虎の気配を感じた芥は横浜ツインタワーの方に「瞬間移動」する。
「瞬間移動」した先では既に、交戦状態だった。
呂 剛虎<リュウ カンフウ>が白い鎧を来て、摩利や真由美に迫っていた。
レオとエリカの姿は視えない、既に捌かれたようだ。
呂 剛虎が摩利に迫っているその間に、芥は強引に割り込んだ。
加速魔法で突進してくる呂 剛虎に対し、気を合わせることによって、力のベクトルを逆方向に変える。
突進してきた速度よりさらに加速して呂 剛虎は、後ろに止まっていたトレーラーへ向かって飛んでいく。
ベキッメキッという音と共に、トレーラーがへしゃげる程の速度で呂 剛虎は激突した。
「出過ぎましたかね?」
それを成した後、後ろにいる摩利に向かって芥は、何事も無かったかのように告げる。
「いや……、そんなことはないが」
眼の前で起こったことに、呆然としながら摩利はつぶやく。
硬気功で身を守っているからかダメージが無い様子で、ひしゃげたトレーラーから呂 剛虎が立ち上がり、怒りの為か咆哮を上げている。
再度、加速魔法を使って突進しようと魔法を発動し構えを取っているが、その出掛りを芥が潰す。
彼我の差を一瞬で詰め、左手で呂 剛虎の頭を鷲掴みにすると同時に身体を操作して、仙気を相手に叩き込む。
呂 剛虎がは硬気功により、外側からの攻撃には強くなっているが、内側への攻撃に対しては肉体の強度に依存している。
肉体の限界を超えた仙気を叩き込まれ、肉体が内側から壊れていく。
口や鼻、果ては目や耳から血を流し、自らの血の海に呂 剛虎は沈んでいった。
自らの血の海に沈んだ呂 剛虎を見届けると、芥は摩利達の方に向かって普通に歩いていく。
しかし、その「普通さ」が逆に恐怖を駆り立てていることに、芥は気づいていない。
途中、先にヤラれたのかレオとエリカが、形が崩れたキャビネットから這い出ようとしていた。
「大丈夫か? 2人とも?」
「ああ」
「こっちも大丈夫よ」
問題なさそうな声色で返答してきたので、それを素通りして摩利と真由美の方に近付く。
摩利達の前までたどり着くと、芥は周りを見渡しながら、
「これで一通りは終わったんでしょうか?」
「ええ、外はこれで片付いたと思う。おそらくだけど、中の方も片付いたと思うわ」
芥は気付いていない。
摩利や真由美の顔が若干引きつっているのを。
「そうですか。では、皆も早く脱出を。戦況がこちらに傾いているとはいえ、脱出できるならその方が安全ですから」
「ええ、そうさせてもらうわ。芥くんはどうするの?」
「『全部終わる』まではここで遊んでいるので、気にしないで下さい」
「……わかったわ」
それじゃ、と言い残し芥は「瞬間移動」でその場から消える。
あとに残った摩利や真由美は、芥の圧倒的な実力に少しの恐怖を覚えていた。
「瞬間移動」で移動した先は、横浜ツインタワーの屋上。
「左目」で確認した所、敵艦が戦線を離脱しようとしているのが視えたので、排除に向かうためだ。
すると、芥に頭痛が走る。
……すこし左腕を使いすぎたか。あと一時間くらいが限界だろう。
そう感じながら屋上を見渡すと、先客がいた。
風間と藤林、そして初めて見る士官と、真っ黒なムーバブル・スーツを来た達也だった。
大きめのケースを控えているその姿から、これから大掛かりな魔法を使うことが読み取れた。
風間達は、突然現れた芥に気付くと慌てて敬礼をしてきた。こんなときでも律儀な人達だ。
芥も敬礼を返す。
「そちらが先でしたか。では、自分の出番は無さそうですね」
敬礼を崩すと、風間が応答と共に告げてきた。
「いえ、そんな事は。……大佐、上申を許して頂けますか?」
「聞きましょう」
「現在、我々は潰走する敵艦を沈めるべく対応を進めています。ですが、大佐も敵艦を沈める方法をお持ちではないのでしょうか?」
「……自分に手の内を開かせと?」
「いえ、我々の対応は極めて秘匿事項が高いものになります。使わずに済むならその方が良いのです」
「まぁ、理屈は通っていますね。確かに、「アレ」はそう簡単に見せて良いものでも無いでしょうし」
「っ!? ……知っておられましたか」
「何処にでも目と耳はあるものです。分かりました。今回は自分が対応しましょう」
「ご配慮ありがとうございます!」
風間以下、全員が芥に向かって再度敬礼をする。
芥は、屋上の縁の方に向かって歩き、達也を同じ様に海が見える位置にまで移動する。
俺が前に出ると、達也は場を明け渡すかのように後ろに下がった。
左目を瞑り、「ミネルヴァの梟」と「
補足完了後に左手を前に突き出して、一言。
「燃えろ」
言葉を合図に敵艦に魔法式が展開する。
上空の空気が歪み、レンズを形成していく。
その中央に日光が収束していく。
収束した光はレンズを通過し、敵艦に向かって焦点をあわせた。
レンズで集約され焦点に集まった、光の温度は有に数万度を超える。
光が、敵艦を包む。
その光に包まれた敵艦は爆発すること無く、一瞬で
収束系魔法「メギド・フレイム」。
光を収束させることで温度を上げ、焦点にいるターゲットを蒸発させる戦術級魔法。
横浜ツインタワーで「それ」を見ていた者たちは、一瞬、海上に閃光が走ったのを確認した。
しかし、それで全ては終わっている。
芥は風間達の方に向き直すと、
「終わりましたよ?」
と、軽い調子で言った。
藤林が慌てて、タブレットで状況を確認している。
確認が終わったのであろう、
「……敵戦艦の消滅を確認しました。周囲環境への影響はありません」
藤林のその言葉に芥を除く、全員が呆然としている。
芥の言葉で全員が、はたと現実に引き戻される。
「で、これであらかた終わりましたが、そちらはどうするんですか?」
「……我々はこれを持って作戦完了とし、撤収します。後処理は後詰めの部隊に任せようかと」
「そうですか。では、自分も撤収しますか。……ああ、あまり館花をいじめないで下さいね?」
「わかっております。では自分らはこれで失礼致します」
再度、芥に敬礼をして風間達は屋上から降りていった。
芥は水平線を少し眺めた後、「瞬間移動」でその場を去った。
これが「灼熱のハロウィン」に繋がる「横浜事変」の顛末だった。