魂遣いは無自覚曇らせメイカー 〜世界救う代償でみんな僕のこと忘れるしと、最後に曇らせスピーチかました。記憶喪失になったのは僕でした〜   作:ガンバリミトメナイザー

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第2話

 

 迫る巨大な影のバケモノ――「無形」。

 

 人型ではあるものの、ところどころに別種の生物の特徴を取り込んで。角に牙に触腕にと、かつて僕らが倒した最上位無形の特徴を引き継いだ不定形のバケモノ。

 

 過去最強、破国級の無形だ。

 

 人のいなくなった王都を蹂躙しながら、ゆっくり迫ってくる。知性があるのか分からないけど、もはや僕らが逃げられる体じゃないことを分かってる。

 

 ……僕は片手を上げて光を溜める。

 

 僕の背後、瓦礫の上のみんなはほんとに満身創痍で。

 

 レイミヤさんは――

 

「――ぁ、あ……、お願いカナタ……早まらないでくださいまし……っ!」

 

 左腕を欠損して地面に横たわって、意識も朦朧としてる。断面を氷漬けにしてなんとか失血を防いでるけど、早くちゃんとした治療を受けないと……。

 

 ドラ子は――

 

「ぐるるるうぅ。わらわの翼を奪ったあのバケモノには、わらわが引導を渡すのじゃ……! おぬしは余計なことをするなカナタ!」

 

 翼だけじゃなくて角も片方折られ、痛々しく全身に傷を負って。今は人間形態に戻って無形を睨みつけてる。

 

 そして最後。……シルバーさんは一番傷が重い。全身余すところなく血にまみれてて、手足がおかしな方向に曲がって。たぶん、折れた骨で内臓も傷ついてる。

 

「っゲホ、ご、ほ! カナタにはボクが、頼りになるお姉さんがついてないと、っぅ……!」

 

 血に塗れた体を起こそうともがくけど叶わない。

 

 ……もうみんな、きっと分かってるはずでしょ? 他にどうすることもできないって。

 

 だから。

 

「――【(こん)】」

 

 光がドクンと脈動するように強くなる。

 

 解けていく。僕の魂……存在が。

 

『じょうず、カナタ。それでいい……!』

 

「うん。メイに教わった通りにやるから」

 

 白光はますます強くなる。

 

 掲げた手の先に、同じ光で編んだ魔術陣を展開した。魂から変換した力を、できた端から魔術陣に流し込んでいく。

 

 ああ。大事なものが流れ出ていく。

 

「なんじゃその力は、知らぬぞそんな……わらわの魔力より大きいだと……っ?」

 

「これほどの力、カナタの魔力から捻出できるはずありませんわ! ……ぁ、れ? カナタの魔力って………………………――――少なかった、ですわよね……?」

 

 ! 今のレイミヤさんの言葉は。

 

『そう……魂の消費で、レイミヤの中のカナタの記憶が消えてるの』

 

 やっぱり。…………さすがに辛い、ね。でもおかげで。

 

「まだまだ力が増してゆくじゃと……? ありえぬ!」

 

「ま、待ってくださいまし、わたくしの中のカナタの思い出がっ! ……イヤ、どうして!? あ、あ、あぁ、やめて、無くならないでっ!!」

 

「ゴホっ。ボクはあの時たしかに、カナタに頼ってもらえた……! いっしょにいていいって認めてもらえたはずなのに! ――――なんでなんにも、思い出せないぃ……っ!!」

 

 ……。

 

「きさまら、いったいなにを言って………………っ!? な、これは……記憶に虫食いが……!」

 

『ふん。カナタの側にいるのはわたしだけでいい。おまえたちは全部忘れちゃえ!』

 

「精霊様……っ?」

 

 シルバーさんの呟きで、他の二人も察したみたい。

 

「――ッメイル、マリン!! きさまよくも! カナタを謀ったのじゃなッ!?」

 

『人聞きの悪い。わたし、カナタに嘘なんてついてない』

 

「お願い、やめてくださいまし……! カナタとの思い出はわたくしの宝ものなんですのっ! やっとできた、ほんとうの家族の……! ぅうううあああぁぁ……っ!!」

 

「ぁ、ああ……。ボクはやっぱり、ダメな役立たずなの……? カナタも、思い出も、なんにも守れない、……っ!」

 

「っカナタ、術を止めるのじゃ! まだ、なにか手が! わらわも力を尽くす……っ! じゃから!」

 

 半狂乱になるレイミヤさん。鬱屈とした絶望を浮かべるシルバーさん。顔を歪めるドラ子。

 

 ごめん。でも、もう決めたから。

 

 それに辛いのは最初だけだよ。最後には全部忘れて、僕がいなくなった後は――――僕らが出会う前に全部元通り。

 

 そう思うとちょっと寂しい。僕らが少しずつ積み上げてきたもの、始めから無かったものになっちゃうみたいで。

 

 ……いや、違うか。僕だけは命を落とすその瞬間まで、全部をはっきり覚えてる。これまでが無駄だったなんて、そんなことはないんだ。

 

 ただ、唯一心残りがあるとすれば――

 

「……言えなかったなあ――――――独り占めしたいくらいの、家族とは違う()()があったんだ、って」

 

 そんな、つい溢しちゃった後悔は、誰にも拾われない――なんてことはなく。

 

 

 

『……………………は? それ、だれのこと――?』

 

 

 

 そんな、メイの低い声を聞きながら。

 

 もうその答えを告げるつもりはないと言う代わりに僕は唱えた。

 

 

 

「――【光って、消(ノヴァ)える】」

 

 

 

 構えた手の先、魔術陣から光が放たれる。当たったものすべてを分解する、破滅の光。

 

 それと同時に、僕という存在が致命的なまでに損なわれてく感覚。

 

 

 

「――さよなら……みんな」

 

 

 

「、ぁ、あ、あぁーーーー!?」

 

「ぁぁあ……ボクが――っバカなせいで。カナタがなくなっちゃ、ぅ……――」

 

「よすのじゃカナタ、やめっ、――――――い、行かないでぇ……っ!!!」

 

 ごめんねみんな。

 

 ありがとう。

 

『さっきのは……っもういい。だってこれで終わりじゃない。わたしとカナタはこれからだからっ! これでやっと、わたしだけのカナタに――』

 

 そんなメイの声は。自分が無くなっていく感覚の前には、言葉として認識できようはずもなく。

 

 そうして、無形を倒せたかどうか知る時間すらなく。

 

 ――――僕という人間は、終わりを迎えたのだった。

 

 

 

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