『HENTAI』の国、葦ノ原   作:チョコレイト・リリー

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なっとるやろがい


そうはならんやろ

 場所は変わり、HOKKAIDO。

 

 

「まさか、彼らのような極道者まで協力してくれるとは……。最初は何を要求されるものかと気が気でなかったが────この状況、彼らも静観してはいられなかったということか」

 

 

 豪雪の山中にて、先ほどまで緋雪と連絡をとっていた副将軍はひとり静かに苦笑いを浮かべる。

 

 そんな彼の目の前では、今まさに決戦が行われていた。

 

 殺到する残像軍隊。対するは、この時のために編成された『対悲鳴災害特選部隊』のエリートたちと、現地で募った先住民族────『アイヌ』の協力者たち。

 両軍ともに深く積もった雪に足を取られながらの開戦となったものの、雪に慣れた彼らの協力のおかげで、現状は人間側が優勢にことを運んでいる。

 

 残像?

 人智を超えた怪物?

 たったそれだけで脅威となるのならば、ここ(HOKKAIDO)は『試される大地』などと呼ばれてはいない。

 太古よりこの土地に慣れ親しんだアイヌにとって、残像など無知な侵略者に過ぎない。

 雪に足を取られ、進軍すらままならない残像たちを相手に、自然を利用する的確な攻撃で確実に殲滅していく。

 

 

「チタタプ*1! チタタプ!!」

 

「ヒンナ*2! ヒンナヒンナ!!」

 

 

 ぶっちゃけ何言ってんのか副将軍にはよくわからなかったのだが、まあ問題ないだろう。

 

 特選部隊も負けてはいない。

 できる限りHOKKIDO出身者で固められた特選部隊は、己の生まれた故郷を守るべく、決死の覚悟で残像を屠っていく。

 

 

「────ッ!!」

 

 

 しかし相手は無尽蔵の怪物。

 倒しても倒しても湧いてくる残像たちを相手に、流石の連合軍も苦戦を強いられてしまう。

 

 

 

 

 しかしそこに、思いもよらぬ援軍が現れた。

 

 

「フオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」

 

ヒグマだああああああ(突撃!お前が晩御飯)!?!?」

 

 

 その正体はなんと────ヒグマ。

 HOKKAIDOに名高きモンスターが、葦ノ原の命運を分ける戦いに割って入ったのであった。

 

 HOKKAIDO。”試される大地”。

 その名に違わない厳しい自然は人と残像の区別なく、平等に試練を与える────はずだった。

 

 出現した三メートル級のヒグマの群れにより、次々と薙ぎ倒されていく残像。

 その凶爪で、その牙で、目についた端から残像を吹き飛ばしていく。

 だがその一方、ヒグマたちは人間たちには一切手を出さなかった。

 たまたま視界に入らなかったわけではない。人と残像が入り乱れているにも関わらず、ヒグマは狙いすましたかのように残像しか攻撃しようとしない。

 それどころか、危機に陥っていた兵士を助けるような素振りすら見せたのだ。

 

 

「な……なんだ?」

 

「どうしてヒグマは俺たちを襲わないんだ……?」

 

 

 人間たちは困惑する。なぜヒグマが俺たちに協力するようなマネを?

 しかしヒグマにとっては────否、大自然にとって、この共闘は必然だった。

 

 なぜなら、鳴式はやり過ぎた。

 葦ノ原の自然を汚し、侵し、潰した。

 美味しいごはんを、青々とした木々を、ことごとく壊し尽くした。

 

 つまるところ、大自然もまた、人と同じ怒りを抱いていたのである。

 この葦ノ原をあげた大決戦において、今だけは、自然は完全に人類の味方であった。

 

 

ヒグマが味方だと(突撃!奴らが晩御飯)!?!?」

 

「うおおおおっいくぞおおおお!!!!」

 

「この勢いを止めるな!! このまま押し切るぞおおおお!!」

 

 

 吹雪が止み、戦場に太陽が射し込む。

 豪雪に足を突っ込んでいるとはとても思えない、まるで霧を掻き分けているかのようにスムーズになった雪に助けられながら、逆に雪が瞬時に固まったかのように足を取られて動けない残像たちを一気に屠っていく。

 ある者など、あろうことかヒグマに騎乗して突貫していく。当のヒグマもノリノリだ。

 

 これならば。

 一番戦況に不安があったHOKKAIDO戦線への助力のために駆けつけていた副将軍の目に、一縷の希望が映る。

 

 

 

 

 しかし、現実は非情であった。

 

 瞬間、破砕する地面。

 その衝撃で発生した雪崩すらものともせず現れたのは────、

 

 

「────カ、カニ?」

 

 

 そう、カニ。

 

 無論ただのカニではない。

 自身の胴体の倍はあろうかという長さの脚で、土地を串刺しにするその姿は、蒸し焼きにすると美味しいあのカニ……タカアシガニに似ていた。

 

 よもや、また自然からの援軍か?

 突飛な状況にそう判断しかけた連合軍たちだったが、共鳴能力で雪崩から彼らを護り切った副将軍は真っ先に気づく。

 

 

「違う見ろ!! あのカニの胸にあるのは────!」

 

 

 彼が指さすその先には、昏く輝く黄土色の十字星状の────音痕。

 そう、あのカニは決して大自然からの援軍などではなかった。

 その正体は────トチ狂った鳴式が作り出した、推定”津波級”のタカアシガニ型の巨大残像であった。

 

 

「フオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」

 

 

 咆哮するヒグマたち。

 大自然は激怒していた。

 一体どこまで、鳴式は自然を汚せば気が済むというのか。

 

 

「ふざけんじゃねぇー!!」

 

「タカアシガニはHOKKAIDOの名産じゃねーっつーの!!*3

 

「半端な知識で嫌がらせしてんじゃねーぞハゲ!!!!」

 

 

 人間たちもまた激怒する。

 少々ベクトルが違う気がしないでもないが、とにかく激怒はしていた。

 

 だがそんな怒りを嘲笑うかのように、カニ型残像は行動を開始。

 大雑把にそのハサミを振り回せば、耐えきれない突風を伴いながら物理的に山そのものを削ってしまう。

 ヒグマたちでも成すすべがない。

 数頭のヒグマは突風に煽られ吹き飛ばされ、さらに数頭は直撃を受けてミンチと化した。

 

 

「ぐ……クソ、こんなところで……!」

 

 

 何とか難を逃れた者たちも、もはや崩壊寸前。

 たった一度の攻撃で、希望溢れていたはずの連合軍はあっという間に追い詰められてしまった。

 

 崩れ落ちた長官は、攻撃の余波によりもはや現状を留めていない両腕をよそに、未だ闘志が消えぬ瞳で敵を射貫いた。

 腕が使えない以上、もはや共鳴能力は失われたも同然。しかしそれだけでは、ここで諦めて死ぬ理由になどならない。

 その脳裏には、かの巫女の姿。

 

 彼女を孤独にしたのは、我々だ。

 この私が、彼女をひとりで戦わせてしまったのだ。

 

 立つ。

 立ち上がる。

 

 彼女をもう一人にしないために。

 葦ノ原を護るのは、彼女だけではない。

 

 男は吠える。

 咆哮が、山々に朗々と響き渡った。

 

 

「私が────我々が! 護るのだ!!」

 

「緋雪どのが! 玉露どのが! 愛してくれたこの国を!!」

 

「誇りある葦ノ原は、絶対に、なにがあろうと!!」

 

 

 

 

「────命を賭して、必ず守護(まも)る!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迫り来る巨大ガニの鋏。

 

 されど副将軍は一歩も退くことはせず。

 

 ただまっすぐに、その闘志を燃やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────その時、不思議な事が起こった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────こっ、これは!?」

 

 

 副将軍は驚愕した。

 

 彼だけではない。

 特選部隊も、先住民族たちも、ヒグマも、残像も。

 

 戦場に立っていた者たちのすべてが、巨大ガニに起こった変化に驚愕していた。

 

 

「────ッ!?」

 

 

 さもありなん。

 先程まで猛威を奮っていた巨大ガニが、唐突に身を震わせ、何かを振り払おうとしているかのようにその身を山々に打ち付け始めたのである。

 

 

「────~~ッ!?」

 

 

 悲鳴を上げる巨大ガニを前に立ち尽くす連合軍。

 ふと、その中で最初に違和感に気がついたのは一人の特選部隊員だった。

 

 

「カニに……何かが纏わりついてる?」

 

 

 巨大ガニの体を高速で動き回る謎の物体。

 よくよく見てみると、それは何やら水色の液体のような形状をしているように見えた。

 

 その『何か』は、どうやら動き回りながら巨大ガニに攻撃を加えているようで、液体が通った甲殻には、謎の亀裂のようなものが見てとれた。

 

 今度こそ味方か?

 連合軍はそう考えるも、警戒は緩めない。

 ついさっき期待を裏切られたばかりなので、当然ではあった。

 ……ただ一人、副将軍を除いて。

 

 

「────ま、まさかっ、アレは……っ!!」

 

「とうっ!!」

 

 

 副将軍が言い終わらぬ内に、液体は力強い声とともに巨大ガニの甲殻上から離脱。

 蓄積されたダメージに耐えかねたのか、ズズン……と倒れる巨大ガニをよそに、着地した液体はなんと、段々と人型を形作っていく。

 

 そうして現れたその姿に、特選部隊───特に副将軍は、思わず息を呑んだ。

 

 

「────遂に見つけたぞ」

 

 

 ────黒いバッタを思わせる、黒々とした装甲に真紅の複眼。

 ────腰に巻かれた、赤々と輝くベルト。

 ────そして敵対者を恐れさせ、その背に庇うものを安心させる、堂々たる出立ち。

 

 

「あっ……あなたは」

 

 

 感極まったようにそう叫ぶ副将軍へ、彼は静かに頷き、静かに変身を解いた。

 

 そしてマスクの下から(あらわ)となった顔を見て、副将軍の目尻に光が瞬いた。

 

 

「あッ……嗚呼……ッ!!」

 

 

 ……副将軍には、憧れがあった。

 

 幼い頃、未だ葦ノ原が希望の光明を探し求める暗冥の時代の中、副将軍はとあるヒーローによって心を救われ、そして憧れた。

 強大な悪の組織を相手に、たった一人で戦い抜いた太陽の戦士。

 

 自分もいつかは、彼のように。

 今の彼が『副将軍』という葦ノ原を支える立場にいるのは、間違いなくこのヒーローの影響があったからだろう。

 

 そして、今。

 ────ヒーローは、現れた。

 

 

────南、光太郎……っ!!

 

「すまない、副将軍。遅くなってしまった」

 

 

 声を震わせる副将軍へ、RX────南光太郎はそう言いながら歩み寄る。

 その佇まいはまさに、テレビの向こうで戦っていたあの姿とまったく同じであった。

 

 その事実にまたしても感涙する副将軍に、まんま”てつを”な光太郎は言う。

 

 

「ここに来るまでの間、いくつかの残像軍隊を殲滅しておいた。*4そのせいで救援に来るのが遅れてしまったが、しばらくは向こうに増援はないはずだ」

 

「なんと……流石の強さだ。ありがとう、仮面ライダー!!」

 

 

 力強く頷きながら、何気にさらっととんでもないことを成し遂げていることを暴露する光太郎。

 周りの特選隊員たちやアイヌの勇士たちは思わず耳を疑ったものの、語った通りバチバチに仮面ライダーBLACKとRXが世代な副将軍にとっては疑う必要すらないのか、ただただ少年のように眼前のヒーローに目を輝かせるばかりである。

 

 とはいえ。

 もし彼が『本物』であるのなら、これ以上なく心強いことも確か。

 

 何せ、仮面ライダーである。

 

 毎週日曜、午前八時。

 葦ノ原のちびっ子たちに、毎朝テレビの向こうから愛と希望を届けてくれたスーパーヒーローご本人が助力に来てくれたのだ。

 頼りがいがあるなんてものではない。

 自分の世代のライダーにも会いたかった、なんていう呑気な願望を抱けるほどに、特選部隊員たちの士気は戻りつつあった。

 

 

────愚カ者ドモメ

 

 

 そしてそんな空気を蛇蝎の如く嫌うのが、鳴式である。

 

 まるで囁くように響き渡ったおぞましい凶声が、立ち上がりつつある巨大ガニから発されていると気づくと同時に、人間たちはその声が、他ならぬ憎き鳴式のものであることを悟った。

 

 鳴式────将軍、葦沢啓曰くその名を『天魔(テンマ)』とされし文明の大敵は、忌々しげに人間たちへと吐き捨てる。

 

 

────ドレダケ足掻ク イツマデ足掻ク

 

────何ヲヤッテモ無駄ダ 我ハ決シテ滅ビルコトハナイ

 

────諦メロ ソノ先ニコソ 安寧ガアルトイウノニ

 

 

 囁き、惑わし、破滅へ導く。

 実体を持たない概念体を本体とする、鳴式の常套手段だ。

 ありふれているようでいて、その実的確に人間の精神的脆さを突いてくるこの囁きに、今までどれだけの人類が堕ちてきたのだろうか。

 

 その悪辣極まりない戦歴を知らしめるように、囁きは特選部隊員たちの心へ不気味に染みわたっていった。

 

 

「────で?」

 

────ナンダト?

 

 

 だがそれだけだ。

 

 巧みな囁きは確かにこの場の人間ひとりひとりの耳に届き、その言葉が秘める意図も快感も一つも余すことなく確かに届いた。

 

 だが、そこまででしかない。

 

 

「まだそこで止まってんのかよって言ってんだ。テメェの話は」

 

「諦めた方が楽になれることも、勝ち目が薄いなんてことも、俺たちゃもうとっくに知ってんだよ」

 

「おうよ。だからこそこうして戦ってんのさ」

 

────理解デキヌ

 

「しなくていーよ。てかそれ以前にまずできねぇだろ。できないことわざわざ申告してくんなカス」

 

「まあまあ。俺は優しいから教えてやるよ。いいか? 俺たちはもう諦めることに飽きたんだよ

 

 

 勝ち目が薄い?

 諦めれば楽になれる?

 そうだな。だが知ったことか。

 

 それはもう置いてきた。

 かつての暗溟の時代、葦ノ原は強大極まる鳴式・天魔の脅威に膝を折った。

 諦めた。

 諦め続けた。

 

 ────もう、うんざりだ。

 

 

「俺らにはてんでわからねぇ。あのままドブに沈んだゴミみてぇな気持ちで生きていくことも、それを”安寧”だとかいうてめぇの感性も何もかも、これっぽっちも理解できねぇよ」

 

「俺たちは葦ノ原が好きだ。大好きだ。美味い飯に、綺麗な景色。気の合う友達(ダチ)に、笑えるテレビ番組……いいよな、あれ」

 

「だな。それを守りたいってだけのこった」

 

「あとは、そうだな。ここで諦めたら、今まで葦ノ原を必死こいて守って来てくれた巫女さんたちに申し訳が立たねぇ」

 

────ソノ結果、無様ナ死ヲ迎エルコトニナロウトモカ?

 

「おうともさ。例え死んでも、必死に戦って死んだなら、あの世でご先祖様に胸を張れるだろうよ」

 

 

 口々に鳴式の囁きを一笑に伏す彼らは、英雄譚で言えば『モブ』でしかないだろう。

 精々、特選部隊に選ばれた戦闘員でしかない。

 共鳴者でもなく、運命を変える力もない。

 無力極まりない、ただの一般人。

 

 だがそれは、諦める理由にはならない。

 例え虚しい行為だったとしても、だからといってすべてを諦めるのは違う。

 

 そんな彼らに、鳴式は理解に苦しみ、混乱し────

 

 ────一周廻って、思考を改めた。

 

 

────……理解デキヌ

 

────デキヌ……ガ、我ガ方針ニ狂イハナイ

 

────貴様ラガドンナ愚カシイ選択ヲシヨウト勝手ダ……我ハ変ワラズ、ソノ希望ヲ、決意ヲ、夢ヲ、蝕ムノミ

 

 

 変わらない。

 人間どもがどんな支離滅裂とした思考で希望を手にしようと、変わりはしない。

 面倒ではあるが、仕方がない。

 一つ一つ確実に、その光の一切を踏みつぶすまで。

 

 文明の大敵は、その邪悪でもって人類を脅かす。

 その本質に、一切の揺らぎはなかった。

 

 

「────させはしない」

 

 

 となれば、それを許さないのが英雄だ。

 

 人々は輝いた。

 たとえ小さくとも、希望の灯でもって自ら輝かしい道を切り開いた。

 

 ……ならば、その切り開かれた道を死守するのが、英雄の役割だ。

 

 巨大ガニに宿る鳴式・天魔は、自身と戦おうとしているのがたった一人の男であることを見るや、堪え切れぬといった様子で嘲笑する。

 

 

────何ダ? 結局戦ワセルダケカ?

 

────ソレデイイ 所詮、貴様ラナドソウシテイルノガオ似合イ────……

 

「黙れッ!!」

 

 

 瞬間、男から覇気が放たれた。

 

 たったの一言。

 何のことはない二文字。

 されどそこに込められた怒りの熱は、天魔の嘲笑を止めるのに十分以上の迫力をもっていた。

 

 そして、光太郎は言う。

 

 

「俺は、彼らを誇らしく思う。自分の守りたいもののため、勇気を振り絞り、そして立ち上がった彼らを、同じ国に住む者として尊敬する」

 

「何をやっても無駄といったな。それは違う! 彼らが戦い、残像軍団を食い止めている間に、多くの人々が安全な場所へ逃げることができた! これは、俺一人では決してできなかったことだ。彼らの協力なくして、叶わなかったことだ!」

 

「彼らは決して諦めない。明日へ向かって歩み続けている! その道のりを、貴様が邪魔するというのなら……この俺が絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛ッ!!

 

────クダラン ナラバ貴様ノ死ニ様デ、人間ドモヲ絶望ヘト沈メテヤロウ

 

 

 言いながら、天魔は静かに光太郎へとターゲットを定める。

 先ほどの威圧で、鳴式・天魔はこの男を脅威であると判断したのだ。

 

 この男こそが(かなめ)

 コイツを潰せば、ここは総崩れとなる。

 他は後でどうとでもなる。

 

 そんな考えのもと、巨大ガニを立ち上がらせる。

 

 だが果たして、舐められたままで『彼ら』が黙ったままでいるだろうか?

 

 

「────許せねぇのは俺らもだぜ、仮面ライダー……!」

 

 

 否。断じて否。

 特選部隊、アイヌ、そして興奮状態のヒグマ。

 

 巨大ガニによるダメージは未だ根深く、満足に戦える状態ではすでにない。

 しかしそれでも「舐められたままでたまるか」と、彼らは立ち上がった。

 

 まさに不屈。

 きっとこれからどれだけ倒れたとしても、何度でも立ち上がれるであろうほどの。

 

 

「南光太郎……私も、共に戦わせてくれ」

 

「副将軍……!」

 

 

 そしてそれはこの男も同じ。

 もはや腕は使い物にならず、共鳴能力の発動すらままならない。

 それでも、彼は足手まといになるつもりはなかった。

 

 

「心配は無用だ。こんな有様でも、あのカニの攻撃を一瞬止めるぐらいのバリアは張れるさ」

 

「副将軍、貴方は────」

 

「言っておくが、止めてくれるなよ? あそこまで言われたまま、はいそうですかと呑気に戦況を見守るだなんてこと、とてもじゃないが耐えらえないのでね」

 

 

 なんて強い瞳だ、と光太郎は息を呑んだ。

 副将軍の闘志は、これっぽっちも萎えていない。むしろ、さらに燃え上がるほどだ。

 

 決して負けない。負けたくない。

 諦めたくない。頑張れる。

 燃えるような思いがないまぜとなり、一つの巨大な想いの炎として、彼の肉体を動かしていた。

 

 そして、そんな彼だったからこそ────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────再び、不思議な事が起こった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、これは!?」

 

「俺の体内のキングストーンが、共鳴している!!」

 

 

 突然、光り輝く光太郎のキングストーン。

 『太陽の石』とも呼ばれるキングストーンが共鳴したのは、なんと副将軍。

 

 幾度目かの眩い瞬きの後、閃光が晴れたそこには、副将軍の腰に巻きついた白銀のベルト。

 それに、副将軍はあまりにも見覚えがあった。

 

 そう、それは仮面ライダーBLACKRXの前身、仮面ライダーBLACKのベルト。

 白銀のボディの中心に光る紅のキングストーンが、ある一つの事実を副将軍へと伝えていた。

 

 

「────私が、BLACKに……!?」

 

「……貴方の勇気に応えたのだ、副将軍」

 

 

 あまりのことで半ば呆然とする彼に、光太郎は穏やかに言う。

 

 

「キングストーンが貴方の勇気に応え、分裂して*5貴方に宿ったのだ」

 

「ぶ、分裂……!?」

 

「どうやら、キングストーンも貴方の勇気に魅せられたようだな……副将軍。貴方の見せた勇気、そして闘志。貴方もまた、仮面ライダーとして相応しい」

 

「……!!」

 

 

 私が────俺が、仮面ライダーに。

 

 いつもテレビの向こうで見ていた雄姿。

 それそのものになる覚悟を決め、副将軍は光太郎へと向き直る。

 

 

「……なあまさか」

 

「へ、変身! 変身すんの!?」

 

「ちょ、動画動画……ってああっ!? スマホ壊れてる!!??」

 

「ちくしょう鳴式ィ!!」

 

 

 そして互いに頷き合い、一斉に巨大ガニへと向き直った。

 

 

 ビシッ!!

 スゥーッ……ビシィッ!!

 

 

「変……身!!」

 

 

 ギリギリギリィ……!!

 ビシッ!! ズビシッ!!

 

 

「変……身!!」

 

 

 次の瞬間、二人は同時に眩い光に包まれていく。

 その光は、先ほど副将軍を包んだ光とまったく同じ。

 つまり、キングストーン由来のものであることを示していた。

 

 

────……!

 

 

 まるで太陽を直視したかのような、本能的な危機感を覚える天魔。

 その眼前には、二人の黒いシルエットが立っている。

 

 そして、仮面ライダーとなった彼らは、まるで世界そのものに自らの存在を知らしめるかのように、堂々と名乗りを挙げる。

 

 

「俺は太陽の子!!」

 

 

 ズビッ!! ビシィッ‼︎*6

 

 

「仮面ライダーBLACK(ブラッ)!!」

 

 

 ビッ!! ズビシッ‼︎*7

 

 

RX(アール、エ゛ッ)!!!!」

 

 

 バァーンッ!!!!*8

 

 

 

 

《怒涛のカメラスイッチング》

 

 

 

 

 シュビ!!*9

 

 

「仮面ライダー!!」

 

 

 ビッ!! シュビッ!!*10

 

 

BLACK(ブラッ)!!」

 

 

 ……ギッ!!*11

 

 

 

 

《怒涛のカメラスイッチング》

 

 

 

 

 

葦ノ原安全保障宣言
 

           

どうあがいても希望
 

         

しぬがよい

 

 

「……なあなんか今」

 

「ああ……変な言葉が……急に頭に」

 

「なんだ今の……?」

 

「いやもうどうでもいい! 見ろよほら! カッケェーッ!!」

 

「がっ、がんばれー! 仮面ライダー!!」

 

「バッカてめぇ、俺らも戦うんだよ!!」

 

「わかってるよ! でもこれ言わなきゃ始まんねえだろ!?」

 

 

 揃い立つ、二人の仮面ライダー。

 その雄姿は、HOKKAIDOを守らんと奮闘する者たちの士気をこれ以上ないほどカチ上げるには十二分。

 もはやこの戦場にて、『絶望』の二文字が浮かび上がる未来は消え去ったのだ。

 

 

────……ダカラドウシタ! ソノ矮小ナ異形二体ヲ屠レバ済ム話ダ!!

 

「────ッ!!」

 

 

 そんなことを知る由もない鳴式・天魔は、彼らに向かって巨大ガニを突進させる。

 奇声を発しながら全力疾走する数十メートルの巨体は、あまりにも迫力ある恐怖そのものであったが、事実、今この瞬間だけは、一切の恐れを感じる隙はない。

 

 だって、ヒーローがいるんだから。

 

 

「リ゛ホ゛ル゛ケ゛イ゛ン゛」

 

 

 RXがベルトから棒状の武器を出現させ、構える。

 ピッカー!と光るその様はまるでライトセーバーの如し。

 

 

「いくぞ!!」

 

 

 そのままRXは跳躍。

 バッタのフォルムに違わないその大ジャンプで、一瞬にして巨大ガニの上空へ到達した彼は、落下の勢いのまま巨大ガニへリボルケインを突き立てる。

 

 

「リ゛ホ゛ル゛ス゛ハ゛ー゛ク゛!!」

 

 

 ド級のシャウトと同時に突き刺さったリボルケイン、そして突き立てたカニの頭部からススキ花火の如く吹き出す火花。

 悲鳴もあげられない様子の巨大ガニを尻目に、再び地上に戻ったRXは、抜き取ったリボルケインを振りぬき、そしてゆっくりと下ろした。

 

 

 ドガァーン!!!!(爆散)

 

 

 体内に強制注入されたエネルギーに耐えきれず、巨大ガニはド派手に爆発四散。

 爆発を背後に決めポーズをとるRXが映える映える。

 

 何はともあれ、一撃(ワンパン)であった。

 

 

────ハ?

 

「「「「は?」」」」

 

 

 虚空から天魔の困惑した声が響き、特選部隊員たちからも同様に困惑の声が漏れる。

 

 

 Q.なんで一撃で倒せてんの? 

 

 A.RXだからである。

 

 

────ソウハナランヤロ

 

 

 なっとるやろがい

 

 

「おお……! 流石だRX!!」

 

 

 わなわなとしながら感動する副将軍。

 再三繰り返すが、彼はバチバチのBLACK・RXファンである。

 自宅にBLACK・RXのためだけの部屋を持つ彼にとっては、RXの強さなどとうに知っていることなのであった。

 

 

────マダダ! マダ終ワラン!!

 

 

 しかしこれでは終わらない。

 天魔はすぐさま気を取り直すと、今度はさらに一回り大きな巨大ガニを出現させる。

 残像としてのグレードは相変わらず”津波級”。

 その全身は強靭な硬度を持つ甲殻で覆われており、その巨体も相まって、突進するだけで山々が吹き飛ばされることになる。

 もしもこの残像が都市部に出現していれば、未曾有の大災害となっていただろう。

 

 

────コレデオワリダ!!

 

 

 そんな破壊の権化が、猛スピードでRXへと突進する。

 闘牛のように、されどその大きさとスピードを優に超えながら、巨大ガニは憎き黒バッタもどきを轢き殺さんとする。

 

 RXは動かない。

 彼を案ずる叫び声をよそに、絶対破壊の一撃が────、

 

 

「させはしないッ!! とうッ!!

 

────エッ

 

「────ライダー、パーンチッッ!!!!」

 

「~~────」

 

 

ドガァーン!!!!(爆散)

 

 

────エェ……(引)

 

 

 【悲報】”津波級”残像さん、ワンパンされてしまう。

 

 天魔までもが虚空でドン引きする中、BLACKは静かに残心する。

 

 ここまで何度もワンパンされてしまうと、先ほど私が頭を捻って書きだした巨大ガニの強さを煽る文章はなんだったのかと思わなくもない。

 

 

「……強くね?」

 

「てか、強過ぎね? 俺らの出番なくね?」

 

「もう全部あの二人でいいんじゃないかな」

 

 

 わたしもそうおもう。

 

 

────…………ダ、ダガ肝心ノ我ニ攻撃ハ届カンゾ! 異空間ニイル我ヲ捉エル事ナド────

 

「いくぞBLACK!!」

 

「応ッ!!」

 

────エッ

 

 

 天魔の引き笑いには耳も貸さず、何故か頷き合う恐怖の黒バッタ怪人二人。

 それを見る天魔の困惑は絶頂。

 

 どうして頷き合っているのだろうか。

 どうしてあの蛍光灯みたいなヤバい武器がどこにも無いのだろうか。

 

 いや、というかそもそも。

 

 ……なんでこっち見てるの?

 

 

────……イヤコッチ見ンナ

 

「!! やはりそこかッ!!」

 

────アッヤベッ(ガチ焦り)

 

 

 何故かバシィーン!!*12と地面を叩くRXをよそに、自身の痛恨のミスを理解した天魔は、最大級の危険を感じて逃走を図る。

 しかし天魔のいる異空間は、本来であれば干渉不可の絶対防御の膜同然。

 加えて、そのまま奥に引っ込むだけで簡単に逃走することができる。

 逃走を図るにはあまりにもヌルゲーであった。

 

 

「「に゛か゛さ゛ん゛!!(死刑宣告)」」

 

 

 たった今ムリゲーと化したが。

 

 

「「トゥアッ!」」

 

 

 一斉に飛び上がるRXとBLACK。

 異次元の跳躍力は、天魔が覗き見る異空間の窓へと、二人を容易く到達させた。

 

 そして────。

 

 

「「ダブルキィックッ!!!!」」

 

────アバーーッ!?!?

 

 

 圧倒的な太陽のエネルギーを集中させ放たれた必殺のキック×2を喰らい、鳴式・天魔の本体は、火花を散らしながら異空間の奥へと吹っ飛ばされていく。

 

 異空間を開いていた者がいなくなったからか、ふっと消えるように閉じた異空間の窓を見上げながら、着地したRXは苦々し気に呟く。

 

 

「……逃がしたか」

 

「逃げ足の速い奴め」

 

 

 BLACKも同調し、悔しそうに拳を握った。

 

 そう、天魔はまだ死んでいないのだ。

 そもそも『死ぬ』という表現が鳴式に当てはまるのかは疑問であるものの、とりあえず天魔はこのジャンボ☆チートのダブルキックを喰らい生き延びたのである。

 

 もはや偉業に近い。この時点で天魔は全国鳴式ランキングにて最上位に躍り出ることとなるだろう。

 知らんけど。

 

 何はともあれ、危機は脱した。

 残像の気配が完全に消失したことを確認し、二人の仮面ライダーは静かに変身を解除する。

 暖かな光の後、南光太郎と、副将軍の姿へと戻る二人。

 

 その直後。

 

 

「「「「うおおおおおおおおっっ!!!」」」」

 

 

 山々を揺るがすような、特選部隊とアイヌの勇士たちによる割れんばかりの歓声が響き渡る。

 

 それも当然。

 彼らは今、人智を超えた存在を相手に、己たちの手で故郷を守り抜いたのだから。

 

 ヒグマたちも前足を掲げて喜んでおり、すっかり打ち解けたのか、隊員の一人がヒグマと熱いハイタッチを交わしていた。

 普通なら腕ごと持っていかれそうな光景だが、彼らのテンションは今や限界突破状態にある。ヒグマの肉球の弾力すらエンタメとして享受できる無敵状態なのだ。

 

 

「ありがとう、南光太郎。君のおかげで、この地は守られた」

 

「いや、俺一人の力じゃない。貴方たち葦ノ原の民の『決して諦めない心』が、勝利を呼び込んだんだ」

 

 

 熱い握手を交わす二人。

 副将軍の目には再び涙が浮かんでいたが、それが希望と、そして推しと共闘できたという特大のクソデカ感情からくる歓喜の涙であることは、誰の目にも明らかであった。

 

 ふと、副将軍は空を見る。

 そこには未だ、忌々しい結界がある。

 

 まだまだ、戦いは終わってなどいないのだ。

 

 

(……これでHOKKAIDOはひとまず持ち堪えた。あとは、他の戦線がどうなっているかだが……)

 

*1
アイヌ語で「我々で細かく叩いたもの」という意味。

*2
アイヌ語で感謝を表す言葉。

*3
どちらかというと静岡の名産なんだとか。

*4
なんて?

*5
なんて??

*6
右腕を正面に、左腕を腰へ

*7
右正面で腕をクロス、左下に振り下ろしてから右上に掲げる

*8
左の拳をぐっと握る

*9
右腕を前方に、左腕を腰へ

*10
右正面で腕をクロス、左下に振り下ろしてから右上に掲げる

*11
右の拳をぐっと握る

*12
マグニチュード7




鳴式・天魔「コンナハズジャナイノニィ!!」

筆者より
 もしかしたらこれから、今まで更新してきた『復権の葦ノ原』篇の他の章を同時更新していくかもしれません。
 その時は、ご了承を~。
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