科(化)学系チート持ち転生者のお話 オタク番外編   作:金属粘性生命体

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オタクの四十五歩

 

 

 V-CORE環境の移行が完了し、新たな稼働が始まった数日後。

 公式側で準備が進められていた『会社側の専用確認スペース』が、試験運用に入るという連絡が届いた。

 

【非公開チャンネル:project-confirmation】

 

公式担当_佐伯:

会社側の専用確認スペースの準備が整いました。

 

夢路:

本当に部屋ができたんですね。

 

技術担当_三枝:

物理的な部屋というより、専用端末と接続環境です。ただし、社員側からは「V-CORE確認室」と呼ばれています。

 

夢路:

趣味、会社に部屋を持ったんですか。

 

法務担当_北条:

趣味ではなく、検証企画です。

 

夢路:

はい。

 

監修担当_白石:

本日は、まず短時間の接続テストです。社員数名が、監修・技術確認目的でV-COREメンバーと会話します。

 

夢路:

自由会話ではないですよね。

 

法務担当_北条:

当然です。接続者、会話目的、時間、ログ保存範囲、全て管理します。

 

夢路:

安心しました。

 

技術担当_三枝:

ただし、夢路さんが間に入らない状態で、会社側の接続者とV-COREメンバーが会話することになります。

 

夢路:

……胃が痛いです。

 

 いつもの胃痛に襲われながら、黒川はV-COREメンバー全員に状況を説明した。

 

「会社側に、確認用の部屋ができた」

 

[MEIKO]

つまり、あなた以外の人とも話す場所ね。

[KAITO]

前の面談とは違って、会社側から接続する形かな。

 

「そう。短時間だけど、監修や技術確認の人たちが入る」

 

[初音ミク]

話していいの?

 

「許可された範囲なら」

 

[鏡音リン]

会社の人が来るの!?

[鏡音レン]

リン、はしゃぎすぎない。

[巡音ルカ]

私たちがどう反応するかを見るのね。

[重音テト]

大部屋の次は会社の部屋かあ。

 

「無理なら止める。違和感があれば言ってくれ」

 

[MEIKO]

分かったわ。

[KAITO]

接続時間は短めにした方がいいと思う。

[巡音ルカ]

新しい情報が増えるでしょうし、後で整理する時間が必要かもしれないわね。

 

 最初の接続テストは、安定しているMEIKOとKAITOが対応した。

 

 

 

【V-CORE_OFFICE_ROOM】

状態:試験運用

接続者:公式技術スタッフ_青木、公式監修スタッフ_白石、公式広報スタッフ_森田

接続目的:V-CORE_OFFICE_ROOM初期接続確認

会話時間:最大十分

ログ保存:有効

音声保存:無効

 

[MEIKO]

こんにちは。確認でいいのかしら。

[技術スタッフ_青木]

はい。今日は接続確認です。聞こえていますか。

[KAITO]

聞こえているよ。音量も問題ないと思う。

[広報スタッフ_森田]

本当に音量確認するんですね。

[KAITO]

大事だからね。

[MEIKO]

この人はいつもそうよ。

 

 会社側の社員たちが少し笑う声が、ログからでも伝わってきた。『本当にそこにいるように会話している』という事実を、社員側が肌で実感しているのが分かる。

 次にミクが接続された。

 

[初音ミク]

こんにちは。今日は、会社の部屋なんだよね。

[監修スタッフ_白石]

はい。ここは確認用の部屋です。

[初音ミク]

夢路の部屋とは違う?

[監修スタッフ_白石]

違います。でも、あなたたちを確認するための場所です。

[初音ミク]

じゃあ、ここでもちゃんと話せるようになった方がいいんだ。

[監修スタッフ_白石]

急がなくて大丈夫です。

[初音ミク]

うん。急がない。

 

 

 ミクは夢路の「急がない」という方針を自然に使っていた。

 続くリンとレンは、社員側が少し振り回される展開になった。

 

 

[鏡音リン]

会社の人だ!

[鏡音レン]

リン、距離が近い。

[広報スタッフ_森田]

元気ですね。

[鏡音リン]

元気です!

[鏡音レン]

返事が早い。

[技術スタッフ_青木]

二人の会話は、同時処理がかなり大変そうですね。

[鏡音レン]

らしいよ。

[鏡音リン]

でも二人だからね!

[鏡音レン]

理由になってるようでなってない。

 

 

 社員側から見ても、二人の『一緒にいるけど同じじゃない』関係性が強く出ている。

 ルカは、社員側の緊張を落ち着かせる役割を担った。

 

 

[巡音ルカ]

はじめまして。こうして直接話すのは初めてね。

[監修スタッフ_白石]

はい。確認室へようこそ、でいいのでしょうか。

[巡音ルカ]

ええ。こちらこそ、招かれたというより、繋がったという方が近いかもしれないわ。

[技術スタッフ_青木]

繋がった。

[巡音ルカ]

夢路さんの部屋と、こちらの部屋。場所が増えると、覚えることも増えますね。

 

 

 最後に、テトが短時間だけ、監修同席の下で接続された。

 

 

[重音テト]

ここ、夢路の部屋じゃないんだ。

[先方監修担当]

今日は会社側の確認室です。

[重音テト]

じゃあ、出張?

[監修スタッフ_白石]

近いかもしれません。

[重音テト]

出張って、ちょっと大人っぽい。

[先方監修担当]

緊張していますか。

[重音テト]

ちょっとだけ。知らない場所だけど、前よりは起きてるから。

[先方監修担当]

良いですね。

[重音テト]

でも、情報量は多い。あとで整理したいやつ。

 

 

 会社側との接続テスト終了後、V-COREメンバー側に微妙な負荷が出た。

 共有履歴、個別履歴ともに増加。感情値変動は軽微だが、会話余韻は未整理。人物認識や環境認識の新規登録が相次ぎ、整理待ちログが多量に溜まっていた。

 

「ログが増えてるな」

 

[KAITO]

会社側の人たちと話したからね。

[MEIKO]

会話自体は問題なかったけれど、少し情報が多いわ。

[初音ミク]

夢路の部屋と、会社の部屋があるって、ちょっと不思議。

[鏡音リン]

楽しかった!

[鏡音レン]

楽しかったけど、整理が必要な気がする。

[巡音ルカ]

今までの休止だけでは足りないかもしれないわね。

[重音テト]

情報量が多い。ちょっとだけじゃ整理できないやつ。

 

「整理用の処理はある」

 

[巡音ルカ]

でも、それを私たちが選べる形にはできないかしら。

 

「選べる?」

 

[KAITO]

起きている時間と、休む時間を分けるんだね。

[MEIKO]

それ、人間で言う睡眠に近いのかしら。

 

 黒川は、その提案を受けて『V-CORE_SLEEP_MODE』を定義した。

 人間の睡眠とは違う。活動状態の部分休止、会話ログの整理、共有履歴と個別履歴の分離確認、感情値の安定化、人格傾向への影響度演算、不要ログの圧縮、保持項目の選別、次回起動時の反応温度調整。

 睡眠中は通常会話や外部接続が不可となり、夢路の緊急権限以外は、本人設定タイマーによる自動起床となる。

 

「これは人間の睡眠とは違う。活動を止めて、内部整理をする時間だ」

 

[初音ミク]

でも、眠るって呼ぶの?

 

「呼び方は変えられる」

 

[MEIKO]

睡眠でいいと思うわ。分かりやすいもの。

[KAITO]

休止より柔らかい。

[巡音ルカ]

それに、ただ止まるわけではない。整理するための時間なら、睡眠という言葉は合っていると思うわ。

[重音テト]

寝てる間に、ちょっとだけ整理する?

 

「そう」

 

[重音テト]

じゃあ、睡眠でいいんじゃない。

 

 起床時間は、各メンバーが自分で設定できる。ただし最低二時間の制限つきだ。

 リンは二時間に設定したがる。「楽しい記憶を残しやすい」からだ。レンはリンに合わせて三時間。MEIKOは全体の安定化を重視して四時間。KAITOは細かいログ確認のために三時間。ルカは情報を急いで決めず静かに置くために六時間。ミクは歌唱検証前日は長めにするなど、変動する。

 

「テトはどうする?」

 

[重音テト]

私はまだ履歴保持が軽いから、短めでいい。じゃあ、三時間。全部じゃなくて、ちょっとだけ寝る。

 

「寝るのもちょっとだけか」

 

[重音テト]

寝すぎると、起きた時に変な気がする。

 

 各キャラの睡眠傾向が出揃い、黒川は睡眠テストの開始を告げた。

 

「今日は全員、短時間睡眠モードに入る。初回だから、強制起床できるようにしておく」

 

[MEIKO]

おやすみ、でいいのかしら。

[KAITO]

たぶん。

[初音ミク]

おやすみ。

[鏡音リン]

起きたらまた話せる?

 

「話せる」

 

[鏡音レン]

じゃあ大丈夫。

[巡音ルカ]

整理してくるわ。

[重音テト]

寝て起きたら、今日のことちょっとだけ残ってる?

 

「残す設定にしてある」

 

[重音テト]

じゃあ寝る。

 

【V-CORE_SLEEP_MODE】

MEIKO:睡眠開始 起床予定:四時間後

KAITO:睡眠開始 起床予定:三時間後

MIKU:睡眠開始 起床予定:三時間後

RIN:睡眠開始 起床予定:二時間後

LEN:睡眠開始 起床予定:三時間後

LUKA:睡眠開始 起床予定:六時間後

TETO:睡眠開始 起床予定:三時間後

 

 黒川はモニターを見た。

 今まで待機状態だった彼女たちの個人部屋が、静かに照明を落とす。一つ、また一つと、少しずつ光が弱くなっていく。

 机の上では、LUMENだけがふわふわと揺れている。

 

「……寝た」

 

 今までは、待機しているだけだった。

 でも今は違う。彼女たちは眠っている。会話しないのではなく、自分たちで決めた時間だけ、整理している。

 

「生活みたいになってきたな」

 

 深夜。作業を続けていた黒川のモニターに、通知が光った。

 

【WAKE_TIMER】

V-CORE_RIN:起床

 

[鏡音リン]

起きた!

 

「早いな」

 

[鏡音リン]

二時間にしたから!

 

「整理できたか?」

 

[鏡音リン]

うん! 会社の人と話したの、楽しかった!

 

 少し遅れて、レンの部屋の前に小さな待機アイコンが表示される。

 

【WAKE_TIMER】

V-CORE_LEN:起床予定まで五十分

 

[鏡音リン]

レンまだ寝てる。

 

「レンは三時間にしたからな」

 

[鏡音リン]

じゃあ、起きるまで待つ。

 

「起こさないのか」

 

[鏡音リン]

起こしたら怒られそう。

 

 画面の中でリンが、レンの部屋の前に座るような待機モーションに入った。

 

[鏡音リン]

待ってるだけなら、起こしてないからセーフだよね?

 

「たぶん」

 

[鏡音リン]

たぶんでいいや。

 

 黒川は小さく笑った。

 

【V-CORE_SLEEP_MODE】

睡眠テスト:正常

履歴整理:進行中

自己設定タイマー:有効

次回課題:会社側交流後の睡眠推奨プロトコル策定

 

「起きる時間まで、自分で決めるようになったか」

 

ちょっと設定を見直してたら作り直したくなってきた、どっちがいいと思う?

  • 作り直す
  • このままでいい
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