アダム・マルコビッチ先生   作:ウエストモール

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まずはプロローグに出てきた生徒を中心に……


アダムとワカモ

 七囚人の一人にして、〈災厄の狐〉の異名を持つ狐坂ワカモがアダムと初めて出会ったのは、彼が着任したときだ。

 

 とある人物の手引きで矯正局を脱獄したワカモは、連邦生徒会に不満を持つ不良達を扇動して暴れ回っていたのだが、アダムの指揮を受けた生徒達によって阻止されてしまう。

 

 その後、シャーレの地下室に潜入した彼女は、連邦生徒会長が残したとされる〈シッテムの箱〉を発見し、何も分からぬまま悩んでいると……

 

「うーん……これが一体何なのか、まったく分かりませんね。これでは壊そうにも…………あら?」

「動くな。武器を捨てて、投降せよ」

 

 そこに現れたのは、アダムだ。銀河連邦軍制式のサブマシンガンを構え、目の前のテロリストに投降を促した。

 

「あら、あらあら……あ、あ……」

「君、どうかしたかね?」

 

 あの暴れっぷりが嘘のように挙動不審になったワカモは、開いたバイザーから覗かせているアダムのダンディな顔を凝視する。

 

「し、し……失礼いたしましたー!」

 

 直後、ワカモは大声を上げて逃走する。唐突の大声にアダムは面食らったのか硬直し、逃げる隙を与えてしまった。

 

「……若者はよく分からんな」

 

 数日後、両者はシャーレのオフィスにて対面することとなる。

 

 

 

 

 

「何の用かね?」

 

 その日、シャーレに予期せぬ来客があった。アダムはデスクに座りながらも、サブマシンガンを構えてその人物に問いかけた。

 

「あ、あなた様とお話したいだけなのです。このワカモ、あなた様への敵意などありません」

「ふむ。襲撃というわけではなさそうだな」

 

 監視カメラでワカモが来訪したことは分かっていた。本当に襲撃のつもりなら真正面から分かりやすく来るはずがないのだ。

 

「武器だけでも、そこに置いてくれるかね?」

「は、はい……」

 

 ワカモは近くのテーブルにライフルを置く。木製の部分が目立つボルトアクションライフルで、芸術品のように飾り付けられている。その先には銃剣も存在していた。

 

「敵意のない証明になるか分かりませんが……」

 

 さらに、指示されていない狐の面までも彼女は外し、ライフルと共にテーブルに置いた。そこにあったのは、凶悪犯とは思えないような可愛らしい顔。そして、そこから向けられる熱っぽい視線だった。

 

「その仮面、外してしまって良かったのかね?」

「ええ、構いません。素顔はあまり他者に見せないのですが、あなた様には特別に……」

 

 ワカモは頬を赤く染める。暴動の時とは打って変わって乙女のような振る舞いをしており、アダムに対してただならぬ熱情を抱いていた。

 

「ワカモ、私と話がしたいと言っていたな。とりあえず、そこにかけたまえ。茶でも出そう……何か希望はあるかね?」

「いえ、あなた様に出していただけるものであれば、何でも……」

 

 しばらくして、ワカモの前に出されたのは緑茶だった。彼女の出身が百鬼夜行連合学院であることから、口に合うだろうという判断だ。

 

 

 

「実は私、あなた様に一目惚れしておりました」

「一目惚れ……私に?」

 

 アダムも薄々察していたが、ワカモは彼に一目惚れしていた。銃を向けられるという友好的とは言えない出会いだったが、恋愛感情が上回ったのだ。

 

「一目見た時からあなた様に男性としての魅力を感じ、ずっと想い続けていましたの。凶悪犯という身ですが、一つだけお願いしたいことがございまして……」

「君の想いに応えることは難しい。私は大人で、君はまだ子ども……君に対して恋愛感情を持つことはないだろう」

「それでも構いません。このワカモ、あなた様のお側に置かせていただきたいのです」

 

 アダムは子どもである彼女とそのような関係になれないことを伝えて断るが、それでもワカモは近くにいたいようだ。

 

「ならば、シャーレに所属したまえ。君が脱獄犯であることは承知だが、シャーレの権限を使えば何とかなるだろう。保護観察と称して連邦生徒会やヴァルキューレにも伝えておく」

 

 シャーレは超法規的組織だ。あらゆる学園の生徒を無制限に加入させることができ、停学中のワカモも例外ではない。アダムはキヴォトスの法律を読み込み、連邦生徒会に確認を取りながら自らの権限を理解していた。

 

「よろしいのですか?」

「ワカモ、君に更生の意思があるならば、力を貸せる。それが先生としての……大人としての務めだ」

「ありがとうございます、あなた様……」

「だが、一つだけ約束してほしい。勝手に暴れまわるようなことはしないでくれ。他の生徒にケンカを売ることもなく、戦いは自衛程度に留めることだ……分かったかね?」

「は、はい!」

 

 数日後、ワカモは晴れてシャーレ所属となった。各所に根回し済みでその事実も広まったとはいえ、シャーレに訪れた生徒が驚いてしまうと思われた。

 

 しかし、世間の認識は狐の面を付けている姿が一般的で素顔を知らない者が多かったこともあり、着替えた上で伊達眼鏡をしているので気付く者は多くなかった。

 

 彼女は主にシャーレ内で事務作業に従事しており、外出もそれなりに許されていた。たまに不良同士の抗争の鎮圧に駆り出されることもあり、息抜きはできているようだ。

 

 なお、アダムがシャーレに帰ると割烹着を着用したワカモが待っていて、夕食すら用意されていた。まるで嫁のように振る舞っており、後に他の生徒達との関係でちょっとした火種になったとか。

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