、俺と目を合わせた。

 

「本当ですか? 深雪との約束ですよ?」

「ああ、約束するよ」

 

そこまで言って、ようやく深雪の顔に笑顔が戻ってきた。そのまま至近距離で俺達は見つめ合った。

俺の目には深雪の顔が。深雪の目には俺の顔が。それぞれ映り込んでいる。

 

……暫くして、俺との距離が近いことに気がついたのか、ハッとして深雪は慌てて一歩引いた。

顔を両手で多い、耳まで真っ赤にして恥ずかしがっているその姿は、いつもの淑やかとは違った年相応の少女の魅力に溢れていてドキドキした。

俺も視線を深雪から離し、天井を見つめながら頭を掻いている。

あー! なにしてんだ、俺は!

 

なんとも甘い空気から立ち直ったのは、深雪の方が早かった。

 

「で、では、私はこれで失礼させて頂きます……!」

「あ、ああ。遅いから部屋まで送ろうか?」

「い、いえ。一人で大丈夫ですので!」

 

そう言われてしまってはどうすることも出来ないので、深雪を入り口まで送り扉を締めた。

見送った後、またしても扉に背中を預けて、手で顔を覆いながら深く息をする。

この身体になってから、あんな甘い空気を体験したことが無いから全然、戸惑った。

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もう一度、深く深呼吸をして心を沈めてから、再度机に向かう。

端末を開き、更新されているであろう出場選手の情報を確認していく。

 

出場選手は全員で4人。つまり一人倒せば決勝だ。

それなら出場選手全員にポイントが入るので、美味い競技と言えるだろう。

端末のウィンドウをスライドさせて情報をどんどん表示していく。その中に一際目立つ選手が居た。

 

三高の生徒である、橘 カズマ <たちばな かずま>。

使用魔法は「精神感応性物質変換能力」、通称「アルター使い」。

 

その使用魔法が、彼が「ギフテッド持ちのリターナー(転生者)」であると宣告しているのである。

それを見た俺の顔には、笑顔が浮かんでいた。

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