星の鼓動は藍 -Archive of Kamille-   作:可笑名

1 / 3
書きます


藍色の空に
エピソード1:墜落


フォウが、ロザミィが………先に逝ったみんなが僕の背を押してくれる。

肩当たる感触は加速するGが故か、彼女らの手か。

 

 「ここから…いなくなれーっ!!」

 

喉を焼くような絶叫と共に、カミーユ・ビダンは操縦桿を握る。彼自身の持ち得る力、託された意志、散っていった命達の無念、それら全てをバイオセンサーに収束させジ・Oに突撃した。

 

装甲がひしゃげ、火花が散り、バイザーが割れる。

物理的なコックピットへの衝撃と共に、悪夢の様なシロッコの断末魔が脳で響いた。

 

「シ、シロッコ……。や…やったのか…。」

 

途端、巨大な悪意が、疲弊し脆くなったカミーユの精神を焼こうと波状する。それはシロッコの断末魔に乗った怨嗟であった。強いニュータイプの感応が悪意すらも拾ってしまう。

それは皮肉にも今までに連れ立ってきた命や意志を拾ってきたカミーユだからこそであった。

 

悪意の濁流に飲まれ段々と自分というものが遠くなっていく感覚。

自分の内側から自我というものがボロボロと崩れ落ちていくように、暗い暗い湖に沈んでいく様に、現実が遠くなっていく、崩れて…沈んでいく。不思議と怖さは感じなかった。

或いは感じられなかったのかもしれない。

 

宇宙からヘルメット越しに聞こえていた怨嗟の声も、命の消える悲鳴さえも今は遠い。

 

遠くなる意識で、最後に息がしにくいなと思った。

 

ここが暑苦しいとも。

 

 

 

 

 

 

暗闇の中で、ふと、頬を撫でるものがあった。

 

それは涼しくて心地よい、土の匂いを纏った『風』

 

宇宙空間にあるはずの無いもの。

 

体を押すような力に触れて、全身の感覚が返ってくる。

これは重力だろうか。大地に寝転んでいるような感覚があった。

耳鳴りのようなシロッコの怨嗟の声も、戦場のノイズもまるで幻の様に途絶えている。

ただ、ただ、風の音だけが耳にある。

 

重い瞼を開ける。割れたバイザーから溢れるようにして眩しい光が目の中に転がり込んできた。

それに目が慣れてやっと周りを見渡す。

 

そこにあったのは、冷たい宇宙の闇でも、街が回るコロニーの空でもなく、そして環境汚染の進む地球ですらあり得ない、どこまでも高く澄み切った、青い青い空であった。

 

「…ここは?……いや、僕は…」

 

あちこちが痛む体を起こして、ヘルメットを脱ぎ捨てる。響く様な頭痛を抱えながらも周囲を確認するとあたり一面の砂に気がついた。

 

「そうか…僕は不時着したのか……」

 

ティターンズとの最後の戦い、グリプス戦役。同じ主義の旗の色の違いから始まった戦い。

きっとあの戦場から重力に引かれて、地球に落ちてしまったのだろう。戦いの鼓動から離れたこの場所は、あまりに孤独だった。

その孤独は、長い戦いで荒んだ彼を苛むにはあまりに十分であった。

 

頭の中を過ぎ去って行く…失ってしまった命、奪ってしまった命……。

 

脳裏に浮かぶエウーゴの……みんなの……顔。

 

「っっ……カツ……ヘンケン艦長ッ……。」

 

浮かぶ、確かに死んでしまった彼らの顔。

取りこぼしてしまった命たちを思い、両の手の平を見る。

 

「ぁぁ……。エマ中尉ッ……。」

 

降り始めた雨のように涙が手のひらに落ちる。

吹く風だけが肩に触れる。みんな先に行ってしまった。頬を伝う涙を撫でるこの風が、ここが現実であると残酷に告げる。

乾いた砂に、こぼれ落ちた涙も、喉から盛れる嗚咽も、吸い込まれてしまって……すぐに乾いてしまった。

どれほどの時間、そうして泣き崩れていただろう。宇宙の闇で響き続けていた怨嗟も、命が散る瞬間の悲鳴も、ここにはない。ただ、肌を焦がすような強烈な日差しと、どこまでも続く風の音だけが彼を包み込んでいた。

 

「行かなくちゃ……。きっと、ファが……アーガマが待っている……。」

 

ひび割れた声で呟き、カミーユは乱暴に腕で涙を拭った。

深い喪失感に苛まれるこの胸も、抱えていかないと。生き残ってしまったのだから。

冷静であれと努める頭で思う。砂漠に長居するのは危険だ。モビルスーツの不時着時について、クワトロ大尉にレクチャーされたのを思い出す。そういえば、あの人は無事なんだろうか。

 

よろめくようにして立ち上がり、カミーユは自分の愛機、『Z(ゼータ)』を探す。

こうして、自分が無事ってことは、遠くに落ちたわけではないはずだ。

 

多少、落ち着いた頭で改めてあたりを見まわした。

見渡す限りの砂漠。そこに交じる異物たち。アスファルトの道路、倒れかけた標識、信号機が砂の海に沈みかける様にして横たわっている。

そして西暦2000年代のコンクリートの建物群が、そこにあった。

 

「すごいな……こんなの、ハイスクールの教科書でしか見たことないや……。」

 

かつて歴史の授業で見た、西暦の旧世紀末の年の風景。それが、丸ごと砂に飲み込まれようとしている。カミーユは砂に足を取られながらも、半ば埋もれたコンクリートの壁にちかづき、その表面にそっと触れた。

ざらついた感触。だかその表面には無数の不自然な『窪み』があった。

 

「…………これは、どう見たって、自然の風化ってわけじゃ無いよな。」

 

指先でそのクレーター状の窪みをなぞり、カミーユは眉をひそめた。ビーム兵器によるものでは無く、実弾兵器による弾痕。その争いの痕跡が、確かにここにあった。

ひび割れに触れると自然にはがれていく。

 

「まだ……新しいな、これ。一年戦争の時のものじゃないみたいだ。」

 

指先に残るコンクリートの粉を払い落とし、カミーユの表情がさらに険しくなる。

戦闘が行われたのは、ごく最近だ。しかし、カミーユを戦慄させたのは、その弾痕の新しさではなく、目の前の建物の「異様なまでの無事」だった。

 

「西暦2000年と言ったら150年も前のことだ。それがこうもこんなに大量の砂に埋もれているのに、建物全体が崩れていないなんて……」

 

宇宙世紀の常識に照らし合わせれば、西暦2000年代の旧いコンクリート建築が、自然環境に耐えて原型を留めているはずがない。雨が少ない環境ならば尚更。

だが、目の前の壁は気味が悪いほどの頑丈さを保ち、まるで「ここだけ物理法則が違う」かのようにそこに立っていた。

 

「……Z(ゼータ)だ。まずは、Z(ゼータ)を見つけないと。」

 

カミーユは砂漠の熱風にさらされながら、遠くの地平線を見据えた。そこには、空を穿つような巨大な塔と、高層ビルが立ち並ぶ近代的な都市群が陽炎の向こうに揺らめいていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「これは……一体どういうことだ?」

 

この辺りは見晴らしが良く、それこそ、モビルスーツほどの大きさがある物であったら、すぐに見つかるはずだった。不時着したのなら、墜落時のクレータの一つや二つあるはず。

そう思いカミーユは近くの小高い砂丘を駆け上がり、周囲を見渡す。

しかし見渡す限りの砂漠には、クレータなども見つからず、それどころか金属の破片ひとつ、硝煙の匂いすら存在しなかった。

 

「僕だけが、ここに放り出されたのか……?」

 

今思えば、いくつか納得いかないことがある。もしここが地球で、僕がZガンダムに乗って不時着したのならば、コックピットの中で目覚めるはずだ。それが僕は今、身一つでここに投げ出されている。もし不時着する最中、コックピットから投げ出されたのだとしたら、落下の衝撃で死んでしまってもおかしくないはずだった。しかし今の僕は生きている。

本当に僕は、ここに不時着して辿り着いたのだろうか。

 

それからしばらく歩き回って探したが愛機は、影も形もなかった。

 

「おかしい……。地球のどこなんだ、ここは……」

 

自分を守る装甲も、戦うための武器も、文字通り何一つない。

ただ、ボロボロのノーマルスーツを着た生身の少年として、見知らぬ砂漠に立っている。その絶対的な無力感に、カミーユは唇を強く噛み締めた。

 

機体がない以上、ここに留まる理由は皆無だ。

留まって救助を待つにしても、アーガマのクルーはZガンダムのシグナルを目印にやってくるはずだ。地平線の彼方にも愛機が見えない以上、その辺に期待はできない。

探し出される前に僕が干からびてしまう。

 

遠くの地平線には空を穿つような巨大な塔と、高層ビルが立ち並ぶ近代的な都市群が見える。

あそこに行けば、通信設備があるかもしれない。アーガマに、あるいはカラバの基地に連絡を取れるはずだ。しかし、ここから、歩いてたどり着くような距離には見えない。無謀だ。

せめてZガンダムに積んである非常食などがあれば。

 

「こんな、こんなところ…死んでしまうならッ……。やるだけやるしかないだろうッ!」

 

自分の顔叩いて、発破をかける。カミーユは地平線の彼方に揺らめく都市へと向かって、重い足取りで歩き出した。覚悟を決めて歩き出す。しかし、砂漠の行軍は、疲弊しきった少年の体から容赦なく体力を奪っていった。

 

「……重力が、こんなにッ……」

 

宇宙空間での戦闘が長かったせいか、それとも極限状態の疲労のせいか。一歩を踏み出すごとに、星の引力が鉛のように足に絡みつく。

密閉性の高いノーマルスーツは、砂漠の強烈な日差しを吸い込んでサウナのように熱を持っていた。カミーユは息を弾ませながら、首元のジッパーを限界まで引き下げ、少しでも外気を取り込もうとする。それでも、喉の渇きはひどくなる一方だった。

太陽が容赦なく照りつける中、カミーユは泥臭く足を引きずり続けた。

 

 

 

 

 

どれだけ歩いたか、時間感覚すら麻痺していた。

 

時折視界が歪み、割れるような頭痛が走る。その度に、散っていった仲間たちの悲鳴が脳裏をよぎりそうになるが、彼は強く歯を食いしばってそれを振り払った。靴底に伝わるズブズブと沈み込む砂の感触すら遠く感じる。意識は朦朧としていた。当然、脱水の気もある

 

ふらつく足を何度も叩くが限界が近いことを、カミーユが一番わかっていた。

こんなところで死ねない。

生き残ったんだ。なら、帰らなくちゃいけない。ファの待つ場所へ。

 

何度もうわごとのようにファの名前を口にする。

 

 

「君!大丈夫かい!!」

 

遠くから人の声がする。しかし振り返る気力すらなかった。

 

砂の上を駆ける、足音が聞こえる。

 

 

死ねない、帰らないと

 

 

そう思ったのを最後にカミーユの意識は完全に途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

投稿のシステムがよくわかってなくて、びっくりするくらいうまくいきません。
本文のほうもプロット書いてみたのに全くその通りに進みません。
書くってこんなにも難しいんですね。
なかなか先生に会えませんね。どうして砂漠で目覚めることにしたんだろう。
本来一話にもって来たかった話は二話で出来るように頑張ります。
多分
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。