達也と服部副会長、俺と達也との模擬戦の後、渡辺先輩に連れられて俺と達也は風紀委員室に訪れた。
部屋の作りは、ほぼ生徒会室を同じだ。
入り口前に会議用の長机があり、右壁沿いにコンソールがある。
普通に付いて来ちゃったけど、俺達が風紀委員になるの、もう既定路線になっているな。
誰も何も言わなかったし。
「少し散らかっているが、まぁ、気にせず空いている所に座ってくれ」
と、渡辺先輩に言われたが少しでは無く、大分散らかっていた。
アチラコチラに、段ボールはあるし、CADもそのまま雑に置かれている。
達也はその惨状を目にすると、耐えられなくなったようで、
「委員長。ここ片付けてもいいですか?」
と尋ねた。それで、皆でお片付けタイムが始まった。
達也は主にCADを、俺と渡辺先輩はその他を片付けている。
片付けながら渡辺先輩の雑談が始まった。
「私が君達を選んだ理由は、現状の構図を変えるためだ。
一科生が取り締まるのが当たり前になっている昨今、二科生も取り締まる事が出来る立場にいることで、二科生の立場改善を行いたい、ということだ」
棚に向かってCADを整理しながら、達也がもっともな質問をする。
「それは、逆効果を生むのでは? 一科生は反発しそうですが」
長机の資料を段ボールに纏めながら俺も質問する。
「特に上級生は嫌な顔をしそうです」
だが、質問された当の渡辺先輩は涼しい顔で答える。
「たしかにな。たが、うちに限って言えば、薬は強ければ、強いほうがいい」
その言葉が俺達を選んだ本当の理由だろう。
「俺達は劇薬扱いですか」
「そうなるな」
掃除を続けていると委員会室の扉が開き、男子生徒が2人、入ってきた。
「はよーすっ」
「おはようございます」
2人は挨拶をして扉前で起立をすると、真面目に挨拶をした生徒のほうが報告を始めた。
「委員長、本日の巡回が終了しました。違反者はゼロです」
「そうか」
くだたけた挨拶をした男子生徒は、この部屋の異物である俺達を見ると、渡辺先輩に聞いた。
「あねさん。コイツラは新入りですかい?」
「ああ。生徒会役員枠と補欠枠でとった」
その男子生徒は、達也の右袖に刺繍がないことに気づき、さらには俺の左袖を見た。
「へぇ。2人とも紋無しですかい。それに一人は……」
「辰巳先輩、それ以上は差別用語に抵触する恐れがあります。この場合、二科生と言うべきかと」
「お前らそんなんじゃあ、足元すくわれるぞ?」
渡辺先輩が楽しそうに返し、達也の方に目線と手を向ける。
「そこの司波 達也くんは、さっき服部との模擬戦に勝ったばかりだからな」
「なっ!」
「あの服部にですか! 入学以来負け無しの!」
「そして」
次に、その視線と手は俺の方に向いた。
「その達也くんを圧倒したのが、この世羅 芥くんだ」
「へぇー、そいつは心強え」
「逸材ですね、委員長」
2つとも一科生で在りながら、俺達二科生を下に見ている雰囲気は感じられない。
素直に俺達の実力を褒めているように見える。
「ここには比較的差別意識がない奴らが集まっている。君たちにとっても居心地がいい場所だと思うぞ」
渡辺先輩はにやりと笑いながら、言った。
委員会室に足を踏み入れた2人は、俺達に向かって自己紹介をしてくれた。
その姿勢だけで、俺達に対して差別意識がないことが解る。
「3-Cの辰巳 鋼太郎 <たつみ こうたろう>だ。よろしくな」
「2-Dの沢木 碧 <さわき みどりです>だ。君たちを歓迎するよ」
「1-Eの司波 達也です。よろしくお願いします」
「同じく1-Eの世羅 芥です。よろしくお願いします」
礼をされたのなら、礼を持って返す。俺達は当たり前の様に2人に向かってお辞儀をした。
何か一波乱あるかも知れないと思っていた、風紀委員との邂逅はなんの波風もなく和やかに行われた。
しかし、俺達が風紀委員に入るのはもう、決定事項なんだな。逃げられそうにもない。
その事について達也と視線を交わすと、達也は首を横に振った。もうどうにもならん、ということらしい。
その日は委員会室を片付けて、解散となった。
達也と一緒に帰宅しようとすると、校門にいつものグループが見えた。
光井さんや北山さんの姿まである。
俺達はそのグループに近づき、
「待っていてくれたのか? すまないな」
「おいおい、そこは謝るところじゃないだろ、達也」
「……そうだな、待っていてくれて、ありがとう」
いつものグループで帰り道を歩くことになった。
前に、エリカ、達也、光井さん、北山さん、レオ。その後ろに俺と深雪、美月で別れている。
話題はもっぱら風紀委員との模擬戦に関することだった。
そして、こういう話題に一番食いついてくるのはエリカだった。
「じゃあ、いきなり模擬戦になったんだ?」
「ああ、俺は副会長と戦う事になった」
「それで、結果は?」
「エリカ。当然、お兄様が勝ったわよ」
「へー、流石」
「だが、俺も自信を失いそうになったよ」
「なんで?」
「その後、俺は芥に負けたからな」
皆の視線が俺に集まる。ん? どうかした? と首をかしげるも、
「あの絶技、皆にもぜひ体験してほしいものだ。そうそうお目に掛かれるものじゃないからな」
「だーかーらー、手品だって言ってるだろ」
「そんな凄いことやったんだ。それは興味あるわね」
「俺もそれなりに研鑽を詰んでいるつもりだが、あの絶技に嵌ってしまった。おそらくエリカでも嵌まるぞ」
達也のその言葉に、眼を細めて興味津々といった形でエリカは俺を見てくる。
「……それは、ますます興味あるわね」
「俺も興味あるな!」
「やめてくれ」
俺はエリカとレオに右手で払う動作をしたが、そんなものでは視線を外してくれなかった。
「本当にあの絶技には吃驚したわ! 嵌った今でも信じられない位よ」
「深雪さんまで褒めるなんて。そんなに凄い技だったんですね」
深雪と美月も褒めてくる。
やめて! はずかしいから! 私のHPはゼロよ!
そうして、エリカ達は模擬戦の内容を突きながら、俺はそれを躱しながら帰路に着いた。
夜。
帰宅して部屋着に着替えて少し早めの夕食を取り、
リビングでまったりしてた所に、いつも通り「あいつ」が通話を掛けてきた。
『お前まで風紀委員になるとは想定外だったな』
全く外部に公表されていない事実だが、こいつにはそんなの関係無い。
こいつの「眼」と「耳」は至る所にある。
「ああ、俺も想定外だ。なんでこんな事になったんだろうなー」
リビングのソファーの背もたれに体重を預けて、天井を仰ぐ。
『だがいい誤算だ。このまま、メイングループとの親交を続けてくれ』
「俺としては、メイングループに関わるつもりは無かったけどな!」
俺は顔をテレビに向ける。
「この後は、部活の勧誘会で一悶着だっけ」
『ああ、おそらくメインは司波 達也の方だろうが、お前の方も何かあるだろう』
「りょーかい」
『案外、その方がお前が望む「普通の学生生活」ってやつを満喫できるかもしれないぞ?』
「……その可能性は否定できないな」
『ひとまず、1週間は普通に風紀委員の仕事をしていろ。楽しめ』
それで通話は切れた。
ほんと「普通の学生生活」を送りたかっただけなんだけどな。
まぁ、与えられた役割はちゃんとこなしましょうか!
気合を自分に入れて、俺は風呂に入る準備をし、就寝へと向かっていった。
同じ頃、達也は一人、九重寺で九重 八雲と対峙していた。
「……と、言う感じの技なのですが、師匠も同じような事が出来ますか?」
「……難しいね。全員を同じ状態にすることは出来そうだけど、そこから、更に知覚の隙間を狙うなんて」
「師匠でも難しいですか……」
達也の懸念はもっぱら、芥へと向けられていた。
あんな絶技を見せられれば、警戒度は更に上がるだろう。
「ところで、頼んでいた件ですが」
「ああ、調べたよ、『世羅 芥』君。いやー彼、面白いね」
「面白い、とは」
「彼の経歴には全く怪しいところがない。
「では、やはり」
「うん。なにかしらの裏がありそうだが、その裏は深いのかも知れない。気をつけたほうがいいと思うけど、悪い感じは受けないんだろう?」
「ええ、今のところは彼からの悪意は感じません」
「素なのか、演じているのか。まぁ、僕の方でももう少し調べてみるよ」
「お願いします」
「藪をつついて、蛇がでないといいんだけどねぇ」
そうして、夜は更けていく。