超人酒寄彩葉と借金貧乏男子が運命的な出会いをする話 作:陸結
終盤はやっぱり大変ですね...
「ライブ楽しかったね」
「楽しかったぁ〜またやりたいなぁ〜」
「2人とも可愛くて最高だったぞ」
「えぇありがとう〜うれし〜」
ライブの後、俺たちはありきたりな会話ばかりしていた。あの出来事をなかったことにするように、ありきたりで、普段通りの、そんな会話を続けた。
かぐやにいつもの天真爛漫さはなく、どこか虚な様子だった。
俺も彩葉も先に就寝したかぐやに何も聞くことができず、互いにお互いの不安を打ち明けることもなく、自分の部屋に向かった。
口には出さないものの、思考は滑らかに巡る。あの異形については、ヤチヨが調べてくれるらしい。ツクヨミでの出来事なのだ、ヤチヨが適任で、俺らがすることは何もない。
ベッドで仰向けになりながら右手に一瞥を加える。あの時、異形を斬った感触が未だに手に残っていたのだ。人を殺めたような、取り返しのつかないことをしたような感触が...
俺の手に返り血のようにべとっと纏わりついていた。
自分の杞憂で済めばいい。杞憂に決まってる。そんなことはありえない。現実はおとぎ話とは違う。そんな都合のいい考えで自分の頭を埋め尽くす。
しかし俺の頭にはこの物語の終末時計が刻一刻と秒針を進めている音が、確かに響いていた。
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コラボライブの次の日、俺と彩葉はツクヨミ内で童山たちと会っていた。
「昨日のライブ良かったよ〜! 彩葉〜!」
「良すぎて泣いた〜っ! 花丸付けたげるっ」
「泉なんて終始号泣でペンライト振ってたもんな...あっみえてたか」
「おいバラすなよ」
「あはは...みんなありがと……」
「そういえばかぐやちゃんは?」
「なんか...魚捌いてた」
嘘のようだが本当の話だ。かぐやは今朝届いた謎の魚...シラサギ?シライシ...白川郷?いや、それは合掌作りだよ...まあそんな魚を捌いていたのだ。
俺たちは終始いつもの放課後のように楽しげに会話をしていた。しかし、自分の気持ちを隠すのが苦手な少女が俺の隣にいる。酒寄彩葉は目に見えて、心ここにあらずだった。そんなことはここにいる全員わかっている。しかし、少なくとも俺は、口に出す勇気も彼女の心を晴らす能力も持ち合わせていなかった。
だが、諌山と綾紬は違った。
綾紬が出したのは1枚の電子チラシ。
一目で分かるほどに大きな文字で──『花火大会』と書かれている。
「夏の終わりに花火などいかがかな〜、お嬢さ〜ん」
「屋台に出店に食べ歩き〜、楽しい事たくさんだよ〜」
綾紬はともかく、諫山は食うことしか頭になかった。食いしん坊め...
「うん、良いと思う。……場所は電車で1時間ぐらいか。みんなで行くよね?」
祭りの誘いを聞いて、彩葉の表情が少しだけ明るくなる。流石は綾紬と諫山。俺じゃこんなスマートにはいかなかっただろう。彼女たちは彩葉を高1の頃から支えているエキスパートなのだ、程よい距離感で、それでいて彩葉の心を軽くすることぐらい朝飯前らしい。
「ノンノン、我らには大事な使命があるから行けないのです」
「夏休みの宿題を完全に放置していたのです」
前言撤回。別にスマートではなかった。
「てなわけで〜」
「後はよしなに〜」
そう言って2人はツクヨミを後にした。
「あっそうだ。泉、後で会えるか?」
「別にいいけど、今じゃダメなのか?」
「いや、宿題終わってないからノート貸して」
「お前もかい!!」
童山は俺のツッコミを無視してツクヨミから去った。
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俺は宿題のノートを持って、家を出た。そして童山が指定した集合場所に着く。
「...バッティングセンター...?」
俺は地図を再確認したのち、建物の中に入る。すると、目の前のベンチに童山が座っていた。
「よう。宿題はどうしたんだよ」
「俺と真実が初日で終わらせた綾紬のやつ写してないとでも?」
堂々たる不正宣言。
「じゃあどうして俺を連れ出したんだ?」
「単純に...お前と遊びたかったんだよ」
そう言って童山は立ち上がり、打席に入った。俺も隣の打席に入り、硬貨を入れた。
「なぁ泉。かぐやちゃん大丈夫か?」
こっちが本題か...
童山はボールを打ち返しながらそう尋ねる。
「わからない...でもいつもみたいな明るさはなかった」
「かぐやちゃん。月から来たのか?」
俺の答えは沈黙だった
「あたりか...当たっちゃったかぁ〜」
「なんでそう思った?」
「いやっなんとなくだよ。野生の勘」
「なんだそれ」
童山の無茶苦茶さに思わず笑ってしまった。この男バカだが、それ以上に察しがいい。
「かぐやちゃんはリアルかぐや姫だったわけだ〜そろそろお迎えがって感じかな....どうすんだ?泉」
「どうする....って?」
「そのまま月に返して、ハイ終わりってか?」
「別にまだ帰るって決まったわけじゃ...」
俺は口をどもらせる。俺のバットはボールにかすりもせず、空振り続けている。
「いーや!帰るね!お前もわかってるはずだ。その証拠に今日お前と酒寄は明らかに口数少なかったぞ?」
「うっそ!俺完璧に誤魔化してると思ってたのに!」
「演技バレバレ。お前も酒寄も不器用なんだから...」
「....心配かけてすまないかったな...」
「別に。お前たちが俺たちを心配させない時なんて未だ嘗てなかっただろうが」
童山はバッドをしまい俺の元にやってくる。
「泉。お前はどうしたい。このまま何もせず終わるつもりか?」
「......わからない....」
どうしたいのかも...何ができるのかも...
前に進んだら、この関係が...この安寧が終わってしまう気がする。そんなの受け入れられるわけがない。
「わからないだぁ??かぐやちゃんが帰って行くのを指を咥えて見てるつもりなのか?!」
童山は俺に掴みかかってくる。
「じゃあどうしろっていうんだよ!かぐやが帰るって打ち明けてきたとき、帰らないでくれとでもいうのか?!かぐやがいない生活なんて嫌だって泣きつけばいいのか?!」
「ああ言っちまえよ!そういうくだらないプライド捨てちまえよ!そんでもっと俺らを頼れよ!」
童山の声は怒っているようで泣いているようだった。
「どうして、ライブの後すぐ相談しない!どうしてかぐやちゃんが月出身って初めから打ち明けない!俺たちはそんなに信用できなか?!」
「違う!そんなわけないだろ!お前らは...」
「じゃあなんで!なんでお前たちはそう1人で抱え込む!お前も!酒寄も!」
何もいえなかった。ちょっと前に彩葉に伝えたことを俺は今童山から言われている。
「かぐやちゃんが来てお前たちは変わったよ。よく笑うようになったし、生活も安定してきた...でも根本のところは何も変わってないじゃないか....」
童山は言葉を詰まらせながらもゆっくり俺に思いを吐き出す。
「真実はな...ずっと泣いてたんだよ...酒寄が頼ってくれない、酒寄が倒れちゃいそうって...俺だってそうだ。綾紬なんてもっとそう。お前も!酒寄も!結局1人で!お前らだけでやろうとしてる!取り残されるこっちの身にもなれよ馬鹿野郎.....」
返す言葉が見つからない。人に頼られない苦しみは知っていたはずだ。人を救えないもどかしさも...無力感も...知っていたはずなのに...
「童山....ごめん.....」
「謝ってんじゃねぇよ...」
童山は掴みかかってた手を離し、外のベンチへ腰掛ける。そしてそれを追って俺は童山の目の前に行く。
「俺さ...ずっと怖かったんだ。何が怖い聞かれると説明しづらいんだけど...誰かに頼るのが...迷惑をかけるのが嫌だった...親父が借金残して死んで、兄貴が俺を育ててくれて...俺の兄貴ってさ高校出てないんだよ。俺育てるためにずっとバイトして...色々してくれた...それが俺すごい嫌でさぁ...俺は兄貴の足枷なんだ...さっさと自立したいってずっと思ってた」
俺は童山相手ではなく、自分自身に語りかけるように俺の思いを言葉にする。
「童山に飯奢られたり、色々迷惑かけてないって言ったら大嘘なんだけど...誰かに依存するっていうのは...嫌だったんだ...でも、かぐやが来て、かぐやと彩葉といっぱい過ごして...俺はいつのまにかあいつらに依存してた...あいつらがいないと生きていけなくなってた...」
ほんとどうしようもないやつだなぁ...俺
「だからかぐやが帰るって...そう実感した時...何すればいいのかわからなかった...」
「泉...もう一度聞く...お前はどうしたい?」
俺がどうしたいか....
「俺は....かぐやに月へ帰ってほしくない...だから童山...俺を助けてくれ、どうすればかぐやを月へ返さなくていいか...一緒に考えてくれ...」
童山は満足そうに微笑むと俺の背中を叩き始めた。
「やればできんじゃねえか!おっし!じゃあ一緒に考えてやる!感謝しろよ?」
「ああ、ありがとう。親友」
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「えーお集まりの皆様方。本日はお忙しい中俺の呼びかけに答えてくれてありがとございます」
俺はツクヨミのある場所に、諌山たち、黒鬼の面々や兄貴。そして彩葉を集めていた。
「おい。お前なんだその口調!」
「いずみんが壊れた〜」
「いや!こいつはこういうやつだろ。な!雪平」
「まあそうね〜」
「泉は、普通じゃない」
童山、諌山、帝アキラ、極め付けには雷さんまで俺をそう評価する。ちょっと泣きそう。
「で、泉。こんな勢揃いで何するつもり?」
兄貴は不敵な笑みを浮かべながらそう尋ねてくる。
「かぐやを...月に返さないために...」
「みんなの力を貸してほしい!!」
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終盤パート、しっとりシーンメインになっちゃって厳しいですね...
次回vs月人戦!お楽しみに!!