魔法科高校の劣等生 ~隻腕の魔法使い~   作:なべを

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第八話

観客席は静かな熱気に満ちていた。

モノリス・コードでの鮮やかな勝利もそうだが、これから行われるアウトスタンド・ワンは九校戦の異物としてカルト的な人気がある。

毎年、命知らずな若者が死力を尽くして闘う姿に、皆が熱狂するのであろう。

これから始まる試合にも、皆が熱い視線を送っていた。

しかし、その中に両手を組み祈るような姿をした少女がいることは、その近くにいる友人しか知らなかった。

 

戦場は市街地ステージ。

会場に備えられたスクリーンに、廃墟と化したビル群を背景に三高の生徒が映ると、観客席にどよめきが生まれた。

なぜなら、その生徒は()()()()()()()()()()

身体を守るプロテクターを一切着けていない。しかし、悠然と歩く姿がそれが不要である事を物語っていた。

 

次にカメラが切り替わり、一校の生徒を映し出す。今度はどよめきではなく歓声が生まれた。

こちらも()()()()()()()()()()

 

お互いがプロテクターを着けずに生身の肉体で争い合う。

アウトスタンド・ワンの醍醐味が、ここぞと言わんばかりに発揮されていた。

それを見た観客達の熱気は最高潮へと向かっていく。これから始まる闘いに本能が刺激されているのだ。

それすら祈る少女にとっては、心労を助長させる光景でもあった。両の手に入る力が更に強まる。

 

所変わって、貴賓室。

普段は現れない大物の登場にその場はざわついていた。

 

「九島閣下、こちらにいらっしゃるとは」

「なに。面白い生徒をみつけたのでね。間近で見たくなったのだ」

 

そう言い、九島 烈は貴賓室の最前列にある革張りの椅子に腰掛けた。

周りにいる取り巻きを避けて、その九島 烈に声を掛ける初老の男性がいた。

 

「お久しぶりです。九島閣下」

「おお、長谷川君ではないか。久方振りだな」

 

九島 烈が自分の隣の席を手で示すと、長谷川は一礼をしてそこに座った。

 

「しかし、長谷川君が来るとは予想外だったな。何か目的があるのかね?」

「はい。自分が主と見定めた方の晴れ舞台を拝見しようと思いまして」

「ふむ、それは『片腕の少年』かね? 今は義肢を着けているようだが」

「はい」

「そうか、ではお互い見る相手は同じだと言うことだな」

 

そう言って、2人の視線は貴賓室から見える市街地ステージへと向けられた。

 

一方、一校の本営。

そこは混乱が場を支配していた。

 

「プロテクターを着けないなんて正気か!?」

「何を考えているんだ、あの二科生は!」

 

そんな声がいろんな所から聞こえてくる。

しかし、一部冷静な人達もいた。真由美、克人、摩利はその部類に入る。

 

「プロテクターを着けないなんて……」

「プロテクターは身体の動きを制限してしまう。自身の技量を出すためにはこれが正解なのだろう」

「選ぶ胆力が凄いな」

「それは相手もに言えるわね」

 

本人達が預かり知らぬ所で、2人は着々と注目を浴びていた。

各所でそんな事が起こっているとはつゆ知らずに。

 

市街地ステージ。

そこに5メートルの距離で両者は対峙していた。

カズマは芥の制服姿を見ると、獰猛な笑みを浮かべ、

 

「だよなぁ」

 

と、一言こぼした。

 

「だろうよ」

 

と、芥も一言返した。

 

試合開始前の会話はそれだけだったが、それだけで十分だった。

眼の前にいる相手が日和ったりしていないことが、互いの胸に歓喜をもたらしていた。

 

カウント5。

互いに構えも取らずに、正対している。

 

カウント3。

視線は互いを見たまま動かない。

 

カウント1。

乾いた風が互いを撫でていく。

 

カウント0。

先に動いたのはカズマだった。

 

「行くぜぇー!」

 

カズマが吠えると、周りにあった瓦礫のいくつかがパンッパンッを音を立てて部分的に消えていく。

消えていった分子はカズマの右腕に集まり、装甲と化し背中に羽のような物が構築されていく。

 

「精神感応性物質変換能力」、通称「アルター使い」。

1秒後には、カズマの右手は黄金色と赤色の装甲を纏い、背中に3つの羽が生えていた。

 

芥はまだ構えない。

 

カズマの背中の羽が一つ弾けた。それが推進力となり爆発的な加速をカズマにもたらす。

その加速力で5メートルの間合いを、一瞬で距離を縮めてきた。

 

「衝撃のぉ! ファースト・ブリット!」

 

背中の羽が生み出した爆発的な加速力、それを技によって右手に集約させ、さらに増幅させる。

その威力は計り知れない。

 

突き出されたカズマの右手は、芥の胸にそのままめり込んでいく。

芥の身体からメキッメキッという、骨が軋む音が脳内に響き、全身を衝撃が貫く。

作用・反作用の法則に従い、芥は立ったまま吹き飛んだ。膝を着くことはせずに立ったまま後に滑っていく。

 

芥は頭を下げ、両腕もだらりと下げた状態で止まる。

カズマは特に反撃も受けずに当たった右手を不思議そうに見てから、何もせずにただ拳をくらった芥に苛ついたのだろう、

 

「おい、ふざけてんのか? キンタマ潰すぞ?」

 

そう声を掛けてきた。

頭を下げ、両腕もだらりと下げた芥は動かない。

しかし下を向いているその顔には、唇が三日月を描きそうなほどの笑みを浮かべていた。

芥は笑みを浮かべたまま顔を上げてカズマを見る、血が流れている口元を右手の親指で拭うと、

 

「悪い悪い。久しぶりに。()()()()()()()()()()()()()拳を真っ向から受けてみたいと思ったんでな」

 

芥のその言葉にカズマも笑みを深くする。

 

「やみつきになるぜ?」

「冗談に聞こえないのが怖いな」

 

そのやり取りに満足したのか、カズマは右手を高らかに上げ、高らかに声を上げた。

 

橘流 皆伝(たちばなりゅう かいでん)、橘 カズマ! 我が右手に砕けぬ物は無し!」

 

戦場における名乗り上げ。

それはこの場において。自分の名誉と名前と誇りに掛けて、絶対に勝利するという宣言であり誓約。

 

名乗り上げたカズマは右手を構え沈黙を持って、芥の名乗りを待っている。

芥はつま先を使って軽く上に飛ぶと、ストンと()()に降り立った。

そして、カズマを真っ直ぐに見据えると、

 

無式(むしき) 流派『(くう)』、世羅 芥。我が後ろに敗北は無く、我が前には勝利のみ」

 

芥の名乗りは淡々としていた。しかし内容は苛烈そのもの。

常勝無敗の宣言。どちらにも負ける意思は無し。

 

その名乗りを受けて、カズマは更に笑みを深くした。

背中の2つ目の羽が弾ける。

先程よりも、鋭い加速を持って芥へと迫る。

 

「撃滅のぉ! セカンド・ブリット!」

 

先程の一撃よりも速く鋭い一撃が、右手をさらなる凶器と化して芥を打ち砕こうとしていた。

カズマの右手が芥の身体に迫る直前、芥の左手がその隙間に差し込まれた、かと思われた次の瞬間。

一直線に突っ込んできたカズマの身体は、芥の90度左に折れ曲がり頭を下にして天地を逆転させた。

 

物理法則を無視したその技は、しかし、カズマの右手が生み出した破壊のエネルギーを芥に残したままにしている。

芥はカズマのがら空きの胴体に左手を触れさせると、身体をひねり、そのエネルギーと一緒に剄を叩き込む!

本来、作用・反作用の法則に従いカズマの身体は吹っ飛ぶはずだが、それこそ「(わざ)」である。

 

カズマの身体に、セカンド・ブリットの威力、加速した運動エネルギー、そして剄が合わさった威力が後ろに逸れること無く()()()()()()()

カズマは左に流された勢いのまま、背中から地面にトスッと軽い音を立てて落ちた。

 

しかし、芥は警戒を解かない。

左腕から伝わってきた感触は全てのエネルギーが相手に伝わった事を伝えてきた、が、同時にカズマの身体操作によってエネルギーが流されたのも感じ取っていた。

その証拠に数秒後にはカズマは動き出し、芥との距離を取り立ち上がった。口端に滲む血を右手で拭いながら、

 

「化物が……!」

 

と、恨みがましく呟いた。

芥はそれに素直な感嘆を返した。

 

「今のを流すとはな。よっぽど良い師匠が付いてんだな」

「しゃらくせぇ! 滅殺のぉ! ラスト・ブリット!」

 

最後の羽が羽が弾け飛ぶ。

今度は芥も前へと飛び出した。

まさにカズマが加速しようとしたその瞬間、芥は相手の右側面に滑り込み、装甲化された右手に芥の右手を重ねて、力の方向を前ではなく下に誘導する。

その誘導により、カズマの身体がその場で上下反転する。

そこに右足で相手の腹を蹴り()()。今度は作用・反作用の法則に従いカズマは吹き飛んだ。

 

しかし、カズマはそれすらも流して力を逃がしている。

吹き飛ばされながらも体制を立て直して、四つん這いで地面を滑る。

滑り止まると、全身のバネを使って再度、芥に向かって突進してくる。

 

芥も前に飛び出し、互いの距離は零になる。

膝と膝がぶつかり合い、互いの拳が過不足無く届く距離。

 

その距離で殴り合いが始まった。相手が拳を突き出せば、手で弾く。

そして、弾いた隙に相手に向かって拳を突き出す。それも弾かれる。

 

そうやって、互いに互いの攻撃をいなしながら零距離で殴りあう。

だが、このレベルの2人ならば一撃一撃が必殺の拳。弾くのですら至難である。

 

そうならないのは、突き合わせた膝に答えがある。

相手が攻撃するたびに、突き合わさった膝に技を掛けて相手の重心をずらす。

重心をずらされた拳は手打ちになり、さして威力は乗らない。

こうやって互いの膝に技を掛け合い、威力を殺す。

傍から視れば派手な撃ち合いに見えるが、真実それは有効打になっていない。

 

それがどれほど続いただろうか。

じれた2人は、後ろ足を前に出し、互いに前蹴りを放ちあって距離を強引に開けた。

 

前蹴りが同時に互いを吹き飛ばし、開けた距離で視線を躱し合い、笑い合う。

そして、覚悟を決めたカズマが咆哮する。

 

「もっとだぁ! もっと寄越せぇ!」

 

カズマの右腕が分解され、更に周囲の瓦礫も分解される。右腕を再構成するつもりなのだ。

分解された周囲の物質を取り込んで再構成されたカズマの右腕は、先程よりも大型化し、背中には一本の羽が生えている。

 

「シェルブリットォ!!」

 

右手を顔の横に掲げると、手甲部分が展開して手甲中心部が回転していき、サイオンを圧縮し内部に溜めていく。

 

「もっとだ! もっと、輝けぇ!」

 

その言葉通り手甲中心部の回転はますます加速してき、輝きを増していく。

離れた位置で芥はその輝きを見ながら、独りごちる。

 

「お前、本当に『向こう側』と相性がいいんだな。素直に嫉妬するぜ」

 

カズマの右手が輝きが増していく。

その時、太陽が輝いている世界が突如「夜」に包まれた。その夜では星々が輝きを放っている。

突如、世界が「夜」に包まれたことに、カズマは顔を左右に振り混乱している。

 

流星群(ミーティア・ライン)。通称「夜」

 

空間内の光の分布を操作し、光の分布を著しく偏らせて星空のような暗闇の空間を作り出す。最高難易度の収束魔法。

その「夜」の中心に立つ芥は、混乱してるカズマに告げる。

 

「安心しろって。この星々がお前を貫くことはない」

 

そして、芥は体の前で両手をパンッと鳴らす。夜に瞬いていた星がそこに一斉に集約されていく。

「夜」は弾け、空は明かりを取り戻し、芥の両手の間には星が集められ球状に固定されていた。

 

「大変なんだぜ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

魔法は現実を改変させる奇跡の技。

芥がやったのは、改変された現実を、別の現実で改変させること。

 

フラッシュ・キャストの様に、瞬間的に魔法を展開させるのではなく。

マルチ・キャストの様に、魔法を複数同時に展開するのでもなく。

魔法で書き換えられた事象を魔法を持って上書きする、()()()()()()()()()

 

そして、球状に集められた星は内部で「螺旋」を描いている。

 

「これが俺がたどり着いた『螺旋丸』だ」

 

芥の螺旋が加速しながら威力を高めていく。

カズマの右手が輝きを増していく。

 

お互いの必殺の技の威力が最高まで高められたとき。

2人の間を風が吹き抜けた。その風によって一枚の葉っぱが空を舞う。

ひらりひらりと地面に向かって落ちる葉が、地面に触れたその瞬間。

必殺を構えた2人は前に飛び出し、互いの技をブチ当てる!

 

「シェルブリット・バースト!」

「螺旋丸!」

 

2つの膨大なエネルギーが衝突して空間が歪み、嵐が舞い、地面がひび割れていく。

互いに譲らず、曲がらず正面から技を押し当てていく。

最後に優劣を決めたのは、技か、意地か、それとも運命か。

 

吹きすさぶ嵐から一つの影が吹き飛び、瓦礫に叩きつけられ、地面に落ちて頭を垂れたまま動かない。

そして、収まりつつある嵐の中心では、振り切った白い左腕をそのままに固まってる人影が。

 

決着はここに着いた。

 

最後まで立っていたのは、芥。

地面に叩きつけられたのは、カズマ。

 

終了のブザーが鳴る。

 

勝者は声を上げることもせず、空を仰ぎ深く長い息を吐いた。

長い呼吸が終わると芥は踵を返し、その場を去ろうと敗者に背を向けた。

しかし、何かを思いついたように顔を上げると、振り返り頭を垂れるカズマに声を掛ける。

 

「なぁ、また()()()ぜ」

 

その答えは、カズマの右手が返してきた。頭を垂れたまま、右手を上げて芥に向かって中指を立てる。

その返答に苦笑して、右手をひらひらと振りながら芥は踵を返し、歩いていった。

 

試合時間6分39秒。

あっという間にして、もっとも濃密な時間は、こうして九校戦の歴史に刻まれる事になった。

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