第一話
年の瀬も近づいた12月。
その中でも最も有名なクリスマスというイベント。
その日は休日でもあったが、いつものメンバーで集まってパーティーをすることになった。
一校の通学路にある、たまり場になりつつある喫茶店を好意で貸し切りにさせてもらっている。
「それでは皆さん、グラスをお持ち下さい!」
エリカが音頭をとり、皆がそれぞれグラスを取る。中身は当然アルコールでは無い。
皆がグラスを持ったことを確認すると、声高々にエリカはグラスを掲げた。
「メリー・クリスマス!」
「「メリー・クリスマス!」」
皆でグラスを掲げて、クリスマスというイベントが始まる。
東欧風の料理を囲みながら、それぞれが談笑している。
芥の隣では、深雪が甲斐甲斐しく料理をとり世話をしている。
この光景も当たり前になってきた。入学からまだ一年と経ってはいないのに、その光景はもはや日常と化していた。
芥を世話する深雪の、その笑顔にはなかなか逆らえない魔力があるのかもしれない。
パーティーが中頃に差し掛かった時、雫が唐突に爆弾発言をした。
「私、USNAに留学することになった」
それは、雫にとっては普通の呟き声だったが皆の耳に届いた。
皆の視線が雫に集まる。
先に声を上げたのは、この中で最も付き合いが長いほのかだった。
「雫! それ本当なの!?」
「うん」
「なんで教えてくれなかったの?」
「昨日まで口止めされていたから。ゴメン」
その言葉には謝罪の意思がちゃんと込められていて、普段感情が薄い雫の顔もすまなそうな顔をしている。
一番冷静なのか達也がもっともな意見を口に出した。
「魔法師の留学とは、よく許可が降りたな?」
「うん。交換留学だから通りやすかったんじゃないかって、お父さんも言ってた」
「交換留学となると、向こうからも魔法師が来るのか」
「同い年の子だっていうのは聞いた」
そうして、雫の留学の話しに盛り上がりながら、パーティーは進んで行った。
夜も更け、高校生が出入りするにはすこし遅いくらいの時間にお店を出た。
皆で外に出ると、冬のシンとした寒い空気が身体に触れてくる。
雪は降っていないのでホワイト・クリスマスとはいかなかったが、冬の心地よい寒さを感じるには十分だった。
駅までの一本道を皆で歩いていくと、もじもじしながらも、意を決したようにほのかが年明けの話題を出した。
「達也さん。来年の元旦ですが、初詣に一緒に行きませんか!」
先に歩いていた達也が振り返りながら、答える。
「初詣か」
「あ、あの! みんなでですよ! みんなで!」
何に対して言い訳しているかは解らなかったが、胸の前で両手を振りながら慌ててほのかは答えた。
「せっかくのお誘いなので、良いのではないでしょうか。お兄様」
「そうだな。わかった、参加しよう」
「有難うございます!」
その場で飛び上がりそうなほど、ほのかは舞い上がっていた。
すると、深雪は芥の方を見て、
「芥さんも参加されるんですよね?」
「ああ、参加するよ」
と、念を押してきた。それを聞いた深雪も嬉しそうに微笑んだ。
そうして、話題は早くも来年のイベントの話になり駅までの道のりは楽しい話題に事欠かなかった。
駅に着き、それそれがキャビネットに乗っていく所で、芥は深雪を呼び止めた。
「ああ、そうだ。深雪」
「はい、なんでしょうか?」
芥と深雪達の家は逆方向なので、ここで分かれる。
分かれる前に呼び止められた深雪は、何事かと芥の方に向き合う。
芥は懐から、綺麗にラッピングされた細長い箱を取り出し、深雪に渡す。
「え?」
「メリー・クリスマス」
そういって箱を深雪に押し付けると、芥はキャビネットに飛び乗った。
深雪がそれがクリスマスプレゼントだと気付くには、そこから少し時間が立ってからだった。
気づいた深雪の顔が真っ赤になったのは言うまでもないことだった。
家に着いた芥は自室で部屋着に着替えて、リビングへと降りていく。
リビングに着くと早速「あいつ」から通話があった。
ソファーに座りながら、芥は対応する。
『で、どうだった?』
「どうもこうも、予定通り雫は留学するみたいだよ」
『そうか、なら相手は彼女で決定だな。歴史は進むというわけか』
「そうなるな」
『で、お前自身は「アレ」に対抗する手段があるのか?』
「無いわけでは無いけど、試したことが無いから確実性は薄いな」
『あるのか……。今回も何かイレギュラーがあるかもしれん。気を付けておけ』
「おっけー」
そうして、クリスマスの夜は更けていった。
明けて翌年。元日。
皆との初詣のため、芥は準備をしていた。
といっても、和装を着るためではない。そもそも片腕で和装を着るのは難しい。
厚手のハイネックセーターに黒のスラックス。黒のコートといつも通りのよそ行きの服に着替えるだけだ。
着替えが終わると、玄関に赴き黒のローファーを履いて駅に向かう。
最寄り駅で降りて神社に向かうと、鳥居の前では既にほのかが待っていた。
「明けましておめでとう。ほのか」
「明けましておめでとうございます。芥さん」
年始の挨拶を交わしていると、レオも合流してきた。
最後に合流したのは、達也と深雪だったがなんというか凄かった。
元日の初詣ということで、神社は賑わっていたが、その人波が自然と道を開けるように脇に避けていく。
その姿と見た芥は、こうなるだろうなと素直に思った。
達也の和装がバッチリ決まっていて、妙な圧があるのもそうだが、深雪の振袖姿が圧倒的だった。
普段の美少女っぷりが振袖姿で艶やかさに変わり、まさに匂い立つような女性になっていた。
そりゃあ、見る人達を圧倒するというもの。
そんな周りに我関せずと言った感じで、こちらに近づき深雪と達也が年始の挨拶をしてくる。
「「明けましておめでとうございます」」
それぞれに年始の挨拶を躱すと、達也は後ろにいる人を紹介してくれた。
「こちら、九重寺の和尚、俺達には忍術使い、九重 八雲の方が通りが良いかな? 俺の師匠に当たる人だ」
八雲に対して芥は挨拶をする。
「
「これはこれはご丁寧に。世羅くんの活躍も聞いているよ」
よく見なければ解らないが、八雲の顔は引きつっているように見える。
そうして、全員が揃った所で鳥居をくぐり、参拝に向かう。
最中、しれっと芥の隣を歩いている深雪がちらちらと視線を送ってくる。それに気づかないほど芥は鈍感ではない。はず。
芥は深雪の方をに顔を向けると、
「振袖、とても似合っているよ。艶やかさにクラクラしそうだ」
「あ、ありがとうございます……」
そう言われた、深雪は頬を染めて恥ずかしそうに微笑んだ。
参拝を終えて、おみくじを買ったりとしていると、芥はこちらに向かってチラチラと見てくる視線を感じた。
視線を合わせないようにそちらを見ると、物陰からこちらを見ている少女が目に入った。
年の頃は自分たちと同じくらいか。流れるような金髪をツインアップで纏め、その目は空よりも青い色をしている。
明らかかに日本人ではなかった。
ただし、着ているものが、なんというかジャンクな感じがして、神社であるこの場にあっていなく浮いている。
本人は気付いていないようだ。あれでは、見つけてくれと言っているようなもの。
「気づいたか?」
「まぁ。アレだけ熱視線をくれたら嫌でも気付くよ」
おみくじを見せ合う振りをしながら、達也と芥は視線の相手の感想を言い合う。
「どうしよっか?」
「見ているだけなら問題無いだろう。危害を加えてくる気配は無いからな」
視線の相手の待遇を決めて、おみくじを木に結ぶ。
そうして、神社での事を納めて帰路に着く。
帰り際、視線を送ってきた少女とすれ違ったが、それだけだった。
そして、新学期が始まる。
次話は週末に予定があるため、週明けの登校になります。
よろしくお願いします。