魔法科高校の劣等生 ~隻腕の魔法使い~   作:なべを

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第二話

10月31日。

全国高校生魔法学論文コンペティションの当日。

 

発表に関係ない芥達は朝から横浜の国際会議場に詰めていた。

レオとエリカは発表用機材の番をするという理由で。

幹比古、芥、美月達は会場で不測の事態に対応するため。

 

芥としても「合法」に「この後の事」に対処出来る様に手はうっているが、「連中」も絡んでくるだろうから予測がつかない。

そんなもやもやした気持ちを抱えなながら、各校の発表を聞いていくが、発表内容は頭を滑っていった。

 

一校の発表が盛大な拍手と共に受け入れられ、次の三高の発表に切り替わるタイミングで()()は起こった。

会場入り口の方で爆発が起こり、振動と爆音が会場を揺らす。

一瞬にして非日常と化した会場にざわめきと悲鳴が飛び交う。

 

そん中、ホールの防音性を超える形で、断続的に発砲音が聞こえてくる。

音の大きさからして対魔法師用のハイパワーライフルのようだ。

周りは混乱して動けないでいるのに対して、芥は冷静に指示を飛ばす。

 

「幹比古、式を使って会場入り口の情報を集めてくれ。他の皆は席に伏せたままで」

「解った!」

「わかりました!」

 

友人たちがそれぞれ行動を起こした事を確認して、席から通路に出ると会場入り口が乱暴に開けられた。

大型の銃を構えた3人がそれぞれ会場に足を踏み入ってきたのだ。

 

「動くな!」

 

そう大声を出しながら、銃口を生徒たちを舐めるように向けていく。

人を殺せる武器を向けられている恐怖で、観客席にいる生徒や関係者は動けなくなっている。

 

「デバイスを外して床に置け!」

 

この自体に対処しようと自主的に動こうとしていた生徒たちは、銃への恐怖からかCADを床に置いていく。

そんな中で通路に出たまま動かないでいる芥に、侵入者は目を付けた。

 

「おい! お前もだ! 床に伏せろ!」

 

カイに向かって銃口を向けながら、じりじりと間合いを詰めてくる侵入者を、芥はただただ観察している。

そんな冷たい目で見られている事に気づかない侵入者は、芥の一足刀の間合いへと向かっていく。

 

侵入者の足先が間合いに入った瞬間、芥の身体は掻き消えると同時に相手の懐に潜り込んでいた。

芥の右手が侵入者の心臓の上に重ねられると、「雲散霧消(ミスト・ディスバージョン)」が発動し、心臓が「分解」される。

心臓が消えたことで身体の制御が外れ、侵入者の意識は遠のきながら膝から崩れ落ちた。

 

それを見た他の侵入者達が、芥に向かって無警告で発砲する。音は3発。

魔法師を殺すための大型の火力が芥に迫ってくるが、芥はその場から動かない。

 

数瞬を持って弾丸が芥に触れたかと思った、次の瞬間、芥の右手が不自然に3度瞬いた。

パッパッパッと、右手がコマ送りの様に動いたのだけが見えた。そして、芥の身体には弾丸は届いていない。

それを見ていた誰かがつぶやく。

 

「弾丸を握り潰した……?」

 

本来は、弾丸が肉体に迫った瞬間に右手で「雲散霧消(ミスト・ディスバージョン)」を発動させただけだ。

が。はたから見れば、そう見えるだろう。

 

そうして、中に入ってきた侵入者達が予想外の展開に固まっている所に、警備隊が入り口から殺到して侵入者は取り押さえられた。

侵入者をたった一人で制圧した芥に、恐怖の視線が集まる。

そんな空気を機にせず深雪と達也が駆け寄ってくる。

 

「芥さん! お怪我はありませんか!?」

「大丈夫だよ。深雪」

 

達也は何も言わない。というより芥を警戒している様にすら見える。

そこにエリカや幹比古達が合流してきた。芥はあえて感情を殺した声で聞いた。

 

「幹比古。入り口の方は見えたか?」

「うん。今は相手と警護隊が交戦しているが、銃のせいで若干押され気味の様だよ」

「そうか。入り口を確保しないと逃げ道がないな」

「待ってろ……。なんてこと言わないわよね?」

 

エリカがニヤリと口角を上げて、付いてくる気満々の様子で聞いてくる。

 

「勝手に動かれるよりはマシか。行くぞ」

 

芥は皆を伴って、入り口のホールの方に向かって走った。

入り口のホールでは、激しく銃と魔法が入り乱れた戦場となっていた。

いち早く戦場に飛び出そうとしたレオを達也が襟首を捕まえて止める。

 

「対魔法師用のハイパワーライフルだ!」

 

ぐえっ、という言葉と音と共にレオが引き戻される。

その後も銃弾は飛び交っているが、芥は歩みを止めない。

銃弾の嵐に身をさらけ出す。が、芥が身体を揺らすと弾丸は芥を素通りしていく。

射線に対して、最小の動きで回避行動を取っているのだ。はたから見れば身体が揺れただけの様に見える高等技術。

 

弾丸を躱しながら芥は前線に突っ込んでいく。その際に指をパチンッと鳴らす。

それで振動減速系概念拡張魔法「凍火(フリーズドライ)」が発動し、相手方全員の銃弾が凍りつき使い物にならなくなる。

向かってくる芥に銃口を向けるが、凍っている銃は意味を無さない。

 

相手を挟むように一番奥の侵入者の懐に入ると、躊躇いなく心臓を打ち、先ほどと同様に「雲散霧消(ミスト・ディスバージョン)」を使う。

崩れ落ちる味方に気にもとめずに、近くにいた侵入者が銃を手放し、大型のナイフで芥に迫ってきたが、くるり身体を回転させナイフを躱すと背中から右手で心臓を打ち霧散させる。

 

その後に動き出したのは、達也とエリカだった。

戦場に置いて一瞬の逡巡も命取りと知っている2人は、躊躇いなしに相手の生命を刈り取っていく。

 

「皆!」

 

幹比古のその言葉で、3人が散る。

その間を疾風が駆け巡り、鎌鼬によって皮膚を刻まれた最後の侵入者が倒れ、入り口の制圧が完了した。

制圧が終わり、皆の所に戻ると何人かは顔が青ざめていた。

 

「ちょっと刺激が強かったかな?」

「い、いえ。大丈夫です」

「私も大丈夫です……」

 

この中で一番、荒事に向いていなさそうな、ほのかと美月がなんとか声を出す。

 

「ったく。出番が無かったぜ。……それでこれからどう動くんだ?」

 

レオがこれからの指示を求めてきた。それに達也が反応する。

 

「情報がほしいな。思っている以上に大規模な進行のようだから、迂闊に動くのはまずそうだ」

「それなら、VIP会議室を使ったら?」

「そんな物があるのか?」

「閣僚級の政治家も使う部屋だから、大抵の情報にはアクセス出来ると思う」

 

その情報は雫からもたらされた。達也は芥の方を見ると、頷きが返ってきたので

 

「雫、案内してくれるか?」

「うん」

 

雫の案内の元、皆でVIP会議室に向かった。

VIP会議室では雫が慣れた手つきでアクセスコードを入力し、コンソールが立ち上がる。

警察情報のアクセスしてモニターに映し出された情報はひどいものだった。

横浜の沿岸部が、危険地帯として赤く染まっている。内陸部にも進行しているようで赤色が広がっているのが解る。

 

「こりゃ酷え」

「何これ!」

 

それぞれが感想をいう中、芥と達也だけは冷静に状況を分析していた。

達也が芥の方をみる。どうやら芥に方針を決めてもらいたいようだ。

 

「んー。この状況を見るとかなり悪いね。グズグズしているよりさっさと動いたほうが良いだろう。とは言っても陸路は難しいだろうね」

「ということは海路か?」

「望み薄だね。そもそも全員を収容できる船が出せるとは思わない。……シェルターに向かうのが安全か」

 

その言葉に全員が頷いたのを確認しその場の意思を統一させる。そこに達也が待ったを掛けた。

 

「その前にデモ機のデータを処分したい」

「おっけー。じゃ移動しようか」

 

そうして皆でステージの方に向かっていった。

ホールからステージ裏に回ろうとした所で、重く響く声に呼び止められた。

 

「世羅、司波、吉田」

 

そんな風な声を出せるのはこの場に一人しか居ない、克人だ。服部と沢木を連れている。

それぞれがボディーアーマーを着込んでいることから、事の重大さが伺える。

 

「十文字会頭」

「先に避難したのでは無かったのか?」

「その前にデモ機のデータを処分しようと思いまして」

「他の物はシェルターに向かったぞ」

 

その言葉を聞いて芥と達也が眉をしかめる。

 

「何かあるのか?」

「シェルターへの通路は直通ではありませんから……」

「遭遇戦があり得るということか!?」

 

達也の返答に服部が先を読んで答えを出した。

そして、克人の対応は早かった。

 

「服部、沢木。お前たちはシェルターに迎え」

「「分かりました」」

 

それを見送った後、克人が言った。

 

「我々も行くぞ」

 

それはこちら側がしようとしている事に付いてくるという意味だった。

特にそれに反論もせず、克人に続いてステージ裏に向かった。

そこには以外にも大勢の人が居た。

 

デモ機の周りを取り囲んでいるのは、五十里、花音。摩利に真由美、鈴音、桐原に沙耶加が居た。

芥が代表して質問する。

 

「何してるんですか?」

「デモ機のデータの消去です」

 

芥が聞くとさも当然の様に、鈴音に返された。

 

「避難しなかったんですか?」

「リンちゃん達が頑張っているのに私たちだけ避難するなんてできないでしょ?」

 

真由美にも当然の様に返された。

 

「司波くんは控室の機器を頼めるかな?」

「出来れば他校の機器も破壊してくれると助かるわ」

「それが終わったら、控室で合流しよう」

 

五十里、花音、摩利から指示が飛んできた。拒む理由は無いので対応を始める。

 

「他校の機器は俺が対応するよ、達也は一校の方を頼む」

「分かった」

 

芥は他校の控室に向かい、達也は一校の控室に向かった。

芥が他校の控室に入ると、右手をパチンッと鳴らす。それだけで、デモ機とデータが「分解」された。

それを他の控室でも行う、簡単な作業だ。

 

すべて「分解」し終えた芥は、一校の控室へと向かった。

控室にはまだ他の人達は来ていないので、達也が一人でいた。

入っていきた芥見て作業に取り掛かりながら、達也の口からポロっと言葉が溢れた。

 

「……まさか、お前『も』使えたとはな」

「達也、それは失言だよ」

「っ、……そうだな」

 

ステージ裏での作業が終わったのか、そこに面子も控室に揃い、これからの方針について話し合うことになった。

口火を切ったのは摩利だ。

 

「で、これからどうするかだが……」

 

摩利は真由美の方を見る。

 

「海岸線はほぼ制圧されているわ。陸路もゲリラが広がっていて麻痺状態」

「船は来るのか?」

「海岸警備隊が船を用意してくれているようだけど、いかんせんキャパが足りないわ」

「そうか……。ならシェルターに向かうのが妥当か」

 

それは俺達が出した結論と一致した。

摩利はその場にいる面々に視線を巡らす。下級生の意見も聞こうとしているのだ。

しかし、この場にいる面子で摩利の意見に反対するものはいないようだった。

 

「私も渡辺先輩の意見に賛成です」

 

二年生を代表して花音が答える。

一年生の視線は、芥と達也に集中していた。

三年生の視線も集中する。

 

しかしその時、芥と達也の視線は全く別の方に向いていた。

芥は右手を前に出し、同時に達也はCADを構え、同時に同じ魔法を発動した。

その先では、今まさに国際会議場に吶喊を敢行しようとしていたトラックが「雲散霧消(ミスト・ディスバージョン)」により分解され塵となっていた。

 

それを知覚できたのは2人の他に「マルチ・スコープ」で知覚を拡大させていた真由美だけ。

それを知覚していてもなお、現実に起きた現象が受け入れられないようだった。

 

「何……。今の……」

 

そんな真由美をよそに、芥と達也は視線を交わす。

何故か気まずい雰囲気になった控室の空気を破るような形で、一人の女性が控室に入ってきた。

 

「お待たせ」

「え? え? 響子さん?」

「お久しぶりね、真由美さん」

 

野戦服にコンバットブーツで身を固めた藤林 響子<ふじばやし きょうこ>が控室に入ってきた。

同じ様に野戦服を来てケースを担いだ、女性士官も続いて入っていくる。

最後に、野戦服に少佐の階級証を付けた壮年の男性が入ってきた。

 

その男性の姿を見た達也は困惑していたが、

 

「特尉、情報統制は一時的に解除されています」

 

と響子が言うと、達也は少佐に向かって敬礼をした。

その光景にその場にいた人達は、困惑の表情を浮かべた。

なぜ、達也が敬礼を返すのか? と。

 

達也の敬礼に敬礼で返した少佐が名乗った。

 

「国防陸軍少佐、風間 玄信<かざま はるのぶ>です。藤林、現状をご説明して差し上げろ」

 

藤林の口から、国防軍の現在の動き、そして、義勇軍の動きなどが現状の最新情報はが共有された。

 

「さて、特尉。この特殊な状況を鑑み、我々にも出動命令が下った。国防軍特務規定基づき、貴官にも出動を命じる」

 

それに対して、真由美、摩利が口を開こうとしたが、風間がそれを制する。

 

「国防軍は皆様に対して、特尉の地位に関する守秘義務を要求します」

 

その重くて強い言葉で全ての機先を制した。

重苦しい空気の中、藤林といっしょに入ってきた女性士官が発言を求めた。

 

「風間少佐、自分からも発言よろしいでしょうか?」

「許可する」

 

敬礼を返すと、その技術士官は一歩前に出て、芥の方をはっきりと見て言った。

 

()()、貴方にも出撃命令が出ています」

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