魂遣いは無自覚曇らせメイカー 〜世界救う代償でみんな僕のこと忘れるしと、最後に曇らせスピーチかました。記憶喪失になったのは僕でした〜 作:ガンバリミトメナイザー
「……ぃ、いまなんと言った、カナタ……? ボクのことを忘れたなんて、冗談が聞えたが……」
「いや……冗談ではなく。覚えてないんだ、ほんとに。なんにも」
「ぁ……え……? そんなわけ、が……」
口を半開きにして、震える声を吐き出すシルバー。混乱してるのか信じたくないのか、ときおり痙攣するように首を振る。
さっきまでの反応に、いまのこの様子……。シルバーはほんとに僕の元仲間?
僕があのなにもかもが不詳な「精霊使い」とか信じられない。まあ確かに、精霊であるメイとはずっと一緒だったみたいだけど。
……とにかく今は、そのあたり明らかにするためにもシルバーと会話を。
「もし前仲良かったのならその……ごめん。ただ、だからこそ色々話聞きたいんだよね。あーほら、昔のこと教えてくれたら記憶も戻るかもしれないしさ――」
そう、適当に舌を回して。
シルバーの反応は正直ちょっと気まずく思うけど、実感がないんだ。僕にはなんにも思い出はないし、そもそもそんな親しくづてた人がいたとも思えない。スラム出身で性格も終わってる僕なんかさ。
だから僕は、ほんとに分かってなかったんだと思う。誰かを真剣に想うことも、想われることもなかったから。ほんとに大事なものを今まさに失ったって、そう知った人間がどう壊れるかなんて――
「――――あ、ぁぁ……? なんだこれ、あれ。ボクがバカでカナタのこと忘れちゃったから……? あれ違う、忘れたのはカナタで、あれ、ボクのこと知らないって、?」
「ちょっと、シルバー……」
「え、なんだって? いまボクの名前を呼んだかな――? ああ、会いたかったんだカナタ。ほんとうにこの半年の間、一日、一時間、一分一秒たりとも君を忘れたことはなかった……。だから会いに来てくれたんだろう?」
目が虚ろだ。現実を受け入れられてない? 思考も支離滅裂でまともじゃない。
「そうだ。ボクはバカで、カナタを救う力もなく、なにもできない役立たず。里から捨てられるのも当然の落ちこぼれだった。……はは、ほら、だからカナタもボクのこと覚えてないんだもんなぁ……?」
シルバーふらふらと僕に近づいて、握った拳をゆっくりと上げる。
な、なんだよ……。狂って僕を殴ろうって? ……っは、結局僕のこと大事とか言っておいてその程度か。
そうだよ。僕みたいなクズを、ほんとに大切に想うやつなんているわけない。シルバーもメイも、誰だって。
……それでも僕はひとりでだって生き抜くぞ。例えこの牢で救世の英雄に襲われたって。残りかすの魂を絞り出してでも――と。
そう思った、その瞬間だった。
「――――役立たずを殺せば。カナタはボクを許してくれるか……?」
え、と声を漏らす前に。
――――目の前でシルバーが、自らの頭を思いっきり拳で殴りつけた。
「ぁ、ぐ……」
「……は? え? なにして……ッ!」
「……鍛えてたんだ、あれからずっと。苦手な魔術も、身体強化を使えるようになった……ッ。カナタがいなくなったあの日までに、もっと必死になって習得してすべきだった技術だ――! ッぐ!」
「ちょッ、やめ……!」
魔力をまとって固くなった拳を何度も自身の頭にぶつける。ごつごつと鈍い音が響いて真っ赤な血が飛び散る。
「ボクはッ、ぐぅ、バカで……ッ。ほんとうに優先しなきゃいけないことも分からないッ、ぅ、! ……だけど、もう失いたくないんだ……!」
止めようと手を伸ばしても、馬鹿力で抑えられて。シルバーは自分への殴打を続ける。
何度も何度も、血を…………涙を流しながら――
「あぁ……ボク、もう――――――――死んじゃいたいよ……」
その悲痛な声を聞いて。
僕は…………………………瞬間的に、カッとなった。
言葉の前に手が出る。反射的に頭は避けて、頬をかすめるように平手打ち。
ばちん、っと。
「えっ」
唖然とするシルバー。
「なんで……?」
なんか…………つい。
いや違うんだよ。別に僕はシルバーがどうなったって、何を思ったって知ったこっちゃない。だってこんなやつのこと僕は知らないんだから。
そう、そのはず。人のこと気にする余裕なんてないし。ちょっと可哀そうに思ったくらいで軽率に手なんか出すもんか。
……じゃあなんで僕はさっき――いや違う、そんなんじゃないんだ。別に、シルバーが零した断片的な情報から、過去の自分の行動を読み取ってなんかない。
ましてや……僕の「主義主張」なんて、そんな高尚なものに照らしてなんかいるわけない。
そう、これは要は――
「――イラついた。ただそれだけ……!」
「え……?」
「そりゃ、そうでしょ。せっかく命を拾ったのに? 僕にか別の誰かにか知らないけど助けてもらって、五体満足でぴんぴんしてるのに? なのに死にたいだなんて――楽な方に逃げようとしたってそんなのは……ッ」
カッとなって。
つい、言っちゃったんだ。
「――――できる努力、してからにしなよ……! 僕に『記憶を取り戻させてみせる』くらい言ってみたらどうなんだ!」
三度。シルバーは目と口を大きく開いて僕を見る。
…………違うんだよ。別に、目の前で悲痛に泣くシルバーに情を移したわけじゃない。
ただ……醜くあがいてでも、まだできることがあるのに。本当に全てを試したわけでもないのに。こうしてすぐ諦めることに、腹が立ったんだ。
あとは、そう――。もしかしたら、ちょっとだけあったかもしれない。……僕のなけなしの善性が、そうしろと僕に囁いたことも。
「……記憶なくなったわりに、なんかそういうのは残ってるんだよね。形の掴めない憧れとか、くだらないスラムの哲学みたいなの……」
誤魔化すみたいに独り言こぼして。僕は頭を振って気を取り直すと、まだぽかんとするシルバーに言う。
「分かったら、とっとと頭の止血でもしたら? ……別に、僕がやってあげてもいいけどっ」
「……ぁ……、ぅ……! っ、カナタ! ぅう……!」
「……泣くなって」
困るじゃん、そんな反応されたって。僕はなんにも覚えてないんだからさ。
はぁ…………止血できる布かなにかを。
あ、君持ってない? さっきからずっと立ち尽くしてるけど役に立ちなよ。僕、君が唯一憧れてるとか言ってた「精霊使い」らしいよ。なんか布巾とかない? あ、そう、ないか。
しょうがない、と。僕は自分の服の裾を破って即席の包帯を作って、ところどころ赤く染まった銀色の頭に巻き巻き。
「あ、りがとぅ……」
「はいどーいたしまして」
シャキッとしなよもう。もっかい頬っぺた引っ叩こうか?
「頼もう、かな……。カナタに優しくしてもらえるなんて夢みたいだし……」
「やすい夢だこと。……え、ほんとに叩くの? 夢が覚めないか確認したいから?」
物欲しそうな顔で頬っぺた突き出してくんなっ。バカじゃないの……とは、禁句だから言わないけど……!
と。そんな風に、なんとかこの修羅場は収まって。腹に据えかねたシルバーの愚行も、とりあえず止めさせて。
それじゃあやっとシルバーの知る僕のことでも話してもらおうかと、そう思ったその時だった。
――――ドゴォン……と。
遠くから響く轟音……!
「な、なんじゃあ!?」
この子、だいぶ久しぶりに声を……ってそれどころじゃない! この音、この衝撃。ずいぶん上からだけど、でも。
確かに伝わって来たこの魔力は――
「メイの……っ?」
そう、感じたままに呟いたのは失敗だったと気づく。なぜなら、僕の言葉を聞いたシルバーは見る間に表情を変えていって。眉を吊り上げ、牙を剥き。
そうして、激しい怒りも露わに吠えるのだ。
「――――メイル、マリン……ッ!! この期に及んでえぇえ! 二度とカナタを傷つけられよう…………滅ぼしてやるッッッ!」
えっ。
こわ。