超人酒寄彩葉と借金貧乏男子が運命的な出会いをする話   作:陸結

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昨日投稿後に修正前の話を投稿してしまっていました。
本当にごめんなさい。
ちょいちょい描写が変わっているので、よかったらまた読み直してください。




第十二話 徒然の ながめにまさる 涙川

 

 

 

 

「てなわけで,黒鬼とKASSENすることになっちゃった」

「いやどう言うわけよ」

「うぉぉ!!黒鬼とコラボ!!」

 

あの謎コラボの後、俺は酒寄とかぐやにあらましを話した。もちろん酒寄のことで喧嘩したとは言ってないが。

 

「で日程はいつなのよ」

「それはまだ決まってない。ただ黒鬼の忙しさ的にヤチヨカップ最終日になりそうだって」

「じゃあ大体1週間半後か...」

「よーし!!KASSENの特訓するぞ〜」

 

かぐやはすぐにスマコンをつけてツクヨミへ向かった。

 

「酒寄...」

「泉どうしたの?」

「いや...最近元気か?」

「んーちょっと勉強追いついてなくて徹夜気味だけど前よりはね...あっでもかぐやの曲アレンジしなきゃだから今日明日は徹夜かな〜」

 

前よりは平気...か

 

「酒寄...なんかあればすぐ頼れよ?」

「何?急に...悔しいけど泉には頼りっぱなしだよ。かぐやのこととかね」

「そっか...それもそうだな...」

 

酒寄は勉強机に向かい勉強を始めた。

それを見て俺は、静かに酒寄の家を後にして自分の家に戻る。

 

酒寄...確かに前よりは良くなった。でも根本は何も変わってない。何かに取り憑かれたように勉強し、完璧であろうとする。儚く、美しい彼女のままだ。

 

俺は酒寄の...酒寄彩葉にとってなんなんだろう。

 

自分の立場と価値観、およびこの感情を言語化できないまま俺は眠りについた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あの日から数日間俺は自分の家で自問自答していた。謎アキラさんにあんなことを言ったのか、なぜ酒寄に関することになると暴走してしまったのか。なぜ酒寄彩葉にこだわるのか。

 

酒寄にとって俺はなんなのか。俺にとって酒寄はなんなのか。

 

結局はこの疑問に収束する。

 

窓から入る光で部屋に熱が籠る。この陰鬱さは、その暑さのせいだろうか?

 

プルルルルルル

 

不意にスマホがなる。その相手はかぐやだった。

 

「はいもしも....」

「泉!!彩葉が!!彩葉が!!」

 

かぐやの焦った声が耳に入ってくる。

 

「かっかぐや!彩葉!酒寄がどうしたって?!」

「彩葉が!急にしゃがんで!!体すごいアツアツで!!かぐや...なんかやっちゃった?!!」

 

落ち着け、落ち着け俺、かぐやを落ち着かせるには自分がまず落ち着け

 

「かぐや!とりあえずタクシー拾って帰ってこい。多分風邪か熱中症だ。酒寄持ち上げられそうか?」

「うん!大丈夫!持ち上げれる!」

「わかった!俺薬とか色々必要なもの買ってくるから、家近くなったら連絡しろ」

「わかった!!彩葉...大丈夫だよね?!」

「大丈夫!酒寄なら大丈夫」

 

俺はそう言って電話を切った。急いで着替えてスマホを持って家を飛び出した。最後の言葉は自分に言い聞かせたような気がする。そうでもしないと自己嫌悪で死にたくなる。アキラさんに啖呵切っておいて、この様。数日間自分の感情ばっか気にして酒寄自体を見てなかった。

 

 クソ!!あの日、あいつ徹夜するって言ってたじゃないか...絶対未然に防げたんだ..

 

俺は、自分へのやるせなさから、心臓あたりを1発殴り薬局へ駆けて行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

見慣れた天井。あれ私何してたんだっけ?確かかぐやに連れられて不動産屋まで行って、あっそうだ。そこで倒れたんだった。

 

「ってバイト!」

「彩葉!!大丈夫?!バイトは泉がお休みの連絡したから!!今はあったかくして!!ふかふかもいっぱいあるから!!」

 

ふかふか?

あたりを見るとかぐやが買いだめたぬいぐるみたちが置かれていた。

 

「酒寄起きたか?バイトは休み入れておいた。遅番で俺も入ることになったからシフトの穴は気にすんな」

 

そう言いながら泉はストローの刺さったスポーツドリンクを手渡す。

 

「ありがと...」

 

泉とかぐやの優しさが体に染みる...東京に来てからいろんな人から少しずつもらっていた優しさが...。

 

「ごめ...」

「すなまい。酒寄。俺のせいだ」

 

泉が急に謝り始める。

 

「かぐやも!!いっぱい無茶言って!いっぱい連れ出してごめん!!」

 

かぐやも呼応するように私に謝ってくる。

 

「どうして...?」

 

「どうして2人が謝るの?迷惑かけたのは私なのに...私が体調管理もできない半端もんだから...」

 

 そこまで言って後悔した。泉もかぐやも...とても悲しそうな表情をしてた。

 身勝手で、何もできないくせに、全部抱え込もうとして、結局迷惑しかかけない私のことを、泉もかぐやも、芦花に真実に童山くんも...みんな心配してた。

 

「彩葉は...どうしてそんなに頑張るの?」

 

どうして...だっけ。そうだ、頑張んないと...お母さんに認めてもらわないと...いけないから...

 

私がか細くゆっくり私のお母さんのこと、お兄ちゃんのこと、そしてお父さんのことも...全部話した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

酒寄はその綺麗な声で昔の話をした。お父さんが亡くなって、お母さんが厳しくなったこと。お母さんとの間に立ってくれたお兄ちゃんも東京へ行ってしまったこと。

 そして、酒寄が東京に来て,1人ぼっちだったけど、自由で嬉しかったこと。

 

先日の自分がやっぱ憎い。酒寄を勝手に弱い物扱いして...酒寄の努力を思いを踏み躙ったんだ。アキラさんの言う通りだったのだろうか。

 

「酒寄...やっぱごめん」

「泉...?」

「俺、こないだ黒鬼とコラボしただろ?その時帝アキラが酒寄のお兄さんって知ってさ。ずっと酒寄をほったらかしてたって知って...お前の家の事情も知らずに...アキラさんに怒っちゃった」

「泉が...お兄ちゃんと...?」

「でも、俺間違ってた。俺酒寄が1人で頑張ってるの見てて、助けなきゃとか...辞めさせてやりたいとかいろんなこと考えて...酒寄が頑張ってるのに...俺はお前のこと弱い物扱いしてるだけだったみたいだ」

 

言葉がまとまらない。こんな言葉じゃ酒寄を誤解させるだけだ。でもいい言葉が紡げない。今まで多くの本や古典を読んできた自負はあった。言語的な才能もあるのも自覚していた。

 

ただどうしてもこの感情と酒寄への思いを言葉にできなかった。言葉にすると陳腐な物に成り下がる気がした。

 

俺は言葉を出し続けた。この言葉を尽くして、いつかこの言葉たちが俺の感情を表現してくれることを信じて。陳腐な言葉でも尽くせばいつかは俺の思いへ収束する。紡いで、紡いで、紡いで......

 

 

「泉はさ、彩葉が心配だったんでしょ?」

 

ずっと聞き役に徹してたかぐやがそう言葉を放つ。

 

「だって、泉彩葉のことずっと考えてたもん。かぐやと話してる時もずっと酒寄は、酒寄が、って...

好きな人のこと心配しちゃダメなの?!かぐやも彩葉大好きだからさ!彩葉が無理して...またアツアツになって死んじゃうのやだよ〜!!」

 

かぐやは酒寄に泣きついた。

 

「別にこのくらいじゃ死なないよ...」

「だってドラマとか映画だったら人間すぐ死ぬし...人間五十年とか言ってるし」

「かぐやってば...どんな映画見てるのよ...」

 

酒寄が少し笑う。

 

ああ、まただ。結局酒寄を明るくするのはかぐやなんだ。そして自分は無力で...

そんな俺の自嘲を表情から読み取ったのか、酒寄が俺に声をかける。

 

「泉。私ちょっと嬉しかったよ」

「え」

「泉がお兄ちゃんに怒ってくれて、私嬉しかった。なんでだろう、他でもない泉が怒ってくれたから私は嬉しかった。泉は、ずっと心配してくれて、一緒に苦しんで、一緒に泣いて、一緒に笑って、一緒にかぐやを拾って、一緒にかぐやを可愛がって、一緒にかぐやにムカついて、何回か殺してやろうかって思ったよね」

「え?!彩葉?!うそだよね?!冗談だよね?!」

 

「ねぇ覚えれてる?かぐやを拾った時、泉ねこう言ったんだ『これは迷惑じゃなくて相互保証の運命共同体だ』ってなんか嬉しかったんだ。私がどんなにぼろぼろになっても泉は助けてくれる。」

 

あの時のたわいもない言葉を酒寄は覚えていたのだ。酒寄の負担を減らしたくて、そう言った言葉を。

 

「泉がいなかったら...とっくに私実家に帰らされてたかも」

 

酒寄は自嘲気味に笑いながら、自分で自分の言葉を反芻するように話した。

 

「かぐやと泉のおかげだよ。2人がいたから、今私は誰かに頼っていいんだって思えた。2人がいたから...私は...私でいれる。泉が私を弱いって思ってたなんて、私は思わない。もしそうなら、あの時相互保証って言わないもん。私には2人が必要だったんだよ」

 

俺は自然と泣き出していた。頬に一筋の川が流れ続ける。

 

全部わかった。この感情の正体も俺にとって酒寄彩葉はなんなのか。酒寄にとって俺が何かは別にどうだってよかったんだ。ただ酒寄が俺を必要って言ってくれた。それ以上はいらない。

 

 

『好きな人のこと心配しちゃダメなの?!』

 

かぐやの言う通りだ。ウジウジ色々考えた挙句、結論はこんなにも簡単でありふれたものだった。

 

俺は酒寄のことが好きなのだ。

 

強かで、綺麗で、どこか儚げなこの少女のことを愛している。

 

「かぐやも!!泉と彩葉がいないと生きてけないよ!!おうちもないし!片付けもできないから!」

「自信満々に言わないでよ」

 

かぐやと酒寄が笑う。

 

「俺もかぐやと酒寄がいないとダメだと思う。」

 

言葉を出せ、俺のこの思いを.....感情を、全て彼女たちにぶつけろ。

 

「2人がいないとずっとバイトして、意味もなく、惰性的に働いて、そのまま卒業して、社会に出てたと思う。ずっと。でも、酒寄に出会って。かぐやを拾って、2人で過ごしてて、諌山に童山に綾紬たちと過ごしてて、誇張抜きに人生が変わった」

 

結局何が言いたかったんだろうか...

 

「だからありがとう。2人とも大好きだ」

 

俺はこの湿度高めな関係が好きだ。酒寄のお母さんが見れば依存だっていうかもしれない関係が好きだ。昔の俺から見れば、退廃的で、現実逃避かもしれない。でも、俺は絶対この二つの手を手放さないし、一生大事にする。そう誓った。

 

「大好きなんて...泉ったら浮気はダメだよ?」

 

かぐやがニヤつきながら茶化してくる。

 

「いや!別にそう言う意味で言ったんじゃ!」

「大丈夫。分かってるから」

 

酒寄が少し笑いながらそう答える。それはそれでちょっと悲しいような。

 

「そういえばさ、なんで彩葉は泉を泉呼びするようになったの?」

「えっ?!あっそういえば!」

 

確かに、なんかサラッと呼ばれてて気づかなかった。

 

「あれか?兄貴が来たあたりからか?」

「うん。多分雪平さんに『俺も有原だけど?』って言われてその時泉って呼んでから...ずっとだ...」

 

酒寄の顔が赤くなる。熱のせいもあるだろうが、多分これは別だろう。

 

「別に好きに呼べばいいよ。そもそも苗字で呼ぶ距離感ですらないしな」

「よし!泉も名前呼びにしよう!かぐやが電話した時も彩葉って言ってたし!!」

「はぁ?!俺そんなこと言ってたの?!」

 

無意識では俺は彩葉呼びだったってこと?

なんだよ。意味わかんねぇよ。好きな女の子を名前で呼びたい小学生男子か...?

今更だが、自分の気持ちに自覚すると、全てがとてつもなく恥ずかしい。

 

「すごーい。泉も顔あか〜い」

 

クソ!しばいてやりたい!!

 

「あの〜酒寄これは違くて...」

「...ないの」

「ふぇ?」

 

自分でも素っ頓狂な声を出した自覚がある。

 

「名前で...読んでくれないの?」

 

酒寄...彩葉は顔を赤らめながらそう言った。

熱があるせいか、熱っている彩葉はいつもはない妖艶さを放っている。

 

そんな煩悩を押し除け、俺は口を開く。

 

「い...ろは?」

「ん?」

 

こいつちゃんと呼ぶまで許さない気だ。

 

「彩葉...」

「よろしい」

 

彩葉は満足そうな顔をした。

こいつがか弱い女の子?ふざけるのも大概のせいよ。マジで...

 

「じゃあ2人とも!手出して!!」

 

かぐやが急に両手を出してピースを作る。

それに釣られて彩葉と俺もピースを作る。

 

「ピースからの~ちょっきんからの~、こんっ!」

 

「3人の仲良しのやつ!」

 

いいじゃん。右手には少し熱い彩葉の温もり、左手にはいつも通り温かいかぐやの温もりが残っていた。

 

「「「ふふっ」」」

 

俺たちは満足そうに笑った。

 




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【裏話】
こんな湿度の高い会話をしていたら、泉はバイトに遅れたのでした。
そして、泉くんはバイトしてる間ずっと右手を気にするのでした。
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