魔法科高校の劣等生 ~隻腕の魔法使い~   作:なべを

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第九話

アウトスタンド・ワンの決勝が終わり、芥は一校の本営に顔を出した。

一応、報告は必要だと思って。

 

しかし、芥がテントの中に踏み入ってに顔を出すと、それまでの喧騒が嘘のように引いていった。

中に踏み入れた芥を見て見ぬふりをしている人もいるし、真由美や摩利の様に労いの視線を送ってくれる人もいる。

仲がいいと思っている、達也、レオ、幹比古さえも黙っている。

え? なに? 俺、腫れ物扱いされてる?

そんな中静寂のなか、真由美が労いの言葉を掛けてくれた。

 

「お疲れ様でした。芥くん」

「あ、はい。ありがとうございます。これは一体……?」

 

この空気を読んだのだろう、真由美は少し苦笑してから、

 

「ああ、これ? 皆、驚いているだけよ。あなたの闘いは凄かったから」

「そうですか、なら良いんですが……。では、自分は失礼させて貰います」

「ええ、本当にお疲れ様。あなたのお陰で新人戦も優勝できそうよ」

 

そうして、芥はテントから出ようとした所で振り返り、次に出撃する仲間を見やる。

 

「達也、レオ、幹比古。次はお前たちが魅せる番だぜ?」

 

その言葉を受けて、達也、レオ、幹比古共に言葉を返してくれた。

 

「ああ」

「もちろんだぜ」

「任せてよ」

 

その言葉を聞いて緊張していない事を感じて安心したので、芥は更衣室に向かった。

更衣室に入ると、義肢が収まっていたケースの前に立ち、上半身の制服を脱いでいく。

上半身が裸になると、左肩接合部分のロックを解除して、左の義肢を引き抜く。

 

義肢を着けたときと同様の痛みと喪失感が脳を駆け抜ける。

暫くは左手があるように動いてしまうかもな。

 

引き抜いた義肢をケースに収めて、蓋を締めてロックを掛ける。

再度、制服を着直す。着替えが終わったらケースを肩に担ぎ直して更衣室を出る。

とりあえず、ホテルに戻ってシャワーを浴びたい。

 

更衣室から出てホテルに着くと、ロビーに長谷川が待っていた。

 

「待たせてしまいましたか?」

「いえ、先程着いたばかりですから」

 

芥は背負っているケースを長谷川に渡す。

長谷川は貴重品を扱うように丁重にそれを受け取った。

芥は長谷川に感想を聞いてみることにした。

 

「どうでしたか?」

「大変、素晴らしいものを見せて頂きました。晴れ舞台、確かに見届けさせて貰いました」

「なら良かったです」

 

では。と長谷川は芥に一礼して、ホテルから出て行った。

その背中を見送った後、芥は自分の部屋へと足を向けた。

 

部屋に着くと、煩わしさを感じて直ぐに着ている物を全部脱いで、浴室に入った。

冷たいシャワーを流し、身体に浴びる。

殴れ蹴られ、闘争に赴いた熱を持っている身体に冷水は気持ちよかった。

改めて身体を見ると、痣だらけだった。

結構、流したと思っていたが相手の技量が想定以上だった。そっちの「才能」まで持ってるとか反則だろ。

 

冷たいシャワーを頭に浴びながら芥は目をつむる。

 

【自己修復術式/スタート】

【魔法式/ロード】

【コア・エイドス・データ/バックアップよりロード】

【修復/開始ーー完了】

 

目を開けると、身体の痣は全て消えていた。

復元の魔法ってホント便利だよな。それでも左腕は復元されないが。

 

シャワーを止めて、バスタオルを手に浴室を出る。

軽く身体を拭いてから、魔法で身体の水滴を吹き飛ばす。

闘いで汚れている制服にも復元の魔法を掛けて、朝にアイロン掛けされた状態に戻す。

 

闘った後だろうか、小腹が空いていたのでサンドイッチを頬張った。

小腹を満たしたので、再度制服を着込んだ芥は、部屋を出て達也達のモノリス・コードを見るために観客席の方に向かった。

 

観客席に着くと、決勝戦ということもあって席はほとんど埋まっていた。

空いてる席を探していると、下の方から小さな氷の粒が飛んできた。

 

それを右手で受け止めてその方向に視線を送ると、深雪が笑顔でこちらを見ていた、

苦笑しながらそちらの方に向かうと、エリカ、美月、深雪、ほのか、雫が一列に陣取っていた。

しかも、何故か深雪の左隣が空いているので、芥はそこに座るしか無かった。

 

「お礼を言ってほしいわね。その席を狙うナンパ野郎から守ってやったんだから」

 

芥が座るとエリカが不満をあらわにしてきた。

 

「あー、そうなるよね。ありがとうございます」

 

芥がエリカに向かって軽く頭を下げると、エリカは満足そうにうんうんと頷いた。

すると、隣に座る深雪が心配そうに聞いていた。

 

「お体の方はなんともないのですか? 見ていた限り相当に受け止めていたと思いますが」

「ん? ああ、治癒魔法を受けたから大丈夫だよ。痛みは少しあるけど、そのうち引いていくよ」

 

そうですか。とホッと胸をなでおろす深雪。

すると、ぐわっと身を乗り出してきて、雫が興奮したように語ってきた。

 

「本当に凄かった。あんな魔法戦見たことがない」

「楽しんで貰えたのならよかったよ」

「楽しんだどころの話ではなかった」

 

珍しく鼻息の洗いの雫は称賛を惜しまなかった。

そこに、深雪もエリカも乗っかってきた。

 

「本当に素晴らしかったです! あれほどの技見たことがありません!」

「まぁ、確かに。高校生のレベルからはかけ離れていたわよね」

 

エリカは興味津々といった感じで、いろいろ聞きたそうな視線を送ってくる。

しかし、他人の魔法技術を聞くのはマナー違反とされているため、深くまでは聞いてこない。

 

「さぁ、次は達也達の番だから、そっちを応援しよう」

 

そのため、芥の露骨な話題逸らしも受け入れられ、達也達のモノリス・コード開始を待った。

草原ステージに現れた達也達、正確にはレオと幹比古の姿をみてエリカが爆笑している。

たしかに、不釣り合いなマントしているので目立っているが、なにもそこまで笑わなくてもいいだろうに。

 

モノリス・コードの決勝戦は一校が勝利した。達也と一条の御曹司のやり合いは見ごたえがあった。

それにしても良いものを見せてもらった。あれがフラッシュ・キャストか。

一度視れば「再現可能」だから、次からは使わせてもらおう。

 

その夜。

部屋で「あいつ」と話していた。あいつの声は喜々としていた。

 

『派手にやったな』

「相手の実力を考えた結果だと言ってくれ」

『それにしても分かりやすいリターナー(転生者)だったな』

「ああ、他のもこれくらい解りやすいと良いんだが」

『結局、「連中」は動いてこなかったな』

「九校戦だとわかりやすく俺を潰せる機会が無い、と判断したんだろう」

『ということは、「次」だ。気を引き締めておけよ』

「そうするよ、で結局「胴元」はどうなるの?」

『司波 達也が動いている形跡を見つけた。後は想定通りに動くだろう』

「そっか」

 

そうして、簡単に会話は終了した。

 

翌日は深雪が出場する、ミラージ・バットの本戦の日だ。

いくら深雪が卓越した魔法師といっても、初参戦の競技では一歩遅れるというもの。

しかし、深雪、というか達也には秘策があった。トーラス・シルバーが開発した飛行魔法。

その魔法が公式の場で初お披露目され、深雪は決勝へと進出し、そのまま優勝を決めてしまった。

 

その翌日はモノリス・コードの本戦の日。

この時点で一校の総合優勝は決まっていたが、そこは十文字会頭。

全く手を抜かず、いや、十師族としての圧倒的な技量の差を見せつけて、モノリス・コードを優勝した。

 

こうして、九校戦の全日程が終わり、一校の総合優勝で幕を閉じた。

 

最終日の夜は、後夜祭パーティーがあった。

前夜祭パーティーと同じ様にいや、それよりも気配を殺しながら、芥は隅っこで食事をしてた。

目立つような事をした自覚はあるので、いろんな人に話しかけられるのを想定して完全に気配を殺している。

 

しかし、今回はこちらから話しかけようと思う相手がいた。

三高の人達が集まっている中に目当ての人物を見つけると、そのグループにするりと潜り込み目的の人物に声を掛ける。

 

「やぁ、カズマ」

「……その気殺には関心するぜ。俺以外に気取られないようにするとか、どんな技だよ」

「まぁまぁ、そんな邪険に扱わなくてもいいじゃない。とりあえずさ、連絡先を交換しようぜ」

「いいぜ」

 

お互いに携帯電話を懐から取り出し、連絡先を交換する。

 

「長い付き合いになりそうだからな、よろしくな」

「そうだな」

 

簡単に挨拶をすませ目的を達した芥は、また煙の様に消えていった。

それを見ながらカズマは独りごちる。

 

「……器用なやつだな」

 

目的を達した芥はパーティー会場に隣接している庭に出ると、背後から管弦楽器の音が聞こえてきた。

どうやらダンスタイムが始まったようだ。

そちらの方をチラ見すると、男子が恥ずかしながら女子を誘っている様子が視えた。初々しいなぁ。

その音楽を肴に月を見ていると、不意に背中に声が掛かった。

 

「芥さん」

 

その声の方に振り返ると、深雪が立っていた。

ようやくお目当ての人物を見つけたからか、その顔には笑顔があった。

 

「よく気がついたね」

「前回の反省を活かして、()()()()()()いましたから」

「ダンスに誘われなかったの?」

「何人かには誘われて踊りましたよ」

 

深雪は芥の隣まで近付くと、上目遣いに見上げてくる。

それで深雪の意図に気づかないほど、芥は鈍いわけではない。おそらく。

曲が変わったタイミングで、芥は深雪の方に向き直ると、右手を差し出し軽く腰を折った。

 

「お嬢さん、一曲踊って頂けますか?」

「はい!」

 

満面の笑みを浮かべた深雪は俺の右手をとり、腰に手を回してきた。

パーティーの喧騒から離れ、2人しかいない場所で音楽に合わせてステップを踏む。

お互いに視線を交わし合い、2人の世界に埋没してく。

その姿を空に浮かぶ月だけが見ている。その月は笑っているかのような三日月をしていた。

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