魂遣いは無自覚曇らせメイカー 〜世界救う代償でみんな僕のこと忘れるしと、最後に曇らせスピーチかました。記憶喪失になったのは僕でした〜 作:ガンバリミトメナイザー
――ここは、広大な荒野の一角。
都市と都市をつなぐ街道の途中、その外れにて。
行商の馬車から敵を遠ざけるべく、多くの冒険者たちが戦っている。
僕より若そうな女の子もいれば、歳上のベテラン冒険者まで。でも、肝心の戦況はと言えば――
「――そっち行ったぞおら!」
「おいおいおい、ちゃんと止めてくれ! こんなバケモノ、ちょ、ま、……ぐわあぁ!?」
おぉ、めっちゃ飛んでった。適当に吹っ飛ばされただけだから死んでやいないでしょ。せいぜい骨折くらいかな。
僕はあんまり心配もせずに、へっぴり腰の冒険者たちに囲まれるバケモノ――無形に視線を向ける。
人二人縦に並べたくらいのデカさで、腕が鎌になったひょろっとした人型のやつ。
「出てくるのはせいぜい低位無形の群れって話だったのに、こんなの聞いてない……! 中位なんて倒せっこないよお!」
「ッくそ! おいお前、泣き言ほざいてる暇なんてねえんだよ! 黙って戦えや!」
「っおじさんだって、ぜんぜん自分からは向かってないのに! ……私を犠牲にしようだなんてその手には乗りません!」
「ッチ! ……おい、そこのガキ! てめえもさっきからまったく動いてねえぞ! もっと働けや!」
僕? さっきの女の子の言葉、僕もそのまま言ってやろうか。自分を棚に上げる大人の醜いこと……。
なんて思ってたら。
『あいつ、カナタにふざけたこと――。二度とその口きけなくしてやる……』
「気ぃ短……。ちょっとメイ、勝手なことしないでよ。貴重な魔力そんなことに使っちゃ、僕たちここで終わりになるかもなんだから」
『! ご、ごめんカナタ、そんなつもりじゃ…………! ――ゆ、ゆるしてぇ……っ』
「はいはい。許す許す」
胸の内から聞こえる声の主――精霊メイルマリンはまた過剰に反応してくる。
なんかこの子、重いんだよね。特に、一回別れを切り出して以降。
僕には記憶がないから、色々教えてくれたりサポートしてくれるのはありがたいんだけど、なんか隠してることもあるみたいだし。
果たして信用していいものやら……。
そんなことを考えてる間にも、武器を持った冒険者たちはなんとか無形と渡り合ってる。
「ひぃぃ! も、もうムリだよ!」
「攻撃ッが! 重すぎる……! 足もはええし!」
さっきの二人もそれ以外の冒険者も。ギャーギャー騒ぎつつ、なんとかギリギリもってるじゃん。
ただこのメンバーじゃ決め手が――中位の無形の守りを抜ける攻撃力がないってわけだ。
なら。
「――メイ、僕たちでやるよ。力貸して」
『っ! まかせて、わたしカナタの役に立つ……!』
「ん、期待してる」
現状それしかないからね、敵の防御を抜く方法。
それすなわち――
『魔力溜めるから! もうちょっと時間を――』
――メイの魔力を利用した魔術行使、つまり精霊魔術というやつ。記憶もお金もない僕にある数少ない強み、人類が失いかけてる魔術の力。
メイと一緒にいる理由の大部分がこの力の存在だからね。謎の精霊の怪しさを飲み込んでもお釣りが来る便利さだ。
「発動までちょっと時間かかるのがネックだけど……っと、こっち来た……!」
「――――――」
声にならない声みたいな音を出しながら、鎌の無形が俺に突っ込んでくる。
確かに速いけど、これくらいなら素の身体能力でも。
「っよ、はっ」
『カナタ、だいじょうぶ!? ごめん、時間かかって……っ』
角度を付けた剣で鎌を受け流す。
記憶無くす前の技能みたいで、剣はそこそこ使えるんだよね。体に染み付いてるみたい。
冒険者だった記録は残ってなかったんだけど、果たして何やってたのやら。
「お、お、おぉぉ!? ガキ、てめえなかなかやるじゃねえか! よし、そのまま抑えてろよ!」
「いまがチャンス!? ヤアアア!」
あっバカ! 後ろから不意を突いたつもりかもだけど、この不定形生物に死角なんてないんだって!
「ぁ、え? 背中にも目……?」
「逃げッ……」
僕が相手する鎌とは別に、もっとちっちゃい鎌を背中からも生やして。背後から迫る冒険者たちを薙ぎ払う。
「きゃああああ!」
ああほら言わんこっちゃない、って、あっ!? この無形、僕を無視して? まっ――
「え……あ、ぇ?」
「嘘だろ? おいおいおい、俺、ここで……?」
彼らの獲物は弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた衝撃ですぐには起き上がれない。そこに、地面を滑るようにして向かう無形。
ある程度手強い
「っメイ、魔力は……」
『まだもうちょっと……! でも、あいつ向こうに行ったからちょうどいい。この隙に準備できる』
……。
「い、いやっ! 私こんなところで、……やめてぇえ!」
「たのむ、誰か助けてくれ! ああ、あああ!」
視線の先には、鎌を振り上げた無形。顔を歪めて終わりを拒絶する冒険者たちも。
っち、もう。しょうがないなあ……!
「――【
『……!? え、なんで!? カナタっ!』
「あのバケモノが僕から目を離した。要はチャンスだよ――【
『ダメダメ、それダメ……っ!? この前も言ったのに!!』
もうやっちゃったもんね。次から気をつけます。
ほとんど魔力のない僕が唯一独力でできる切り札、
「――これくらいなら、まったく問題なし……!」
さすが魂。強化した体は驚きの身体能力だ。
地面に深い跡を残して高速移動して、矢みたいに流れる景色の終着点には。
僕の接近にも気づかず、僕に比べたら極めてノロマに鎌を振るう無形。
僕が体に強化した剣を振るえば、その直後。
――――無形の首が、スパッと呆気なく切れて落ちた。
助けた冒険者たちは目を丸くして、ゆっくり倒れ伏す無形と僕を見比べる。
はい、これで終わり。ほらね、真面目にやるよりずっと早くて安全だ。
「――あっ、えっ? お兄さん、つよ……!?」
「――てめえ神かよおおお! マジで助かったぜ……ッ!!」
現実に帰ってきた冒険者たちが口々に雄叫びを上げる中。
『――ぅうううう! もおお、わたしカナタのこと思って言ってるのに……! 言うこと、聞いてぇ!』
僕の中のメイだけは、思い通りにいかない現実に嘆く。
野暮用を済ますため