超人酒寄彩葉と借金貧乏男子が運命的な出会いをする話   作:陸結

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第二十話 色深き言の葉贈る秋風に

 

 

リビングのソファー。私と泉は2人でそこに座っていた。かぐやを守れなかった...かぐやがほんとに帰ってしまった....そんな事実を消化するのにひたすら時間が必要だった...

 リビングにはかぐやの買いだめたガラクタたちが散乱し、冷蔵庫にはかぐやが作ったたくさん作って食べきれなかった料理がある。   

 周囲はかぐやの存在を証明するもので溢れているのに....肝心のかぐやがいない。

 互いにスマホは常に誰かしらか着信があったようだが、一度たりとも気づくことはできず、惰性的に時間を溶かす。この状況は週末を超え、結果として学校を無断欠席することとなった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 かぐやの卒業ライブから数日後、週末...それプラス数日....そんな休日も終わり俺たちはいつもの学校生活が始まった。かぐやが来たことで一変した生活は徐々に昔へと戻り...いつかかぐやの残穢は風化していってしまうのだろう。かぐやとの思い出は一夏の思い出として俺たちの心に残り続ける...そんな気がした。

 元々勉強をしっかりやるタイプでもなかったが、いつも以上に授業はつまらなく、ずっとかぐやのことばかり考える。

 

「泉は...就職か...」

「はい。借金もあるんで」

「無理にとは言わないが、大学出た方が将来の給料も高いぞ?」

「はい。でもそれ以上に兄貴に迷惑かけられないので」

 

進路志望書を担任に提出して俺は職員室を後にする。大学行くことも考えた...というより、合理的に考えれば大学は出るべきだ。

 でも、そんな気も...未来へ意味を見出す気にもなれなかった。

 

そんな陰鬱に、俯きながら歩いてたせいか、職員室から教室への帰り道の曲がり角で誰かとぶつかってしまう。

 

「うわぁ!すまん!」

「あっいえこちらこそ...」

 

ぶつかった人は手に抱えていた多数の本を拾い上げている。俺もぶつかった手前拾うのを手伝った。

 

「ありがとうな〜って有原か」

「あっ南先生...」

 

俺がぶつかったのはうちのクラスの古典教師の南先生だった。

 

「有原はあれか?進路志望書の提出か?」

「そうです。さっき出して来ました」

「有原はどっかの文学部とかか?」

「えっいや...就職です」

「そうなのか...俺の授業も酒寄と一緒に寝ずに聞いてたから古典に興味あるのかって思ってたけどな...」

「古典は好きですけど...親の残した借金もあって...それで...」

 

「それは本心か?」

「えっ」

 

「天の与うるを取らざれば、(かえ)ってその咎を受け、時至て行なわざれば、(かえ)ってその災を被る」

 

南先生は突然そう言った。この言葉は...

 

「史記ですか...」

「そうだ。泉。お前の成績は悪くはない。しっかり勉強すれば、しっかりとした大学にも行ける」

 

言葉の意図は理解できる...でも...

 

「夏休み、お前の顔は輝いてたよ。きっといい出会いでもあったんだろうな」

 

出会い...かぐやと彩葉の顔が脳裏に過ぎる。

 

「もし、有原が今何かしらに後悔してるんだったら....今動き出せ。今なんだよ有原」

 

後悔....かぐや....

 

「ありがとうございます。南先生...俺先生の授業嫌いじゃなかったです」

「そりゃどうも....行ってこい有原...」

 

 

俺はほんとに恵まれている。こんな出会いの連続...将来二度とないかもしれない。

 だから、今持ってるこの人たちを手放したくない。落としたら...また拾えば良い...

 

俺は職員室へ戻り担任から自分の進路志望書を強奪し、家へ駆け出した。今まで走ったことない距離を、今まで走ったことないスピードで陳腐な通学路を駆け抜けた。

 

その道中、俺はスマホを取り出し、大量の不在着信の一つから兄貴へ電話をかける。

 

「もしもし数日間無視だった弟よ。急にどうしたの?」

「それはごめん。ヤチヨについて教えてほしい」

 

兄貴は茶化すでも、しらばっくれるでもなく、少し黙ってから口を開いた。

 

「それは...泉の勘?」

「うん。俺の勘」

「そっかぁ〜言いたいことはいくらでもあるけど...もう大丈夫な感じ?」

「うん。迷惑かけた」

「今までがかけなすぎだったからね。とりあえず詳しい話はまた今度するから......まずは彩葉ちゃんのお手伝いだね」

「手伝い?彩葉の??」

「多分今頃彩葉ちゃんも泉と同じようになんか企んでるはずだから。じゃあ準備しとくから、終わったら電話して」

 

そう言って一方的に兄貴は電話を切った。

 

やはり何か知ってる......とりあえず兄貴の言うように、彩葉のサポートだ。

 

うちへ帰ると彩葉は目に正気を宿して、机に向かっていた。しかし、その机の上には大量のエネドリの缶が置かれ、彩葉の徹夜の意思が垣間見える。

 

「あっ泉!かぐやに曲届けなきゃだから私明日から学校休むから!」

「うん!ちょっと一回説明してくれます?!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

泉との共同作業が始まった。私は月に帰ったかぐやに向けて、今の想いを届けるべくReplyの完成を目指している。そして泉は、その手助けをすると言って、身の回り家事と2番以降の作詞をすることになった。

 作詞と言うと、私が曲を作らないと泉は作業に入れないから急がないといけない...それに早くかぐやにこの思いを伝えたい。

 

 そうやって、キーボードに指を乗せた瞬間スマホに着信があった。先程芦花たちには休みの連絡をしてるし、お兄ちゃんにもメッセージを送ってる。

 

つまりおそらくこの電話は...ここ一年以上無視し続けた電話だった。

 

『お母さん 着信』

 

 

私は意を決してその通話を取った。

 

「もしも━━━」

 

「ああ、やっとではったね。根性なし」

 

私の一言めを待たずに、場違いに涼しい声が耳を刺した。

 

「私何回電話したかね?甘ちゃんやから話すの怖いもんね?学校も連絡入れずに休んでいらっしゃるそうで。大層な御身分やね。一人で生きてるつもりなんか?その自分中心を改めへん限り、あんたのことを誰も評価なんかせんよ。勝手に沈んでくれたとほくそえむだけや」

 

止まらない。すごいな、相変わらず。

耳元からスマートフォンを離してもクリアにお説教が聞こえてくる。

急速に充電が減っていくかのようだ。

こうやって私に何も答えさせず、矢継ぎ早に追い詰めて、ひたすらに揚げ足を挙げ連ねる、これがお母さんのやり方だ。

受け流せ、とお兄ちゃんは言ったけど私には無理だ。

 

「……ごめんなさい」

 

でも、今回だけはどう考えても私が悪いので、スタートは謝罪から入ることになる。

 

「反論を持たず謝ったらあかんで。私は謝罪されて黙るようなやわな人間やない。それともサンドバッグにしてええんか?」

 

そんな謝罪一つで母は揺るがない。そんなことはもうわかっている。

 

「聞いて、お母さん」

 

「……ええよ。……気を付けて話しいや。あんたが今から話す内容次第で、私は不可逆な決断を下すつもりでいるから」

 

「わかった」

 

少しの沈黙の後、私は大きく息を吸った。長ったらしい前置きは無駄だと知っている。

 

「……私、お母さんの理想にはなれへん」

 

「……」

 

「私、ずっと頑張って来てん。お母さんと対等に話せるようになるために。また家族になるために。でもさ、わかったんよね。お母さんと私は違う人間なんやって。同じ気持ちでいたいなんて、土台無理な話やった。でも……それでええ」

 

「……」

 

「お母さん、私大切な物ができた。今までお母さんの幻影を追ってた私が、心の底から大切で、失いたくないものができた。私はこのまま本当にやりたいことを見つけたい。もう少しで私は人生を賭けてやりたいことが見つけられる」

「そうですか」

「だから、まだ応援してくれなんて言うつもりはないよ。でもせめて、それを見つけるまでの時間を、……下さい」

 

スマートフォンを持つ手が震えた。

見える筈がないと分かっていても、深く頭を下げた。

母は、長時間黙り込むと、

 

「甘いんよ。あんたは昔から━━━」

 

もちろん揺らいでなんかいなかった。

そこからは昔のように、ただの言い合いになった。

スマートフォンを挟んだ直線距離二百キロメートルの口論が始まった。

 

そして、その口論の最中、やり取りを静観していた泉がいつのまにか私のそばまで来て口を開いた。

 

「彩葉さんは大丈夫ですよ」

 

私の耳元から急に落ちついた声が聞こえる。

泉は笑って私にスマホを求め、お母さんと話し始める。

 

「あんたは...朝日が言ってた泉くん?悪いけど、人の家の話に首突っ込まんといてくれる?」

「ああ、ご心配なく。家庭の教育方針に口出すつもりは毛頭ないです。今から話すのはただの僕のエゴです。それを念頭に置いた上で聞いてください。

 

 

「彩葉さんを舐めないでください。」

 

 

泉は落ち着いていたが...怒ってるようだった。この男は毎回私の親族に喧嘩を売らないと気が済まないクチなのか...私のことになるといつも暴走し始める。

 

「彩葉さんは強い。彼女はここ一ヶ月で貴方が想像がつかないほど強くなった。何度も殻を破った。俺はそんな彼女に助けられたし、そんな彼女を支えたい」

 

泉の言葉は素直で私の胸にスッと入ってくる。

 

「ちょっと待ち。あんたは彩葉のなんなん?」

 

お母さんは冷たくそう言い放った。過去の私...おそらく今の私でもその口調で言われたら、言い淀んでしまう。泉は少しの沈黙の後に堂々とした声を発した。

 

「なんでしょうね。初めはただのお隣さんでした。そこから友人を経て相互保証の運命共同体になって...まあそんなところです」

 

泉はお母さんに返答の隙を与えないまま話し続けた。

 

「俺は彩葉さんを決して手放さない。二度とこの手を離さないって誓ったんです。だから俺が保証します。彩葉さんは貴方から見ればまだ未熟かもしれない。だからその分僕が支えます。自分の人生を見つけようとする彩葉さんを、それで認めてくれませんか?」

 

お母さんにそう言い切る泉はカッコよかった。思えばこの男はどんな敵にも真っ向から立ち向かっていった。そして、どんな時も私の味方でいてくれた...そして一生隣にいると誓ってくれた...

 

「ふーん、色々は聞きたいことはあるんやけど、まあええや。君とは遠くない未来直接会うことになるだろうから...それまで彩葉を頼むで?じゃあ最後に彩葉に変わってくれる?」

「えっ?あっはい」

 

泉は先程までの凛々しさは消え、私にスマホを手渡した。

 

「あんたの好きにしい。ただ、好きなことをするには責任は付きまとう。向いてたかどうかなんて、最後まで分からんし。最悪、誰もおらんとこで一人で倒れて......いやそれはなさそうやな。とにかく、やるんやったら......半端は許さんよ」

 

そうしてお母さんとの長距離親子喧嘩は泉の乱入を経て終結。結果お母さんに私の思いを伝えることができた。

 少し前の私だったらお母さんに認められて飛ぶように喜んだことだろう。しかし、今は違う。母に認められた充足感よりも...私の大切なものが見つけられたことが...それを伝えられたことが....何よりも嬉しかった。

 

「ありがとう泉」

「こっちこそ急に会話に割り込んですまんな。どうしても俺も話したかった」

 

全く、優しい男だ...こんな面倒なこと無視だってできた。ただ、この男にとって大切な人が軽んじられることは何よりも許せないことなのだろう。自分が傷つくよりも、自分の好きな人を守りたいって思う、有原泉はそう言う男なのだ。

 

「じゃあ作業に戻るね。早くかぐやに届けないと」

「おう。頑張れよ。彩葉」

 

私は泉の言葉へ笑顔を返し、自室へ向かった。

 

私の大切な人、そしてもう1人の大切な人と再び一緒に過ごすために...私は今、全力で頑張るんだ。今この瞬間、この音楽に...没頭しろ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

彩葉のお母さんとの長距離電話から2日後。時刻は午前20時頃。やっと曲制作が終わり、後はかぐやへ歌を届けるのみとなった。

彩葉はかぐやからもらったブレスレットを大事に抱え、ベランダから月へ向かってReplyを歌い始めた。

 

『昨日の続き(喋りたかった)

くだらなくても(ちょうどよかった)

並んでたかったよ ごちゃつく隙間で

聞き分けのいい(フリはもうできない)

飛び立つ背中(追いかけてみたい)

本音を聞かせて

ただ叶えてみたいから』

 

 

Replyの一番はかぐやが書いたものだ。月に帰る前にかぐやが地球へ...俺らへのメッセージを込めて書いた詩。そしてこの2番はそんなかぐやの想いを受けた俺らからかぐやへの魂の返歌だ。

 彩葉の歌う綺麗なReplyに混じって、かぐやの歌声が聞こえるような気がする。

 月と地球。地球一周よりはるかに長い距離を経た歌の贈答。普通なら届くはずもない。  

 でも俺の耳には、心には、確かにかぐやの歌声が聞こえていた。

 

「届いたよね」

「ああ...絶対...」

「泉は明日どうするの?」

「ああ兄貴に会いに行く。兄貴はまだ全てを語ってない。その中にかぐやを連れ戻す突破口もあるかもしれない」

 

そうだ。彩葉はやってのけた。お父さんの形見の曲を完成させ、母親の呪縛も祓った。

 

兄貴はなぜ全てを見通したように助言をするんだろうか?なぜ兄貴はヤチヨと深い関係があるのだろうか?そもそもヤチヨとは何者なのか?

 

全部俺の勘でしかないが...必ずこの謎に俺の過去とかぐや奪還の糸口が隠されている。

 

 

今度は俺の番だ...

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!
励みになりますので評価、感想是非お願いします!!

次回!泉の過去が暴かれます!!お楽しみに!!
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