『HENTAI』の国、葦ノ原   作:チョコレイト・リリー

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とりあえず章のプロローグだけでも。「こんなことやるよー」っていうお知らせみたいな。
それはそれとして、前章の方を優先的に更新したいと思っています。


Q アナタにとって葦ノ原とは?
逸話任務:アナタにとって葦ノ原とは?


「……というわけだから、頼むよ! ヴォイドワームライダー!」

 

「えっ……と……」

 

 

 某日。

 鳴式・アレフ1との激闘を終え、暫しの安らかな休息を満喫していた漂泊者は、活気あふれるスタートーチ学園にてひとりの学生に頭を下げられていた。

 

 

「その……とりあえず、頭を上げてくれない? 目立つから……」

 

「オット、ごめんよ」

 

 

 どこか気まずそうに、学生の頭を上げさせる。

 

 漂泊者としては、こうして頼み事をされること自体は慣れていた。

 瑝瓏、ブラックショア、リナシータ、そしてラハイロイ。

 今まで旅した多くの国で、同じように頼み事をされ、そしてその(ことごと)くを形はどうあれ必ず解決に導いてきた熟練者としてのオーラは隠しきれるものではない。

 「この人なら!」という予感を人に抱かせるのだ。まるでそういった類のフェロモンでも漂わせているかのよう。

 

 そんな彼女でさえ、今回の頼み事は二つ返事で受けることができなかった。

 理由は主に二つ。

 

 まず、依頼内容。

「葦ノ原についてインタビューしてくれないか!?」

 目の前で今所在なさげにしている学生が、漂泊者を見つけて開口一番飛び出した言葉がこれである。

 内容自体は理解できる。

 ただ普通に「自分でやればいいのでは?」という疑問は無視できるものではない。

 

 そして、依頼者であるその学生。

 スタートーチ学園の学生であることはわかる。学校指定の制服を着ているし、腰のベルトには学生証が提げられている。

 しかしそれ以外の────具体的には、制服の上から着た派手な色合いをした着物(後ほど千咲に聞いたところ、これは『羽織』というのだとか)や、頭の上で無視できない存在感を放つ、特殊な形に結い上げられた謎の髪型。さらに背中には、明らかにおもちゃとわかる刀が背負われており、とどめと言わんばかりに、その肌はまっしろな塗料のようなもので化粧されている。

 これらが彼の存在感というか異質感というものを、歴戦の猛者たる漂泊者をして怯んでしまうくらいのレベルにまで押し上げていたのである。

 

 

『なあ漂泊者……コイツなんか変だぞ……無視して飯食べに行こうぜ……』

 

(ま、まあまあ……)

 

 

 音痕の中で明らかに引いているアブをなだめながら、漂泊者は咳払いをひとつ。

 どうあれ、こうして自分に話をしに来てくれたことは事実。

 となれば、漂泊者に彼を無下にする理由は無かった。

 

 ……例え、彼がどんなに辺鄙な恰好をしていたとしても。

 

 

「ええと。まずあなたの名前は?」

 

「! そ、そうだった! まず名乗りを上げるべきだったね!」

 

(そんな仰々しいものではないのだけれど……)

 

 

 ますます困惑を深める漂泊者をよそに、学生は再び腰を折った。

 

 

「お初にお目にかかります。手前、生国と発しまするはリナシータ……」

 

「……?」

 

「潮風香るラグーナにて産湯を使い、姓はバッシ、名をヴィエリ。人呼んで『葦ノ原かぶれ』と発します」

 

「あの……」

 

「栄えある学園生活送る為、遥々海越え国越えて……やってきましたラハイロイィ!」

 

 

「以後お見知り置きのうえ、向後万端よろしくお頼み申しますゥ!」

 

 

 パチパチパチ……と遠慮がちな拍手が巻き起こる。

 あまりにも堂に入った名乗りだったためか、いつのまにか周囲には野次馬が少なからず集まっている。

 そんな彼らに漂泊者もつられて拍手。

 名乗りそのものは、不思議な迫力があり見応えがあった。脳内は困惑でいっぱいだったが。

 

 

「あの……今のは?」

 

「葦ノ原のあいさつだよ! 葦ノ原の人たちは皆、こうやってあいさつをするんだって!」

 

「そうなんだ……」

 

 

 えらく時間のかかりそうな挨拶だね、とは言わないでおく。

 しかも多分間違った情報だ。

 だって千咲も緋雪も葦ノ原出身だが、一度だってそんな挨拶をしてきたことはない。

 遠慮してやらなかっただけの可能性も無くもないが、その可能性は個人的に考えたくない。

 

 諸々のツッコミを優しさから放棄して、漂泊者はひとまず話を前に進める。

 

 

「葦ノ原が好きなんだね」

 

「そりゃあもう!! 本当に、ほんっとうに! 葦ノ原大好き!!」

 

「あはは……すごく伝わるよ」

 

「スシ! テンプラ! サムライにスモウにブシドー! ハラキリも大好きさ!!」

 

「そっかそっか(ハラキリ……?)」

 

「アイラブ葦ノ原!! クール・アシノハラ!! ビューティ・アシノハ────

 

うんわかったOK。ところでさっきのインタビューしてほしいっていうのはどういうこと?」

 

 

 このままでは止まらないと察した漂泊者により、ヴィエリの葦ノ原愛語りは強制中止。

 多少強引だったかなと思わなくもなかったが、本人が特に気にしていなさそうだったので彼女も気にしないことにした。

 

 

「オット……こいつぁ失礼」

 

「キャラ変わってるし……」

 

 

 葦ノ原の映画に影響されてね!と、ヴィエリは笑ってからようやく本題へ入った。

 

 

「まあ内容としては単純だよ! 葦ノ原に縁のある人にインタビューしてもらって、葦ノ原についての記事を書くのさ! 葦ノ原はつい最近世界と国交を結び始めた、まだまだ謎の多い国……いくらかこの学園にも葦ノ原出身者はいるけれど、ごく少数だ」

 

(……確かに。かなり多くの学生たちと関わってきたけれど、葦ノ原出身者は今のところ緋雪と千咲だけ……。それ以外にもいたことすら今知ったんだから、いても数人ってところなのかな)

 

 

 顎に手を当てる漂泊者をよそに、ヴィエリは懐から出した扇子でわざとらしく顔を仰ぎながら言葉を続ける。

 

 

「そ! こ! で! 君の出番だよ、ヴォイドワームライダー!! 君ほどのネームバリューがあれば、葦ノ原出身の学生たち、果てにはあの”ハサミ撫子”、朽葉千咲さんにも話を聞けるはずだよ!!」

 

「……その、話の腰を折るようで申し訳ないんだけれど、そもそもの話、あなたが自分でインタビューすればいいんじゃないの? 千咲以外の学生はわからないけど、少なくとも千咲は、初対面の相手をいきなり邪険にするような子じゃないよ」

 

 

 もっともなことを問う彼女の脳裏に、穂波のソノラで共に事態を解決する中で見た、彼女の礼儀正しく、落ち着いた雰囲気が思い出される。

 穂波の『過ぎし人』たち一人一人に丁寧に向き合っていた彼女なら、どんな相手であれ、よっぽどの失礼をしなければまず無下に扱うことはないだろう。

 未だ顔すら知らない、他の葦ノ原出身の学生たちに関しては知る由もないが、漂泊者にとって千咲という人間は、そういった評価を下すことのできる人間だった。

 

 そう、だからこそのこの疑問。

 しかしヴィエリはといえば、これまでのやり取りの中で一番気まずそうに、人差し指をチョンチョンと突き合わせ始める。

 

 

「ええとね。まあうん、そうしたいのは山々なんだけどね……」

 

「?」

 

「────なんでかなぁ。僕が話しかけると皆ビビっちゃうんだよね……」

 

「あー……」

 

 

 ────気付いてないのね、原因に。

 漂泊者は思わず溜息を吐いた。

 思うに彼は、今までどんな時でもこの恰好をやめたことはないのだろう。先ほどの葦ノ原への入れ込みようからして、教授に何を言われようが「サムライ魂です!」と拒否する場面が用意に思い浮かんだ。

 

 となれば、インタビューの際でもやめるわけがない。

 「すみませ〜ん」という声に振り返ってみれば、そこには辺鄙な恰好をした男が一人。しかもじりじりとにじり寄ってくるのだ。

 これで逃げないのは逆におかしい。よっぽどのことでなければ後ずさることはないだろう漂泊者が、普通に二・三歩後ずさった威力は決してバカにならない。

 

 悲しそうにしている彼には悪いが、失敗は必然と言うべきだろう。

 

 

「……わかった。いいよ、代わりにインタビューすればいいんだよね?」

 

「……!! 受けてくれるの!? ありがとう!! 嬉しいよ! 本当にありがとう!!」

 

 

 半分呆れながらも、漂泊者が頷いて見せれば、ヴィエリはまるで子供のように跳ねて喜び始める。

 なんとも微笑ましいものだ。

 あそこまで喜ばれると、苦笑交じりとはいえ、彼女まで嬉しくなってしまうというもの。

 

 肝心の恰好があんなんじゃなければ、もう少し微笑ましくなれただろうが。

 

 

「それじゃあ機材を渡すよ!! 君に聞いてほしいのはズバリ、『葦ノ原のマル秘エピソード』! その人のとっておきの、葦ノ原を感じさせる話を聞きだして欲しいんだ!」

 

「? 葦ノ原の基本的な情報はいいの? 国の規模とか……そういうのも、記事にするなら必要じゃない?」

 

「そっちは僕に任せてほしい! 流石に全部任せっきりだとアレだからね! 一人でできるところはこっちが担当するさ!!」

 

 

 もうすっかり興奮しているのか、目をキラキラさせながらガッツポーズで答えるヴィエリ。

 その目は、まるで少年のように眩しく輝いている。

 

 

(……こういう目を、護ったのよね)

 

 

 夢を追い求める、純粋無垢な美しい瞳。それを見て、漂泊者はなんとなく感慨に浸った。

 

 アレフ1との戦い。

 毎度の如く残星組織(フラクトシデス)の邪魔が入り、かなり前途多難な道のりだったとは思う。

 悲しみもあった。自分の過去の一端にも触れた。

 しかしそれでも、こうして自分たちが護ったものを目前にできるのは、不思議な達成感のようなものがあった。

 

 

「────はいコレ! 撮影機材ね! 任せたよ、ヴォイドワームライダー!」

 

 

 機材を渡すや否や、猛ダッシュで駆けていくヴィエリ。

 その背を見送ってから、漂泊者は渡された機材を手に「さて」と息を吐いた。

 

 

「早速インタビュー……の前に、まずは腹ごしらえだね。行こうか、アブ」

 

『うー、やっとか! 待ちくたびれたぞ!』

 

 

 手の甲の音痕にそう声を掛ければ、待っていましたと言わんばかりに白い影が飛び出す。

 

────食事を済ませたら、アブにもインタビューを手伝ってもらおう。

 

 そう考えながら、漂泊者たちは歩を進めるのだった。




『ところで漂泊者。まずは誰に話を聞くんだ?』

「ん~……やっぱり千咲かな。千咲以外の葦ノ原出身の学生は知らないし、緋雪も今は出掛けているらしいから……」

『決まりだな! どんな話してくれるんだろうな~? スシとか、テンプラとかの話もしてくれるかな~?』

「まったくもう……アブはそればっかりね」
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