『HENTAI』の国、葦ノ原   作:名無しのサイボーグ

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「お侍様の戦い方じゃない……」
「何を申す」


緋雪「思ってたんと違う」

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 

 迫り来る異形の軍隊を、美しき霜が停滞させ押し留める。

 運良く霜に身を凍らせられなかった残像も、空を裂いて飛来した矢により、寸分違わず眉間を撃ち抜かれていく。

 

 凍てつく弓を携えていたのは、一人の美しき『巫女』だった。

 

 

(ひとまずは、これで……)

 

 

 軍隊の動きをひとまず止めることができたと見るや、粉雪のように白い髪を持つ巫女────緋雪は、すぐさま背後を気遣わしげに振り返った。

 

 そこに、人影はない。

 暗く淀んだ街並みの、彼女の慣れ親しんだものが様変わりした光景だけがそこにあった。

 

 しかし、緋雪はホッと胸を撫で下ろした。

 何故なら、彼女がこうしてここで戦っているのは逃げ遅れていた人々を逃がすため、その時間稼ぎをしていたから。

 だからこそ、ホッと息を吐く。

 護るべき人々を、守れた自分に。

 

 

「……くっ」

 

 

 途端に崩れ落ちる身体。

 緋雪は地に堕ちた膝をそのままに、荒い息を必死に整える。

 

 まだ終わっていない。

 ここで倒れる訳にはいかない。

 

 

(くそ……足に、力が)

 

 

 ……頭ではわかっていても、肝心の体が動かない。

 既に緋雪の肉体へのダメージは、意志力でどうにかなる範疇を超えていた。

 

 

────貴様ニ何ガデキル?

 

────モウ諦メヨ

 

────貴様ガ守ロウトシテイタ者タチモ、希望ハナイト泣イテオルゾ

 

 

「黙れ……!」

 

 

 脳裏に響く鳴式の囁きを振り払いながら、懸命に痺れる体に喝を入れ続ける。

 そう、まだ終わっていないのだ。

 眼前にて沈黙する残像の軍隊は、まだ死んではいない。未だ生きているのだ。

 その凶暴な殺戮性を絶やさぬままに、今もなお逃げた人々を追い詰め、殺すことを望んでいる。

 

 緋雪がやったことは、『鈴』から引き出した氷結能力で彼らの肉体を凍結させただけ。

 

 数時間にも及ぶ全力の孤軍奮闘を経た緋雪ができることなど、その程度でしかなかったのである。

 

 故に。

 

 

「────ッ」

 

 

 ビシリ、と亀裂が走る。

 氷によって縫い留められていた歪んだ肉体は、再びその邪悪な躍動を再開しようとしている。

 

 対して、緋雪は未だ立ち上がることができていない。

 とっくのとうに、彼女は限界を越えていた。

 

 

(……また、(わらわ)は失敗するのか)

 

 

 瞬間走る、走馬灯のような過去の追憶を背景に、彼女の心は暗く沈む。

 

 ……最愛にして尊敬する己の姉。

 いつだって明るく振る舞い、皆の灯火となっていた姉。

 

 そんな姉が死んだあの日。

 自分が桜灼(さくや)の巫女となったあの日。

 

 そして────それから数日と経たない内に、姉の葬式に国の重鎮たちがやってきたあの時。

 

 

『────緋雪どの! またもや、またもや何のお力にもなれず!! 加えて姉君を────玉露どのを死なせてしまった!!』

 

『ほんっっっとうに!! 申し訳、ございませんでしたァァッッ!!!!』

 

 

 ……あの時、(わらわ)は何を思ったのだったか。

 

 葦ノ原のナンバー2……『副将軍』の席につく男が、自身の目の前で土下座しながら姉上の死を悼み、顔中で盛大に悔し泣きする姿につられて、己もまた幼子のように泣いてしまいたかったのか?

 

 姉上や己が守ろうとしていた人々が、ただ守られるだけを良しとしていなかったことに対して、ひどく驚いたのだったか?

 

 

 それでも鳴式に対抗するだけの力をついに持てなかった彼らを、静かに憐れんだのか?

 それとも、「お前たちを守ったせいで」という、行き場のない怒りか────、

 

 

「……否」

 

 

 そうではない。

 一瞬思い浮かんだ感情をすぐさま否定し、斬り『祓』った。

 

 それと同時に、意識が現実に帰来する。

 

 再び足は、地をしっかりと踏みしめていた。

 

 

(……あの時)

 

 

 氷の拘束を打ち破り、殺到する異形の津波を前にして、緋雪は数時間前よりも格段に重くなった刀をそれでも取り落とさぬよう全身全霊で握りしめた。

 

 

(姉を亡くして間もない妾を訪ねてきた彼らが、泣き、地に額を着けた時)

 

 

 回避すらままならない。

 全身が鉛にすげ変わったかのような体の重さをそのままに、それでも刀を振るう。

 

 

(妾は────安堵したのだ)

 

 

 腕が。

 腹が。

 背が。

 頬が。

 全身のありとあらゆる部分の肉が、掠めた凶刃にて抉られようとも。

 

 

(姉上が、命を賭して守った人々が────確かに”護られるべき人々”であったことに)

 

 

 決して、ここは通さない。

 

 

(なればこそ姉上……”あの願い”も、必ず叶えます)

 

 

 斬る。

 

 

(今ここで死ぬことは、姉上のために泣いてくれた者たちへの侮辱)

 

 

 生きる。

 

 

(必ず生き残る。必ず彼らは守り通す。『最後』の巫女として、必ず)

 

 

 勝つ。

 

 

「今度こそ────妾は負けないッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────よかァ!!!!」

 

 

 瞬間、裂帛。

 

 ビリビリと大気を震わせた男の声は、なんと緋雪の背後から叫ばれていた。

 

 

「よか口上(こうじょう)じゃ!! (たまっ)どんの震ゆるが如き、良か口上じゃァ!!」

 

「な────」

 

 

 一体何を。

 誰かが手助けに来たのか?

 馬鹿な、この状況は妾以外にはどうにも────!

 

 こうした考えが、脳裏を過るよりも速く。

 緋雪が思わず振り返るよりも速く。

 そして、残像どもが彼女の隙を突くよりもずっと速く。

 

 

「チェアァリィヤァァァ────!!!!」

 

 

 男の振るった白銀の閃きが、巨大な残像の首を斬り落としていた。

 

 血飛沫のかわりに、残像を構成していた周波数が滓のように散っていく。

 ごとりと落ちた岩よりも重いその残像の頭部を前に、男はようやく残心をとき、太刀を担ぎ直した。

 

 

「────ふぅっ! まっこと斬りがいんある首級(くび)じゃ。こいで大将首(たいしょうんくび)でなかちいうから、さっきから武者震いん止まらんわ!」

 

 

 そう言って愉快そうに笑う男。

 とても戦場のど真ん中にいるとは思えないワクワクとした表情と、ここに来るまでに負ったのだろう、額の傷から流れる血が相反する。

 その異様さに、残像たちも一時的に攻撃を止め様子を伺う。

 

 ────下手に突っ込んでは、アイツの二の舞だろう。

 

 その確信ある予感を、男は立ち上る謎の気迫のみで、対する残像たちへ教えていた。

 

 

「な……んだ、そなたは……?」

 

 

 思わず動きを止めたのは彼女も同じ。

 巨大残像の首を一刀両断する技量と怪力は言わずもがな、彼自身の様相もまた、異様としか表現できなかったからだ。

 

 まるで時代劇から飛び出してきたかのような時代遅れの紅色甲冑。

 その鎧の下には、これまた時代錯誤な装束が見える。

 

 『侍』……いや、『武士』と表現した方がいいのだろうか?

 というより武士以外に表現のしようがない。

 「タイムスリップしてきました」なんて言われても、少なくとも今この瞬間ならば信じることも容易いだろう。

 

 急激な状況の変化に対し、緋雪は絶賛混乱していた。

 

 

「む」

 

 

 一方、呆然と問いを吐き出した緋雪の眼前に立つ武士風の男は、彼女の方へふと向き直ったかと思えば、遠慮なしにずんずんと彼女の下へと近づいていく。

 警戒し構える彼女だったが、次の瞬間、再び彼女は驚くことになった。

 

 

「────島津豊()、推参! 副将軍どのの下知(げち)を受け、今ここに助太刀に参った! ……巫女どの、まっこと遅参(ちさん)つかまつった!」

 

「……な」

 

 

 眼前で膝を折り、跪坐の姿勢のまま高らかにそう言った男を前に、緋雪は再び呆然としてしまった。

 

 当然といえば当然。

 彼女は今まで、姉がいたとはいえほぼ一人で戦ってきた身だ。

 姉が死んでからは猶更のこと。

 だというのに突然、目の前の豊隆と名乗った時代錯誤な男の口から出たのはまさかの助力宣言。

 混乱し、口が回らなくなるのも、至極当然といえた。

 

 

『……突然申し訳ない、緋雪どの』

 

「っ、その声は……」

 

 

 その時、ヴン、という機器の起動音とともに、豊隆の隣に髭面の男のビジョンが現れる。

 映し出されたのは、緋雪が良く知る人物────あの時、号泣謝罪土下座をかました葦ノ原の『副将軍』、その人であった。

 

 目を丸くする緋雪を前に、一瞬誇らしげに口ひげを撫でた彼はしかし、すぐさま表情を引き締める。

 

 

『緋雪どの。申し訳ないが時間がない。手短にご説明させて頂く』

 

 

 ハキハキと喋る彼からは、顔中から体液を流すような勢いで泣いていたような面影はない。

 その目の奥には、緋雪が思わず息を呑むほどに熱い、燃えるような瞳が輝いていた。

 

 

『今この瞬間、我々は”下剋上計画”をやっと実行に移すことができた。これでようやく、忌々しい鳴式に一泡吹かせることができるだろう』

 

「”下剋上計画”……?」

 

 

 『下剋上』……地位や実力が下の者が、実力で上の者を倒し、権力を奪うこと。

 葦ノ原の民である緋雪からしてみれば当然知っている言葉ではある。

 しかし、『計画』とは?

 

 目を瞬かせる緋雪に、彼は厳かに語り始めた。

 

 

 この計画の火種が生まれたきっかけは、現在意識不明となっている葦ノ原のトップたる『将軍』、葦沢(あしざわ) (けい)の成した『維新』。

 それにより、悲鳴の後遺症や鳴式の侵略などによって追い込まれていた葦ノ原へ、一気に希望の光明が差し込んだ。

 あらゆる業界の知識人たちの執念により、専門家の目から見ても異常といえる速度で進んだ研究は、いずれ立ち上がる『計画』の第一歩となった。

 

 その実態とは────『対悲鳴災害用決戦兵器』の開発。

 度重なる災害により蓄積されたデータと、葦ノ原の研究者たちの執念が生み出した、技術力を大幅にステップアップさせたオーバーテクノロジーの産物である。

 

 加えてそこに、豊隆のように葦ノ原の民たちの中から立ち上がった、共鳴者及び高度戦闘可能者による対悲鳴災害のスペシャリストたちの出現が重なる。

 彼らは、巫女が身を粉にして葦ノ原を護っている現状に疑問を覚え、「葦ノ原は葦ノ原に住まう者全員で護るべきだ」と、個人個人で戦闘能力を鍛え上げた者たちであるという。

 それを知った政府はすぐさまその全員とコンタクトを取り、協力を取り付け、彼らの想定以上の戦闘能力を見て、『下剋上計画』を計画するに至った。

 

 

『────今まで貴女に教えることができなかったのは、この計画を決して鳴式に知られるわけにはいかなかったからだ。貴女は桜灼(さくや)の巫女……鳴式には間違いなく常に目を付けられているはず。故にこうして、計画を実行に移した段階でしかお話できなかった』

 

「……何故……ここまで」

 

 

 驚愕、などという言葉では言い表せない。

 

 やっと口に出した言葉もどこか覇気がなかったが、その二言には万感の想いが込められていた。

 

 そのすべてを正しく受け止めた彼は、ビジョン越しにまっすぐと彼女の目を見る。

 

 

『……悔しかっただけさ、我々は』

 

「え……?」

 

『玉露殿が亡くなられたあの時、葦ノ原の民は余すことなく彼女の死を悼み、何もできなかった己らを恨んだ。だからこそ今があるんだよ』

 

 

 ────さあ、緋雪どの。

 改めて名を呼びながら、彼は彼女の目をより深く見つめる。

 しかしその口元からは、年長者としての矜持と、深い親愛が溢れていた。

 

 

『────やっとお力になれます。どうか、共に戦わせて頂きたい』

 

「────……っ!!」

 

 

 ボロボロの頬を一筋の涙が伝い、傷口へ沁みていく。

 

 もう涙を流すことなどないと思っていた。

 とうに枯れ葉てたと思っていたから。

 

 しかし、涙とは枯れぬもの。

 緋雪の心を凍てつかせていた小さな絶望の陰りは、葦ノ原の民が出したひとつの『答え』、それを受け流れた涙をもって、完璧に溶け落ちた。

 

 

「────おう! 話ば終わったか!? なればこっちば向いて、構えい! 戦ぞ。合戦ぞ!!」

 

「……ッ!」

 

 

 そして再びの裂帛。

 

 途端に耳を叩いた豊隆の声に緋雪が振り返れば、今まで警戒して近づこうとしてこなかった残像たちが、いよいよ業を煮やしたのか、緋雪たちに飛び掛からんとしているところだった。

 

 むしろ今まで襲ってこなかったのが不思議なほどだ。

 それだけ、先ほどからずっと睨みを利かせていた豊隆の威圧が強烈であったということだろうか。

 

 すぐさま、相変わらず好戦的に笑う豊隆の隣へ立ち、緋雪も再び刀を抜いた。

 

 副将軍からの思わぬサプライズのおかげで、心はまるで羽が生えたかのような心地だった。

 その証拠に、先ほどまで重かった刀も今ではすっかり軽く────、

 

 

(……いや待て。軽すぎる。まるで、妾の体が全快したかのような……)

 

「────とりあえず治しといたッスよォ~、副将軍サン」

 

 

 ここで再び声が響く。

 新たな声にそちらを見る緋雪だったが、豊隆の時とは違い、今度は思わずギョッとしてしまった。

 

 それもそのはず。

 緋雪の目線の先にいたのは、独特な髪型────いわゆる『リーゼント』と呼ばれる髪型をこれでもかと強調した、典型的な不良とでも言うべきような青年であったからだった。

 

 神経質に櫛でリーゼントを整えながら言う青年に、副将軍は笑みを浮かべながら頷く。

 

 

『よくやってくれた。ではこのまま豊隆くんの治療も頼む。その後はワープゲートを使用して各地戦場に向かってくれ』

 

「グレート……ンじゃあパパっと治しちまうッスよォ~っ!」

 

 

 治療。

 彼の口から出たその単語を聞き、先ほど自身の負傷を治したのもこの青年であると理解する緋雪。

 

 

 ……なんという精度の治癒だ。

 

 身体に刻まれた無数の裂傷、肉体を内から蝕んでいた体力の消耗。

 それらすべてが、まるで最初から無かったかのように完璧に治癒されている。

 

 

(これほどの共鳴能力の使い手が……いや、これすら鍛え上げたものなのか)

 

 

 その精度には、歴戦の実力者である緋雪としても舌を巻くしかない。

 一体、どれほどの執念が、どれほどの想いがあれば成せることなのだろうか。

 

 先ほどの副将軍の話を聞く限り、リーゼントの彼もまた、己のために立ち上がってくれた共鳴者なのだろう。

 ここに至るまでの道を思い、緋雪は彼に感謝を述べようとして────、

 

 

「────ッちょォッ!? まだ治療済んでないんスけど!?!?」

 

 

 彼の驚愕の声に遮られた。

 必死で引き留めるように手を伸ばした彼の先に目をやれば、そこには猛進する赤き影。

 緋雪を助けた、あの武士(もののふ)の姿があった。

 

 引き留めるリーゼントの彼の言葉を意にも介さず、豊隆はただ叫ぶ。

 

 

「よか!! このままでよかァ!!!!」

 

「血ィ出てんだよアンタァ!?!?」

 

 

 信じられない、といった様子のリーゼントの彼の言葉もまた届かない。

 額からの血の流れは止まる様子もなく、しかし豊隆もまた止まる様子はなかった。

 流石にまずいと、自分も止めに入ろうとした緋雪だったが────、

 

 ────豊隆の浮かべる表情を見て、思わず足が止まってしまった。

 

 

「戦ぞ。合戦ぞ!!」

 

 

 ニィ、と歪められた口は三日月のよう。

 そのさまはまさしく”狂笑”と呼ぶにふさわしかった。

 

 

「首……首おいてけ!!!!」

 

 

 太刀をふりあげ、猛スピードで残像の群れに突っ込む彼は、そのままの勢いで刃を振るう。

 防御も回避も二の次な、振るったあとなど一切考えない攻撃一辺倒の斬撃。

 速力と体重、そして膂力すべてがのせられたその一撃は、またもや堅牢な残像の外皮を容易く両断する。

 

 ごとりと落ちる首。

 しかし彼は止まらない。

 

 

「ひとぉつ! ふたぁつ!! はははははは!!!!」

 

「……彼は、一体」

 

 

 バーサーカーもかくやという暴れっぷりに、緋雪は若干引きながらもなんとか問いを絞り出す。

 答えを返すのは勿論副将軍だ。リーゼントの彼はもはや諦めて他の戦場に向かったようだ。

 

 

「ああ、彼はね……」

 

 

 厳かに口を開く副将軍に、緋雪は自然と背が伸びるのを感じた。

 あれほどまでの戦闘能力。

 よもや歳主とまでは言わないが、きっと凄まじい共鳴者なのだろう。

 恩人である彼のことをより知るためにも、緋雪は副将軍の答えにじっと耳を傾けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────SATUMAだよ。彼は」

 

「は??」

 

 

 答えになってないが、というツッコミをすんでのところで飲み込んだ。

 

 

「……SATUMAとは……あの薩m──」

 

「いいや。SATUMAだよ」

 

 

 ええ……とドン引く緋雪をよそに、副将軍は語りだした。

 どことなく喋り方に熱が入っているのはきっと気のせいだろう。

 

 

「SATUMA……いや、彼らのことは薩摩隼人と呼ぶのだったか。今回、戦いに立候補してくれた者たちの中には、強力な共鳴者や類稀(たぐいまれ)な実力の持ち主が多数存在していた。だが彼────島津豊隆くんはその中でも、トップクラスの戦闘能力の持ち主でね……。まさにSATUMA。あっぱれ薩摩隼人

 

 

 急に薩摩推しにならないでほしい。アンタそんなタイプじゃなかっただろ。

 

 暴れまわるバーサーカーの活躍を厳かな顔で見守りながら語る副将軍に対して、緋雪はなんとか次々と浮かぶツッコミをゴクリゴクリと理性で抑えて飲み込み、そしてげっそりとした。

 

 ダメだ。

 彼の言っていることが何一つ理解できない。

 いやSATUMAがSATUMAしてることは理解できたのだが……いやこれだとなにも理解していないことになってしまう。

 

 

「それでいいのだよ。SATUMAがSATUMAしている。これがすべてだ」

 

「いいわけなかろう」

 

 

 遂に飲み込み切れなかったツッコミをぶち込みながら、これではいけないと話を切り替える。

 なんだか変な方向に行きかけた流れを、緋雪は多少強引でも修正したかった。

 

 

「……あれほどの強さ。一体彼はどんな共鳴能力を持っているのだ?」

 

「? 彼は共鳴者ではないが??」

 

「は????」

 

 

 が……駄目っ……!

 緋雪っ……!

 会話の修正……あえなく失敗っ……!!

 

 

「それでは私はここで失礼────」

 

「待て待て待て待て待て待て」

 

 

 そしてこのタイミングで帰ろうとする彼を必死に留める。

 

 お前よくここで帰れると思ったな。

 帰さへんよお前?

 

 今の緋雪の内心を表現すると、こんなところである。

 

 

「今なんと言った? 共鳴者ではない? あやつが? 共鳴者ではない??」

 

「う、うむ。そう言ったが」

 

「共鳴者でもないのに残像の首がスパスパ斬れてたまるか」

 

 

 ド正論であった。

 ところがどっこい、薩摩隼人にとっては朝飯前であることを緋雪は知らない。

 

 

「────むっつぅ!! やっつぅ!!!!」

 

 

 何気に先刻よりも疲労ダメージを受けている緋雪をよそに、嬉々として首を獲りまくる豊隆。

 律儀に首を斬るたびにその数を数える様子は、昔懐かしの怪談『皿屋敷』を思い出させる。

 

 困ったことにオリジナルよりだいぶ怖いのだが。

 残像たちには悪いが、頼むから九つ以上数えさせてやってほしいものだ。

 さもないと「首が無い!」とか言って泣きながらこっちの首まで見境なく斬りに来そうで大変こわい。

  

 

「おお、凄まじいな……『妖怪首おいてけ』の二つ名は伊達ではないようだ」

 

「今なんと言った????」

 

 

 そして副将軍、ここで新たな爆弾を投下。

 まさかまさかの島津豊隆、この世の者ではなかった様子。

 この場合『皿伝説』ならぬ『首伝説』だろうか?

 題名からしてオリジナルより確実に怖くなっちゃったよどーすんだこれ。

 

 

「先ほど言った、戦いに立候補してくれた者たちには事前に戦闘能力を測るテストを受けて貰っていてね。その時にあんまりにもあんまりなバーサーカーっぷりを見せ、なおかつ『首おいてけ』と叫びまくっていたことからついた二つ名のようなものだ」

 

「それは……本人的にはどうなのだ? 悪口だろうそれはもう」

 

「いや、本人曰く『よか』とのことだ。つまり良いということではないのかね?」

 

「……そうだな」

 

 

 まだ彼女としては「二つ名っていうかあだ名だろうが」とか「てかそんな名前本人も許可するな」とか「そもそも『よか』って何回言うんだあやつ」だとか、大分言いたいことが有り余ってはいたものの、流石にこれ以上ツッコミをするといよいよ空気感的な意味で戻ってこれなくなりそうだったので、緋雪は流石に飲み込むことにした。

 

 

「では私はこれで。健闘を祈る」

 

「……うむ。あとは任せよ」

 

 

 そう言って今度こそ通信を切ろうとする副将軍。

 緋雪としては正直あのSATUMAと二人っきりにはしてほしくなかったが、今でも葦ノ原各地で戦いが巻き起こっている都合上そうも言っていられなかったので、彼女はここはぐっとこらえることにした。

 

 任せてほしくないけど任せて。

 言葉裏にそんなニュアンスを滲ませながら頷き、副将軍を見送る。

 

 そしていよいよ、己も満を持して戦場に戻り────、

 

 

「────あそうだ、緋雪どののために最強の助っ人を呼んでおいたぞ」

 

「えっ」

 

 

 最強の……助っ人……?

 

 それだけ言い残して「それじゃ」と消えた副将軍のビジョンへ振り返ったままの姿勢で、緋雪は思わずフリーズした。

 そしてふつふつと湧いてきた嫌な予感とともに、緋雪の額を冷たい汗がつたっていく。

 

 

(……ま、まあ……その助っ人とやらがあのSATUMAと同じ類とは限らないしな……?)

 

 

 大丈夫。

 きっと。多分。メイビー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごっつぁんです」

 

「ふぁー」

 

 

 そしていつの間にか背後に立っていた力士の集団を見て、緋雪はキャラ崩壊気味な悲鳴を漏らした。

 

 力士。

 葦ノ原の民であれば皆知っている最強のふとっちょさん、即ちお相撲さんだ。

 体を動かすたびに波立つお腹の下には、鍛え上げられた強靭な筋肉が隠れているという、葦ノ原が誇る伝統にしてスモウ・レスラー。

 

 なんでこんなところにいるの、なんていう疑問は野暮だ。

 だって彼らはきっと戦いに来ただけなのだから。

 そう、いつも通りに────たぶん『七月場所』とかそういうテンションで来てはいるだろうが。

 

 

「そっ……そなッタ……ソナタッそなたらは……な、なんだ」

 

 

 もう動揺を隠せなくなったせいで変な喋り方になってしまう哀れな巫女様。

 しかし心優しい力士たちはそのことには一切触れないまま、ハキハキと答えを返してくれた。

 

 

「我ら、葦ノ原中から選りすぐられた精鋭力士でございます!」

 

「巫女様のお力になりたくて、いてもたってもいられなかったんです!」

 

「巫女様、いつもごっつぁんです!!」

 

「「「「「「「「「「ごっつぁんです!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 数百人はいると思われる力士たちから一斉のごっつぁんを受け、そのあまりの迫力に緋雪はちょっとのけぞってしまう。

 普段であれば耐えられたであろうが、今の彼女は精神的に物凄く疲れ切っている。さもありなん。

 

 

「それじゃあいってきます」

 

「「「押忍」」」

 

「「「「「押忍」」」」」」

 

「「「「「「「「押忍」」」」」」」」

 

「えっ────おお……っていや、ちょ、ちょちょちょちょ

 

 

 そんな緋雪の隙を突くかのように、すすすすぃ~、と力士たちはその巨体に見合わない身軽さでもって、軽快に戦場へと向かっていく。

 あまりにも身軽な感じだったので、思わず緋雪も感心してしまう。そのせいでお相撲さんたちの行進を止めるのは間に合わなかったが。

 

 

(しまった……すっかり空気に吞まれておったが、彼らはただの一般人!! 副将軍は何を考えておるのだ!?!?)

 

 

 もはや数えるのが面倒くさくなったのか、首おいてけ、しか喋らなくなって今度こそマジで『妖怪首おいてけ』と化した豊隆のいる戦場へ、すすすすすぃ~、と何故かすり足で一斉に数百人のお相撲さんが向かっていく光景はぶっちゃけシュールでちょっと面白かったが、今ばかりは流石に危機感が勝った。

 

 残像は生半な存在ではない。

 例え日夜修練を欠かさぬ力士たちだとしても、人知を超えた残像という災害そのものには────、

 

 

「どすこい(OFA100%)」

 

 

 ────なんとかなった。

 具体的には、先頭の力士が張り手を喰らわせた瞬間、張り手を喰らった残像の背後数十メートルが一気に消し飛んだのである。

 

 

「ふぁー」

 

 

 流石にふぁーであった。

 見目麗しき大人のお姉さんといった感じだったはずの緋雪だったが、驚愕に次ぐ驚愕によって脳がキャパオーバーを起こし、一時的に肉体はデフォルメ化されてしまっている。

 どういう原理だよ、とか聞いてはいけない。

 あえて言うなら、『超人(コメディアン)』的なアレである。*1

 

 

「おお!  流石に両国ん相撲取りは一味も二味も違う!! こいは負けられんのぉ!! いくぞォ!!!!

 

「「「「「「「「「「「「「「「応!!!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 そしてそんな力士────否、RIKISIたちのアホみたいな奮闘に触発され燃え上る異常集団というのがSATUMAである。

 その筆頭たる豊隆は、いつのまにか見参していた数千規模のSATUMA軍を連れ、一斉に猿叫を発しながら突撃していく。

 あまりの声量に、周囲のビル群の窓ガラスがあえなく砕け散っていく。

 

 

「側面にかまうな、周りこませい!! 後にかまうな、追うて来させい!! 我ら好き好んで敵中に孤立すっ!! 天武の御名(てんむのぎょめい)鳴るべし鳴るべし!! 我もぬしゃらも死にぞこない!! 晴れ舞台じゃのう!!(SATUMAスマイル)

 

「チィィィエエエエエエストォォォォォオオオオッッ!!!!」

 

「キェエエエエエエエエエエエエエッッ!!!!(猿叫)」

 

「チェストォォ!!」

 

「どすこい!?(FF(フレンドリーファイア))」

 

「誤チェストにごわす」

 

「大丈夫ッス!(薄皮一枚)」

 

「おいは恥ずかしか!生きておられんごっ!(切腹)」

 

「介錯しもす!(断首)」

 

「チィィィエエエエエエストォォォォォオオオオッッ!!!!(n回目)」

 

「キェエエエエエエエエエエエエエッッ!!!!(猿叫)」

 

「チェストォォ!!」

 

「どすこい!?(かすり傷)」

 

「誤チェストにごわす」

 

「またにごわすか!」

 

 

 舞い踊るSATUMA。

 狂笑せし薩摩隼人。

 

 されど、RIKISIも負けてはいない。

 

 

「どすこい(裾払い(世界を断つ斬撃))」

 

「どすこい(巻き落とし(天地乖離す開闢の星))」

 

「どすこい(上手捻り(エターナルフォースブリザード))」

 

「どすこい(叩き込み(尾獣玉))」

 

「どすこい(掛け投げ(虚式・紫))」

 

「どすこい(櫓投げ(ウルトラハリケーン))」

 

「どすこい(上手投げ(一撃必殺))」

 

 

 惨状を前に、緋雪は呆然とただ立ち尽くしていた。

 

 体はすでに全快しているはずなのに、足が動いてくれない。

 

 というよりもうあいつらだけでいいんじゃないかなと思わなくもない。

 

 確かに、今まで守ってきた葦ノ原の民たちが、巫女だけに責任を押し付けることを良しとせず、勇猛果敢に立ち上がってくれたことが今でも変わらず嬉しい。

 『下剋上計画』という、自分たちが守ってきた時間が活かされた結晶を知らされ、報われた気分になれたのも事実。

 

 ────だが。

 

 

「……なんか、思ってたんと違う」

 

 

 思ってたんと違った。

 

 なんかもっとこう、あるじゃん。

 贅沢を言うつもりはないが、このぐらいの我儘は許してほしい。

 

 緋雪はどこまでも遠い目で、もう何回RIKISIの手によって割れたかわからない空を見上げていた。

 

 

(……姉上)

 

 

 これだけ暴れているのに、相も変わらず鳴式の張った結界のせいで灰色にしか見えない空を見上げながら、緋雪は静かに、天にいるであろう己の姉へと問いかける。

 

 

(どうやら、妾はきちんと最後の巫女になれそうです)

 

(姉上……)

 

(今だけでももう一度、会いとうございます、姉上……)

 

 

 当代巫女、緋雪。

 心からの切実な願いであった。

*1
余計なお世Wi-Fi(ワイファーイ)!!




島津豊隆(しまずとよたか)
……SATUMA出身の青年。30歳。モノホンの方の『妖怪首おいてけ』とは何の関係もないただの薩摩隼人。
 巫女が葦ノ原を懸命に守っているところを見て、「俺らも戦わねばそれこそ女々しか」とキレて決戦に志願する。
 普通に戦バカ。

〇リーゼントの青年
……仙台出身。リーゼントを貶されるとブチ切れるし、死んだ祖父に代わって町を守る覚悟を持っている。
 彼は豊隆と違い、皆の思ってる人と魂も同一人物。
 なんでいるんだよって?ここ鳴潮だろうがって?? 全部、葦沢啓って奴の仕業なんだ。

 あ、一応まだ続きます。
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