超人酒寄彩葉と借金貧乏男子が運命的な出会いをする話 作:陸結
「ーー太陽が沈んで、夜がやってきますーー」
俺は2人の後を追ってツクヨミにログインした。ツクヨミのエントランスには、青を基調としたストリート風の着物を来た狐のアバターが居た。酒寄である。このツクヨミではプレーヤーは皆八百万の神という設定でなんらかの動物の要素が入っている。俺は藤色のゆったりとした着物の上に黒い羽織りの蛇モチーフ。
「よっさ、iro」
「やっIZUMI」
「かぐやは?今キャラメイク中」
「今回ヤチヨライブのチケット取れてよかったな。それも握手券付き」
「もー本当に!当たった時は運使い果たしたかと思ったよ」
この酒寄彩葉、隙のない完璧超人かと思えば実は大の月見ヤチヨファンなのだ。だが俺もヤチヨは大好きだ。ヤチヨへの愛は酒寄にも負けない。
「本当に毎回一緒に応募してくれてありがとね!2人でやれば当たる確率2倍だから...それもやっと念願の握手券付き...ふひひ...」
チケットは一枚あたり3人まで同伴可能な仕様となっている。それを逆手に取った限界オタク酒寄と俺は、2人で同時に申し込むことで少しでも当選確率をあげようとしていたのだ。ちなみに戦績は俺が6勝7敗、酒寄が2勝11敗。だが今回酒寄が握手券付きを自引きしたぶん俺らの運はトントンだろう。
「うぉぉぉぉ!ひでぶ」
俺と酒寄が雑談しているとかぐやがツクヨミ初ログイン名物の転倒が行われていた。そして転倒したかぐやの上には謎の芝犬のちびキャラがいた。
「何こいつ」
「犬DOGE!連れて来たの!」
「かぐやが作ったペット。どういう技術力してるんだか...」
そんなことを話しながら俺らはライブ会場に向かう。道中スイーツに惹かれたかぐやとお茶屋に寄ったりはしたが、味のなさに本人は大ブーイングであった。
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ヤチヨのライブ──もとい、電子の歌姫の祭典が始まった。
俺達ファンが見つめる先に立つのは、ミニライブの主役であり、この世界の創造主。月見ヤチヨだ
「ヤオヨロー! 神々のみんな〜! 今日も最高だったー?」
はい、今最高になりました。
「よーし! 今宵もみんなをいざなっちゃうよ☆ Let's go on a trip!」
はい、いざなわれます。
こうして、完璧で究極のアイドルのライブが始まった。
彼女の歌声は鼓膜を揺らし、頭を揺らし、やがて心と共に全身を共鳴させる。その振動で生じた熱は涙と共に体の外側へ溢れていく。感動...そんな陳腐な言葉では片付けられない激情が俺の心を覆う。尊い。美しい。綺麗。可愛い。beautiful 。beauté。
「「ああこれが『あわれ』ってことか」」
俺はは思わずそう呟いた。おそらく酒寄もそう呟いた。
「ねぇ泉、彩葉どうしたの?ちょっと怖いんだけど」
「かぐや。ちょっと静かに。今ライブ中だから邪魔しないで」
「キチンと目に焼き付けな」
「ええ〜」
かぐやが俺たちを引いた目で見ている。俺らじゃなくても、普通のヤチヨファンはこれぐらい当たり前である。かぐやにもライブが終わったらちゃんと布教しよう。
楽しいライブは永遠のようで一瞬だった。
「感謝感激雨アラモード!ヤチヨは果報者なのです。」
ライブが終わり、ふと隣を見ると号泣する酒寄と目を輝かせるかぐやがいた。そんなかぐやも俺たちの方を見ると困惑とちょっとした軽蔑の目に変わった。
「なんで2人ともそんなに泣いてるの?」
「グスッ 泣いてねえよ...これは汗だ...」
「ヤチヨ...ヤチヨ...」
「あっここでお知らせ!ヤチヨカップっていうイベントを開催しまーす☆FUSHI詳細よろしく!」
ヤチヨがツクヨミ上のライバーで最も新規ファンを獲得したライバーとコラボライブする企画を提案した。
「うっそコラボライブ?!」
「そんなすごいことなの?」
「ヤチヨも今までコラボしたことはあってけど、ライブはな〜少なくとも俺は知らんし」
「有原が知ってる以前に一度もなかったよ!」
「へーじゃあ彩葉と一緒にやろ」
かぐやが勝手に酒寄との参加を決意した時、
バーンと派手な爆音が轟き、観客は皆音の方を向く。そこらか出てきたのは牛車ならぬ虎車。そう現在大人気の3人組プロゲーマーユニット。ブラックオニキス、通称黒鬼の面々だった。会場のモニターは彼らにジャックされ、ブラックオニキスのスポンサーや輝かしい優勝記録が流れた。そんな時
「うおっどうした急に」
急に酒寄が俺の背に隠れ俺の羽織に体重をかける。今までこんなことはなかった。ひょっとして酒寄は黒鬼の大ファンなのか?ヤチヨ相手みたいに限界化するから無意識に隠れたのだろうか。ならこの秘密は隠しておくべきか...
「というわけで、俺たち優勝するから。ヤチヨちゃんコラボよろしくね」
ブラックオニキスのリーダー帝アキラがあたりの舞った紙吹雪に口付けをしながらヤチヨにそう宣言した。周囲のファンたちはその光景に沸いた。相わらずの媚びようである。ただこんな形の乱入、それが映えて見えるのは、ひとえに黒鬼の実績と底なしの夢を見せるという信念によるのだろう。黒鬼以外にこんな乱入できるはずがない。
「ヤチヨーーーーーーーーーー!!!!!!」
はいいました。ここに大馬鹿物が1人
って何してんだこいつ!!
「かぐやも!ヤチヨカップ出る!それで優勝する!それで一緒に、彩葉とライブやr?!」
「「何やってんだバカ!」」
俺と酒寄は急いでかぐやを羽交締めにして口を封じる。ばかばかばかばかばかばか!何考えてんのこいつ?!ってか今酒寄の本名言ったよね?!クソ!さっき酒寄が約束した『目立たない』の約束を一瞬で破りやがった。おかげであたりの観客だけでなく、黒鬼、あまつさえヤチヨまでも注目している。
こいつにこれ以上喋らせてはならない
酒寄が手を緩めた後も俺はかぐやの口を封じ、細い腕ごと胴体を抱えて持ち上げ完全にロック。
「いとかわゆし。ほいでは!ライブは一旦ここでクローズ!みんなとちょこっとお話しさせてね!」
そう言ってヤチヨは分身を開始した。そういえば今日は握手会だった。やべーちょっと緊張する。
「んーんーんー」
「ああ有原ありがとう」
「もういいよな」
俺がかぐやの拘束を解除するとノータイムで口を開いた。
「彩葉!一緒にやろ!」
「やらない」
こちらもノータイムの返答である。
「えー彩葉ならできー」
「ムリムリムリ!小娘が!」
「こらっ」
声のする方を見ると身長が130センチほどのヤチヨがいた。
やべー!ミニヤチヨだ!えぐー!!
『『か!わ!い!す!ぎ!』』
酒寄も俺も声は出してないだろうが、同時に心の中でそう叫んだ。えっなぜわかるかって?お隣さんだからかな?
「お忘れかな〜?ヤチヨカップの参加はライバー限定なのです♪」
「そっか!じゃーかぐやライバーになる!そうと決まれば準備準備〜」
「「あちょま!」」
そう言ってかぐやは早々にログアウトした。
今のかぐやを1人で部屋に残しておとなしくしてるはずはない。クソ。当てたのは酒寄だしな。
「酒寄...俺かぐや追って先帰るわ」
「いいの?泣いてるよ」
「いいんだ。当てた酒寄が楽しむべきだ...」
「じゃあお言葉に甘えて...」
そして俺はツクヨミからログアウトした。
「泉、またね」
ヤチヨからそんな言葉が聞こえた気がするが、握手会のショックで幻聴でも聞いたのだろう。
後でヤチヨと握手した酒寄の手握って間接握手会しよう。
俺はそう決意して意識を現実世界へ戻した。
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【裏話】
この世界の酒寄彩葉は基本運がないです。テストでも比較的苦手な範囲ばっかでます。しかしそれを全て実力で捩じ伏せて来たのが酒寄彩葉なのです。