たとえ文字数が少なくとも、戦え────。
AKIHABARA。
葦ノ原屈指の電気街として知られ、またアニメやゲーム、漫画に関するショップが立ち並ぶサブカルチャーの拠点。
鳴式の脅威に晒され、未来に希望を見出せない『暗黒期』と呼ばれる葦ノ原を支えた、この国の『創作』の心臓部とも言える場所であるこの地区もまた、鳴式の破壊対象としてターゲットにされていた。
思考としては単純だ。
鳴式は何よりも、人類の悪感情を好み、それを糧に成長する。
となれば、今まで心の支えとしてきた『創作』────その一大拠点とも言えるAKIHABARAを壊滅に追い込み、葦ノ原の人間たちから根こそぎ希望を奪おうと企むのも当然と言えた。
忌々しき鳴式・天魔の企みは、まさに妥当と言わざるを得ないだろう。
しかし、鳴式は大きなミスを犯した。
犯したミスはたった一つ。
それは────、
「いくぜお前ら! 真のヲタ芸、みさらせや~!!」
「「「「
────アキバの住人たちを、ナメてかかったことである。
「────ッ!」
「すっとろいなァまったく! ほれほれ、ニーハイッ、オーハイッ!」
「ソイヤァ! フハハ、どうしたァ!? ソイヤァッ!!」
OADを経由しての”サンダースネイク”。
”ロマンス”、”ロザリオ”。
”アマテラス”、”スサノオ”、”ツクヨミ”、”エルトリックス”。
鳴式・天魔により生成された、
それが
統制の取れた、それでいて狂気すら感じる『ヲタ芸』の動き。
それはもはや高度な武術であった。
彼らがサイリウムを振り回すたびに、そこから放たれる極彩色の斬撃が、邪悪なる残像どもを次々と切り裂いていく。
勿論、彼らは共鳴者などではない。
彼らがこのような芸当を可能としているのは、彼ら自身が磨き上げ、極限に至ったヲタ芸の技術と────彼らが振るう、特殊な魔改造を施されたサイリウムにあった。
『────充 ぅ 電 し て い っ て ね ! 充 ぅ 電 し て い っ て ね ! 充 ぅ 電 し て────』
「! 充電だ! 交代頼む!!」
「応!!」
サイリウムから流れた、何やら気の抜けるゆっくりとした人工ボイス音声*1を聞いた打ち師のひとりがそう声を上げれば、すぐさま背後で待機していた別の打ち師が、瞬きの隙すら与えないほどスムーズな動きでもって彼と入れ替わった。
そうして下がった男は、最後尾に鎮座する、メガネ輝くひとりの男のもとへ。
その男の周囲には、人間大の大きさをした箱型の機械が配置されており、メガネの男はその中央に座ってひたすらパソコンを弄っている。
打ち師の男は、そんな彼を囲む機械の内一つの前に立つと、両手に持ったサイリウムをその機械へと、まるで剣を鞘に収めるかのようにして差し込んだ。
『 充 ぅ 電 中 な の ぜ ! 充 ぅ 電 中 な の ぜ ! 充 ぅ 電 中 な の────』
サイリウムを差し込まれた箱型機械から、先ほどサイリウムから流れた人工ボイス音声よりもいくらか低いボイス*2が響き渡る。
そうして、何度目かの音声の後、ピーッというブザーとともに箱型機械から廃熱がなされ、差し込んだサイリウムのロックも解除される。
『 充 ぅ 電 完 了 ぉ な の ぜ !』
『『ゆ っ く り し て 逝 っ て ね !』』
「ッシャオラ、いくぜーッ!!!!」
気の抜ける合成音声がそう報じれば、男はその声を激励として再び戦場────否、ステージへと舞い戻っていく。
気合の入ったその姿を、メガネの男はキーボードを叩く手を決して止めることのないまま見送った。
「ふふふ……決戦になんとか間に合わせたガラクタ同然の代物だけど、こうまで役に立っているなら問題ナシ、だね……」
メガネを光らせ、不気味な笑みとともにキーボードを叩く男。
彼こそがこのサイリウム型兵器────『
何を隠そう、彼もまたオタク。
既に周知の事実ではあるが、オタクが寄り集まっているとたまに一つの分野にアホみたいに秀でた者が出てくることがある。
そういった才能が向かうのは、大抵その手の者以外にとっては「くだらない」としか思えないものだが────兎も角、このメガネの男もまた、そういった類の人間であった。
来たる鳴式決戦に向け、オタクたちを戦力とすべく急ぎ開発した決戦兵器。
理論上どんな物質でも綺麗に両断してしまうヲタセーバーだが、いちいち充電が必要な点といい、まだまだ改良の余地があった。
ブツブツブツブツ「充電をカートリッジ式に変えてみるのはどうだろう? もしくは打ち師そのものを生体電池として流用して────」ブツブツブツブツ
止まらず溢れるアイデアをそのままに、リアルタイムで箱型充電機の調整を行うメガネ。
こうした部分もまた改良可能。特殊なマゾであるメガネのテンションをブチ上げる燃料にしかならない。
ちなみにあのゆっくりボイスは、マゾメガネのただの趣味である。
彼曰く、「趣味は何事にも優先される」とのことらしい。
「────……」
しかし、残像も馬鹿ではない。
むやみに近づけば斬られるだけと学習した残像たちは、戦闘方法を切り替え、打ち師たちから距離を取って隙を伺い始める。
一部の遠距離攻撃可能な残像などが弾幕を張り、むやみに近づけさせないようにもしている。
「なるほどなるほど……確かにこうなると、先ほどのようにスムーズにはいかないだろうね……打ち師たちも弾幕をさばいているうちに体力切れになる……」
ブツブツと、一人残像たちのとった戦略を分析するマゾメガネ。
彼の
「────だが……それを我々が想定していないとでも?」
ニタァ、という擬音がこれ以上なく合う笑顔を彼が浮かべたちょうどその瞬間。
箱型充電機の影から、まるで布が滑るかのように複数の人物が現れた。
「「「「────AKIHABARAへようこそ、ご主人様♡」」」」
瞬間、戦場には到底似合わない、可愛らしく甲高い女性の声が響き渡る。
声の主は当然、たった今現れたその人影から。
その声の調子といい、現れた彼女たちの様相もまた、戦場にはあまりに似つかわしくなかった。
純白ショートスカートのエプロンドレス。
ふりふりと風に揺れるホワイトブリム。
そう、現れた彼女らは────AKIHABARAが誇る女神、メイドさんであった。
「────ッ」
突然現れた新たなタイプの人間に、残像たちが警戒態勢をとる。
見るからに一般人でしかなく、むしろ積極的に狙っていくべき非戦闘員であるように見える。
故の警戒。
何故そんなタイプの人間が、今ここに出てきたのか。
果てしない違和感は、絶え間ない警戒という形で残像たちの間に蔓延した。
一方、打ち師たちは既に彼女らの存在を知っていたのか、いやに落ち着いていた。
中には、彼女らの可愛らしさに頬を染める者までいる始末。
残像たちがいい加減にしろ*3、と言わんばかりに攻撃を再会しようとした────、
────その時。
「────みんなー! 今日は集まってくれてありがとー♡」
「「「「うおおおおおおーッ!!!!」」」」
大量のメイドさんの中から進み出た一人のメイドさんが突然マイクの電源を付け、なんともプリチーな笑顔で、まるで自身が今立っているのがライブ会場かのような調子で挨拶をかましたのである。
その目線は打ち師たちだけでなく、残像たちにまで向いている。
残像は当然何の好意的反応も返しはしなかったが、打ち師たちに至っては違う。
手にしたサイリウム兵器を振り上げて歓声をあげている。
集結したメイドの中に推しでもいたのか、中には顔中から体液を垂れ流している者もいる。
正直汚ない。
とはいえ、一体何のつもりなのか?
人の心を理解しない残像たちにとって、彼女のとった行動はあまりにも理解不能。
どう見たってふざけているようにしか見えないが、何か違和感があった。
だからこその様子見。
しかし皮肉にも、その様子見が、残像たちの行く先を決定づけることとなったのである。
「それじゃあいくよー! 『純情メイドぶっころ主KISS』、とんとこー!」
「「「「うおおおおおおーッ!!!!」」」」
途端、どこかから流れ出す音楽。
否、どこかから流れているかは瞭然だ。
マゾメガネの周囲にある箱型充電機には、スピーカーの機能もついていて────違う。
そんなことはどうでもいい。
どうして今、音楽を……?
困惑する残像たち。
しかしその答えを、彼らはすぐに思い知ることになる。
秘密のトビラ開けて 会いに来てご主人様
私だけ見てくれる お約束でしょ?
可愛らしい歌声が、戦場の空気を飲み込んでいく。
打ち師たちはといえばすっかり歌う彼女に夢中なようで、さきほどまで残像を切り裂いていたヲタ芸を、今はただ彼女だけに捧げている。
背中も完全に残像へ向けており、隙だらけだ。
油断なんてものではない。
魔法をかけるの Daring Daring
恋はピュアなほど Dirty Dirty
ならば、こちらから仕掛けるまで。
ようやく混乱から抜け出すことのできた残像たちが、早速目の前の馬鹿な人間を殺そうとして────そこで、ようやく気づいた。
簡易ステージに登り歌うメイドの前には、ステージと平行に並んで舞い踊る打ち師たち。
彼らの並び方は整然としており、ちょうど人ひとりぶんくらいの間が打ち師と打ち師の間で空いている。
その隙間から、待機していたメイドたちの姿が覗く。
そしてその手には、彼女たちにはあまりにも似つかわしくない暴力の象徴────、
独り占めさせて全部で お・ね・が・い
────銃が握られていた。
キミに 萌えきゅん 超弩きゅん キ主キ主 ちゅっ♡
永遠の夢に招待 もう帰さない
……一糸乱れぬ銃撃。
まるで訓練された兵士かのように、メイドたちは両手に持った拳銃を撃ち放つ。
響き渡る重なった銃声が、まるで合いの手のように、勢いを増す歌とマッチしていた。
愛をあげる キルキルYou! (Want you)
全部こめかみごと ぶち抜かなきゃ
残像たちはといえば、銃弾の雨に晒され次々と倒れていく。
弾丸が残像たちの堅牢な肉体を着実に削っていき、ミンチにしていく。
しかしそんな状況に陥っていてもなお、彼らは未だ混乱の渦中にあった。
ほら瞳閉じて さぁ(three)two(one)数えて 笑顔いっぱい送りますっ
ばっきゅん☆ばっきゅん☆ばっきゅん☆ばっきゅん☆
おやすみなさい
当然だ。
なにしろ無害としか思えないメイドさんたちが、あろうことか歌に合わせて銃をぶっぱなしてきたのである。
しかし、人類の文化を理解しない知性無き残像だからこそ、この程度の混乱で済んでいる。
もしこれで敵対者が人間だった場合、まず動けはしないだろう。
脳内に膨大な情報を送り込まれるのである。簡易版無量空処、とでもいったところであろう。
キミに萌えきゅん 超弩きゅん キ主キ主 ちゅ (love you)
永遠の夢に招待 もう帰れない
愛をあげる キルキルYou! (want you)
心臓を取り出して 抱きしめるの
とはいえ、残像たちもいつまでもただ黙って銃殺されているわけではない。
気を取り直した者から次々と、銃弾のダメージを無視しながら特攻を仕掛ける者もいた。
狙うのは勿論、銃撃を行うメイドと、今も尚ノリノリで歌うメイドだ。
彼女らを倒せば陣営は総崩れとなるという、的確な判断だった。
しかし、そんな暴挙を打ち師たちは許さない。
ほら瞳閉じて さぁ(three)two(one)数えて 笑顔いっぱい送りますっ
ばっきゅん☆ばっきゅん☆ばっきゅん☆ばっきゅん☆
もう止まらない
歌にのったことで、よりキレと勢いを増したヲタ芸はその威力も比例して増大。
洗練された熱線斬撃が、突進してくる残像たちを片っ端から両断していく。
その姿はまるで、姫を護る
近づけば
残像たちはようやく悟った────自分たちは既に、詰んでいるのだと。
恋のバトル炎上中 おとめ純情暴走中
キミのハートにいま命中 萌え萌え ばっきゅん☆
「「「「うおおおおおおーッ!!!!」」」」
────歌が、終わった。*4
「可愛かったよー」やら「最高だぜ」などの様々な歓声が飛び交う中、歌っていたメイドさんは最高の笑顔でそれらを受け止める。
流石はプロ、といったところだろうか。
「みんなありがとー♡」
「「「「お疲れさまでした、ご主人様~♡」」」」
「「「「FOO────!!!!」」」」
メイド一同からの労いに大興奮のヲタクたち。
華やかな賑わいの背後では、斃された残像たちが死屍累々の様子で倒れている。
しかし、段々と消滅していくそれらに目を向ける者はここにおらず。
AKIHABARA中央通りにて繰り広げられた激闘は、人間側の圧勝に終わったのだった。
────ちなみに。
どうしてただのオタクである彼らが、こうして必死に戦っていたのかと言うと。
まあ単純明快。
コミケ諸々のイベントが無くなるかもしれないという危機感故であった。
「なんてくだらない」と思ったそこの方。
気持ちはわかるものの、『創作』とはここ葦ノ原を支えてきた一柱である。
そしてコミケとは最大の自己表現の祭典。当然『創作』はいっそうの盛り上がりを見せることになり、冗談抜きに葦ノ原の希望を紡ぐことに多大な貢献となっているのだ。
あと理由があるとすれば……決戦前、とある掲示板に浮上した、この投稿のせいもあるだろう。
43:名無しさん ID:YY8Kw0vZL
決戦負けたらコミケ無くなるかもって言ってる人たちいますけど、正直傍観してるだけの立場に甘んじてるんじゃ決戦負けてコミケ無くなっても何も文句言えないっすよねwww
正直うざい。
間違いなく正論なのだが、オタクたちはその書き方にイラっと来た。
なので見返すべく、勇士を募って今回の戦いに望むことになったのである。
彼らは決して、人類の存亡を懸けた崇高な使命や正義感だけで戦っていたわけではない。
彼らをここまで突き動かしていたのは、紛れもなく己の『好き』を貫く強烈なエゴと、ネットでの煽り耐性が致命的に低いという、愛すべき業の深さである。
だが動機はどうあれ、結果として彼らが振るった光の刃とメイドたちの鉛弾がこの街を、ひいては葦ノ原の『希望』を完全死守してみせたのだ。
かくして、サブカルの聖地・AKIHABARAは守り抜かれた。
迫り来る次のコミケの無事の開催と、己の命よりも重い『推しの笑顔』を護る、誇り高きオタクたちの手によって────。
歌詞初めて使いました。ちゃんと設定できてるかなドキドキ……