魂遣いは無自覚曇らせメイカー 〜世界救う代償でみんな僕のこと忘れるしと、最後に曇らせスピーチかました。記憶喪失になったのは僕でした〜 作:ガンバリミトメナイザー
「――カナタお兄さん……! 見えてきましたよ!」
隣からかけられた弾む声。彼女の指差す方を見ると、確かに街道の先に城壁――キャンベル辺境伯領の領都が見える。
キャラバンの馬車を中心に街道を行く冒険者たちみんなが色めき立つ。
長旅だったからね。嬉しく思う気持ちもわかるな。
途中からずっと僕のそばにいる冒険者の女の子――シェルティもピョンピョン跳ねてる。
『っち、あざといメス……。カナタがこういうのに騙されなくてよかった』
「いやまあ……可愛いのは可愛いけど、それで入れ込んだりはしないし。これ彼女なりの処世術でしょ」
【魂】魔術で助けてあげたから、媚びるべき強者だって認識されたわけだ。無制限に使える力じゃないから見当違いなんだけど。
「へへへ。今回の依頼ではほんと助かりやしたよカナタさん。都市に着いてからも、また一緒にやる時には良くしてくださいよ」
「ああ、はい……」
ゴリゴリのおじさんのこの態度は怖い。ま、舐められるよりはいいか。
「すごいなあ……! 私よりちょっと歳上くらいなのにクールで、あんなに強くって……」
『……発情するな、このメス……!』
メイなんか荒れてる。君も基本猫かぶってるくせに。
そうして。
無事護衛依頼を終えられるという解放感から、僕たちは少し口数を増やしつつ街道を進み続けて。
――とうとう、都市を囲う城壁の前に到着する。高く聳える重厚な壁だ。門も巨大で、それを守る兵もけっこういる。
しかしおっきい都市だなあ。中に入るのを待つ人の列もめっちゃ長い。
僕らも列に並びながら、胸の内のメイに問いかける。
「この辺りなら前のとこよりいっぱい無形がいる……ていうのは確かなんだね? メイ」
『……うん、そう聞いた。その……知り合いに』
「よし。記憶戻すにはたくさん無形倒さなきゃだからなー」
『……』
そう。僕が前の街から遠路はるばるやってきた理由がそれだ。
理由は分からないけど、無形倒したらほんの僅かに僕の魂が修復されることがあるらしいんだよね、メイ曰く。
記憶をなくした原因は【魂】魔術の使いすぎで魂が損傷したことらしいから。できるだけ魔術使わないようにしながら無形を倒せば、そのうち魂の傷が補填されて忘れたことを思い出すってわけ。
……別に記憶なくても支障はないんだけど。残ってる知識面の記憶から推測するに、僕って相当酷い環境で育ってきたみたいだし。
ただ。
「なんかどうも……――大事なこと、忘れちゃってるっぽいんだよなあ」
スラムのクソガキだった僕の思い出なんてしれてるけど。僕だったら、こんなろくでなしに親切にしようなんて思わない。
……ま、どうせ僕は一回死んだようなもんらしいし。記憶取り戻すことを目標に、ぼちぼちやっていきますか。
そんなことを考えていた、その時だった。
「――――道を開けろ! 出兵だ!」
その大きな声の直後。
街道を渡ってきた者が都市に入る小さな門ではなく、その横にある巨大な門がゴゴゴと音を立て開いてく。
そしてその向こうから現れたのは――鎧を身にまとった、たくさんの兵たち。
「なんだ……?」
ずいぶん物々しいな。ぞろぞろと出てくる隊列は全然途切れないし。すごい大規模な……………………ぁ?
「――あの人……」
『っあい、つ――!』
なんとはなしに見ていた兵たちの中に、一際目を引く女の人。体格と毛並みのいい馬に乗り、豪奢な鎧をまとってる。
兜はしてないからよく見える。
――金色のお下げに、気品のある整ったその顔立ちが。
なんか……見覚えあるような。
なぜかその人から目を外せない。気を抜けば足が動きそうになる。なんだこれ? こんな感情……知らない……。
僕は門を出て去っていくその背中を、ずっと見送って――
「はぇ……あんなに大勢の兵隊さん、私初めて見ました……! キャンベル辺境伯領の領軍ですよねきっと」
「えっ。……ああ、そうだね」
「なんだか明らかに高貴な身分の人がいたけど、あれがキャンベル家かなあ」
高貴……。確かに、あの人明らかに貴族だった。僕が知ってるはずない人だ。
じゃ、気のせいか。…………なんか、めっちゃ胸がザワザワするけど。
『まさかこんな偶然……! でもよかった、出てってくれて……っ』
なんだって? 僕にしかメイの声聞こえないのに、僕にも聞き取れない小声。
……そうして。僕ら以外もざわついてたこの場も、やがては落ち着いていく。一時止まってた、都市に入るための検問も再開される。
胸に去来した得体の知れない思いは、気のせいだったと無理やり蓋をして。物言いたげなメイの気配も無視して。
進んでいく検問の列。キャラバンの商人曰く、いつもよりだいぶ時間がかかってるらしいけど……やっと僕らの番だ。
中に入れたら今日はゆっくり休もう。そうすればたぶん、この胸のざわつきも、と。
そう思ってたのに――
「――なに、冒険者だと? ッよし来た、お前らはあっちだ! 門の中には入るなよ」
いやに嬉しそうな門番の顔が癪に障る。
前の人たちも、僕らが護衛してきたキャラバンの人たちも、みんな問題なく領都に入れたのに。
「なんで冒険者はダメだってんだよ!」
「私たちとっても疲れてるんです……! ……明日じゃ、ダメですか?」
「ダメダメ、抵抗すればしょっ引くぞ! いいから来い!」
冒険者だと身分証を出した僕らだけが止められて誘導される。
ああ……温かい食事に柔らかい寝床が……。
『カナタ、だいじょうぶ……? っあんなニンゲン、わたしが力を使えれば……!』
「いいよもう、いらない騒ぎは起こさないで……」
『う〜……』
ほら猫かぶってる。
領兵に言われちゃしかたないでしょ。じゃないと余計しんどくなるし。
なんて思ってると。
僕以外の冒険者たちがあまりにやいやいうるさかったからか、先を行く門番が足を止めてこっちを振り返る。
そして、言ったのだ。
「これは戦時特例だ。お前たち冒険者にはこれから――――戦場へと向かってもらう……!」
ええ? そうなってくると話が違うぞ。もはや暴れた方がマシでは?
『もしかして、さっきのあいつも……? っさい、あく――ッ!』