魂遣いは無自覚曇らせメイカー 〜世界救う代償でみんな僕のこと忘れるしと、最後に曇らせスピーチかました。記憶喪失になったのは僕でした〜   作:ガンバリミトメナイザー

6 / 7
第6話

 

「まったく、これだからニンゲンはのぅ!」

 

 僕を連れ歩く一見少女のエルフは、仕方がないとばかりに首を左右に振る。

 

 腹立つなこいつ……。他のエルフより敵意自体は少ないけど、ことあるごとに「こんなニンゲンはダメだ」とか突っかかってくる。

 

「はーまったく。ニンゲンにはのぅ、この世界をバケモノから救った英雄だっておるのじゃぞ! その身を犠牲に、ニンゲンだけじゃなく我らエルフも、他の種族も、まるっと救った英雄が」

 

「……。キャンベル特務小隊のこと?」

 

「うむ! まさに!」

 

 大樹の中を下へ下へと進みながら、少女は得意げに話す。

 

「あのニンゲンだけは我も尊敬しておる! エルフに劣る力しか持たぬ身で、無形の世界を壊すほどに濃い恨みを晴らしてみせたというのじゃからなぁ!」

 

 ……それくらいなら、記憶をなくした僕でも知ってる。あちこちで耳にタコができるほど聞いたから。

 

 ――キャンベル特務小隊。それは、世界を滅亡の淵に追いやっていた無形の脅威に対抗する人類連合軍の、精鋭だけを集めた特別な小隊だ。

 

 キャンベル辺境伯家の才媛をリーダーとして、人間、エルフ、ドラゴンという種族混成のチームだったそう。

 

 名前まで広まってるのはリーダーのレイミヤ・キャンベルだけだけど、もう一人の人間もその特徴だけは二つ名として知られてる。そう、たしか――

 

「我もよく言って聞かされておるものじゃ。小隊のニンゲンでも特に――『精霊使い』が! 世界を救った大英雄であるとなぁ!」

 

 そう、「精霊使い」。この子が言ってるのはそっちの方だったか。

 

 でも、「精霊使い」が世界を救った? 僕が聞いた話じゃ彼は添え物くらいの扱いだったけどな。各地での活躍でも特に名前は出てこないし、正直四人の中でもおまけみたいな話が多い。

 

 なんて思ってると。

 

「まぁ……我も『精霊使い』のことは又聞きでしか知らんのじゃがなあ。それでもあの方――我らエルフの英雄である『銀光』様が言うのじゃから確かなはずじゃ……!」

 

「『銀光』……。キャンベル小隊唯一のエルフ」

 

「うむ! あ――その『銀光』様じゃが、いま向かっておる牢におるぞ!」

 

「えっ?」

 

 耳を疑う。

 

 牢に英雄がいるって? ……なんで?

 

「脱獄しようなど考えんことじゃなっ。それに失礼のないようにのう!」

 

 ついていけてないんだけど。なんでエルフの英雄が牢屋にいるんだ。牢番ってこと……? いやいや、そんなの英雄がする仕事じゃないし。

 

 混乱する僕だけど、少女はそんなこと気にせずにずんずん進んでいく。

 

 そうして……根っこみたいな木でできた階段を降りた先に、この里に似合わない鉄製の頑丈そうな扉が。

 

「この先じゃ。ほれ、開けるから離れておれ」

 

 あの大精霊の広間につながる扉みたいに、手を当て魔力を流し込み少女。扉の術式が起動してガチャリと音が鳴ると、少女は扉を開く。

 

 その向こうにいたのは――

 

「――シルバー様! ニンゲンの罪人連れてきたのじゃ!」

 

 

 

「……………………罪人?」

 

 

 

「ッ」

 

 思わず息を呑んだ。

 

 幾つもの檻が立ち並ぶ前に、武器を構えた細身の影。

 

 ――まさに、剣鬼がいた。

 

 巨大な、それこそ身の丈ほどの大剣を持つ、僕よりいくらか歳上くらいに見える女性。尖った耳と、汗に塗れてもなんら欠けることない美貌は、確かにエルフの特徴だ。

 

 けど気になったのはそこじゃない。

 

 この人……――なんて、深い闇をまとってるんだ。

 

 最初に目についたのは、薄暗い牢でも光を弾く銀髪だった。乱雑に伸ばすに任せたそれを、剣を振る邪魔とばかりに適当に縛って。

 

 人間基準だと傾国と称されるだろう美貌も、暗くて黒い感情で翳ってる。顔に生気はなく、一切の正の感情が削ぎ落とされてる。

 

 それになにより、その落ち窪んだ眼窩にある紫の瞳。茫洋としていながらも、まるで世界の全てを恨むように濁って………………いや、違う。

 

 ……あれはきっと、なによりも――――自分自身に対しての、静かに燃えたぎる憎悪……。

 

 そんな明らかに普通じゃない精神状態のエルフが、僕たちの眼前にいた。

 

 ……でも、最初に少女の言葉に小さく反応したのみで、以降こっちを見ようともしない。ぶぉんぶぉんとすごい音出しながら、黙々と素振りを続けてる。

 

「……。無視されてるよ」

 

「し、シルバー様はちょっと……一度集中すると周りが見えなくなるお人なんじゃ! 見ておれ!」

 

 そう言うと、少女は再び声を上げた。

 

「おぅい、シルバー様! 罪人、罪人じゃ! それも連れてきたのはなんと――――ニンゲンなのじゃ! 『精霊使い』の偉業をニンゲンたちに広めるチャンスじゃぞ!」

 

 僕が人間と伝えることに意味が? エルフってだいたい人間嫌いだし逆効果じゃないの。

 

 なんて思ったんだけど。どうも効果はてきめんだったらしい。

 

「っ! ニン、ゲン……?」

 

 ビクリと震えたその女性――シルバーとやらは、振るっていた剣をピタリと止める。それで、まるでなにかに怯えるみたいに、ゆっくりとこっちに視線を向けて。

 

 正面から互いの顔を認識したその時。

 

「……ッ!?」

 

 息を呑んだのはどっちだったか。

 

 シルバーはまるで――幽霊でも見たように。目をまん丸にして、口をぽかんと開けて。

 

「――ぁ……え? はぇ……」

 

 なんかホニャホニャ言ってるけども。

 

 ……でもなんか、僕も彼女を見た瞬間に変な感覚があった。記憶にない人ではあるんだけど、優しくしてあげなきゃっていうかなんというか……――――この人をバカにするようなことは禁忌だって、そんな謎の確信が。

 

「ほらシルバー様、こいつを檻に入れたらいつものやっちゃうのじゃ! かの『精霊使い』の武勇伝、ノンストップで日暮れまで聞かせちゃうのじゃあ!」

 

「日暮れまでって、なんの拷問それ……。いやそれよりも、僕もこの人に聞きたいことが。……その………………僕たちって、どこかで会ったことあったり――」

 

 胸に湧き上がる違和感のままにそう問いかけようとして。

 

 その瞬間だった。

 

 ガラン、と大剣が床に触れると同時に、目の前に迫る銀の影。巨大な魔力。

 

 

 

「――カナタぁぁぁあああああ!」

 

 

 

 気づいた時にはもう――――シルバーに抱き締められてた。

 

「あああ、あうあぁあ゛あ゛あ゛ぁ゛――!」

 

「えっ? な、なにを! っていうか力つよっ――あ、え? これ、涙……」

 

「――よがっだああぁぁぁ゛あ゛! ガナダ、いぎでだ……っ!」

 

 僕の名前を叫びながら、ボロボロと涙か鼻水か分からない液体を擦り付けられる。

 

 体が軋みそうなほど強く抱き締められて、それでも足りないとばかりにぐりぐり顔やらなんやら押し付けられて。

 

 あまりの勢いにそのまま倒れ込む。

 

「ちょっ、と……! 落ち着いて!」

 

「あゔぁああ……! おぢづけないぃぃ゛! だって、だってカナタがぁ! ボクのせいでいなくなっちゃったカナタが――――ッ生きててくれた……っっっ!!」

 

 その、僕に向けられた感情のあまりの熱量。

 

 な、なんか溺れそう。こんなに誰かに強い想いを向けられたことなんて…………いや、記憶を無くしてるから、経験ないかどうか分からないけど。

 

 少なくともこの人、シルバーは僕のことを知ってる? この里に来て初めて会ったのに、僕の名前を知ってて。

 

 その上でこの反応って、僕たちはいったいどういう関係で……。

 

「確かに僕も知らない人のはずなのに、得体の知れない感傷がある……」

 

 いまだ僕に縋り付いて泣き続ける銀色の頭を見る。

 

 ただのスラムのガキである僕にこれだけの想いを向けてくれる人がいたなんて。にわかには信じ難いけど、けど事実として……。

 

 そんなこと考えながら。「この人どうしたら」って、助けを求めるつもりで横に視線を向けると。

 

 そこには、顔面蒼白で目を白黒させた少女が。

 

「ななな、なんでニンゲンなんかに泣きついて…………いつものクールなシルバー様はどこいったのじゃぁ!?」

 

 クール? これが?

 

「うああ……カナタの匂いぃ……。ッじゅびびびび!!」

 

 なんか匂い以外も吸われてそう。

 

「おまえのせいで壊れたのじゃぞニンゲン! あああ、いったいなにが、シルバー様……………………んん? ……精霊様を連れたニンゲンで、シルバー様と知り合いで、シルバー様をこんなにするやつなぞ――」

 

 少女がぶつぶつ呟き出す。……でも、僕もちょうど同じこと考えてたんだ。

 

 明らかになにか知ってるだろうメイは、ぜんぜん話してくれなかったけど。もしかして僕の正体って、例の『精霊――

 

「――っカナタ!」

 

「うわっ。……な、なに?」

 

「ぅう、グズっ……! カナタも、この半年は大変だったろうに。よく一番にこのボクへ会いに来てくれたっ。その選択、今度こそぜったいに後悔はさせない……」

 

 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらそんなことを言うシルバー。

 

 …………うん。これ、ほんとのことめっちゃ言いにくいんだけど。

 

 いやでも、言わざるを得ない。黙ってたら騙すみたいなもんだし、僕のこと知ってるらしいシルバーからメイが教えてくれない事情聞かなきゃだし。

 

 ということで、期待に顔輝かせてるとこめっちゃ気が重いんだけど。

 

 僕は口を開く。

 

「あー、その。実は僕……記憶喪失みたいで」

 

「……なに? ああそうか。っもしかしてそれで、唯一記憶が残っていたボクのところへ? あの裏切り者めらでなく――こんな役立たずでも……ッ、カナタを想うボクのことを……」

 

 裏切り者? ……いやそれより、いま自分のこと役立たずと言った時の顔。尋常でない悪意、害意、負を煮詰めて汚泥にしたような感情が……。

 

 いやまあ、色々気になるとこはあるけど、まずは認識をきちんと合わせとこう。

 

「いや、そうじゃなくてさ」

 

 そうして、僕は言ったのだ。

 

 

 

「普通に――――――シルバーのこと、なにも覚えてない」

 

 

 

 その直後。

 

 シルバーさんは、さっき出会った時みたいに口と目を丸く開け。

 

 ――絶望が顔を覗かせる。

 

 

 

「ぇ……?」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。