「横浜事変」直後は、特にこれと言ってイベントは起きなかった。
義肢を会社に預けて、芥は家に帰った。
久しぶりに義肢を付けて長く闘ったので、思っていた以上に疲労が溜まっていたようだ。
その日は、夕食をとり風呂に入った後、泥のように眠りについた。
次の日の朝、ハロウィン当日。
携帯端末を確認すると学校から通知が来ていた。
どうやら、「横浜事変」での事を受けて、学校を1週間ほど休校するという旨の内容だ。
まぁ、あんな大きな事件があったのだ。生徒のメンタルヘルスを考えても妥当な反応だろう。
これ幸いにと、芥は闘いの疲れを労う事にした。
朝起きた後の昼下がり、個人サウナに行った。
まずは、精神的なリフレッシュをしないとね。
その後、帰宅して夕食にお寿司をデリバリー。
リビングで特上お寿司に舌鼓を打ちながら「あいつ」と会話する。
「んで、その後はどんな感じ?」
『「連中」は今のところ大人しくしている』
「俺を殺せなかったから、相当悔しいだろうな」
『幹部を動かしてもなお駄目だったからな。後は、大亜連合に艦隊集結の動きが見られる』
「って事は、達也が動くのか」
『ああ、後は「歴史」通りだろう』
「りょーかい。あー、お寿司、美味しい」
『……まぁ、お前は今回働いたからな、十分に英気を養え』
「そうさせてもらうよ」
「あいつ」と会話をしている最中に、一件の着信があった。
表示名は「司波 深雪」。
「着信あるから切るわ」
『ああ、またな』
「あいつ」との会話を終わらせ、深雪の会話に出る。
映像はオフだ。
「こんばんわ、深雪」
『こんばんわ、芥さん』
先ずは無難な挨拶から始める。
「どうかしたの?」
『いえ、横浜では殆んどお会いすることが出来なかったので、ご無事かどうか確認したくて』
「ああ、大丈夫大丈夫。あんなんで潰れるほど、ヤワな身体はしてないから」
『そうでしたか。それは安心しました』
「そっちは大丈夫だったの?」
『はい。危ない目には合わずに、七草会長のヘリコプターで脱出が出来ました』
「そっか、良かった」
その後、沈黙が流れる。
深雪から何かを聞きたそうな雰囲気を感じる。
しかし、聞いても答えてくれないだろうし、分かりきった答えが返ってくるのも想定できるので、聞けないジレンマにかられているようだ。
そして出てきたのは、ありきたりな話題になった。
『兄のことですが』
「達也のこと? 何か連絡でもあったの?」
『はい、暫く留守にすると。……なにか心当たりはありませんか?』
「心当たりはあるけど、軍事行動に絡んでいて話すことは出来ないな。でも、安全だから安心していいよ」
『そうですか……。お心遣い有難うございます』
通話越しとは言え、腰を追っているのが分かり苦笑する。律儀な娘だ。
その後は時に当たり障りのない会話をして核心に触れられないまま、会話は終了となった。
そして「歴史通り」集結していた大亜連合の艦隊が、物理的に消失したことによって、
その日は後に「灼熱のハロウィン」として語り継がれる日となった。
翌日。
十一月一日。
芥はリビングでコーヒーを飲みながら読書をして寛いでいると、今日も着信があった。
しかも、知らぬ番号からの映像付きで、だ。
一旦、自分の格好を確認する。
部屋着とは言え最低限礼を失しない格好だと思う。
テレビの前に立ち、通話をオンにする。
すると、相手として映ったのは初めて見る、執事の格好をした老齢の男性だった。
『急なご連絡申し訳ありません、世羅様。私は四葉家の執事を任されている、葉山と申します』
腰を折り丁寧に挨拶してくる相手に、芥は驚きを表に出さないようにするのが精一杯だった。
「あの」四葉家が自分にコンタクトを取ってくるとは、全くの予想外だったからだ。
動揺が顔に出ないように抑え込みつつ、こちらも礼を返す。
「お初にお目にかかります。自分は世羅と申します。本日はどのような御要件でしょうか?」
『はい。我らがご当主様が世羅様とお茶を交わしたい、と申しておりまして。ご都合が付く日を教えて頂けないかと』
更に驚愕した。四葉の当主、四葉 真夜が芥に会いたい、と言っているのだ。
……横浜で大立ち回りをしたから、興味を持たれたのだろうか?
いや、九校戦で「夜」を使ったからか?
「ご当主様の都合に合わせて頂く形で、何時でも構いません」
『ご配慮有難うございます。では、明日の昼頃に迎えの者を遣わせます』
「畏まりました。明日はよろしくお願い致します」
『では、失礼致します』
最後に、互いに礼を交わし会話は終了した。
俺はすぐさま「あいつ」に泣き付いた。
「なー! 四葉 真夜が俺に会いたいって言ってきたんだけど!」
『……本当か、それ?』
「マジマジ。んで、どう動くのが正解かな?」
『この状況は想定してなかったな。この時点でお前に興味を持たれるとは思ってもいなかった』
「……出たとこ勝負ってこと?」
『それ以外にあるまい。向こうの意図が読めない以上、お前のアドリブ力に懸かっている』
「やり合えるかな、あの『魔女』に対して」
『そこはなんとかしろ。四葉家は敵ではなく味方として取り入れたい勢力だ。精々気に入られるように頑張れ』
冷徹にも通話は切られた。
芥はリビングの椅子にドサッと座ると、天井を仰ぎ見て深い溜息を付いた。