魔法科高校の劣等生 ~隻腕の魔法使い~   作:なべを

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第七話

持ってきた機材のチェックが済んだので、一校のブースに戻ってきた。

 

その中は人で一杯だった。

一校のメインスタッフはもちろん、選手や十文字会頭に深雪までいた。

……深雪にはここには居ないで欲しかった、が仕方ない。

そんな俺の心境をしらず、達也は淡々と報告を始めた。

 

「CADのチェックは問題ありませんでした」

「そう、お疲れ様です」

 

七草会長がねぎらいの言葉を掛ける。そして、その目は俺が持っているケースに移った。

 

「……芥くんの『それ』も大丈夫だったの?」

「ええ、問題ありませんでした。そもそも、CADでは無いんですが」

 

それによって皆の視線が俺のケースに注がれる。それはなんだ? と皆の視線が語っている。

その視線を代表して七草会長が聞いていくる。

 

「それで、そのケースの中身はなんなのかしら?」

「……どうせ、後でバレるのでいいんですが」

 

そう言って、俺は皆が見える様に中央に置かれている机の前に移動すると、ケースを机に置いた。

その場にいる皆が、机に近寄ってきて顔を覗かせれている。

深雪は俺の隣に来て、興味津々の面持ちでいる。

俺はそんな深雪の顔をみて、独りごちた。

 

「深雪には見せるつもり、無かったんだけどな……」

 

そのつぶきは深雪の耳にも当然と届いた。不思議そうにコテンと首を傾げている。

 

そんな深雪を横目に、俺はケース中央に右手をかざす。

ケース中央からスキャン用の光が溢れ、俺の右掌に刻まれたコードを読み取っていく。

スキャンが完了すると、認証が成功しケースを固定してたボルトが外れ、ケースのロックが解除された。

俺は右手をケースの蓋に手を置く、一瞬逡巡したが一気にケースを開いた。

 

ケースが開いて中身を見た全員が固まった。発言するものはいない。

隣の深雪は両の手で口を覆い、顔を青くして絶句している。

 

ケースの中に横たわっていたのは、「白い左腕の義肢」だった。

表面は曲線だけで構成されており、人工的な直線の部分は一切ない。

完全に人の腕を再現したものであり、一種の芸術作品を思わせるほどに美しかった。

皆が絶句している中、いち早く復帰したのは十文字会頭。

 

この場の誰もが聞きたい事を率先して聞いてきた。

俺は義肢を見つめながら、それに答える。

 

「世羅、これはお前の義肢か?」

「そうです。俺専用の義肢です」

「なぜ、今まで使わなかった?」

「義肢を付けること自体に問題はありません。ただ……」

「ただ?」

「長時間、使用し続けていると幻肢痛が起こります。

 痛みの度合いとしては、二次関数的な曲線を描いて時間とともに悪化してきます。

 大体、6時間位が限度ですかね。それ以上は脳が左腕を拒絶するので使い物にならなくなります。俺自身が」

「CADではないのだな?」

「はい、CADではありません。ただの機械式の義肢です」

 

そこで十文字会頭の質問は終わり、その後を達也が引き継いだ。

 

「……三高の相手はそれ程ということか?」

「ああ、いろいろ調べたけど、最終的には、『両手が無いと勝てそうにない』だった」

「そこまでの相手か……」

「うん。流石の俺でも『ギフテッド』相手では、余裕は無いからね」

 

その場を再度、沈黙が支配した。

その沈黙を破らないように、俺は静かにケースを閉じた。

プシュッという音と主にケースが再度、密封される。

 

そして、ケースのストラップを右肩に掛け、

 

「それじゃ、着替えてきます」

 

俺は皆の視線を背に受けながら、外に出た。

こういう視線を受けるから、あまり人前では使いたくないんだよなぁ。

 

そうして更衣室に向かう足に、後ろから追いかけてくる足音があった。

その足音に振り向くと、顔を真っ青にした深雪がこちらに寄ってきた。

 

「芥さん……!」

「深雪」

 

俺の前まで来ると、両手を胸の前で握り、こちらに身を乗り出してきた。

 

「その左腕は……!」

 

俺は、それ以上何も言わせない、と深雪に向かって右手を向けた。

 

「それ以上は何も言うな」

「しかし……!」

「たしかに『これ』はあの事件が原因だ。だからと言って深雪にはなんの責任もない」

 

俺の突き放したかのような言葉に、深雪はうつむいてしまい、両手で制服のスカートをぎゅっと握りしめている。

俺は深雪に近づき、左肩に右手を置いた。

 

「いいか? これは『結果』こうなってしまっただけで、深雪が背負うことは何もない」

「頭では解っておりますが……、が、心はそうもいきません」

「……すまないが、それはどうにか折り合いをつけてくれ。だが、改めて言う。深雪に責任はない」

 

深雪のスカートを握る手にますます力が込められていく。

それ以上掛けられる言葉を見つけられなかった俺は、肩から手を離して振り返り、更衣室への足を再開した。

後には、親に見捨てられたかのように、うつむいたままの深雪が取り残された。

 

更衣室に入り、ケースを机に置いて眺めていると、達也達が入ってきた。

どうやらモノリス・コード準決勝の準備をするためだろう。

テキパキと準備を進めた達也達は、準備が終わるとそのまま出ていった。

特に挨拶も無かった。挨拶がある方が気まずかった。

 

そうしてボーッとしていたら、外から歓声が聞こえてきた。モノリス・コードが始まったのだろう。

俺も準備を始めよう。

 

ケースに右掌をかざし解錠して、再びケースを開ける。

白い義肢があらわになると、俺は制服の上着を脱ぎ始めた。

上着やシャツを脱ぎ上半身が裸になると、まず左肩あるコネクタのカバーを取り外す。

 

この時代の義肢は皮膚と接触するだけで動くタイプもあるが、俺のは違う。

これは神経に直接接続するタイプの義肢だ。

 

義肢を右手で取り、肩の部分を左肩のコネクタに近づける。

すると、義肢から接続用の端子が伸び左肩のコネクターと接続される。

 

ガチッという音と主に左腕が繋がった。その接続され左腕を脳が認識する。

瞬間、左腕は電気が走ったように真上に跳ね上がり、指がガキゴキといった不気味な動きをする。

そうやって義肢に神経が通り、脳の認識が正しく行われると、左腕はだらんと重力に任せて落ちて足に当たった。

 

この時の俺は苦虫を噛んだような顔をしているだろう。

この、脳に電極が刺されたような感じは、何回やっても慣れないな。

 

遠くの方でブザーが鳴ったのが聞こえる。

どうやら、モノリスコードの準決勝が終わったのだ。

結果は見なくても解る。達也達の勝利だろう。

 

俺はそれを認識すると、再び制服を着込んでいく。両手で服を着るのは久しぶりだ。

制服を着終わったあと、置かれている姿見の前に行く。

そこには久方ぶりに見る「普通」の俺がいた。左腕に厚みがある。

その姿を見て、自虐的にフッと笑う。左腕が無い方が俺にとっては「普通」なのだ。

 

時計を見るとそろそろアウトスタンド・ワンの開始時間のようだ。

俺は()()()()()更衣室の外に出た。

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