超人酒寄彩葉と借金貧乏男子が運命的な出会いをする話 作:陸結
「月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我がみ一つは もとの身として
まず和歌の解釈は句点の位置を...」
体育終わりの六限の疲労と初夏の陽気からくる穏やかな睡魔によって多くの生徒が格闘する時間である。
「この歌は先週やった話の続きでね。業平が昔に関係を持った皇太后との身分違いな恋を思って詠んだ歌なんだ。いやーやっぱ業平はいいよね〜。僕伊勢物語大好きなのよ」
うちの古典教師は相変わらず趣味全開の授業で半数の生徒は机に突っ伏して爆睡、もう半分は時折意識を失いながらもかろうじて喰らいつく。そんな状況も相待って俺の視界にはピンと背筋を伸ばした状態で授業を受ける美少女がよく見える。
酒寄彩葉
うちの学年の首席で美人、運動もできて、ピアノもプロ並み。その上人当たりも良くて実家は京都のいいとこらしい。まさに品行方正、文武両道、才色兼備、それが酒依彩葉なのである。彼女の人気は凄まじく、彼女を崇拝するファンクラブが存在するほどである。
そんな彼女と少なくない接点を持つのが
この俺 有原 泉(ありはら いずみ)
ちょっと顔が良いだけの男です。他に特技と言ったら作文とか作詩とかそっち系ぐらい。
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そんな独白をしているうちに授業が終わり、生徒たちは春の芽吹きのように活動再開する。
部活に行く者、友達と喋る者、黒板を消す日直を静止させ黒板の板書を取る者様々であった。
「おはようー真面目に授業受けててえらいですねー泉くんは」
そう言って俺の数少ない(もしかしたらこいつしかいないかもしれないが)親友の童山秀(どうやましゅう)は頬に赤い跡を残しながら話しかけてきた。
「お前今日も机に突っ伏して寝てただろ」
「まあ、あの先生の声は落ち着くよね〜」
「私目線ちゃんと起きてたの有原とい彩葉だけだったもん」
そういって童山の彼女である諌山真実とその友人綾紬芦花も近づいてくる。
「さてはお前今日は結構寝たんだな?」
「いや、今日夜勤だったんじゃない?私アパート出た時死にそうな顔で帰ってくる有原見たもん」
「えってことはいずみん。今日徹夜〜?」
「ふぇー。お前それで居眠りなしは大した精神力だな」
「そのお力をお与えくさーい」
「お与えくださいー有原神ー」
諌山と童山はジャングルの原住民のように俺を崇める。
「崇めるなら俺みたいな生活しながら、優等生してる酒寄の方だろ。俺日々全く勉強してないし」
「私?別にこれぐらい全然だよー」
「そのお力をお与えくさーいー」
「お与えくださいー酒寄神ー」
2人は先ほどとはレベチで酒寄を崇拝しており、崇められる酒寄も遠慮はしてるが満更でもなさそうである。なんか釈然としないな。
「毎回思うけど、バイト先も学校もアパートも同じだなんて彩葉と有原ずっと一緒じゃん。」
綾紬がそう吐露する。
「似たような生活してるから、突き詰めると同じライフスタイルになるんだよね」
「俺らが気付いてないだけで、こういう生活してる同級生も他にいるだろうからな」
「「「それは絶対ない」」」
俺の発言を3人は全力で否定する。ええー別に普通とは言わないが、そんなにおかしい生活はしてないと思うんだが...
「有原と彩葉みたいなのが他にもいるんだったら、行政は何やってんのって感じだね」
「そうだ。今日はお前らに俺がご飯奢ってやろう」
そう童山が切り出すと
「ありがとー秀ちゃん。私駅近のパンケーキ気になってたの」
「童山のおごりー?いいじゃんいこーよ」
「えっいや俺は有原たちに」
童山の失言に食いついた諌山と綾紬が童山にたかる。面白くなってきた。ちょっと揶揄ってやろう
「さすが太っ腹な童山さんだなー俺だけじゃなくみんなにまでパンケーキご馳走してくれるなんて、諌山はいい彼氏持ったなー?」
「本当にねー、秀ちゃんやさしー」
「ふふふ、よーし任せとけ!男、童山秀に二言はない!」
こいつなんてちょろくて、面白いやつなんだ
「ちょっと2人とも、童山くんのこと囃し立てないの、それに有原今日私たちバイトでしょ」
「おい有原」
俺は童山から目を逸らした。ごめんな、童山。お前、いじりがいあって楽しんだ。
「てなわけで、俺ら行くわ。また明日な」
「またね芦花、真美に童山くん」
そう言って俺と酒寄は教室を後にした。
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「童山くんって本当に面白いよね」
「単純っていうか、単細胞っていうか。もっと頭使ったほうがいいと思う」
「ふふ」
酒寄が急に笑う。美人なこいつが笑うと嫌でも目を惹きつけられてしまう。
「何?急に笑うとびっくりするだろ」
「いや、有原は童山くんのこと大好きなんだなって思って」
「大好きかは置いといて、実際唯一って言える親友だもんな」
「真美も彼といるとすごい楽しそう。よく捕まえたよね」
「どっちかというと、童山の方が諌山に堕ちたっていう方が正しいがな」
酒寄と関わり始めたのも、童山経緯なのだ、その前からもアパートが同じな上にお隣だったため、互いに認知してはいた。そうではあったのだが、大ぴらにできない境遇の引け目からお互い無視を決め込んでいた。そんな俺と酒寄の関係を強引に縮めたのが童山だった。
「今日のシフトって誰いるっけ?」
「私と有原とみおちゃんと店長だね」
「みおちゃんかー」
俺と酒寄は同じバイト先BAMBOOcafeの後輩みおちゃんがとても面白いキャラなのである。配膳を間違える、ピッチャーをぶちまけてお客さんを濡らす、料理をすると塩と砂糖を間違えるなどなどミスが絶えないのである。
「まあ安心してよ。私が全部ミスカバーするから!」
「完璧彩葉様がそういってくれるなら安心です〜」
「有原いつにもまして疲れてるね。昨日はどこバイト?」
「夜通しの工事バイト。流石に不眠はキツイ」
正直今すぐ倒れて眠ってしまいそうなほど疲労が溜まってる。今こうして歩いているのは酒寄の前だからかもしれない。
「後借金どれくらいなの?」
「兄貴が返してるとはいえ後3億弱かな?」
俺の家は借金があるのだ。親が離婚して、兄貴と二人で東京に来たが、クソ親父が会社を倒産させた上に死んだせいで、借金が俺らに降りかかった。
「お兄さんは今どこに?」
「どっかの知り合いの家だって、てか俺のこと心配してるけど、そういうお前も顔色悪いぞ?ちゃんと寝てるか?」
俺を心配する酒寄の顔には、化粧をしても隠しきれない目元の黒みと血色の悪さがあった。
「復習が終わらなくてここ2日エナジードリンクで繋いでるよ。はぁ8日分...」
「本当にお前一日50円でどうやって食いつなげるんだよ。食事だけはまともなの取らないと死ぬぞ?俺から店長に賄い増やしていいか頼もうか?」
「申し訳ないから大丈夫だよ。これぐらいはこなさないと!」
そう元気そうにいう彼女だが、心は全く笑ってない。学校では完璧超人な酒寄彩葉も、この東京では弱者なのである。
そうこう話している間に職場に到着である。今日も楽しい楽しい戦争の始まりだった。
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「酒寄さん、有原くんお疲れ様ー」
「お疲れ様でしたー。」
「店長も早く帰ってくださいね。」
そう言って俺と酒寄はBAMBOOcafeを退勤した。
「「疲れた...」」
「まあでも明日から3連休だから、なんとかなるな」
「そうだよ。久々に6時間寝れると思うとにやけが止まらないよね」
「酒寄はやっぱり3連休は勉強漬けの日々か?」
「バイトもないから、今日の復習に来週の予習、それに世界史の予習と数学の演習とやることは目白押しだからねー」
バイトないならば8時間、なんなら一日みっちり休んでもらいたいとこだが、彼女の辞書に休むという言葉はないのだろう。夜間バイトを入れまくった俺が言えることではないがね。
「はは、本当によく頑張るな、酒寄は東大目指してるんだっけ?」
「うん、そうでもしないとお母さんに認めてもらえないし」
そう吐露する彼女の顔はいつも以上に哀愁が漂っていた。
「頑張れよ。お前なら大丈夫だ」
思わず俺は酒寄の頭を撫でしまった。
第一話と第二話(明日投稿)は約3000文字、それ以降は半分の1500文字で毎日更新していくつもりです!
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【裏話】
有原や童山などオリキャラたちは古典作品からネーミングや設定を考えてます。