超人酒寄彩葉と借金貧乏男子が運命的な出会いをする話 作:陸結
この一話を書くのに丸二日です...大変だった...
2030年9月12日。
この日、仮想空間【ツクヨミ】では多くのプレイヤー達が涙を流しながら、とあるライブの開始を今か今かと待ち望んでいた。
一ヶ月ほどの期間でトップにまで駆け上がった伝説のライバー『かぐや』による最後のファンサ......卒業ライブだ。
「朝日....準備はいいか?」
「当然。彩葉たちの頼みだ。絶対なんとかする」
朝日は瞳を閉じてツクヨミにログインした。
そうだな...泉と彩葉ちゃんのお願いだしなぁ。
ただ....ここで追い返せてしまったら彼女は...
僕の頭によくない考えが浮かぶ。
いや...それは逃げだな。目指すは簡単なNルートではなく.....
正真正銘のハッピーエンドだ。
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転送先はヤチヨに頼んで作り上げてもらった『KASSEN』フィールド内の特設ライブ会場。
観客席も完備され、当然のように押しかけたファン達で全席満員御礼。それぞれがかぐやちゃんへの思いを叫びながら、ライブの開始を見守っていた。
『なんと言う急展開だろうか!!超新星かぐやの引退ライブ!!今までかぐやとコラボしてきたライバー勢揃い!!かぐやを月に連れ戻そうとする月の使者とのKASSEN付きだぁぁ!!熱い!!熱すぎるぅぅ!!』
ツクヨミの公式解説者こと忠犬オタ公が丁寧に状況を説明し、会場のボルテージは爆発的に上がり、まさに祭りといった雰囲気が会場中を包み込んだ。
観客は設定だと思ってるだろうが、まさかの全部マジ話だ...
『ルールは9vs9のバトルロワイヤル形式! 櫓やぐら、その他の中継地点の占領は必要なく、直接相手側の天守閣を占領する!もしくは、敵勢力の全滅と超分かりやすくなってるぜぇっ! 切って切って切りまくれぇ!!』
忠犬オタ公も楽しそうでなによりだ。
あれだけ騒いでくれれば狙い通り。
これで観客は完全に余興だと信じてくれるし、何してもお咎めなしだ。
そして何より大事なルールは残機が存在しないこと。相手が俺らより遥かに強かった場合、残機その分相手の戦力を増やすことにしかねない。よってこの戦は正々堂々正面突破の掃討戦だ。
「最高じゃねぇかこのルール。かぐやちゃんを守りながら相手を全滅させりゃ勝ちなんてよ。姫を奪おうとする輩にはきっちり退場してもらわなきゃな。そうだろう?雪平」
「まあ、久々の共闘だしね...朝日、足引っ張るなよ?」
「祭りが始まる」
「激ってきたよ〜♡」
「うへぇ〜帝アキラとKASSEN...」
「はい。真実集中」
「帝アキラ...月の民にこの怒りぶつけるてやる...」
みんな準備は万端なようで思い思いの言葉を発する。
「彩葉...守るぞ」
「うん。絶対...渡さない」
泉も彩葉ちゃんも覚悟を決めているようで、夜空を見据えていた。
俺達の背中に聳そびえる天守閣の上に立つ姫ーかぐやちゃんを見つめる。
かぐやちゃんの彼女のような思いをさせない。
『……みんなっ、どうして……?』
かぐやちゃんは思った通り戸惑っていた。
無理もない、何も伝えてない、つまりサプライズだからだ。
「ライブの余興! ……かぐや、私達は私達で、精一杯やるからさ。万が一勝っちゃったらその時は……ドンキで買い出しして、パンケーキ作ろうっ!」
彩葉ちゃんが優しい顔と声でかぐやちゃんに語りかける。
『そっかぁ.......皆んな.......自由だ!!』
会場全体に響き渡ったかぐやの声が引き金となったのか....俺たちの対戦相手がやって来た。
何もない夜空に集まる無数の光。それらが集まると、歪なほど美しい月が現れる。
美しい望月は、赤、青、黄、緑、白と、次々に色を変えていき、やがて巨大な穴に変貌を遂げる。
空気が震え、空間が歪む。
あたりを漂う光が不気味ながらも、無視できない美しさを孕んでいた。
夜を自称するツクヨミも、今この瞬間だけは昼のように明るかった。
「……ファンタジーだな」
「最高じゃねーか」
思わずそう呟いてしまうほどに、目の前にある光景は常識からかけ離れる。
穴から溢れ出して来るのは、ライブ会場で見た灯籠頭の異形。そしてその向こうから10体のボスが現れる。どれも巨大で5 mはゆうに超えていた。おそらく俺ら9人とかぐやの合計10人に対応してる。
かぐやが歌い始めたと同時に俺たちの戦の号令もかかる。かぐやの歌声は俺たちの気持ちを引き上げる戦闘bgmと化していた。
「雷、乃依!カバー頼む!」
「承知!泉!」
「任せて〜♡」
泉は光剣を納め、遠くの槍を持った月人に照準を合わせ、首を両断した。
案の定遠距離からワンパンする火力を危険視したのか、4体の月人が泉たちに迫る。
「来るぞ雷!」
その4体に向けて雷が一斉に魔法を放つ。図体のでかい月人は避けることもできず全員被弾し、勢いが弱まった。そこを乃依が追撃する。
遠、中、近、泉たちはそれぞれの得意レンジの違いを活かして数的にもステータスにも不利な月人相手にも善戦できていた。
「流石のエイムだな乃依」
「ここスピードの矢を叩き切られない分誰かさんより楽♡」
「俺も敵がお前じゃない分あの時よりやりやすい」
かぐや争奪SENGOKUの死闘もあり、泉たちの連携目を見張るものがあった。この一ヶ月半の全ての経験が....ここに繋がっているのだ。
ここは大丈夫そうだね。
少しあたりを見渡す、と童山くんたち3人で1体を相手取り、彩葉ちゃんと朝日で2人を相手取っている。
「じゃあ俺の相手は君たちかな」
扇、太刀を持った月の民、そして大きな狛犬が俺の方へ向かってくる。
俺は腰に刺していた淡い氷色の刀身をもつ片手直剣を抜きさり、刀身を輝かせ3体へ向かっていった。
月の民の太刀を
あたりは氷の霧で満ち、ライブの放つ道筋がくっきりその姿を表す。
狛犬は体の自由が効かないようで、壊れたロボットのようにノッキングを繰り返す。
「この程度で、うちの弟からかぐやちゃんを引き離そうとしてるの?」
俺の視線や声は酷く冷え切り、月の民を震わせた。
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「あんなに強いなんて...」
「弱いとでも思ってたの♡?雪平は多vs1だったら帝より強いからね♡」
実に順調だ。遠距離で雷、乃依が月の民にダメージを与え、遠距離攻撃と近づいてきた奴を俺が対処し続ける。
作戦がハマったのか、兄貴のヘイト管理のおかげなのか、童山のところも、彩葉のところも、月人のHPを黄色ゲージまで削り、俺たちも一体は赤ゲージまで追い詰めていた。
そう。あまりにも順調だった....そこで疑うべきだったのだ。
赤ゲージまで削った月人を俺がノックバックさせ、その隙を乃依が打ち抜き、相手を落とした....はずだった。その時後方にいる雷の体を謎の槍が貫き、一瞬でHPを削り切る。
槍の月人....俺が初撃で落とした月人...その姿は先程とは似つかないほど姿が移ろい、禍々しささえ覚える黒色に染まってた。
そして先程乃依が狙撃した月人も体を黒く輝かせつつある。
「...第二形態...疑うべきだったか...無念...」
雷の体はポリゴンの破片となって霧散した。
他のところでも同じようなことになってるのか、童山と諌山も落とされ、帝のHPも全損とまではいかないが、大ダメージを受けているようだ。
先程までの順調さは消え去り、戦場には絶望のみ転がっていた。
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なるほど...まずったなぁ。ヤチヨに聞いとけばよかった。いや...ライブしてたわけで知るはずもないのか...
この月の民、一度HPを全損させると第二形態に突入しHPも全快する。俺はまだなんとかなっているが、他の戦場はかなり悲惨だ。
帝たちはアレがあるから大丈夫...泉のところは...乃依だけか...でもまだ耐えられるな...なら...
『
俺は刀身を無数の氷の結晶に変化させ、3体の月人を降り注がせた。これがこの武器の
月人が怯んでる隙に俺は隣の戦場へと駆け出し、進化した月の民とタイマンしてる少女へ駆け寄り、鍔と柄だけになった剣を地面に突き立てた。
『
芦花ちゃんを襲っていた月の民と周囲の蔓延ってた灯籠頭の異形を一瞬で凍結させ、HPを全損させる。これで俺の
「雪平...さん?」
「大丈夫?もう少し早かったらお友達も救えたのに...ごめん」
「いっいえ...」
彼女は突然の出来事に頭が追いついてないようだった。
第二形態が発覚した以上、元の作戦は崩壊してる。相手を全滅させるのは難しい...ならば....
「芦花ちゃん。一度しか言わないから心して聞いてほしい。あの第二形態のせいで俺たちは月の民を全滅させるのは無理だ。だから、君が天守閣を落としに行ってほしい。」
「雪平さんは....?」
「俺は月の民の侵攻を止める。どれだけ時間を稼げるかわからないけど....やれるだけやるから...」
彼女の瞳は不安と驚きで満ちていたが、すぐに闘志を灯し、敵陣へ駆け出した。
彩葉ちゃんと泉の友達だもんなぁ...実にちゃんとしている...。彼女はもう問題ない。次行くべきなのは...
「泉!」
「兄貴?!月の奴らは?!」
「こっちに連れてきた!」
「ざけんな!!雷がやられてやばいんだよ!」
「乃依!朝日の方に一体引き連れて加勢しろ!ここは俺と泉で時間稼ぐ!」
「おっけ〜そう言うことね♡」
乃依は俺の指示を理解したのか、矛を持った黒い月の民に矢を放ち、朝日の方へ向かった。
「俺たちが貧乏くじってわけね」
「そういうこと。弟と共闘なんてワクワクするね!」
「こんな絶望的条件じゃなければね!」
俺たち兄弟に向かって黒い月の民が3体白い月の民が3体...第二形態を考慮すると9体分の月の民が襲いかかる。
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俺の兄貴との初めての共闘はあまりにも絶望的だった。
「兄貴!向こうで使ってた
「もう使い切っちゃった♡」
「クソがぁ!!」
ウルトのない剣士2人で6体を相手取るのは無理ゲーすぎる。
「綾紬が天守閣落とすまでなんだよな?!それまで耐えればいいんだよな?!」
「うん!まぁその前にかぐやちゃんのライブが終わったらタイムオーバーだけどね...」
「こんなの無理ゲーだろぉぉぉ!!」
俺と兄貴は必死に剣を振い続けた。積極的に黒い月のヤツを相手にして、数的不利を少しでも緩和しようとしていた。
隣の戦場では謎のバフが掛かったアキラさんと乃依のおかげで、第二形態相手でも善戦出来ている。
『この二つの手を手放さないし、一生大事にする。』
彩葉が倒れたあの日の誓い...かぐやを返さないために...かぐやと一緒にいるために.....
俺は絶対に負けない!!
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クソ!!!時間も人手も足りない!!
キン‼︎
乃依とアキラさんも2体を落としてたものの、チートの処理落ちの隙を落とされてしまった。
綾紬も姿は見えないがミニマップのアイコンが動いてないため何かに足止めされてる。
かぐやのライブも佳境に迫り、彩葉が今日のために作曲し、曲『瞬間、シンフォニー。』を歌っていた。
お別れみたいな歌歌ってんじゃねぇーよ!かぐやのくせに!!運命受け入れますみたいな!!ちょっと前の彩葉みたいな顔して!!ハッピーエンドに連れてってくれるんじゃねーのかよ!!
『あー世界が彩りに満ちてゆくすべてが祝福を奏でている♪』
かぐやが歌を歌い終わった。ライブの終わりが近づく。敗北が目の前にきている。
『ーー♪ーー』
最後の曲『Reply』。彩葉が亡くなったお父さんと昔に作った曲...この日のために歌詞を入れた...
かぐやの顔は先程の悲しさを持った顔から一転して、初めて会った時の天真爛漫さを醸し出している。
かぐや....
「泉!彩葉ちゃん連れてかぐやちゃんのところへ!」
「えっでも...」
「いいから!最後ぐらいしっかり顔見せてお別れしてやれ!それが...かぐやちゃんの支えになるから...」
「っ....ありがとう...兄貴...」
俺は地面を全力で蹴って彩葉の元へ向かい、そのまま彩葉を抱えて天守閣を目指す。
「ちょっと!泉離して!まだ終わってないっ!」
「かぐやのところ行くぞ...しっかり...さよなら言わないと...」
彩葉と俺の涙で、移動した道に軌跡ができ、その軌跡を彩葉が戦ってた黒い月の民が追う。
「ついてくんじゃねぇ!!」
振り返りざまに飛ばした斬撃は月の民を胴体から両断し、ポリゴンの破片へと変貌させる。
この技も彩葉とかぐやとの生活の中で生み出した技だ...全部...かぐやと共にあった...
電柱から生まれたかぐやを拾って...ヤチヨの歌の子守唄を聞かせて...一緒に寝たりして....一緒にご飯食べて...彩葉の貯金消しとばして...一緒に料理して...ライバー活動して...ゲームして...
『わがままになってー♪』
『いいの?!ありがとう〜泉!!』
『遊びすぎちゃってー♪』
『えぇぇぇ?!かぐやもやるぅぅ!!』
『この一瞬が最高のパーティーなんだー♪』
「「かぐや...」」
彩葉の口からから声が漏れ出る。そしてそれは俺もだった。限界生活して、他人と深く関わることを恐れて...呪われた人生だった俺たちは....かぐやに救われた....かぐやのおかげで.....いろんなことに気づけた...ありふれてた好きなものに....気づくことができた。
『君といたあの部屋も電子の海も』
あのボロアパートから全てが始まった。あの瞬間から...俺たちの人生が始まった。かぐやと....彩葉と....俺たちの生活が....彩葉への想いにも気づけた....あの部屋で....一緒に過ごした時間は俺のタカラモノだ。
もっとはしゃいで....もっと一緒にいたかった。
『キラめいてうたおう』
かぐやが歌い終わると同時に俺らはかぐやの元に辿り着く。下を見るとちょうど兄貴がポリゴンの破片となって風に乗って空へ消えていった。
「かぐや...」
「彩葉...泉...ありがとね...かぐやのために...」
「かぐや...こっちもありがとう...またいつか」
「かぐや...まだ...一緒にしたいこと...いっぱいあるのに...」
彩葉もかぐやも俺も目にすごい量の涙を浮かべて言葉を紡いでいる。
「かぐ...」
「彩葉...泉....
「大好きっ....」
かぐやはファンのみんなに声をかけて月の民に連れられて去っていった。このツクヨミからも....地球からも.....
ここまで読んで頂きありがとうございます!!
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終盤につき、物語が複雑になって執筆に時間がかかってます...
その影響で毎日投稿が滞る可能性があります...
ご了承ください...その分面白い話を全力で描きます!!