モブは見守りたい【マジエク二次】   作:taisa01

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本日二話目投降


第一話 原作開始前)その一

 碑文(ひふみ)家は、古い家だ。

 家系図を見れば簡単に3・40代遡れるとか、家に蔵がいくつもあるとか、年始の親戚の集まりとなると人数が多すぎて、挨拶が長すぎて子供が全員眠くなるとか、そういう話だけではない。

 

――文字が古い

 

 柱に刻まれた文字も、蔵に安置された札に書かれた文字も、石板に彫り込まれた文字も、金属板に焼きつけられた文字も、誰かが遠い昔に置いていった火種のように残っている。

 読めないもの。

 読めるが使えないもの。

 読めて使えるが、使うと大人に怒られるもの。

 碑文(ひふみ)家には、それらが当然のように積まれていた。

 

 たとえば刻乃(ときの)が五体満足で子供時代を過ごせたのは、この家に古くから存在している治癒刻印のおかげだったりする。

 

 碑文(ひふみ)家の奥にある工房。畳の下。壁の内側。天井裏。部屋全体に刻まれた、古い治癒用の魔法文字。たとえ血みどろになっても、腕の一本や二本がもげても、死にさえしなければ延命し治癒する。

 魔力があれば問題ない。

 魔力がなくても、床下に組み込まれた魔石が稼働するので問題ない。

 

 問題ない、という言葉の方向性がおかしい。

 

 だが、碑文(ひふみ)家ではそれが普通だった。

 

 外から見れば職人一族。

 内から見れば、刻印魔法に狂った一族。

 

 碑文(ひふみ)家。

 刻印魔法の大家。

 

 工業化と現代魔法が進化融合した時代であっても、源流技術、古典技術としてしぶとく生き残っている家である。

 

 例えば、魔石に刻印を刻み、利用者の適正問わず少量の魔力で火の魔法を発動させるアイテムを作ることができる。要はダンジョンで産出される火の刻印石を、人工で作ることができるわけだ。

 日々生活に使う家電製品の中にも普通に組み込まれている。

 ほかにも、装備品の強化。

 属性付与。

 対象の封印。

 エトセトラ、エトセトラ。

 

 刻印魔法は一定レベルまでは誰でも使える。工業化もできる。そんな特性だから社会インフラにもなる。

 その一定を超えるものが職人とよばれている。

 

 とはいえ、時代によって新たに生まれるものもあれば、喪失した技術も多い。

 ある一点を超えた刻印魔法は、職人の腕で成り立つ技術のため、再現できる職人がいなくなればそれで終わる。

 

 喪失した技術の筆頭といえば、和国の皇室に収められている神器の一つだろうか。

 広範囲のダンジョン発生を抑止し、さらに使用者と条件に合致した者以外の魔法発動を阻害する広域結界用魔法具。

 文献でしか見ることができない、碑文家の当主である祖父もその話になると少年のような目をする。

 

「見たい」

「盗むのか?」

 

 ある日、幼い刻乃の言葉に祖父が鼻で笑いながら反応する。

 

「駄目じゃないか」

「見たら知りたくなって、触りたくなる。そして解体して作りたくなるだろ」

「そんなものか?」

「そんなものだ」

 

 確実にダメなことをいう祖父に、刻乃は諦めと納得という感情を学ぶのだった。

 とはいえ刻乃は、碑文家の大人たちが好きだった。

 

 変人ばかりだが、嘘が少ない。

 好きなものには狂う。

 嫌いなものには近づかない。

 金はあるが、経営には興味がない。

 付与アイテム開発・販売・付与魔術応用家電製造の最大手企業の株式五十一パーセントを保有しているのに、祖父は株主総会の資料を見て「この社章の刻線は甘い」と言う。

 

 そこではない。

 たぶん。

 そんな家に、刻乃は生まれた。

 

 女として。

 碑文(ひふみ) 刻乃(ときの)として。

 そして、前世の記憶を持つ者として。

 

 幼い頃から、刻乃は少し変だった。

 蔵の魔法文字を見て、前世の知識がざわついた。

 テレビに映る魔法災害ニュースを見て、この世界が普通ではないと理解した。

 ツクヨミ魔法学園という名を聞いて、記憶がつながった。

 

 マジカル★エクスプローラー。

 

 この世界を、刻乃は知っている。

 少なくとも小説三巻まで。

 

 そして、この世界は物騒ということを知っている。

 ダンジョンがある。

 魔族がいる。

 邪神教がいる。

 死亡フラグもある。

 

 刻乃は主人公ではない。

 

 前世があるせいか、女子なのに自認がバグっており、死にたくないという意識も強い。

 

 結論は早かった。

 

 幼少期から魔力を使う。

 魔法を学ぶ。

 凡庸な才能しかなかったが、魔力量だけは努力である程度伸ばせる。

 

 幸い、碑文家には教材が山ほどある。

 通常、刻印魔法は魔法文字や、それを意味する模様を媒介に刻み、そこに魔力を通して発動する。

 強化、付与、封印、結界。

 今では喪失した技術も多い。

 

 そんな時、刻乃は持続光の魔法具に触れた時、一つのアイディアが浮かんだ。

 

「あっ。空中に魔法陣かけるんじゃね?」

 

 光を残し、文字にし、魔力を通す。アニメで見た当たり前のような表現を、なんとなく再現してみた。

 

 最初はただの見せかけだけの魔法陣だった。しかし何度も繰り返し、実際の刻印魔法を描けるようになると意味はかわったのだ。そして最後に炎を発動する刻印を空中に描くことに成功したのだった。

 

 空中刻印の維持をやめれば消えてしまう持続性のなさ。複雑な魔法も事前準備できるという刻印魔法の利点を半分捨てた、かなり無茶な刻印魔法。それなのに文献を調べると、それらしいものが過去に存在するあたり、碑文家の歴史というものの深さを思い知らされ刻乃は大いに笑った。

 

 しかし、遺失魔法の復刻扱いとなる。

 それゆえに職人集団の碑文家の中において、刻乃は一目おかれるようになった。 

 

 故に通常の刻印魔法と並行して研究する。

 

 この空中に描く刻印魔法の真価は派手さではない。大気中の魔力を活用し、刻印魔法を発動させる際の魔力消費量を抑えられること。さらに、刻印魔法が刻まれた魔法具を連結し、一つの魔法として活用できる応用性にある。

 つまり、生存率が上がる。

 とてもすばらしいことだ。

 

 

   ***

 

 

 そんな刻乃が原作主人公である瀧音幸助に出会ったのは、小学校低学年の頃だった。

 校庭の隅。刻乃は地面に木の枝で魔法文字を書いていた。小さな発光の刻印。発動すれば、地面が淡く光る程度のもだ。

 

「なあ、それ何?」

 

 振り向くと、男子がいた。

 髪は跳ねている。

 膝は擦りむいている。

 目は好奇心で光っている。

 触るなと言えば触る顔だった。

 

「魔法文字」

「かっけえ!」

「触るなよ」

「何で?」

「発動する」

「発動すると?」

「光る」

「じゃあ触る」

 

 幸助は躊躇なく触ったが何もおきなかった。

 

 

「話を聞け」

 

 刻乃は魔力を流すことで、刻印が光った。

 小さな閃光が走り、幸助は尻餅をついた。

 

「すげえ!」

「馬鹿か」

「もう一回!」

「馬鹿だな」

 

 それが、刻乃と瀧音幸助の出会いだった。

 

「刻乃って、女なのに俺って言うんだな」

「悪いか」

「いや、かっけえ」

「そうか」

 

 幸助は、刻乃の一人称をからかわなかった。

 

「俺も俺って言う」

「お前は普通に俺だろ」

「確かに!」

 

 深く考えていない。でも、それがよかった。刻乃は刻乃でいたかった。

 女の身体を完全に嫌っているわけではない。だが、前世の記憶があるせいか女として扱われると、少し息が詰まる。

 幸助はそこを、雑に越えてきた。

 馬鹿なりの優しさ。

 あるいは、ただの馬鹿。

 どちらでもいい。

 刻乃にはありがたかった。

 以後、幸助はよく刻乃のところへ来た。

 

「光る文字やって!」

「宿題は」

「やってない」

「先に宿題やれ」

「宿題も光らせようぜ」

「教師が泣くぞ」

 

 遊びの延長で、刻乃は幸助に魔力の扱いを教えた。

 すぐに分かった。

 幸助はおかしい。

 魔力量が多い。

 子供の量ではない。

 だが、放出が壊滅的に下手だった。

 火球を出そうとすると線香花火になる。

 水弾を出そうとすると水漏れになる。

 風刃を出そうとすると、ただの涼しい風になる。

 

「俺、才能ない?」

 

 ある日、幸助が言った。

 夕方の公園。

 ブランコの影が長く伸びていた。

 

「ある」

「本当?」

「ああ。ただし向きが違う」

「向き?」

「お前は撃つんじゃなくて纏うタイプだ」

「まとう」

 

 一般人と魔法使いの違いは魔力量の差である。幸助は子供でありながら大人顔負けの魔力量を誇っているので、魔法使いに分類できる。

 そして魔法の発動にはイメージを伴い、低位のものであれば、相応の魔力とイメージがあれば大抵発動するのだが、幸助は魔力が体から離れた先から霧散するので攻撃魔法のようなものはほとんど使えないのだ。

 

「魔力を身体に流せ。足に流せば速くなる。腕に流せば強くなる。刀に流せば硬く鋭くなる」

「ビーム撃てない?」

「撃つな。撃っても霧散する」

「夢がない!」

 

 幸助は文句を言った。

 でも、やった。

 走って転び、また走り、木刀を振って折り、刻乃に怒られて笑う。校庭の砂埃、夕方のチャイム、公園の鉄棒に残る冷たさ。そういうものの中で、幸助は少しずつ身体に魔力を通す感覚を覚えていった。

 

「俺、すごくね?」

「備品破壊だ」

「可能性だろ」

「請求書だ」

 

 そんな日々が続いた。

 その頃の刻乃は、まだ甘かった。

 原作知識があれば何とかなる。

 幸助を鍛えれば、さらに安全になる。

 危険は避ければいい。

 

 そう思っていた。

 

 物語の背景設定が、誰かの人生を短く折り畳んだものだとは、まだ分かっていなかった。

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