魔法科高校の劣等生 ~隻腕の魔法使い~   作:なべを

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第三話

一校の控室のモニター前に、風間、藤林、そしてケースを持った女性士官が立っている。

机を挟んだその反対側に、深雪、芥、達也が並び、他の人達は壁際に立っている。

 

()()、貴方にも出撃命令が出ています」

 

風間たちより一歩前に出て、芥に向かって敬礼をした女性士官がそう告げる。

 

風間少佐を含めた、全員の驚愕の視線が芥に集まる。

隣にいる深雪は、両手を口に当て目を見開いて、この中で一番驚いている。

想定していたとはいえ、あまりいい視線じゃない無いな。

その視線の集中砲火の中、敬礼をしている女性士官に芥が語りかける。

 

館花(たてはな)、命令書を確認したい」

「分かりました」

 

館花と呼ばれた、女性としても少し小柄でナチュラルボブをした女性士官はケースを担いだまま、芥の方へ向かって歩き出した。

深雪と芥の間に入ると、胸ポケットからプラスチックの板を取り出し、パチンッと2つに割る。

映画とかでよく見る、秘密コードを共有する方法だ。

 

館花がプラスチックの板を左右に引くと中から紙が出てくる。

書かれている内容は暗号化されているため、他人には読めないようになっている。

 

それを館花は芥に差し出した。

暗号化された命令書を受け取った芥は「左目」で内容を解読していく。

内容は、出撃命令と無制限の魔法使用。そして、敵対勢力の「完全排除」が記載されていた。

「合法的」に戦争に参加出来るようにするためとは言え、「先生」も大分頑張ってくれたようだ。

 

「命令書を受諾した」

「では、こちらが装備になります」

 

館花が担いでいたケースを芥の前にある机に滑らせる。

そのケースは九校戦で芥が義肢を入れていたケースを、更に厳重にしたような代物だった。

 

「何番を持ってきた?」

「始めの指示どおり『黒の零番』になります」

「了解した」

 

こちら側の会話が一区切り付いた所で、風間が会話に割り込んできた。

 

「失礼ですが、軍属でありましたか?」

「ええ、一応」

「所属を聞いても?」

「……部隊名は秘匿させていただきますが、国防陸軍所属の那由多 界人<なゆた かいと>。階級は大佐になります」

 

風間が藤林に目配せをすると、藤林は端末ですぐさま確認作業を始めた。

俺の情報がヒットしたようで、藤林が風間に肯定の頷きを返す。

 

それを受けて、風間、藤林、達也が俺に向かって敬礼を向けてきた。

芥も敬礼を持って返す。敬礼なんていつ以来だろうか。

敬礼のやり取りが終わると、風間が代表して聞いてくる。

 

「大佐であらせられたとは。……特尉では無いのですね」

「ええ、正式な軍属です。階級はお飾りみたいなものですが」

「では、我々は貴方の指揮下に入る形になるのでしょうか?」

「いえ、その必要はありません。我々は完全に独立した部隊です」

 

そこで一旦、言葉を区切り、

 

「誰かの上に付くこともなければ、下に付くこともありません」

「では、我々の指揮系統には干渉しないと?」

「ええ、その代わりこちらにも干渉することは出来ません」

「了解しました。ではその様に動かさせて頂きます」

「よろしくお願いします」

 

そうして、風間との会話が終わると芥は、その場にいる全員に視線を送る。

 

「自分の軍属に関しては秘匿事項に抵触するため、皆さんに守秘義務を要求します」

 

感情が全く乗っていない、起伏なき声で全員に要求した。

それでも、深雪は何か言いたそうに身を乗り出すが、思い直したように身体を引っ込め俯いて、スカートをギュッと握って沈黙を保った。

 

「では、自分は一旦失礼させて貰います」

 

机に置かれたケースを担ぎ、一校の控室を出る。背中に様々な思いを乗せた視線を受けながら。

隣の控室に入り、扉を締めて机にケースを置く。

ケース中央に右手をかざすとセンサーが掌のコードを読み取り、ケースが解錠される。

蓋を開けると、九校戦の時に使用した白い義肢ではなく、今回の義肢は漆黒だった。

これはBI社のサイコ野郎どもが、開発費を無視して作り上げたオーバーテクノロジーとも言える一品だ。

 

芥は、携帯電話を耳に装着して「あいつ」に掛ける。いつも通りワンコールで相手は出た。

 

『荷物は受け取ったか?』

「ああ」

 

蓋の裏側に格納されている衣装を取り出しながら会話をする。

 

「現状の報告を」

『魔法協会本部があるツインタワーを南端に、会議場が北端となり縦に戦線が伸びている。機動兵器はまだ確認されていないが、今後投入されるのが予測出来る』

 

話を聞きながら、制服と下着を脱いでいく。

全裸になると、ケースから義肢を取り出し左肩のコネクターに接続する。

 

接続が完了すると、脳と身体に電流が迸る。この感覚は何度やっても慣れないもんだ。

脳が左腕を認識すると、左腕をぐるりと回す。

 

五体満足になった所で、インナースーツを着込む。

その上から、光を通さないほど漆黒の三つ揃えスーツを着込んでいく。シャツも、ネクタイも漆黒のものだ。

防刃、防弾仕様の芥専用の戦衣装だ。パワードスーツとかは芥にとっては邪魔なものでしか無い。

スーツを着込みながらも「あいつ」と会話していく。

 

「『連中』の動きは?」

『現在、確認されているだけで2人以上が潜り込んでいる。目的はお前だろうな』

「了解した。データは常に更新してくれ。『左目』で確認する」

『了解』

 

通話が完了し、携帯電話を懐にしまう。やはり「連中」はこの機会を伺っていたか。

最後にブーツを履き、芥の戦仕立ては完了した。

脱いだ制服を畳んで、ケースの蓋にしまう。

ケースをロックしてから担いで、控室を出て入り口ホールを抜けて外へと向かう。

 

エントランスに出ると、これから移動しようとする皆が揃っていた。

揃っていたというか、芥がどう動くかを待っているような感じだった。

 

館花が芥に近づくと、芥が担いでいるケースを受け取った。

ケースを渡し身軽になった芥は、肩をぐるぐると回す。

 

「お前も早く移動しろよ」

「はい、では大佐。良き戦争を」

 

その言葉と共に敬礼をしてくる。

その言葉の内容に、フッと笑いながら、

 

「いつも言っているだろ。そんなものはこの世の何処にも無いんだよ」

 

足を外に向ける。

エントランスを数歩歩いた所で、芥の姿がブレてふっと掻き消えた。

 

掻き消えた芥は、次の瞬間、戦線のほぼ中央にある中で一番高いビルの屋上に立っていた。

「瞬間移動」という現代魔法では再現不可能な魔法を使ってみせたのだ。

 

ビルの屋上に立った芥は、左目のコンタクトを外す。

コンタクトを外したそれは明らかに、機械式の義眼だった。瞳孔の収縮がカメラのシャッターのように自動的に行われている。

左目を瞑り、左瞼に投影されたデジタルデータを確認していく。

 

この左目は、ネットワークへのアクセスだけではない。

監視衛星網、通称「ミネルヴァの梟」にもアクセス可能で地球をほぼ360度、同時に観測出来る。

 

これに芥の「妖精の眼(エレメンタル・サイト)」が加われば、地球上で認識出来ない物はほとんど存在しない。

ただし、この情報量に耐えうる脳みそがあればの話だが、芥はこの辺りも処理できるように脳みそをいじくり回されている。

 

戦場の南端と北端を確認し、その中にいるゲリラを含む歩兵約400人程を()()()脳で認識していく。

その確認が終えると、芥は両の手を左右にバッと開いた。

 

すると、戦場の南端と北端から中央に向かって「夜」の帷が降りていく。

真昼の横浜が「夜」に染まっていく。

 

戦線の中央にいる芥のところまで「夜」が到達した。

全てが星々に覆われた事に、事態を飲み込めてない連中が動けないからか、静寂が辺りを支配していた。

芥は一言、呟いた。

 

「死ね」

 

星が瞬き、敵と認識した相手の額に穴が空いていく。

味方には一切、星が瞬かない超高度にして超精密な魔法。

芥という魔法師に制限が一切ないからこそ、出来る無二の芸当である。

本来の使い手である、四葉 真夜でもここまではできないだろう。

 

大体の敵が一掃されると、夜の帷が解除され横浜に陽の光が戻ってきた。

ふーっと一息付く暇もなく、芥が立っている場所に業火球が飛んで来る。

それをバックステップで躱し、屋上のフェンスの上に立つ。

屋上は火の海になっていた。

 

いつの間にか向かいのビルに一人の男性立っていて、右手をこちらに向けていた。

いや、ちゃんと視れば芥がいるビルを十人程の男女が取り囲んでいる。

 

「ようやく、お前を殺せる時がきたなぁ!」

 

向かい側にいる男が大声を出して威嚇してきた。安っぽい脅しだ。

芥はそれに冷静に対応する。

 

「この程度で俺を殺せると、本気で思っているのか?」

 

その言葉には嘲りが混じっていた。

それを感じ取った、男が怒りに任せて吠えた。

 

「殺す!」

 

そうして、「連中」。敵対している転生者(リターナー)との戦争が始まった。

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