魔法科高校の劣等生 ~隻腕の魔法使い~   作:なべを

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第六話

アウトスタンド・ワンに出場すると決まった翌日。

本番当日。

 

興奮して眠れないと思っていたが,そんな事は無かった。

訓練の賜物か、ちゃんと寝ることが出来たので体調はバッチリだった。

 

制服に着替えてから部屋を出る。

今日は一般参加では無く、正規の出場者のため一校が確保しているスペースに顔を出すことになる。

ロビーに降りると、ちょうど達也、レオ、幹比古達も移動するるところだったらしく、朝の挨拶を掛けた。

 

「おはよう」

「ああ、おはよう」

「おう、おはようさん」

「おはよう」

 

挨拶を軽く済ませると、自然と話題は今日の事になった。

達也達に目を向けると、各々手に色々持っていて準備は万全な様に見える。

 

「そっちはどう? ちゃんと寝れた?」

「興奮して寝付くのが大変だったけど、ちゃんと寝れたぜ」

「僕も同じ感じかな」

「そっか」

「俺には聞かないのか?」

「達也はなんか、いつも通りって感じだと思うからさ」

 

達也に向かって肩を窄めながら答える。

ちょっと位、意地悪しても問題ないだろう。

そうして皆揃った所で、ロビーから外に向けて歩いている所に声が掛かった。

 

「芥様」

 

声を掛けられた方を向くと、

グレーの三つ揃えスーツをビシッと着こなし、白髪交じりの整った髪型をした老齢の男性が、大きめのケースのハンドルを両手で持ち、こちらに軽くお辞儀をしていた。

俺は達也達にちょっとごめん、と声を掛けると、その初老の男性に近づいていき声を掛けた。

 

「長谷川さん! わざわざ持ってきてくれたんですね?」

「はい。僭越ながら私めが持ってまいりました」

「ありがとうございます。それでどれを持ってきたんですか?」

「『白の一番』になります。『黒』は制限に引っかかるので、これが上限かと」

「了解しました」

 

そう言って、俺は長谷川さんからケースを受け取り、ストラップを右肩に掛ける。

右肩にずっしりとした重みが加わる。

 

「長谷川さんは、これからどうするんですか?」

「昔の知り合いが居るようなので、そちらと一緒に観戦をしようかと思っております」

「それは恥ずかしいなぁ」

 

俺はポリポリと頬を掻く。

 

「何をおっしゃいますか。我らが主の晴れ舞台、しかと見させて頂きます」

 

それでは、とお辞儀をして長谷川さんはロビーを後にした。

俺はおまたせ、と達也達のところに戻ると、達也が質問してきた。

 

「今のは?」

「長谷川さんといって、俺の身の回りのあれやこれやを手伝ってくれる方だよ」

「へー、結構な年齢だと思ったが、その割には歳を感じさせない感じだな」

「昔、軍属だったからね。その辺りがそう感じさせるんじゃない?」

 

レオからの質問に答えると、今度は幹比古が質問してきた。

 

「それで、そのケースには何が入っているの?」

「これ? まぁ秘密兵器ってやつかな。後で解るよ」

 

じゃ、行こうよ、と言って皆を促す。

今はこのケースにあまり触れられたくない。

皆の質問を封殺しながら、俺は先頭を切って前を歩き出した。

 

本営と言って良いのか解らないが、一校の作戦ブースに足を踏み入れる。

ケースは一旦、機材車に預けた。

 

今日のアウトスタンド・ワンのスケジュールは、午前に予選が1回、午後に決勝となっている。

モノリス・コードの方は、午前に予選が2回、午後に準決勝と決勝となっている。

順番的には、アウトスタンド・ワンの方が先に行われる。

 

ブースの中ではいろんな人が、あちこち動き回っていた。

 

「おはようございます」

 

ブース入り口で挨拶をすると、七草会長が気づいた。

 

「みんな、おはよう」

「なんか、慌ただしいですね」

「ええ、昨日の今日でしょ? 準備する事が多くてね」

 

そんな慌ただしい中、

 

「あ! みなさん、こちらです!」

 

あーちゃん先輩が手招きをしながら、声を掛けてきた。

近づいていくと、机にアンダーウェアと防護服、ブーツが人数分用意されていた。

 

「サイズは各々に合わせたものを選んだと思いますが、違ったら言ってくださいね」

 

そう言われてアンダーウェアを手に取り、軽く身体に合わせる。

うん、ちょっどいい感じだ。流石はあーちゃん先輩。

俺は装備一式を手に取ると、

 

「じゃ、着替えてきますね」

「おう。……一人で大丈夫か?」

「多分、大丈夫。駄目だったら手を借りるよ」

 

レオの気遣いに返して、俺達は更衣室へと向かう。

俺は空いてるロッカーを探して、着替え始める。

脱いだ制服をハンバーに掛けて、アンダーウェアを着込む。

その上から、防護服を着けていく。幸い、マジックテープでの調整式だったので片手でもちゃんと着こなせた。

 

ロッカーを閉じて、ヘルメットを持って再度ブースの方に顔を出す。

どうやら俺が最後に着替え終わったようで、他の皆は既に着替え終わっていた。

 

「どう? なんか変な所は無い?」

 

そう声を掛けると、達也は俺の防護服姿を上から下へと見ると、

 

「ああ、大丈夫そうだ」

「ありがと」

 

そう、返答して俺は指揮を出している七草会長と市原先輩に近づいていく。

 

「ステージは決まりましたか?」

「はい、一回戦は八校と、森林ステージになりました」

「そうですか」

「……あまり気負いはしてないのですね」

「まぁ、出ることになったのなら、後はやるだけですから」

 

先輩たちはアウトスタンド・ワンという特殊な競技性に、チョット及び腰な部分がある。

まぁ、解らなくもないがそこまで心配しなくてもいいだろう、とは思う。

たかが、高校生の遊びなんだから。

 

ちらっと時計を見やると、そろそろ時間のようだ。

 

「それじゃ、行ってきますね」

「ええ、十分に気をつけてね」

 

七草会長のそんな言葉を背中に受けながら、俺は会場に向かった。

 

森林ステージは、人工的に植林されただけあって、一種の規則性を感じさせる森だ。

その中にある、開けた場所で俺は八校の選手と対峙している。

 

八校の選手が俺を見る目は鋭い。ヘルメットをこの場で着けている俺が余裕綽々であるかのように見えたのだろう。

ヘルメットを着け終えると、首と肩を大きく回し軽くストレッチする。

それすらも余裕だと取られたのだろう。ますます視線は鋭くなった

 

アウトスタンド・ワンの開始距離は、5メートル。一足の間合いだ。

試合開始のカウントダウンが始まる。それを受けて八校の選手が構えをとる。

 

俺は相手に正対したまま、手をだらんと下げたまま構えは取っていない。

正確にはこれが俺の構えなのだが、見ている人には気づかれないだろう。

 

カウント5。

 

八校の選手は身を更に屈め、今にも飛び出しそうだ。

 

カウント0。

 

八校の選手は素早くCADで魔法を起動させると自己加速魔法を展開して、こちらにタックルを仕掛けてくるように視(・)え(・)た(・)。

自己加速魔法を展開すれば、一秒もかからない距離。

加速した八校の選手が俺に低姿勢で高速に迫ってくる。

 

しかし、俺にタックルが振れるその直前。

 

俺の右足は加(・)速(・)し(・)て(・)い(・)る(・)相(・)手(・)の側頭部に吸い込まれるように蹴り当たり、ヘルメットを擦るように蹴り上げた。

それを頭に受けた八校の選手は、脳が揺らされたことで相手を見失ったため、魔法がキャンセルされ加速は途切れた。

脳を揺らされた影響か、よろよろと俺の横を通り過ぎていき、背後でバタンを倒れ込んだ。

勝者は右足を振り上げた格好のまま、立っていた。

 

試合終了のブザーが鳴る。

時間にして5秒くらいか。

 

俺は足を下ろすと、背後の八校の選手の状態を確認する。

まぁ、脳震盪くらいだから大丈夫か。と思い、ブースに向けてその場から足を動かした。

 

ブースに着き、中に入ると中は何故か静まり返っていた。

ヘルメットを脱いで、ん? と首を傾げると、

 

「どうかしましたか?」

「どうもこうも、ここまで実力差があるとは思って無くて……」

 

七草会長が呆然と言った。

 

「特に不思議な事はしてないと思いますが……」

 

俺は若干不安になって聞き返す。

 

「不思議な事をしていないから、逆にすごいのよ」

「そうですか?」

 

まぁ、変な空気になっているが問題ない、と判断して

 

「では、俺は着替えて達也たちの応援をしてますね」

 

そういって、俺は更衣室へと向かった。

 

*

 

俺が去ったブースでは、俺の話で盛り上がっていた。

色な人が、先程の試合を繰り返し見ながら議論していた。

そんな中、真由美が隣にいる摩利に質問した。

 

「摩利、さっきの試合どう見た?」

「どうもこうもないだろ。あんなの見たことが無いぞ」

「そうよね。加速術式で加速している相手に、魔法も使わず普通に蹴りを合わせるだなんて」

「本人はさも当然のようだったしな」

 

ブースに戻ってきた世羅の事を思い出す。

試合が終わった後だというのに、あまりにも自然体過ぎた。

 

「実力があるというのは解ってはいたが、ここまで差があるとはな」

「ええ、嬉しい誤算だと思いましょう」

 

本人の預かり知らぬ所で、評価が上がっていたが当然本人は気が付かない。

 

*

 

着替えてから一般客席に入り、空いてる席が無いかとキョロキョロを探していると、上の方から声が掛かった。

 

「芥! こっちこっち!」

 

エリカが手招きをしている。

そちらの方に階段で上がっていくと、エリカ、美月、深雪、ほのか、雫が並んで座っていた。

雫がポンポンと隣の席を叩いたので、そこに座る。

すると、エリカが身を乗り出してきたので、視線が自然をそちらを向いた。

 

「芥! あんたってすごいのね!」

「さっきの? 普通だろ、あんなの」

「普通って。あ(・)れ(・)が出来る高校生なんて、そうそういるわけ無いでしょうが」

「本当にすごかった」

 

エリカに加え雫まで褒めてくる。ちょっとこそばゆい。

さらに、

 

「本当に素晴らしいです! 芥さん!」

 

なんて、胸の前で両手を組み、頬を紅潮させた深雪まで加わってきた。

普通の事をしただけなんだけなー。あー恥ずかしい。

俺は話題を強制的に変えた。

 

「そろそろ、達也達のモノリス・コードだろ。そっちを応援しようよ」

「逃げた」

 

雫の容赦ない突っ込みが飛んできた。

だまらっしゃい! と内心で言葉を紡ぎながら、視線を前に向ける。

 

達也達のモノリスコードが始まる。

 

八校戦は森林ステージ。

二校戦は市街地ステージ。

 

やや、相手校に分があるステージではあったが、達也達の連携と作戦が上手くハマったようで勝利を収めた。

 

お昼の少し前。

モノリス・コードの準決勝が正午に決まり、アウトスタンド・ワンの決勝はその後になった。

俺は昼食を取るため、ランチパックを手にホテルへと戻ってきた。

相手の情報も最終確認したいからね。

 

部屋でサンドイッチを片手に机に向かって、携帯端末のウィンドウを開いて三高の相手を確認する。

何度も見たが、そこには「アルター使い」の文字が。

「(・)ギ(・)フ(・)テ(・)ッ(・)ド(・)持(・)ち(・)の(・)リ(・)タ(・)ー(・)ナ(・)ー(・)」(・)と(・)闘(・)う(・)のは、久しぶりなので情報があって困ることはない。

食事を終え、情報確認も終えたので一校のブースに向かう。

 

CADを使わないとはいえ持ってきたものの大会確認は必要なので、機材車からケースを取り出して本部に向かう。

 

「悪いね達也。付き合わせちゃって」

「気にするな。俺達のCADのチェックも兼ねているからな。それにそのケースの中には興味がある」

「一校のモノリス・コードはどうだった?」

「一条の御曹司の独壇場だったよ。普通に戦っては勝ち目が無さそうだ」

「普通ね。横道がありそうだ」

「そこはなんとかするさ」

 

確認用のテントでは、CADチェックの順番待ちが起きていた。

雑談をしていると俺達のCADチェックの順番が回ってきたので、テントに入りケースから中身を取り出して係員に物を渡す。

その際、達也と係員がギョッと驚いていたが俺は気にしない。

 

スキャンが始まる。その様子を俺はキチンと「視ていた」。

仕込まれる可能性を考慮したからだ。

しかし、特に何もされずにチェックは完了した。

まぁ、CADじゃないからね。これ。

 

物をケースにしまい、ケースを右肩に引っ掛けてテントの外に出る。

CADのチェックか、はたまた誰かの付き添いか、例の三高の生徒「橘 カズマ」とばったりと出会ってしまった。

三高の赤を基調とした制服を着ていて、身長は俺と同じくらい。髪は耳に掛かる程度には伸ばしていた。そして、目つきは悪い。

 

カズマは俺を見定めるように顔を下から上に移動させている。

俺の左側に何もないのは気にならない、さっきのは見たぞとばかりに、獰猛な笑みを浮かべ、

 

「お前が決勝の相手か。よろしくな」

 

と挨拶をしてきたので、俺もちゃんと礼儀よく返した。

 

「ああ、よろしくな、カズヤ(・)」

「俺の名前は『カズマ』だ!」

「悪い悪い。カズナ(・)。決勝は良い戦いをしような」

「だから! 俺の名前は『カズマ』だ! 間違えるな!」

「人の名前を覚えるのが苦手でな、カグ(・)マ」

「だから! 俺の……」

 

そこまで言ってようやく気が付いたのだろう、俺が意図的に間違えている事に。

カズマは目を見開き俺を驚愕の目で見てきた。

俺はそれに、ニヤリと口角を上げて返す。

すると、意図に気づいたカズマもニヤリと口角を上げ、

 

「「あははははははっ!」」

 

と、2人同時に声を上げて笑った。

周りの人達が奇妙な人を見る目で見てくるが気にしない。

それくらい楽しいことなのだ。

 

そして、同時に背を向ける。

それを見ていた達也が不思議そうに聞いてくる。

 

「どうした。頭でもやられたか?」

「いや、単なる儀(・)式(・)みたいなもんだよ」

 

行こう、と言って納得してないであろう達也を伴って、一校のテントに足を向ける。

これで相手も解っただろう。俺も「同類」だということが。

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