魂遣いは無自覚曇らせメイカー 〜世界救う代償でみんな僕のこと忘れるしと、最後に曇らせスピーチかました。記憶喪失になったのは僕でした〜   作:ガンバリミトメナイザー

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第5話

 

 ――そうして、無事に(?)エルフたちと出会うことができて。

 

 それからの流れはあっという間だった。

 

 エルフの崇拝対象たる精霊として、丁重に、なんなら腫れ物に触るくらいの感じで目的を問われるメイ。具合が悪いから治したいと伝えるや否や、即里へ直行。

 

 幾つかの結界を通過して辿り着いたのが――樹木と住居が融合したような不思議な建物が立ち並ぶ、エルフの隠れ里だ。

 

「――ささ、精霊様! 我が里を治める大精霊ミストルティーネ様は神殿におられますので!」

 

『……。さっさとつれてって』

 

「はいぃ!」

 

 ペコペコしちゃって。僕のことは気に食わないみたいでたまに睨まれるけど、そのたびメイに怒られてるし。

 

 そんな威厳もなにもないエルフたちだけど。……でも、この里――

 

「――魔力が溢れてる。高度な……よく分からない術式もそこらに張り巡らされてるし」

 

 人間が住む街とはぜんぜん違う。

 

 道中にあった結界もとんでもなく複雑だった。たぶん認識阻害とか外敵の検知とか、いろんな効果があるんだろうね。僕らが道に迷ってたのもエルフに見つかったのも、きっとそれが原因。

 

 さすがは高位種族だ。ここならメイを治して僕の中から追い出すこともできるかも。

 

 ……と、足を動かしながらこぼした僕の言葉をエルフの一人が聞いてたみたいで。

 

「当然のことじゃぁ! 我らエルフが住むこの里の素晴らしさも、エルフの魔術をニンゲンが理解できんことも!」

 

 「ワハハハ!」と豪快に笑う、一見少女にしか見えないエルフ。

 

「しかしニンゲンお前……いや、精霊様の方か。いったいどこでこの隠れ里の情報をお聞きになったのじゃ? ミストルティーネ様のことまで知っておるし」

 

『……? どこでって、前も一回きたことある』

 

「なぬ? この里に、かの?」

 

『そう。前おまえに会ったかまでは、いちいち覚えてない』

 

 エルフたち、メイのこと覚えてない? 精霊に対する態度を見るに、一回里に来たんだったら忘れられなそうなものだけど。

 

 ……メイも前どういう経緯で来たとかエルフに伝えようとしないし、なんか怪しいんだよね。

 

『べつにおまえがわたしを覚えてようと忘れてようと……どうでもいい。疲れたし、さっさとミストのとこに連れてって』

 

「ぉお、それはもちろんじゃ――」

 

「――はいぃぃ!! 承知しております精霊様! すでに先触れも遣わせてますので、神殿につけばすぐに!」

 

 女の子の言葉を遮って、前を行くまとめ役っぽいエルフが慌てて言った。

 

 そうして、心なしか早足になった案内に従って里の中を歩くことしばらく。

 

 ――やがて僕らは、里の真ん中にある遠大な大樹のふもとに着く。

 

 他の建物と違って、見た目は木そのものなんだけど……とにかくデカい。高さも太さも、人間の国のお城が丸々収まりそう。

 

 それになんか、神秘的な雰囲気が。魔力が濃いからかな。

 

「ここが、大精霊様がおわす神殿です。さあどうぞ中へ……!」

 

 入口はその(うろ)か。

 

 案内に続いて中に入ると――

 

「――おぉ。ちゃんと廊下になってる。灯りもある」

 

 四方が木で覆われつつも、確かに人が住み、行き来できる空間。進んでくと道が左右に分かれたり、扉があったり。里の中よりさらに濃密な魔力が漂ってるし。

 

 僕たちはそんな神秘的な場所を、奥へ奥へと歩いてく。するとやがて……行き止まりに巨大な両開きの扉が現れた。

 

 エルフたちはみんな迷いなく、でもちょっと緊張した風に扉へ足を進める。

 

 ……ここまでくればもう僕にも分かる。扉の向こうから――量も質も異常な魔力が溢れてる。

 

 ここが目的地か。

 

「さあ……! 精霊様、こちらです!」

 

『ん。はやく』

 

「はい! では――!」

 

 そう言うと、先頭のエルフが扉に手を掛ける。

 

 あれは……魔力を流してる? っとんでもない量だ。僕ら人間じゃ考えられないくらいの。

 

 そうして、流した魔力でなにかの術式が動いたのか、巨大な扉はしずかにゆっくり左右に開いてく。

 

 メイに急かされ途中で中に入ってくエルフたちに続くと――――扉の向こうは、木の中と思えないくらいの広い部屋だった。天井も高くて、薄暗いけどそこかしこに魔力の球が光りながら浮かんでる。

 

 それになにより目を引くのは。

 

 …………部屋の真ん中に、また木が生えてる? 緑が茂った、生命力にあふれる一本の木が。

 

 そう思ってると――

 

「――大精霊様! お連れいたしました……!」

 

 エルフたちの視線を追うと。

 

 木の下に、根っこと繋がってる精巧な細工の施された木の椅子が。そしてそこに座っているのは――薄く翠の光をまとい、ウェーブのかかった薄緑の長髪を垂らす絶世の美女。

 

『はぁ……。お前たちはもう少し、落ち着きを持って静かにできないものですか? それこそお前たちの親はもっと――』

 

 あれが大精霊ミストルティーネ………………って、なんか僕のこと凝視してない? めちゃくちゃ目ぇ見開いて、信じられないもの見るみたいな。

 

『――信じ、られません……!』

 

 おお、言った。でも……なにが?

 

『このニンゲンの中にいる精霊…………根源があまりに傷ついて、ほとんど崩れる寸前ではないですか……! いったいなにが!』

 

 根源? なんのことか分からない。

 

 でも大精霊がそう言った途端、他のエルフたちもざわめき出す。

 

「こ、根源が崩れる――?」

 

「そんな恐ろしいことが精霊様に!?」

 

「だ、だから大精霊様に会う必要があったのじゃな? 根源が壊れるなぞ――――死より恐ろしいのじゃぁっ!」

 

 ……死より? よく分からないけど、なにか一大事がメイに起きてるって?

 

「メイ、どういうこと? 僕も君の状態を正確に知ってるわけじゃないんだ。メイからちゃんと説明を」

 

 そう声を掛けるけど。

 

 ……返事がない。寝た? いや、確かに僕の内にその存在は感じる。なのに……――その力の拍動が、いつもより明らかに弱い。

 

 もしかしてメイって僕が思ってるよりずっとやばい状態だった? 「力を使いすぎたのと、敵が強くて反撃までくらったから」としか聞いてなかったけど……。

 

 これまでの彼女の言動を思い起こしてると、僕に掛けられる鋭い声が――

 

『――いま、メイ……メイルマリンの名を呼びましたか――?』

 

「……呼んだけど。メイは前もここに来たことがあるって言ってた。あなたにも会ったことあったんじゃ?」

 

『っもちろん、会ったことはありましたとも……! なのにすぐには気づけなかった。それほどに……根源が傷ついていたのです!』

 

 そして。

 

 椅子から立ち上がった大精霊は、全身から強力な魔力を発散しながら、僕に向かって言うのだ。

 

 

 

『いったいメイルマリンに何をしたかは知れませんが――――疾く、その身柄を解放しなさい……!』

 

 

 

「!」

 

 直後。

 

 僕に向かって手を伸ばす大精霊。その手から強力な魔力が発散されたかと思うと。

 

「ぐ、ぅ……!?」

 

 胸が苦しいと思ったら――僕の体から、魔力とも別の何かともしれない力の塊が飛び出す。弱々しく明滅する、その白い光の球は。

 

「それ、メイ……?」

 

『我ら精霊の同胞たるメイルマリンは、私が責任を持って癒します。【青き(むら)のミストルティーネ】の名に懸けて』

 

「……もともと、それが目的で来た」

 

『そうでしょうとも。しかしそこに――無垢なこの子を利用するニンゲンは不要』

 

「僕がメイを利用だって?」

 

 それは、ちょっと心外だ。僕はメイを治して利用するどころか、彼女と離れようと思ってたんだから。

 

 誰かから利益を理不尽に搾取する――そういうのは僕が一番許せないことだ。自分でやろうなんて思うわけがない……!

 

「お言葉だけど僕は――…………ッ?」

 

 でも。

 

 ここに僕の言葉を聞いてくれる人なんて、ただの一人もいなかった。

 

 その気だるげな瞳に怒りを乗せ睨んでくる大精霊。人を超えた美貌を歪めて牙を剥くエルフたち。

 

 誰もかれも僕の言葉を聞く気なんてなくて。ただ不条理に、自らの一方的な思想で僕を害そうと言う意思だけが伝わってくる。

 

 その例外足り得るのは、いまや意識のないメイだけ。

 

 ……これは、ちょっとまずい。こんなところで敵に囲まれちゃ、逃げるに逃げられない。

 

 ………………もしかしてメイは、こうなることが分かってた?

 

 そんな思いすら頭をよぎった頃。大精霊の言葉で事態は動く。

 

『――――そのニンゲンを牢に捕えなさい。少なくとも、メイルマリンをなんとかできる目途が立つまでは』

 

「ッは! ……かかれええ! きやつに二度と自由を与えるなァ!!」

 

 く……全員魔力全開にして蛮族みたいに! こんなのどうしようも……!

 

 僕は殺到するエルフたちに取り押さえられ、行動の自由を奪われる。

 

「――恨むよ、メイ……!」

 

 もみくちゃにされながらこぼした言葉は、誰に届くこともなく。

 

 大精霊の手上に浮くメイが、ひと際強く明滅したように見えたのも……――きっと、僕の気のせいだった。

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 

 神殿――大樹の根にあたる場所、木でできた檻がいくつも立ち並ぶ空間にて。

 

 空気を切り裂くような風の音と、「ッふ、ッふ」という鋭い呼気が何度も繰り返し響いている。

 

 明かりが少なく薄暗い牢で、音に合わせて銀の光――乱雑にまとめられた白銀の髪が揺れている。

 

 じっと目を凝らせば、髪よりもずっと鈍い鉄の色、物々しい大剣も見えることだろう。

 

 そんな、白銀と鉄をまとう人物が呟く。

 

「――上が騒がしい? ……いや、ボクには関係ないか」

 

 剣を止めたのは一瞬で、またすぐ異常な風切り音を鳴らす素振りを再開する。

 

 ……余計なことは考えない。辛くなるから。

 

 虚しくたって鍛え続ける。そうでないと、彼が死んだことに意味がなくなる気がする。

 

 あの気高き少年が命を散らしてまで救ったのが、どれだけ価値あるものだったのか。自分はそれを未来永劫証明し続けなくてはならない。

 

 叫び散らしたいほど辛くても、世界から消えた彼の記憶を後世に引き継ぎ。

 

 自らの命を絶ちたいほど絶望していても、彼の行いが称えられるものになるように。

 

 そのためだけにこれからの長い長い一生を費やしていくんだと、バカな自分でも忘れないよう何度も反芻して。

 

 今日もなにも変わらず剣を振るうのだと――――――そう、思っていたのに。

 

 

 

「――こら、とろとろ歩くでない! 大精霊様のお言葉がなければお前のようなニンゲンなぞ……ボッコボコのボコなんじゃからの!?」

 

「いや、ちゃんと歩いてるよ。突っかかりたいだけじゃん。小走りで僕追い越してのソレはただの難癖でしょ……」

 

「口答えするか!? これだからニンゲンはのぅ!」

 

 

 

 深く傷つき、それでもなお自責を続けるエルフの少女。銀の光をまとう救世の英雄、そのひとり。

 

 空虚に剣を振る彼女が報われる時は近い――

 

 

 

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